小川洋子の陶酔短篇箱 (河出文庫) (河出文庫 お 27-3)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309415369

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。
    川上弘美の河童玉
      霊験あらたかな、故障を治す聖なる石。
    小池真理子の流山寺 
      帰ってくる夫
    色川武大の雀
      雀の戸籍を作っている父に、俺たちの人生よりいくらかよさそうだな、とは素敵。

  • 最近小説を読む時間が細切れになってしまったので、中断しても記憶のかなたに飛んでしまう可能性の低い、短編小説を読む機会が増えた。ということで、しばらく読みそびれていた、小川洋子選のアンソロジーを。

    小川作品の薄暗さのある淡々とした作風に通じるものがある、(おおむね)昭和の短編を集めてある。日常のディテールを歪ませているが、それを「当然のもの」という感じで作品に溶け込ませている感じの作品が多い。

    今となってはちょっと受け入れにくい素材が作品に出てきたりもするが、総じて、作品に若さ・幼さを漂わせて免罪符にする作品がほとんどないと感じた。大人の日常(の中の何日か)を描くことに長けた作品が多く、文体の精神年齢が高い。キャラクター小説的要素は小説の楽しさの売りではあるけれど、それだけでは読みたいと思わない向きには面白い短編集だと思う。

    個人的に好きなのは、魚住陽子「雨の中で最初に濡れる」、武田泰淳「いりみだれた散歩」、小池真理子「流山寺」(ただし泉鏡花「外科室」は別格)。好きというのとは違うが、武者小路実篤「空想」は、出オチ感も含めた簡単な仕掛けではあるんだけど、最後まで読んで「うわっ、なんだそれ」的な驚きがあった。

    収録された短編だけではなく、各作品に小川さんの解説エッセイが付されているのも贅沢なアンソロジーだと思う。

  • 自分の中に深く居座る物語に出会える確率とは、幾らくらいのものなのだろう。

    小川洋子が選んだ短篇集は、どれも彼女の中に居座った跡が分かるような、そして私の中にも居座りそうな蠱惑的な物語ばかりだった。

    どれと言われると、難しい。
    「河童玉」から始まって度肝を抜かれるのだが、「鯉」も「犯された兎」も、それぞれワンシーンがパッと浮かび上がる。

    「いりみだれた散歩」の描写が美しい。
    「とりの餌や野菜草花のタネを売る店、便利屋、鋸の目立て屋、どれも沈みこんだような小さな店が、今にも崩れおちそうに建っている。」

    「空想」は武者らしい。笑える。

    「ラプンツェル未遂事件」には、共感した。
    私も、団地にある電波塔を見て、いつもピーチ姫の幽閉されているクッパ城のような淡い期待を抱いていたものだった。

    そして、小川洋子の解説エッセイが素敵すぎる。
    「ズロース問題」には笑わせていただいた。

  • 小川洋子さん編集のアンソロジー第二弾。相変わらずいかにも「らしい」素敵なセレクト。作品ごとに編者の短い解説エッセイがついており、そのエッセイもなかなか面白い。けして幻想的ではなかったはずの作品が、小川洋子のこの解説エッセイによって途端に幻想味を帯びてきてしまうことも多々あり。

    川上弘美、泉鏡花、梶井基次郎、中井英夫あたりは既読だけれど好きな短編。読んだことのない作家で良いなと思ったのは魚住陽子「雨の中で最初に濡れる」、小池真理子「流山寺」と日和聡子「行方」。個人的に自分が死んだことに気づいてない人の話が好みなせいもある。岸本佐知子「ラプンツェル未遂事件」と武者小路実篤「空想」は掌編なのだけどオチが効いててどちらもなんだか可愛らしいと思ってしまう。色川武大は何作か読んで本人が妙な懲り症なのは了解していたけれど、「雀」を読むとしみじみ、遺伝だな、と思った。

    解説で自身でもおっしゃってましたが、河童、猫、牧神、鯉、雀、兎、と、なぜか動物の出てくる話が多いのも特徴。余談ですが最近「猫のアンソロジー」等をよくみかけるので、「河童のアンソロジー」を脳内で編集して楽しんでます。

    ※収録作品
    「河童玉」川上弘美/「遊動円木」葛西善蔵/「外科室」泉鏡花/「愛撫」梶井基次郎/「牧神の春」中井英夫/「逢びき」木山捷平/「雨の中で最初に濡れる」魚住陽子/「鯉」井伏鱒二/「いりみだれた散歩」武田泰淳/「雀」色川武大/「犯された兎」平岡篤頼/「流山寺」小池真理子/「五人の男」庄野潤三/「空想」武者小路実篤/「行方」日和聡子/「ラプンツェル未遂事件」岸本佐知子

    • hiromida2さん
      小川洋子さんの小説は大好きだし、その小川さんが編集セレクトしたという短編集 是非読みたいです!沢山 本読んでるので 自分も選択するのに 為に...
      小川洋子さんの小説は大好きだし、その小川さんが編集セレクトしたという短編集 是非読みたいです!沢山 本読んでるので 自分も選択するのに 為になります‼︎GOOD
      2017/06/13
    • yamaitsuさん
      hiromida2さん
      コメントありがとうございます(*^_^*)
      小川洋子さんの作品がお好きなら、このアンソロジーもきっと面白いですよ...
      hiromida2さん
      コメントありがとうございます(*^_^*)
      小川洋子さんの作品がお好きなら、このアンソロジーもきっと面白いですよ!
      アンソロジーは読んだことのない作家さんを新しく知るきっかけにもなるので、私からもおすすめです。
      2017/06/14
  • 偏愛短篇箱から数年ぶりにやっと読めた陶酔短篇箱。
    各々の短篇の後の小川さんの解説エッセイもほんとイイ。ほぼ現実に引き戻されない解説だから。さらに上を行くものもあるし。私的に日和聡子「行方」がダントツで陶酔世界だった。小池真理子「流山寺」書き出しの描写がリアルで引きこまれた。他の作品(ちょっとホラー系)を読んでみようかと思う。既読の泉鏡花「外科室」は以前読んだ時より引いてしまった自分が残念。魚住陽子「雨の中で最初に濡れる」想像しやすい卑近な環境に別世界が混じっていて嫌な読み心地。そこがまた良かった。武者小路実篤「空想」オチがTwitterでよく見かけるやつ。まんまと笑った。

  • 知らない作家さんが何名も。奇妙な日常を扱っているものが多くて著者のエッセイも読めてお得感。

  • 小川洋子さんの偏愛短編箱より、見逃してしまうような魅力が詰まる陶酔短編箱。わかりやすく、これ、小川洋子さんというより、細く奥深い水脈をなぞるようにたどり着いた、小川洋子さんとの重なる陶酔、表立って言えない心情。既読のものが好きなものだから、未読なものまで既に好きであったという幻想。小川洋子さん作はもちろんのことだが、編著も大好きだ。

  • 小川洋子先生のラジオで紹介されていた、雨の中で最初に濡れるを読みたくて手に取った。期待を裏切らず。この作品は割と最近のものだけど、戦後あたりの昔の短編が多い印象。このあたりの文学の良さがまだいまいちわからない未熟な自分には、河童玉や流山寺など近代のものの方が面白く読めた。でも牧神の春はかなり好き。作品ごとに書かれた小川先生の短いエッセイは想像力豊かでもう、さすが。しばらくしたらまた読んでみたい。その頃にはさらに面白く読めるようになってる気がする。

  • 16編からなる、小川洋子編による日本人作家の短編集。
    泉鏡花や井伏鱒二といった古い人たちから、川上弘美、岸本佐知子といった小川洋子と同世代の人たちまで、幅広く収録されている。
    どこがどう、と具体的には示せないのだけれど、どことなく「ああ、小川洋子さんらしいセレクトだな」と思わせてくれる。
    すでに知っている作品も結構あったが、初めて読む作者も数名おり、例えば魚住陽子などは他の作品もちょっと読んでみたいなぁと思わせてくれる。
    あくまでもオムニバスなので、このようなカタログ的な読み方でいいのだろうな、と思っている。

  • 小川洋子さんが編集した短編集第2弾です。
    こちらも面白かったです。
    初読も既読もあって、色々な色の短編が収められていました。
    中井英夫「牧神の春」、魚住陽子「雨の中で最初に濡れる」、小池真理子「流山寺」、武者小路実篤「空想」、日和聡子「行方」、岸本佐知子「ラプンツェル未遂事件」が特に心にひっかかりました。
    特に、始めて知った日和聡子さんの物語世界は圧倒されました。ちょっと硬質で不思議な空気です。
    武者小路さんと岸本さんは笑いました。武者小路さんのオチが秀逸で、わたしも涙します。
    こちらも各話の後に小川さんのエッセイがあるのですが、「五人の男」の後のものがとても可愛くて好きです。
    小川さんの新刊もいつも待っていますが、短編を選ばれるこのシリーズもまた出たら良いなぁと思います。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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