自生の夢 (河出文庫 と 8-1)

著者 :
  • 河出書房新社
3.79
  • (17)
  • (23)
  • (23)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 339
感想 : 32
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309417257

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 初読み作家さん。
    文庫本での登録になってるけど、単行本が出た時に買っていて、今の今まで積読にしていた。でもそれでよかったと思う。
    一応近未来SFにしたけれど、これも、そうなのかな、、と首を捻りたくなる。ここよりも発達した場所の話なのだけど、ここと果たして繋がりのある世界のことなのか。世界の合わせ鏡の行く末を見ているみたいな気持ちだった。

    【海の指】
    世界が灰洋におおわれ、その中で一度分解されてしまう。国も人種もなくなって、周りを灰洋に覆われた場所で時折やってくる〈海の指〉という津波のような、分解された物事が再生されて地表を蹂躙してさらっていく現象に脅かされながら、人々は生活していた。そんな世界で生きている一組の男女のお話。灰洋に昔捨てた夫が、再生されて帰ってくる描写、夫を捨てに行った場面、再生された夫にさらわれてあっけなく分解されてしまった女をもう一度形作り、再度灰洋へ夫を切り捨てた場面の凄み、とても短編と思えないくらいの濃度の高い話だった。
    【星窓 remixed version】
    少年の夏休みの予定(数年前から計画していた星々をめぐる旅行)を放り出して手に入れた«星窓»は、暗黒を映していた。その星窓を飾ってから世界の時間に自分がうまく乗れていない錯覚を感じる主人公。彼のもとに夜な夜な現れる(たまに夢にもやってくる)姉との酒盛り。不思議に揺れる。星窓の存在と、それが切り取った誕生の瞬間の伸び縮みの力が歪める僕の時間軸と、僕の影響を受けざる得ない星窓の関係が面白い。
    【#銀の匙】
    «Cassy»というネット(のようなもの)につながり内面からの一人称視点でひたすら筆記していく装置のはじまりと、その筆記者の引率を担うアリスの誕生の日の話。
    【曠野にて】
    生まれて間もなくから«Cassy»を操り、その才能を開花させた詩人は、その能力をさらに伸ばすための合宿に参加していた。他の年齢の上の子たちとは離れて、二つ年上の男の子と、ただひたすらの曠野に言葉を駆使して物語の空間とり遊びを始める。
    【自生の夢】
    ある日現れた«忌字禍»により世界中の«言葉»が朽ちていこうとしている瞬間、縋るように探し出したのは、無数の文字から抽出し、対話を重ね、その情報をまた合わせて、、、と気の遠くなるような作業で蘇らせた、稀代の作家、言葉で人を思うようにできたといわれる間宮潤堂だった。彼のこれまでの行いと、インタビュアーの対話はやがて実を結び、身を結びあげる。そして忌字禍との邂逅をもつ。そこで出会ったのは、忌字禍に最初に食われたアリス・ウォンだった。
    【野生の詩藻】
    アリスが創り上げた詩の獣が、彼女の詩をもって野に放たれた。それらを停止させるために立ち向かうのは彼女の兄と、彼女と曠野で幾度も遊んだ彼だった。
    【はるかな響き】
    骨の女がかなしみをはじめ、夫婦であった男女がピアノ料理を鏡に自己に潜り、それらを観測するわれわれがたどり着く恐ろしい結論が立ち上がり、そしてまたはじまりの骨の女の願いはやがてすべてに影響を及ぼす未来を創造させる。
    【ノート】
    あとがき?
    この物語の書かれた様子が唐突と話される。

    物凄く力強い、酔いそうな密度の文章が最初から最後まで続く。読み終わって本当に感動した。

  • 伊藤計劃氏から最近のSFにハマり、たどり着いた一冊。少し気を抜くとついていけなくなりそうな、自分の持つ想像力でぎりぎりで楽しめた。海の指、星窓は文章なのに景色の美しさを感じられたし、設定も最初は?だったけど読むほどにSFらしくて面白かった。後半の表題作含む"詩"をテーマとしたアリスウォンの話では、横文字に付いていきつつぎりぎり理解して読み進めた(受け止めきれなかったのが悔しいくらい!)。潤堂の能力は伊藤計劃氏の「虐殺器官」を思い出した。本でこれだけ感じられるものがあって誹謗中傷で人がしぬこの世を思えば、言葉で人を殺める人がいても全然フィクションじゃないなと思う。
    著者のほかの本もこれから読んでいきたい。もっと理解したい。

  • 圧倒されました。面白かったです。
    どれも良くて…大好きディストピアの「海の指」は〈灰洋〉に浮かぶ泡洲の、歴史的建造物がごちゃっと積み上がる風景を想像するだけでわくわくしました。画像検索しよう。
    DV旦那vs妻と今の夫とふたりの同僚たちとの戦いは壮絶。そして美しくも悲しい終わりでした。
    「自生の夢」が凄かった。〈忌字禍〉に対抗するために甦らせられた、言葉による殺人者「間宮潤堂」。〈忌字禍〉に殺されたようなものの詩人「アリス・ウォン」は忌字禍側についているけど、彼女が一番間宮を理解してた。もったいなかったね、と。
    圧倒されてうわぁと読んでいたけど、解説で間宮潤堂は伊藤計劃とされてて、なんだかじーんときてしまいました。
    帯にされている「あなたの言葉はそれくらい貴重だったんだよ」は最大の賛辞だなぁ。
    飛さんの作品、もっと読みたくなりました。

    思い返せば、テオ・ヤンセンのストランドビーストってあれか…動画はよく見てた……

  • 「海の指」
    津波。
    波動は音となって、古のものを波の中から引き寄せる。
    例え人であろうと憎悪であろうと、愛であろうと。
    自然現象は、人の想いなど関係なく襲い来る。
    人の思いがそれを増幅し、自然現象も最も思いの強い者の姿を借りて。

    「星窓」
    なぜか壮大な旅行計画を捨て、その空いたところに、もしかしたら別の未来だった、あるいは現実だったが時のうねり的なものに巻き取られて存在をないものにされていた姉に出会う。
    という感じなのか?
    星窓に心引かれて覗き混んで、最後にそこに現れたのは僕自信。
    それを見ているとき、またお前を見ているものがあるのだ、的な?
    猿の手って、SF掌編ありますよね(にやにや)
    お姉ちゃんの存在が、夏のソーダの泡のように甘くて弾けてて切なくて、夏休みという感じ。

    「#銀の匙」
    生まれたての赤ちゃんが、三行の挨拶をする。
    気持ちを代弁するシステム。
    これがあったから彼女はギフトを得たのか、もとからあったギフトをキャシーが露にしたのか。
    いずれ、銀の匙ーー祝福あれ、と。

    さて、海の指が結構気持ち悪かった記憶を刻んだまま、一年弱が経過した。
    ちょうど一年前に年末年始の休みにと購入した本。
    読み終えていなかったことを思い出して、続きを一気読み。
    SFには慣れていないので、細かいことは気にせず咀嚼する。
    「#銀の匙」から、後は連作短編となっており、実はここからがこの本の主題というか面白くなっていくところ。
    なれてないからしょうがないと言いつつ、のめり込み始めたのも、この話で天才女児アリスが誕生してから。
    キャシーを使って言葉を綴り続けるということは、日記というよりもより主観的だったり客観的だったりしながら、己も他人も同じ自称を前にして各々の視点から綴ることになる。それらを関連付けて網羅していくと、そこには現実を描き出したもうひとつの世界が生まれている。
    それはある意味、本のようでもある。
    たぶんきっと、そんな感じ。
    しかし、綴られ続けた言葉が暴発し、ネットワーク側から現実へと負荷をかけ、数多の人が犠牲となる事件が発生するーー忌字禍。
    まさにウイルスのごときパンデミック。
    事態を収拾するため、失われた天才少女と才を競って勝つことのできなかった少年と天才少女の兄が、30年前に死亡している言葉の天才であり言葉で人をあやめ続けた殺人鬼を電脳世界(という言い方が正しいのかはさておき)に甦らせる。これぞまさにワクチン。
    どんどんワクワクする展開になっていって、複雑ながらも一気に文字を追ってしまった。
    さて、この行為も見えない何かに記録されているのかもしれない。

  • 普通のSF短編集かと思っていたら実は微妙に連作になっていてなかなかの展開でした(実際にはバラバラに書かれたものを1冊にまとめる際に手を加えて繋がりを持たせたものもあるようですが)

    うっかり軽い気持ちで読み始めたらSF部分が私の脳みそにはちょっと難しくて時々気が遠くなりました(苦笑)まあ原理は理解できなくても読み進めることはできるし、めくるめくイマジネーションは十分堪能。

    やはり表題作の「自生の夢」が一番読み応えがあったかな。独立した短編として読み易いのは「海の指」と「星窓」あたり。

    ※収録
    海の指/星窓 remix version/♯銀の匙/曠野にて/自生の夢/野性の詩藻/はるかな響き

  • 連作で書かれた短編集かと思いきや、創作には長い経緯があることを作者ノートで知る。「海の指」映像感がダイナミックで引き込まれる、と思ったら漫画の原作として書かれたとのこと。「はるかな響き」スケールの巨大さが印象に残る。他の作品は連作として読んだ。とてもありそうな近未来。Cassyは近々現実になりそう。ひょっとして研究が相当進んでいるとか?

  • 飛浩隆10年ぶりの単行本が文庫化。
    読んでいてぞくぞくする本というのは余り無いが、本書は久しぶりにそういう感覚を味わった。新作、文庫待たずに買おうかな……。

  • 「自生の夢」(飛浩隆)を読んだ。
飛浩隆さんの作品読むのは「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」以来二冊目。
    
六つの短篇収録。
    
やっぱり飛浩隆さんの創造力(!)についていくのは容易じゃないな。
    
私の貧困な想像力では長い鼻に触れてあぁシワシワの太い蛇の様だなと思うのがせいぜいで全体を理解なんかできっこないのにこんなに面白いのはなんでだ。
    
「曠野にて」の中で克哉が選択したセンテンス
『鳴き砂の浜へ、硝視体をひろいにいこう。』(本文より)
を読んでニヤリとしてしまった。
「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」の書き出しのセンテンスだからね。
    
「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」では登場人物たちが受け止める激痛に立ち竦んでしまいそうになったもんだから「ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉」が積ndleのままだよ。
読まなくちゃ。

  • 飛浩隆「自生の夢」読了。一言、すごい作品群だった。気軽に手に取って読み始めたが、各話、奥深く異常な世界に引きづり込まれるように没入して読み耽った。なんだこれ?SF小説だからこその圧倒的な創造性をもつ文字列の凄さに驚愕した。映像では表現できないだろうな。特に表題作と「はるかな響き」。

  • カルチャーショックってこういうことだろうか…って読みながらずっとびっくりしていた。
    難しいけど読みきりたい、と辿り着いた解説を読んでさらに驚いた。これは文脈を読み取れる人ならより一層楽しい読書体験だろうなあと羨ましく悔しい。もっと本を読まねば。
    個人的には「海の指」の鮮烈さに圧倒され酔ってしまった。美しくて映像的。漫画も読みたい。

全32件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年島根県生まれ。島根大学卒。第1回三省堂SFストーリーコンテスト入選。『象られた力』で第26回日本SF大賞、『自生の夢』で第38回同賞を受賞。著書に『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』。

「2019年 『自生の夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

飛浩隆の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
劉 慈欣
テッド・チャン
ハーラン・エリス...
村田 沙耶香
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×