屍者の帝国 (河出文庫 え 7-1)

  • 河出書房新社
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感想 : 250
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309413259

作品紹介・あらすじ

屍者化の技術が全世界に拡散した19世紀末、英国秘密諜報員ワトソンの冒険が始まる。未完の絶筆を円城塔が完成させた超話題作。

感想・レビュー・書評

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  • Kaniさんのレビューから読みたくて。意志を持たない「屍者」が労働者や兵士として使われる19世紀末。あのワトソンが英国諜報員として不死身のバーナビー大佐と共に密命を受け旅に出る。あとがきない単行本で残念。理解十分ではないけど楽しめた。

  • 伊藤計劃の遺作を円城塔が仕上げた合作!!
    あとがきで思わず涙が……。


    伊藤計劃が書いたのはどの程度なのだろう。
    何にせよ、彼がプロットを書いた作品である以上、たとえ中途半端でもファンは読みたいハズですよね。

    後を引き継ぎ仕上げて出版するのはかなり勇気がいる事だと思う。

    ーーーーーーーーーー

    原稿用紙にして三十枚ほどの試し書きと、A4用紙一枚ほどの企画用プロット、集めはじめた資料が残され、『屍者の帝国』は中断された。
    (文庫版あとがきより)

    ーーーーーーーーーー


    原稿用紙30枚程…
    プロローグ部分のみと言う事かな。

    元々『虐殺器官』や『ハーモニー』との関連付けはなさそうだし、構えずに『合作』を楽しんで読みました。


    屍者と言ってもゾンビものではなく、この作品は「歴史改変もの」と言うそうです。

    時代背景は、1878〜1881年。
    何事にも屍者が必要不可欠な世界。

    主人公はジョン・ワトソン。
    そう。あの有名な彼。
    ワトソン君です(〃´-`〃)

    他にも知った名前が目白押し♡

    ヴァン・ヘルシング
    ウォルシンガム
    リットン
    カラマーゾフ
    ヴィクター・フランケンシュタイン
    アイリーン・アドラー

    なんかもう遊び心満載でワクワクします♡

    屍者技術を開発したヴィクター・フランケンシュタイン。
    その全てが記されているという『ヴィクターの手記』を手に入れるため、ウォルシンガム機関の諜報員であるジョン・ワトソンは、助手の屍者フライデーと、フレデリック・バーナビー大尉と共に旅に出る。

    ロシア帝国、日本、アメリカ、大英帝国をめぐり、手記と、それを手にしている『ザ・ワン』を追う。

    手記の存在が現在の屍者の世界をどう変えていくのか、次々と行手を阻む屍者の群れと支配者たちの存在で徐々に明らかになっていく。

    賛否両論あったというアニメも観ました。

    やはり内容は少し違いますが、映像がめちゃめちゃ綺麗だったし、アニメはアニメで面白かったです( ˶'ᵕ'˶)♡
    何より映像で観ると世界観が分かりやすい。
    なので、イメージが少し違うなぁと思ってもそれはそれで脳内で変換すればよいのです(๑¯∇¯๑)

    日常で屍者が料理してたり仕事してたり…。
    すごい想像力だなぁ…(*´﹃`*)

    伊藤計劃のプロフィール見たら、私同じ歳…。
    私のような凡才が生きてて彼のような天才が亡くなるなんて……(、._. )、
    円城塔さんのあとがき読んでて涙出ました。

    続きは読めないにしても、感動した作品はずっと人の心に残ります。
    他の作品も読みたい欲が湧いてきます(*´˘`*)♡

    やっぱりSFは面白い!!
    ミステリ大好きだけど、SFも同じくらい好きだなぁ。
    また虐殺器官とハーモニー読みたくなりました♡

    • 111108さん
      Kaniさん、お返事ありがとうございます♪

      歴史上の人物もたくさん出てきたりとなると、あの人とこの人が出会ったり‥なんてすごい世界ですね!...
      Kaniさん、お返事ありがとうございます♪

      歴史上の人物もたくさん出てきたりとなると、あの人とこの人が出会ったり‥なんてすごい世界ですね!

      想像しにくい所や言い回しが難しくても、面白さに引っ張られたら読んでいっちゃう物なんですね!いざとなったらアニメもあるし笑

      SF楽しいけれど、時々自分の頭がついていかず断念っていうこともありましたが、なんとかなるってことですね(๑˃̵ᴗ˂̵)

      ハーモニー、難しそうで敬遠してた伊藤計劃さんのキュートさにびっくりして感動しました♡順番逆なのかもですが『虐殺器官』も挑戦してみます♪
      2022/11/09
    • 111108さん
      Kaniさん

      読めました〜!
      伊藤計劃さんの世界観と円城塔さんの言い回しに何とか最後までついていけました(たぶん)
      細かい所はいつかアニメ...
      Kaniさん

      読めました〜!
      伊藤計劃さんの世界観と円城塔さんの言い回しに何とか最後までついていけました(たぶん)
      細かい所はいつかアニメか漫画で復習しようと思います(≧∀≦)
      ありがとうございました♪
      2022/11/24
    • Kaniさん
      111108さん、こんばんは。

      わーい!!読まれたのですね〜⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
      円城塔さんの言い回し…なかなか手強いですよね…(^▽^;)...
      111108さん、こんばんは。

      わーい!!読まれたのですね〜⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
      円城塔さんの言い回し…なかなか手強いですよね…(^▽^;)
      小説読んだ後のアニメは理解度が深まりより楽しめますよね!
      アニメで復習。完璧です!(`•∀•´)✧

      こちらこそ読んでくださり、共有できて嬉しいです!
      ありがとうございます♪
      2022/11/24
  • 読むの時間かかる〜
    言葉が私には難しいかった…本の横にスマホを待機させ…Wikipediaで調べながら…
    いわゆるスチームパンク小説。
    パスティース小説でもあるので、あちこちの引用されてるんやけど、教養なくて…^^;
    屍者が、いっぱい出てくる世界(屍者蘇生技術が普及)で、主人公のお供も屍者(o_o)
    魂のない屍者とは?
    意識とは?魂とは?ってのを考えさせられる。まぁ、分かったのは、重さが21gって事か(ーー;)
    もう一回読まんと実体が分からん気がする…それもじっくりと。

  • 言葉といい、意識といい、作者おふたりの持つ論点がいいところで折り合い、落着している。
    あのふたりが書くならば言葉の問題を扱わないわけにはいくまい。
    そして伊藤氏の遺作を円城氏が書き継ぐという物語そのものが、この作品全体の構図になっているのも憎い。
    感動を倍加させる。
    語り手の問題にもなり、厚みがある。
    もちろん知らなくても十分に楽しめる、歴史改変、活劇。
    活劇部分の描写がいまひとつわからなかったのも、味である。

    http://www.kawade.co.jp/empire/

  • ハマっている伊藤計劃シリーズ。ついポチってしまいました。なかなか小難しくて読了に非常に時間がかかった。著者が伊藤計劃本人ではないから当たり前なんだけど知識の質が異なるから物語の雰囲気もまた変わっているような印象を受けた。ただ意識とか言語とか伊藤計劃作品で重要にされていた部分はしっかり引き継がれていてまさに「伊藤計劃×円城塔」で出来上がっている作品。フランケンシュタインにカラマーゾフにダーウィンに、、自分にもっと教養があればもっと楽しめたかもしれない。実は菌株(X)が人間の意識を支配しているんですといわれるとすごくSFな感じもするけど、Xに言葉を代入するとすごくしっくりくる結論に感じた。正直いまは断片的につかんでいる気がするので映画の方もみて整理したい。

  •  この作品はもともと、故伊藤計劃氏の長篇、「虐殺器官」「ハーモニー」に次ぐ作品になるはずであったものだそうだ。故伊藤氏は30頁足らずのプロローグを残し、それを基に円城塔氏が全体を書き上げた。経緯は、円城氏による「文庫版あとがき」に詳しい。
    舞台裏の成立事情だが、その才能が惜しまれる伊藤氏と円城氏の関係も含めて興味が尽きない。そして、もし、伊藤計劃が生きていてこの作品を書いたら、と想像してみたくなる。この「もしも」は、別の新たな歴史改変SFへの扉のような気がしてくる。物語の終った処から、物語の外側で、「もしも」の世界が広がっていく。それは、この物語の主題と仕掛けに絡んで来て、故伊藤計劃氏が蒔き、円城塔氏が育てた世界に呑み込まれてゆく眩暈をもたらす。
     物語の主人公は、ジョン・H・ワトソン。この「屍者の帝国」という物語の外側で、ロンドン、モンテギュー街に間借りする「諮問(コンサルタント)探偵」=シャーロック・ホームズに出会い、数奇な冒険を繰り広げることになる人物だ。ホームズの物語の中では、ワトソン博士は「アフガン戦争」から帰還したことになっているが、本作はワトソン博士登場の前日譚ということにもなる。
    ワトソンの活躍する舞台は、「もしも」の過去、19世紀末の仮構の歴史である。この世界で「必要なのは、何をおいてもまず、屍体(したい)だ。」
    遡ること100年ほど前、ビクター・フランケンシュタインは魂の正体を突き止め、生命を生命たらしめている根幹が「霊素」として把握できることを解明した。さらに歩を進めたフランケンシュタインは、擬似的に構成された「霊素」を屍体に書き込むことによって死者を動かすことを可能にしたのである。この屍体制御は技術として普及し、19世紀末には、擬似霊素を書き込まれた=インストールされた屍者が重宝な労働力として、蒸気による産業革命を経た社会のインフラとなった。ロボットを使役する社会として描かれる未来が、ゾンビによって19世紀末のヨーロッパに実現された按配である。
    ロンドン大学の医学部で屍体蘇生術を学んでいたワトソンは、その腕前と熱心さを買われ、英国政府の諜報機関にスカウトされる。ワトソンの運命を変える導き手は、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」に登場するジャック・セワードとヴァン・ヘルシングだ。彼らは諜報機関の人物「M」にワトソンを引き会わせる。その機関の名前は、女王陛下の所有物(プロパティ)、スパイの祖、サー・フランシス・ウォルシンガムの名前を戴く「ウォルシンガム機関」。そして、機関の駒となったワトソンのお供をする屍者フライデーの、機関での登録名称は、スパイと言えば当然出てくるべき名前がついていてくすぐったい。
    機関はワトソンをアフガニスタンへ派遣する。任務は、「ユーラシア大陸を股(また)にかけた大英帝国とロシア帝国の陣取り合戦」=「グレートゲーム」の只中で、奇妙な噂話の真相を探ること。それは「ロシア帝国の軍事顧問団の一隊アフガニスタン首都カーブルを離れ」、「屍者の一団を引き連れて」「アフガニスタン北方に屍者を臣民とする新王国を築こうとしている」という話で、そこには、東側の持つ未知の疑似霊素=屍者制御ソフトウェア(ネクロウェア)の秘密が見え隠れしていた。この「屍者の王国」を築こうとする、「地獄の黙示録」のカーツ大佐的な人物は、またもやフィクションの登場人物で、のけぞる程の有名人だ。
    こうしてこの小説には、物語の外側のフィクションが次々に侵入してくる。それに驚かされ、くすぐられ、ニヤニヤさせられている内に、謎を追って世界中を引きずり回されることになる。途中、明治維新の日本も舞台として登場する。つまり史実も参照されるわけだ。歴史改変SFは、この史実との距離がまた楽しく、本作でも虚実が入り乱れる様を堪能することができる。
     ところで、史実とは何だろう?歴史とは実体を有する何ものかだろうか。物語の内側から見れば、フィクションも歴史もさほど差はないことに気づく。そして、歴史よりも物語の方が、小説「屍者の帝国」の方がより現実らしく、紙の書籍もしくは電子書籍を実現するデバイスとして実在して、読む者の手の中にある。これは物語が実在化しているということだろうか?言葉が実在化したということだろうか?
    空想はジャンプする。
    物語を読むという事は、擬似霊素をインストールすることに似ているのではないだろうか?物語を読むわれわれは、「屍者の帝国」に属しているのではなかろうか?では、物語を読み終った時、何が起きるのだろう?意識が残っているのではないか?意識とはそもそも一体何か?
    意識と言葉について、実在と虚構について、疑問符が生れ続ける。これが恐らく、円城塔氏によって仕込まれた仕掛けであり、主題なのだ。
    荒唐無稽の冒険譚中に織り込まれた、意識を巡る思弁的主題が「屍者の帝国」の魅力だ。文体の温度の低さが、凝った馬鹿話の速度を削いでいるが、屍者の肌を思わせて、読後の印象は強い。あとがきに、「賞賛は死者に、嘲笑(ちょうしょう)は生者に向けて頂ければ幸いである」と書かれているけれども、嘲笑の必要は感じない。故人の意志を継いで、見事な円城搭のSFを生み出し、読者のもとに届けてくれたことに感謝するばかりだ。

  • アニメ映画が公開されたとき、友人に誘われて観に行ったのが『屍者の帝国』との出会いだった。出演声優のファンであった友人も、もちろん私も、作者も作品も詳しく知らないまま鑑賞。にもかかわらず、舞台設定とそのストーリー運びに一気に夢中になった。
    これは原作にあたらねばならぬーーと原作を入手。2時間でまとめられた映画とはやはり違う部分があるが、この世界観はやはりゾクゾクする。改めて読んでもその印象は変わらない。
    屍者技術の発展と19世紀末の歴史的な出来事がさも当然のように織りこまれ、「屍者がすぐそこにいる」リアリティに現実と虚構の境目が曖昧にさせられる。視点者としてのワトソンというキャラクターも滋味深い。振り回されつつも世界を一周したにも関わらず、その華々しい経験さえも事件の受け止めによって霞む。結果ひたすらに運命に流され続けるだけで結末へと辿り着くのだが、それも「ワトソン」という物語装置の為せる業なのだろうか。キャラクター名から筋道がたっていたとおりに、エピローグでホームズの世界へとつながっていくのは気持ちが良かった。
    差し挟まれる引用に、不勉強なのが不甲斐ない気持ち。解像度を上げて再読するとまた見え方が違ってくる気がする。
    ザ・ワンの語る意識の姿、ワトソンと同じように混乱しつつも圧倒されて読み込んだ。意識と魂の存在に思考を巡らせながら進んだ先に、ずっと記録していただけのフライデーの独白が待ち構える。「ありがとう」で締め括られるところは、後書きで語られる伊藤計劃氏の姿と重なってとても印象に残るのだった。

  • 伊藤計劃が逝去した後,円城塔が引き継いだ形になったもの。相変わらずの引用の過剰ぶりに耽溺する。
    好きな人はいるもので,用語集まで作っているサイトを発見した。
    http://docseri.hatenablog.jp/entry/2012/08/27/011725
    お疲れ様です。

  • 架空の人物と歴史上の人物が入り乱れて活躍する19世紀が舞台のスチームパンク・・・という側面では気楽に読める娯楽作なのだけれど、いかんせんテーマが難解、SFとしての部分で脳みそがついていけず、ちょっとしんどい部分もありましたが、概ね楽しく読み終えました。しかしある意味、衒学的というか・・・作者が持っている同等の知識を読者も持っていないと完全には理解できないし、楽しめないのではないかとも思います。せめて巻末か巻頭に、登場人物一覧(元ネタと架空か実在かの区別)と、現実の歴史年表および地図、くらいは付録としてつける親切心は欲しかったかも。

    主人公は、かのホームズの相棒ワトソン君(※ストーリー上ではホームズと出会う前)、彼をとりまくおもな架空の登場人物たちは、カラマーゾフの兄弟、ドラキュラ退治のヴァン・ヘルシング、フランケンシュタインの怪物、風と共に去りぬのレッド・バトラー、未来のイブのハダリーなど。実在の人物は沢山登場しますが、主要キャラではバーナビーや、グラント、リットン、ニコライ・フョードロフあたりでしょうか。二部の舞台が西南戦争後の日本なのですが、こちらは得意ジャンルなので大体の背景や人物の立場を把握できているのでわかりやすかった。

    ストーリーは、ひらたくいえば「ゾンビもの」でもあります。死体にある種の霊素をインストールすることで復活させる技術が確立していているもう一つの過去、例えばカレル・チャペックが近未来ディストピアの労働力として描いた「ロボット」や「山椒魚」と同じように「屍者」が労働力として社会を支えている世界。彼らがゾンビと違うのは、けして自主的には人間を襲って仲間を増やしたりはしないこと。生前の記憶や意思を持たず命令されたことに従うだけの機械同然だということ。この設定自体は非常にユニークかつ、ありそうで誰もやらなかったなという印象で、この設定だけでいくらでも物語を広げられそうな素材としてとても興味深い。たとえば死体さえあれば、歴史上の有名人や偉人、早逝した女優や俳優、あるいはもっと身近で大切な人を亡くした場合も、いくらでも不死身の屍体として甦らせることができるんですもの。夢が広がります(笑)

    しかし最終的なテーマとしては結構普遍的な「死とは何か」「人間を動かすものは魂なのか?」「では魂とは何で、どこにあるのか?」というようなもので、そこはなんというか、本作で重要な役割を果たすメアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」の頃から未解決のお題なわけですから、そこに新鮮味はなかったかな。これ言ったら身も蓋もないけど、だったらメアリ・シェリーを読めばいいわけで。

    ワトソンが追跡する「ザ・ワン」は、フランケンシュタイン博士の作った怪物=人造人間界のアダムともいうべき存在で、彼とハダリー=未来のイブが対決する場面というのはちょっと面白かったですが、フランケンシュタインの知名度に比べてハダリーと聞いて即座に出典が「未来のイブ」だと気づく読者はどのくらいいるのかわからないけれど、彼女の正体が中途半端な形で終わってしまったのは勿体ない。ラストのアイリーン=ハダリーとかこじつけっぽいし、フライデー=モリアーティ教授?ってのも無理があるような。単に時代が被っているからという理由だったのか他に理由があったのか、レッド・バトラーの登場もやや唐突でした。

    伊藤計劃のプロットを引き継いだ円城塔の仕事ぶりには頭が下がるし、それなりに面白く読めたけど、何かが惜しい。基本はエンタメ作品であるはずなのに、これだけのページ数を読み終えて痛快さとか満足感とかが薄いのがちょっと残念でした。

  •  伊藤計劃のあとをついで円城塔が書き上げた。非常に長くて山を登るように読んだ。
     情報量が多い割にカタルシスが少なく、盛り上がりにかけるので最後の方は辛かった。この小説に出てくる驚くべき情報は、本当かどうかわからないのも分かりにくさに拍車をかけている。物語としての面白さが少なく感じた。
     主人公はホームズに登場するワトソンで、まだホームズには会う前の話だ。そのほかにもカラマーゾフだとかヘルシングだとか創作の人物が出てくる。実在の人物としてはバーナビーやフョードロフも出てくる。なので創作物や歴史に詳しい方が面白く読めるだろう。ハダリーが、ホームズに登場するアイリーンになって、フライデーがモリアーティになるのは無理矢理だけど、けっこう面白そうな感じがするので続編として書いて欲しいな。
     19世紀、屍者を労働力として使う世界。伊藤計劃が、ここからどのような物語を書くのか気になる。円城塔は死が薄れている世界で、死とは何か? 魂とは何か? という事を書いた。ザ・ワンは、人に菌株がいてそれが意思を決める、というような事言った。屍者を増やすと菌株の拡大派が増長して、世界は屍者しかいなくなり、生者も生きながら屍者になる。この辺りの話はややこしいし、確定していないので、よく分からない。
     全体的に本筋や目的を提示していないので、エンタメ作品としての魅力が無い。情報量に見合う興奮が無かった。ヘルシングは菌株のことを言葉と言い換えてもいいといった。これは虐殺器官からの引用と見てもいい。円城塔が亡き伊藤計劃に対してのメッセージが本文にはあるのかもしれないが、それを読み解こうと思うほどの熱量を持てる物語ではなかった。
     円城塔については他の小説を読んだことがないのだが、著書を読んで癖を知らないと、この作者については分からないかもしれない。文章からはそんな印象を受けた。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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