王国 (河出文庫 な)

著者 :
  • 河出書房新社
3.44
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309413600

作品紹介・あらすじ

お前は運命を信じるか?  ――組織によって選ばれた「社会的要人」の弱みを人工的に作る女、ユリカ。ある日、彼女は出会ってしまった、最悪の男に。世界中で翻訳・絶賛されたベストセラー『掏摸(スリ)』の兄妹編!

感想・レビュー・書評

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  • 「掏摸」兄妹編、ということで。作品そのものが兄妹ということなのですね。
    施設で育ち、今は、要人・著名人の弱みを作為的に作り上げる仕事で報酬を得る女性、ユリカ。
    「掏摸」からの登場、木崎。木崎の情報を得るため、彼と対峙しなければならない状況になる。タイトルの王国は、この木崎の王国と捉えていいのかな。ユリカは、自分の運命が木崎の描いたそのものを辿っていることを知る。木崎は、この世界の神のような存在。
    ユリカの生き方が、生に欲望があるように思われないのだけれど、死を前にした時、生に執着を見せる行動が面白い。ギリギリのラインで裏切り、逃亡する。
    なんの話かわからないねえ。把握された運命にあがないきれない不条理?もう少しで、わかりそうなんだけど。
    中村さんは、海外でも人気が高いらしい。本人解説で、「掏摸」の構図は旧約聖書にあり、「王国」は新約聖書からギリシャローマ神話へ接続するといわれても、なかなか、すとんとはわからないねえ。木崎という男が圧倒的な神のような力を持つ悪の存在であること、を受け入れて、把握された運命といった世界観は、一神教の国々の方々に理解されやすいのかなと思いました。
    作者曰く、この作品では、木崎の上位に、月を置いたと。とすると、木崎は預言者なのかもしれない。

    • 土瓶さん
      だめかぁ。「掏摸」と「王国」を本棚で並べて向かい合わせにしたいけど、それも無理っぽいしなー。
      だめかぁ。「掏摸」と「王国」を本棚で並べて向かい合わせにしたいけど、それも無理っぽいしなー。
      2023/06/23
    • おびのりさん
      悪と仮面まで読みまして、面白いと思うんですよ。
      「王国」は、このユリカの女性目線で半ばぐらいまでいくんですよね。私は、そこが掏摸と表現のシャ...
      悪と仮面まで読みまして、面白いと思うんですよ。
      「王国」は、このユリカの女性目線で半ばぐらいまでいくんですよね。私は、そこが掏摸と表現のシャープ感の違いが出てるかもと思うんですよ。
      ですので、男性が読むとその辺りは、受け入れやすくなって、土瓶さんいけるかなと思う。
      悪と仮面も、血筋としての邪とか良いですよ。でももっと邪に徹底してくるかなと思ったりしてたので、あっつ、それは、私の冷徹感が大きすぎるから?普通の冷徹度なら満足するかも。
      中村さんR帝国まで読もうかなと。
      2023/06/28
    • 土瓶さん
      丁寧にありがとうございますm(__)m
      この人、いっぱい賞を獲ってるね。
      自分は「銃」からかな。そのうちに。
      丁寧にありがとうございますm(__)m
      この人、いっぱい賞を獲ってるね。
      自分は「銃」からかな。そのうちに。
      2023/06/28
  • 長らく積読になっていたので、やっと読めて良かったです。久し振りの中村文則作品で、あらためて
    中村作品の魅力に惹かれました。海外でも話題に
    なった「掏摸」の兄妹作で、中村作品の特徴でもあるダークな世界観と、闇に堕ちながらも、次に再生していこうとする希望も描かれていて、久し振りに、読めてよかったです。木崎の支配者っぷりが
    よかったですね。

  • 化物で絶対悪の木崎。その立ち振舞いが妙に人間臭く思える瞬間がこの小説の魅力だと思う。

  • 『掏摸(スリ)』の兄妹編に位置する犯罪小説で、今回の主人公・ユリカもまたあの「巨大な悪」である木崎と対峙することになります。哲学的だったり思想的だったりする部分では十分に考え抜かれているし、そういった思弁的色合い一色にならないように、参考文献を用いて補強した知識を咀嚼してちりばめてあるし、ストーリーの起伏・緩急は巧みでぐいぐい読ませるエンタメ性もあるし、背後にはいくつかのテーマが配してあるようですし(木崎が自ら語る部分以外、僕には拾えていないと思います)、著者一流の馬力をフルに発揮して作り上げた作品といった感じは、『掏摸』と同じくらいあります。

    ただ、ここまで野蛮で、強烈な悪の領域に踏み込んで書いていて、著者はその執筆中にまともな生活を送れていたのだろうかが気になる、というのはありましたね。家庭とか会社とか、そういったものに属する日常がある者には書けないような気がするのです。少なくとも、僕がもしもこういった種類の小説を書こうとするなら、日常から逸脱してアパートの一室で誰ともコミュニケーションを取らずに過ごす日々の中で書く、だとかになりそうです。堅気では無理なんじゃないかな? と思えてしまう。

    児童養護施設出身のユリカは、女であることのセクシャリティを武器に、裏の世界に足を踏み入れている。ホテルに派遣され、その現場で相手の男の弱みになる写真を撮るべく、薬を盛るなどしてうまく仕事をこなしていく。そこにあの木崎との接触が生じることで、物語は大きく暗転していくのでした。

    木崎の述べる「闇の哲学」とでも仮に呼んだらよいようなものの説得力と引力が、『掏摸』同様に読者を揺さぶります。価値観や世界観といった、根幹部分に迫ってくる内容だからです。特に、「人間の苦しみと健気な善行という相反する二つの感情を自分の中で混ぜ合わせ、その神は幾千年も悶えながら陶酔し続けているんだ。」という神観と、それを自ら体現する木崎の考え方や行動に、なんだこれは、と揺れるのです。これらの部分での著者の筆致からしても、著者の重心が偽りなく木崎の立ち位置にあることが感じられもして、さきほども書きましたが、日常生活できていたのか、と気になってしまうのです(俗っぽいですね)。

    さて。男性作家が描く若い女性の一人称小説で、驚くほど文章がなじんでいるように感じるのだけれど、第4章では男性目線が前面に押し出ているように感じられました。珍しく読んでいて違和感に取りつかれましたが、それはそこまでの章で一度区切ってから再び読んだせいであるかもしれませんし、また、若い女性を違和感なく描けるような器用な男性作家だろうか? という疑いの先入観のせいなのかもしれません。その後はふつうに読めましたから、よくわからなくはあるんですけれども。

    下世話かもしれませんが、『掏摸』『王国』を読んだ後、読みたいなと思うのは、最終決戦的な物語です。ここまでいくんだ、っていうくらい遠くまで読者を放ってくるような最終決戦を欲してしまいます。まあそれだけ、この二作を楽しんで味わったということなんでしょうかねえ。

  • 作者さんの思想や宗教に関する知識が上手く作品に投影されてて、面白かった!抽象的な話だけど、主人公に移入して読めた。木崎の存在のインパクトは前作の方が強かったけれど、主人公が女性なのもあってか(?)自分はこっちの方が引き込まれたかな。何度も読めばもっと解釈考察ができる作品だろうな、と思った。

  • 『掏摸』の兄弟篇。強大な力、運命によって翻弄される主人公という構図が同じである。運命を掌握する存在として、本作でも木崎が登場する。しかし、前作の主人公との僅かな接触によって運命が捻じ曲げられる。前作のラストで描かれた、世界全体には何も影響を及ぼさない微かな奇跡が、別の物語に干渉し、大きく物語のうねりを改変する。今作では新約聖書のように神からの裏切りを受けるキリストの立場を主人公に置いているが、前述の外部からの干渉によって、グノーシス主義の物語へと変化してゆく。この時木崎は不完全な神の立場に置かれることになる。不完全な神は更に上位の存在、月、によって運命を操作する自身の運命が改変されてゆくが、それ自体をも取り込み、快楽へと変化させる。

  • 『掏摸』の主人公が生きてた事が先ず救い。
    あの木崎が人間っぽくなってる事に少しがっかりして少しホッとした。それでもって可笑しかった。
    女性独特のリズムや抗い方に揺らいだのか?まさかとは思うけど。きっとこれもどれも全て掌の上なんだろう。

    描写のせいもあるけど、同作品より『掏摸』の方が好み。

  • 話の筋、解釈はどうでもよく思える。これは緊迫を味わう、生きることの緊迫を感じるための作品なのだ。

  • #王国 #読了 #中村文則

    まずは中村さんの作品を出版順で読んできて、初めてイマイチだと思った。

    女性目線で書くところは面白いと思って期待してたけど、そこも失敗ポイントだった。女性だと感じるような描写はほぼない。メインキャラクターの作り方、ストーリーのリアル感、テーマ、いずれも掏摸とはレベルが違い過ぎた。

    掏摸が成功し、同じようなのも売れるから早く出せって言われてやっつけで書いた、そんな印象を受けた。もちろん想像だけど。
    具体的にいうのは省略する。

  • 「掏摸」がすごく良かったので、その姉妹版の本作への期待値が高かったのか、思ったほど緊張感が伝わらなかった。

    絶対的「悪」の象徴とされる木崎も前作よりゆるいし。女性が主人公だから?
    ただ中村作品を女性の視点で読めたのはおもしろかったなぁ

  • うーん。面白かったー!

    『掏摸』を読んだのは、随分前なのでストーリーの細部までは覚えていないのだけど、かなり好きな展開。
    木崎の絶対悪の強さ。結局、どの登場人物よりも王たる風格は凄まじく、跡を残してくれる。

    対するユリカの瀬戸際の動きが良い。
    考え、絶望し、また考える。そこに何の価値もないと分かっていながら、最後まで抗い続ける強さは好きだ。
    私の人生、と呼ばれるものが実はそうでなかったと“分かって”しまうことの嘆き。クライマックスは、考えさせられる。

    そうして、月の描写。
    「頭上には、ネオンの光さえ照らす、月の輝きがある。太陽が沈んだ後も、その光を盗み、わたし達のような存在を照らすーー、月。」
    ただ、静かに善悪さえも超越する存在として、モチーフどころではない存在感を発揮してくれている。

    一気読みの一冊だったー。

  • こうやって人は二重スパイになるのかぁ。どこまでフィクションか知らないけれど、容姿が優れていても高級クラブで働くべからず、歌舞伎町に近づくべからず。
    とにかく月、月、月推し。

    『掏摸』が好きだったので兄妹編ということでこちらも読んでみたが、掏摸での主人公が出てくるのも一瞬で寂しい。兄妹編というより続編を期待してしまっていた。
    掏摸の方が主人公も文体も好きだった。前作は男性目線で語られるからか、鹿島ユリカよりも淡々と、格調高い。今回は女々しく、漠然と抽象的な思案が目立つ。月よりも塔の方がしっくり受け入れられた。

    R18

  • 中村文則の作品で1番スラスラ読めたのと個人的に文章が好みだった。木崎という男の不気味さ、対峙する絶望感。どうなってしまうのだろうと読み進める中で物語の“私という存在”にまで考えさせられる。不思議な感覚。

  • 彼女がなぜこうなったのか?
    読み終わったが、なんか理解できるようでできない自分がいる。こんな人生はゴメンだ。

  • 中村文則は好きな作家だが、女性主人公ものになると途端に不満になる。
    女性の内面が描けなさすぎ。
    女性は性欲と犯罪欲だけで出来てるんじゃない。
    あまりにも人物描写や内面世界がなさすぎて共感できない。よほど女性との経験が少ないのか?
    言っちゃ悪いけど、この作品はひどい。

  • 掏摸の姉妹編。掏摸よりスピード感あり、読みやすい。作者後書で、有名な文献や歴史をモチーフにしたとのこと。そう言う書き方もあるのかと面白く思う一方で、だからちょっと読みにくいのかとも思う。

  • 主人公のユリカは、組織からの依頼をこなし報酬を得ていた。その依頼は社会的地位が高い人物の弱みを握ること、男を誘惑しホテルで睡眠薬を飲ませて女と寝ている写真を撮影する。

    そんなある日、掏摸でも登場した裏社会の支配者、木崎の登場。木崎はユリカが属している組織とは敵対関係にあるが、運命を握られているような圧倒的な力を前に、ユリカは生き延びるために両方を裏切る形を取る。しかしそれも全てお見通し、はたして生き残ることが出来るのか。



    木崎が支配者過ぎて成す術がない主人公だったが、生き延びるために言葉を選んだり策を弄したり、いつ殺されてもおかしくない状況でのやり取りは緊迫感があった。
    作者の解説には、新約聖書からグノーシス主義の構図に変化したということらしいが、何が何だか全く分かりませんでした。
    読書を続けていれば、いつかこういう意味を理解出来る日が来るんだろうか。

  • 「掏摸」の兄妹編、主人公は女性。社会的要人を性的なアプローチで陥れる。ある日、見知らぬ男から忠告を受け、自らの人生が別の人間に操られていることを知る。絶望の縁で主人公は決断をする。「掏摸」同様に罠に嵌める過程や絶対的な悪の世界が巧妙に描かれている。‬

  • 掏摸のアナザーストーリーらしいが、個人的には全く期待ハズレのモノだった。

    まず、前作の主人公だった人間が結局は何も絡んでこなかったのは非常に不満が残る。
    また前作で脇役だった親子を登場させても面白かったはず。
    そして尻切れトンボに終わった木崎のグロさをもっと表現するべきだったと思う。

    それだけでなく今回新たに登場した主人公も、結局は何をしたかったのか判らないまま終わった感もあるし…

    前作がスリリングな秀作だっただけに余計に残念…

  • わたしは、ベッドから出、バッグの二重底の部分に手を入れて拳銃をつかむ。息をきらしながら、木崎に銃口を向ける。

    「・・・・ほう」
    「わたしは本当に撃つ。言うとおりにして。」
    「早くして。わたしは気が短いの。」
    「・・・・お前は撃たない。」
    「わたしは撃つ。もう撃つ。」
    「・・・・やるならやってみろ。」

    木崎が笑う。

    「お前が引き金を引いた時、お前が今どういう世界にいるかがわかるだろう」

    胸が圧迫され、何かが喉に込み上げる。
    自分の全てがが、引き金に吸い寄せれれていた。
    わたしは肩に力を入れ、引き金を引いた。
    乾いた音がし、視界が揺らぐ。
    弾がはいっていない。

    気が付くと、背後からわたしの頭部に銃口が向けれれている。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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