邪宗門 上 (河出文庫 た 13-12)

著者 :
  • 河出書房新社
4.18
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感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (601ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309413099

感想・レビュー・書評

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  • 読み応えのある小説であるが、残念ながら読み通せず。
    今度手にすることがあったならば、261頁の第15章(公判その一)から読むとしよう。
    まあ、その機会はないと思うが。

    2021年2月7日、追記。

    著者は、早世されていることを知った。
    1931年生まれで、結腸癌のため、1971年に39歳にて亡くなっている。

  • 戦前~戦後を舞台に巨大宗教団体の栄枯盛衰を描いた日本文学の傑作。
    京都府神部盆地(実際の地名なのかわからない)に本拠地を置く、百万信徒を誇る強大宗教団体・ひのもと救霊会。戦前戦時下の国家による教団弾圧によって教主は投獄され、内部では信徒の転向、分派独立騒動が起きる。物語は、そんななか孤児の少年、千葉潔が教団を訪れ拾われるところから始まる。
    上巻は戦争へと突き進む日本の世相を背景に教団内部の息苦しい権力闘争と度重なる国家の弾圧によって教団が分裂していく過程や、千葉潔の成長と彼と関わる教団内の人間関係が、リアルな国家の暴力とともに細かく描かれている。

    下巻では、敗戦後生き残った信徒たちで教団は再興する。千葉が教団内リーダーとなり元教主の娘・阿礼と共謀し、教主の座を簒奪。だが、米国占領統治下の混乱を背景に供出米拒否をめぐる警察・占領軍との小さな騒動をきっかけにして教団は尖鋭化する。ここからはジェットコースターのような展開で、国家からの独立をもとめて‘世なおし’と称して武装蜂起し破滅へと至る。


    上下巻あわせて大変長い物語だ。
    長いがために登場人物たちに感情移入する度合いも高く、高いがゆえに陰惨な末路をむかえる千葉や阿礼、教団信徒たちに悲しみを覚える。全く救いのない絶望感しか残らない。読後の後味の悪さは最低である。


    だが、最後まで読ませるストーリー構成と展開は凄い。時代考証の緻密や、作り込まれた人物造形は抜群である。崇高で高邁な理念を掲げ宗教的ユートピアを作り出そうともがくほど思想と現実が乖離し、凄惨な光景が繰り広げられるというアイロニー。それをここまで精密に描き切った小説が他にあるんだろうか、と思うほどだ。


    なにより詩情をたっぷり含んだ筆致が素晴らしい。
    文章が美しいか否かなんて読み手の主観だが、この美しい散文は物語るための道具でなく、情景描写でもって人物の心象を表現するという堀辰雄のような手法があるわけでもない。また宗教教義や革命思想が多くなりがちな観念的な記述内容と物語の中和を図るために書かれたわけでもない。散文が散文として美しく輝いている。解説の佐藤優さんはこの小説は「観念小説」であると記している。観念小説とは自らの理念が現実になった場合、どのような出来事が起きるかについて描いた虚構の物語だという。確かに本書は観念小説だろう。だが、それだけだろうか。神部盆地の情景描写から始り荒廃した神部の描写で終わるこの長い暗い物語は、底暗い内容なのに至るところに叙情性豊かに情景を描写した文章がある。この美しい散文だけでも私は読まずにはいられなかった。

  • 息子の高校国語の課題図書だったので家にあった本。
    新興宗教についての本と息子に聞いていた。
    昨今、宗教が世間を騒がしているので読んでみようと手に取った。
    漢字には結構自信があるが、私でも読めない漢字、知らない言葉がルビなしでばんばん出てくるので、思った以上に読むのに時間がかかっている。
    内容的には理解不能なくらいに難しいということはなく、俗物的な内容も含まれわかりやすい。
    全く前知識無しに読んでいるので、下巻での千葉潔の役割がとても気になる。

  • 宗門とは何かを問う名作だと思う。

  • たった100年前なのに、宗教の価値観ぐわんぐわんに違う。(「たった100年前なのに〜が違う」構文、どんな感想にも当てはめられちゃいますね!邪構文です。大学の出席レポートとかにおすすめです。どうせ先生読んでないよ。)

    5.15事件もある。史実と織り混ぜてて、読むの疲れたよ。
    元を正せば、あらゆる宗教ははじめは新興宗教であって、それが、1930年代、戦争に向かうにつれて、国家統一のため思想的弾圧を受けるのかわいそう

  • 上巻のみの感想
    読み始めは旧字とか漢字は難しいし、仏教系の見慣れない用語が多くいまいち世界観に入り込めずかなり前に進むのに時間がかかった。しかしある程度入り込めてくると大きな展開がそこまであるわけではないのにも関わらず、本当にフィクションなのかと疑うほどの緻密さとこのスケール感の壮大さに圧倒されつつ読み進めた。下巻はドラマチックな展開が待っていそうなのでより楽しみだ。

  • 本書は1980年くらいまでは名著として知られ、文学に興味を持つ者なら誰でも読んでいたらしい。
    恥ずかしながら自分は昨年まで本書の存在すら知らなかった。
    そして、この一か月ほどの間に読み切ったわけであるが、この本を今まで読んでいなかった自分に飽きれるほどの圧巻の大作であった。
    戦争へと突き進む不条理や、宗教と生活の関連など、多くのテーマが詰め込まれているが、娯楽小説としても十分楽しめる多面的な読み方のできる小説である。
    東大教官の進める100冊?か何かにはリストアップされていたらしいが、再度広く知られることを願う。

  • ー 「神とは何か。それは祖霊、すなわち先人たちのなさんとして果さざりし心の結晶であります。それゆえに私どもは、その神の意を体し、神の意を受けて、この土地に神の国を築かねばなりません。それが先祖の業績、その富の文化をうけて生活する子孫の義務であります。

    目に見えぬかみの心に通ふこそひとの心のまことなりけれ
    その歌は・・・・・・」

    「裁判長」と越智検事は立ちあがった。「被告の陳述は本事件に関する陳述の範囲を逸脱しております。我々はそんなくだらぬ和歌の講義など聞こうとしているのではないのであります」

    その時、教主は大声で言った。
    「裁判長、私は私を不敬罪のかどで告発している検事こそ、不敬罪人であることを、この法廷において告発いたします」
    「どうして?」と裁判長は身をのりだすようにして言った。
    「いま検事は、このようにくだらぬ歌と申されましたが、いま借りて例としました和歌は明治天皇の御製であります」
    検事はうろたえ、法廷はざわめいた。行徳仁二郎は法廷の混乱に乗じて、後の傍聴人席の信徒たちを振りかえり、にやっと笑った。 ー

    新興宗教「ひのもと救霊会」の生活。その発展と弾圧。戦争に向かう日本の中で、弾圧され続ける教団の生活をひたすら描く作品。

    上巻は、教主行徳仁二郎を中心に、弾圧されながらも本来あるべき宗教の姿を保ち続けようと生活する人々の息遣い、そして絶対的に絶望的な最期しか待っていないはずの未来の予感を感じながらも、それでも希望を持って生活する信者を心苦しく読まざるを得ない何とも暗い作品。

    下巻はさらにエグい弾圧を受け、戦争に狩り出され、満州で虐殺され、そして戦後に突入していく…。

  • 壮絶、の一言。

  • 背表紙の「日本が世界に誇る知識人による世界文学」(佐藤優)の一文に大きな不安と嫌な予感を覚えつつも、このブクログを含めた読書レビュー等の評価が高かったので興味を持ち読み始めたのですが…

    …これ、下巻面白くなるんだよね?
    レビュー書いた君達の事信用していいんだよね??

    確かに上手くは書けている。
    実在の団体や実際の事件や出来事、また組織や思想などを絡めてとても上手く書かれている。
    だけどそれだけ。
    こんなことがありました、そしてこんなことがありました、その繰り返し本当にそれだけ…

    登場人物の心の動きなどが感じられるストーリーは何も無いから、だから登場人物の行動や行く末にも全く興味が持てない。何か驚いたり心動かされるような展開も何一つ無い…また作中で参照される思想や哲学なども、佐藤優という薄っぺらい妖怪がいかにも好んで引用しそうな、わかりやすいところを自分が分かるところだけ拝借してオリジナル解釈したような、そんな記述がいくつも見受けられました。ソクラテスよりソフィストの方が優れているという一文には乾いた笑いしか浮かびませんでした…

    夭折したアーティストを過大評価してしまうのは、文学を愛する者だけではなく、感受性のある人間ならジャンルを問わず誰でもそうだと思う。

    でもこれは早逝した才能への幻想というより、老害ジジイが50年経ってもジョン・レノンが〜とかほざいてる懐古主義そのものな気がする…

    もしくは流行のファッションダサいと上から目線で中央線沿線に住み、一生ヒールの高い靴を履くことも無く、花どころか蕾すら付けることなく腐って死んでいくあの人種が好むカルチャーの臭いがする…

    ケルアックを読んで、ジャック・ケルアックよりニール・キャサディにファンタジーを抱くタイプにはこの本はだめなのかもしれない。

    あと本屋大賞という言葉に微塵も心惹かれない奴もやめといた方がいいのかも…

    自分はこれなら埴谷雄高の死霊の文章やノリの方がよっぽど好きです…


    水よりアルコール
    薬より毒
    あるものよりそこにないもの
    文学に求めるもの

  • まずは上巻を読破。
    上巻だけで600ページを超える大作かつ力作。
    著者の該博な知識と歴史的な事実を織り込んで、巨大な宗教組織が時の権力によって弾圧され崩壊していく状況を背景として様々な境遇を負った教団と関わりあう群像劇を圧倒的に描く第1部。
    第2部では非合法化された宗教団体に留まる信者や獄につながれた団体の幹部たちの真冬の時代と主人公の団体復帰までを描き、今後の展開が待たれるところで上巻終了。
    評価は下巻読了後に。

  • 作り込まれた設定と難しい古い言葉とで、私自身は読むのに少し苦労したが、それでも最後まで読み続けさせられる吸引力のある本。
    なんといっても、個々のキャラクターが魅力的。現代の暮らしとはかけ離れた集団生活の話ながらも、共感できる感情描写が随所にあり、登場人物が身近に感じられる不思議。
    一部の凶悪事件のせいで漠然と怖いイメージを持っていた宗教についても、考えさせられた。

  • 3章ぐらい読んであまりにも悲惨な人々の人生に気持ちが悪くなる。全体を通してこの感覚は伏線となっている気がしたので、これにて読了としてしまう。実際には読み終わってはいない。積ん読にはできない書物だが、削除するにはもったいないと思ったので「読了」とした。

  • 下巻にて。

  • 天才です。

  • とんでもない小説に出会ってしまった。
    百万人以上の信徒を抱える新興宗教団体・ひのもと救霊界。
    国家の弾圧によって教主が投獄され、教団内部でも分裂や対立が起こる。
    教団に拾われた少年・千葉潔を軸に教団内の人物の心情が見事に表現されていて、どんどん作品の世界に引き込まれていく。
    戦争に向かう不穏な時代、貧困に苦しむ農村部。
    救いのない社会情勢が救霊会の特異性をより際立たせている。
    崩壊した教団。大学生になった潔。細々と教団を守る教主の長女・阿礼。遍路の旅を続ける次女・阿貴。
    下巻ではどう展開させるのか、楽しみで仕方がない。

  • これだけの本を書く筆力に圧倒される。実際にあったのだろうか?

  • 図書館で借りてきて通勤の行き帰り、家に帰って落ち着いた時間にずっと読んでいたが2週間の返却期限までに200ページしか読めなかったのでそこまでのレビュー。
    文体は平易で意味はスッと頭に入るのだが、所々最近は使われない言い回しがあり、昭和初期の空気感を出すのに貢献していたと思う。

  • ひさびさ、骨のある小説を読んでいる。

  • 大本教をモデルにしたある宗教団体を通し、戦中・戦後史を描いた大作。上巻には第二部の途中まで収録。
    端正な文章は好み。読んでいて気持ちがいい。

    貧困・病苦・弾圧……等々、作中で発生する出来事は決して明るいものではない、というかめっちゃ暗いw その分、登場人物が見出すちょっとした幸せが輝くのだろう。
    『信仰は人を救うのか?』というテーマは確かに重いが、読み応えはある。

    高橋和巳のイメージというと、『若くして亡くなった』『全共闘世代の支持を受けたが、その後は忘れられた』というのが一般的なところかな? 名前を知った時には既に入手困難だったので初めて読んだなぁ。

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