- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309414119
感想・レビュー・書評
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ミステリー、オカルト、SFなど、いろんな要素が入った短編集。文章が端正で、ほの暗い雰囲気があってとても好みだ。特に「吉備津の釜」が好きだけど、「東天紅」「ねじれた輪」「人形つかい」なども良かった。巻末に著者の略年譜も載っていた。
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明治41年生まれの作家の短編集。ミステリー、ホラー、SF(?)、怪奇幻想と、作品ごとにいろんな要素がありつつ、描写が丁寧で時代の空気(現代人からするとノスタルジックな)が感じられ、なおかつ娯楽性も高くとても面白かった!
「かむなぎうた」「東天紅」「ねじれた輪」は、身近に殺人事件が起こり主人公が勝手な推理(空想)をするのだけれど果たして真相は・・・?という心理的なミステリー、「食人鬼」「消えた家」は、戦後の異国の地での恐怖体験(「消えた家」は現実的なオチだったけど)、月に宇宙船で墓参りに行く近未来SF設定の異色作「彼岸まいり」、河童の手紙の民話がまわりまわって主人公を救う「吉備津の釜」など、どれも良いけれど、個人的には幻想的でちょっとゾッとする「人形つかい」「泥汽車」がお気に入り。
そして最後の「明治吸血鬼」は、ハイカラ探偵右京というシリーズものの1作だそうで、山田風太郎なんかに通じる世界観と面白さ。他の作品ももっと読んでみたいな。
※収録作品
「かむなぎうた」「東天紅」「彼岸まいり」「ねじれた輪」「食人鬼」「吉備津の釜」「消えた家」「天王寺」「夢ばか」「人形つかい」「ひこばえ」「泥汽車」「明治吸血鬼」 -
奇しくも『澁澤龍彦ふたたび』と並列して読んだ(帯文に、澁澤氏が讃えたものとして、「渋い古風な作風、最も端正なスタイル、一貫した淡い郷愁」と挙げてあった)。澁澤氏は、スタイル偏重主義で、「なまくら」な文体は大嫌いだという御大なのだけれど、なるほど、日影丈吉氏の作品は(私にも)きっちりと整って感じられる。一貫して描写が巧みで、過剰なものは削ぎ落とし、けれど情景を想像させる輪郭線は保ち続けている。まだまだ「なまくら」な私は恐れ入るしかない。好みでいえば『泥汽車』『食人鬼』あたりに強烈に惹かれる。雛形を知って、雛形を使うことを怖がらない強靭さがあると思う。事実起きたこととはべつの世界線があって、IFとしてまざまざと脅かしてくるほど、想像の絵がひらけている。情景と心理が心に描き出されてとにかくうれしい。鏡花の、とくに『三尺角』と、気脈を通じるものがあるように感じた。2017.8.2
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オールドスクールな幻想文学。エンターテインな要素も含んでおり、優しい読書体験でした。独特の衒学性が溜飲を下げてくれました。泥汽車が白眉と思います。いつの間にか迷い込んでいるような文章が良いですね。と、さらっと感想。さらっとしていますね、何処となく淡白なのも味と言えるでしょう。
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かなむぎうた、東天紅など何か不穏な空気が高まっていきつつ、最終的には肩透かしを食らわせる展開に作者独特の筆が冴える。
彼岸まいりはまさに昭和のSFという感じ、宇宙旅行が相変わらず夢のまた夢である現代に墓じまいがブームとなっていることを考えると、こうした作品もまた時代を感じさせる。
中には結末が少し強引に過ぎると思わせるものもあるが、著者の語り口はどの作品も変わらず楽しませてくれる。 -
同一作家と思えないほどのバラエティの豊かさ。統一感があるとすると、文体の流麗さか。幻想と推理の中間地点をいく「かむなぎうた」の美文に酔いしれる。かと思えば「彼岸まいり」はまさかのSF(これがお気に入り)。
子ども目線の作品「かむなぎうた」「泥汽車」などのイメージから、わたしには裏表紙の紹介文にあった「ダンディズム作家」の意味があまり感じられなかったが、最後の「明治吸血鬼」の結びの一文"そら薔薇よ、血を吸え。人間の血も薔薇に吸われたら本望だろう"、これがダンディズムってやつか…とひとりで納得。 -
吉備津の釜:スノ木は蒸気船で、危険な手紙を預かった船乗りの話を思い出した。自分の身に危険が迫ったとき、耳の底で吉備津の釜が、警告するように鳴りだした。
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収録作品はバラエティに富んでいました。
「明治吸血鬼」、私は吸血鬼びいきなのでまずは当然面白かったのですが、それ以上に吾来のキャラクターが好きすぎる!
「食人鬼」も好きです。彼らが、外からも内からも蝕まれていくのが、痛ましくも目が離せない。だからこそラストは迫るものがあり。
「ねじれた輪」の冒頭の鮮やかさは解説にも書かれているとおり、しばらく放心できるほどでした。
などなど、他にもたくさんあってどれも楽しく読んだのですが、いっとう好きなのは「人形つかい」です。こわくて、きれいで、惹かれる。こういうのが読みたくてこの界隈に興味を持つ私。 -
幻想怪奇寄りの短編集。ノスタルジックな雰囲気やじわりとした恐怖感を味わいながら、じっくりと読みたい一冊です。
お気に入りは「ひこばえ」。とある家の怪異を描いたホラー、というか恐怖譚、と表現したい一作。派手な恐怖シーンはないのだけれど、じわじわと迫りくる不吉さがたまりません。「半分になって」というさらっとした表現が、これほどにまで怖いとは思いませんでした。
「食人鬼」も印象的でした。ありがちな物語かと思いきや、この結末はあまりに意外。そして何よりも恐ろしいのがこういった風聞なのだなあ、という悲しさがとても尾を引きました。 -
2017.03.11