カメリ (河出文庫 き 6-3)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414584

作品紹介・あらすじ

世界からヒトが消えた世界のカフェで、模造亀(レプリカメ)のカメリは思う。楽しいってなんだろう? カフェを訪れる客、ヒトデナシたちに喜んでほしいから、今日もカメリは奇跡を起こす。心温まるすこし不思議な物語。

感想・レビュー・書評

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  • 読書会のために再読しました。今回も面白かったです。全部は間に合わなかったですが。
    カメリ、かわいい。カフェの石頭のマスターも同僚のヌートリアンのアンも模造亀のカメリも、お客さんとして来るヒトデナシたちも全てニセモノだけれど愛しくなります。
    でも、テレビやメトロは生きてる。塔や橋やテトラポットはヒトデナシで出来てるものもあるから生きてる…?
    図書館の描写が好きです。水没している恐らく宇宙船の中にある本…というか本も生きてる。泳いでいます、楽しそう。
    カヌレについて喋っているとき、形から未知との遭遇の話になっているところが好きです。ニセモノの世界でも未知との遭遇はテレビ放映されているのか。
    「カエルみたいにヌレッとしている」カヌレ…気になります。カヌレ美味しい。
    この世界に人が戻ってくる事はない気がするので、彼女たちの生活はこんな感じで永遠に続いていくのだろうと思います。
    可愛いですが虚無感も覚える世界でした。

  • 好きなポッドキャスト「謎解き!ハードボイルド読書探偵局」で一編ずつ精読する読書会が行われていて(あと3編は配信まだ)、正直そっちを愉しむために読んでみようか、という不埒な動機だった。
    が、えらく面白くて、大好きになった!

    北野勇作さんは「NOVA」などアンソロジーで数編読んだだけ。
    朝宮運河・編「宿で死ぬー宿泊ホラー傑作選」の「螺旋階段」という映像化不可能な異形の短編が印象深かった。
    本作のカバーでキュートなイラストが描かれているので、読みながらついつい漫画化するならスケラッコかな~とか、つばなかな~、いや諸星大二郎かも、とか想像していたが、おそらく本作も映像化不可能……というか、キャラクターデザインや美術など決定しないほうが楽しみが増すのではないか、と思う。
    確定不可能性を担保し続けるほうが魅力が増す、脳内に結ばれては移っていく像を追う、小説ならではの味。

    それでもやっぱり敢えて連想してみるならば、
    堀貴秀「JUNK HEAD」、弐瓶勉「BLAME!」、つくみず「少女終末旅行」の、メガストラクチャーや生体機械、の壮大さとグロテスクさと、
    リドリー・スコット「ブレードランナー」、押井守および士郎正宗「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」の、レプリカントや電脳、の悲哀さと、
    シナリオやテレビドラマやニセモノや、から、「世にも奇妙な物語」の「ロンドンは作られていない」の模擬記憶や独我論(今回初めて知ったが清水義範「唯我独存」が原作)、大塚寧々が主演した「壁の小説」とか、
    ……と、大仰なものばかり連ねてしまったが、

    そんなハードSF、本気に自己の存在を根底から覆しかねない世界の不気味さが、とおーーーーーーくに仄見える洞窟の入口の、一歩手前どころか二歩も三歩も手前で、カメリは、別に、入らない。本気にならない。
    ここがいい。
    解説で森見登美彦が「理想的ボンヤリ屋さん」と書いている(し、本書の魅力は解説でしっかり表されているので素人が繰り返す必要はないのだ)が、そのへんがいいのだ。

    ポストヒューマンにおいて、ヒトデナシたちがテレビの映像をもとにヒトの真似をする。
    真似ることが嬉しい、ここに読み手は悲哀を感じざるを得ない、
    だってそもそも人が神を真似ているのだから、とリドリー・スコットなら虚無的に描くだろうが、
    いやまあ「レプリカメ」(模造亀)だしね、と脱力。
    演技、再現、本物と偽物の実感、といった本気のテーマを、「ヒトはテレビの中に引っ越してしまった」という絶妙な世界観で表して、敢えて奥底まで探求しない。この塩梅。
    あとは優しい言葉の掛け合い。これもいい。
    「まあでもこれもよかったね」というフォローや、「おおおーいカメリ」と呼びかけてくれるとか、世界の素材たぶヒトデナシたちの優しさよ。

    ここがまたいいんだけど、テレビの内容が地味に古いんだよな~。
    世界中の老若男女に読んでもらいたいけれど、駄洒落を駆使した設定(カヌレ→「カエルみたいにヌレッとしている」はひどい!)も相俟って、主な読者は日本の中年になるだとう、と思っていたら、なんとテレビはモノクロだったと終盤に判明! 笑ってしまった。

    ちなみに作者のツイッターによれば、「どろんころんど」「カメリ」「ヒトデの星」が泥世界3部作らしい。読みたい。すごい多作な作家なのだ。
    また作者いわく「カメとヌートリア、ダブルヒロインによるポストヒューマン百合バディSFです。いや、ホントだってば」。
    また「かめくんはカメの「ブレードランナー」、と憶えてください」とも。
    ついでに先のポッドキャストの胴元さんいわく「ポストヒューマン造語駄洒落巨大怪獣百合ケモナーハードカメSF」!
    そうそう、根底が駄洒落にあるのかハードSFにあるのか、ベクトルの起点が全然わからない感じも、いいのだ。

    追記。
    野阿梓が2000年代のSF小説のベストに、
    冲方丁『マルドゥック・スクランブル』、佐藤亜紀『天使』、古川日出男『アラビアの夜の種族』、北野勇作『かめくん』、『山尾悠子作品集成』
    を挙げているんだとか。
    佐藤、山尾は納得だが、本書も並んでいるあたり、嬉しい。

    以下に目次を示すが、各章のタイトルが、興味を催すと同時に、その章の端的なあらすじになっているのも、面白い。
    とはいえ各話読み切りというよりは、前までの話が緩やかに繋がってきているあたりは、藤子・F・不二雄的歴史観かもしれない。
    いやまったくいいものを読んだ。

    ■カメリ、リボンをもらう
    ■カメリ、行列に並ぶ
    ■カメリ、ハワイ旅行を当てる
    ■カメリ、エスカルゴを作る
    ■カメリ、テレビに出る
    ■カメリ、子守りをする
    ■カメリ、掘り出し物を探す
    ■カメリ、メトロで迷う
    ■カメリ、山があるから登る
    ■カメリ、海辺でバカンス
    ■カメリ、ツリーに飾られる
    ◇あとがきっぽいもの
    ◇解説 森見登美彦

  • 夫の本を借りて読みました。
    ヒトがいなくなった後の世界でヒトの生活を再現したい模造品たちの話でたぶんSFなんだけど、世界観を把握するまでにえらい時間がかかってしまって序盤は読むのに体力使った。テレビに出るくらいから面白くなってきた。
    模造品が再現したいヒトの生活にはシナリオがあって、それを真似る模造品らの言動もぜんぶシナリオ通りで、思考もカメリの推論もたぶんシナリオ通りなんでしょうね。みんなそれに納得しとるしなんのためにこの世界があるのかよくわからないんだけどそーゆーディストピア風な世界観もよいです。

  • すこし、いや、かなり不思議な世界観。カメリの「理想的ボンヤリ屋さん」加減が心地よかった。いろんな旅先で少しずつ書いた物語だとあとがきで知って、なるほどーと思った。アンとマスターのやりとり、かわいい。

  • 話の広げ方の塩梅がうまいなあと。楽しい読書でした。しかし、図書館と地下鉄はインパクト強い。

  • 解説の森見の文章にひかれて購入。

    人がいないディストピア的な世界で人工物たちが人を真似て生活している、という設定。
    世界が常に大きく変わっているのに対して、主人公たちの暮らしは基本的には同じことの繰り返し、というギャップや、倫理観に縛られていないために行動として表れる残酷さが面白い。

    またこの作家の作品を読んでみたい

  • カメリは模造亀(レプリカメ)の女の子。螺旋街の西の外れのアパルトマンで、一人暮らし。石頭のマスターが経営するオタマ運河沿いのカフェで、ヌートリアンのアンと一緒に働いている。カフェの常連は、近所の工事現場で働くヒトデナシたち。毎朝わいわいとやってきて、TVを観ながらカメリが作った泥饅頭と泥コーヒーをうまいうまいと食べてくれる。彼らからもらった赤いリボンが、カメリの宝物。メトロに乗ってマントルの丘にケーキを買いに行ったり、くじ引きに当たってハワイに旅行したり、ノミの市にカヌレの型を探しに行ったり。カメリの日常は、気の良い仲間たちに囲まれて、平凡に過ぎていく。

    こうしてあらすじを淡々とまとめると、これといった盛り上がりも起承転結も無く、「模造亀」だの「ヒトデナシ」といったワーディングがちょっと気にはなりますが、まぁライトな読者向けのふんわりしたファンタジーなのかな〜という印象。
    が、騙されてはいけません。

    ストーリーの表面だけなぞると、この作品は確かにふんわりしたとらえどころの無い物語です。
    が、読み始めるとすぐに判る、この世界のグロテスクさ。ヒト(人類)がかつて暮らしていたことが示唆されながら、ヒトは既にTV画面の彼方に消え去っており、人外の者たちだけが同じような生活を延々と繰り返す、時代も場所もわからない世界。カメリもアンもヒトデナシたちも、本来は生体兵器または生体構造物であることが暗に仄めかされており、かつ彼らはそんな自分たちの存在理由を既に忘れています。
    この世界の成り立ちも、その中で人間を模した「生活」を再現する意味も理解しないまま、それでも楽しそうな彼らの日常が暖かい筆致で描き出されて行く、この実にSF的な尖りっぷり。そんな優しくて気色悪い世界の中で、ただひとりカメリは、ゆっくりと、でも着実に、思索を深めていきます。自分には「楽しい」という意味が分からない、というカメリのモノローグ。それでも、「楽しそう」なヒトデナシたちの存在を、カメリは否定しません。この世界そのものが外挿されたシナリオに過ぎないという可能性すら認識しながら、それでもカメリは毎日を、たぶん「楽しんで」います。

    論理が明快で白黒ハッキリしたSFが好きな人には、おススメできません。が、謎だらけで何が本当なのかほとんどわからないままでも、これだけエッジィなSF世界が成立するんですよ、というお手本のような作品です。万人向けの作品ではありませんが、鴨は大好きです。

  • 模造亀の女の子カメリは万年1号と仲間同士なのだろうか、まだよくわからないけれど、どうやら『どろんころんど』と地続きの世界(ヒトがいなくなった世界でヒトモドキがヒトの世界を再現しようとしている)の話らしい。舞台は石頭(シリコン製?)のマスターが仕切るカフェ、働いているのはカメリとヌートリア(型ロボット?)のアン。読み進むほどにいつもいっしょうけんめいなカメリがいじらしく応援したくなってくるふしぎな物語。
    それにしても、「存在する」とはどういうことだろう、「理解する」ってどういうことだろう(見よう見まねとどこで分かれるのだろう?)、自分が知覚しているものごとや感じている気持ちは借り物やしったかぶりではなく本物なのだろうか、といった自分をゆさぶられるような問いかけが絶えず聞こえてくるので、ほのぼのした印象と裏腹になかなか深い作品だと思う。

  • カメリがカヌレを作っちゃうのとか、オタマに爪を突き刺してしがみつくとか、ヒトデナシが実は主役なんじゃないかとか、カメは夜更け過ぎに雪へと変わるとか、ファンタジーでけっこう心に残ります。

  • おもしろい。けれど、少しこわい。
    実は自分たちの住む世界も、朝起きたらなくなっていたり、倒壊したりするような、あやうい世界なのかもしれない。夢のような。
    人間がいなくなったら、こんな世界が残されていたりして、と想像を巡らせる。

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著者プロフィール

1962年、兵庫県生まれ。
1992年、デビュー作『昔、火星のあった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞、『天動説』で第1回桂雀三郎新作落語〈やぐら杯〉最優秀賞を受賞。2001年には『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。『どーなつ』『北野勇作どうぶつ図鑑』『どろんころんど』『きつねのつき』『カメリ』『レイコちゃんと蒲鉾工場』ほか著書多数。
ライフワークとも言える【ほぼ百字小説】は、Twitterで毎日発表され続けており、その数は4000を超える。

「2023年 『ねこラジオ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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