- Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309462219
作品紹介・あらすじ
「生産」を至上の価値とする社会に敢然と反旗を翻し、自らの「部屋」に小宇宙を築き上げた主人公デ・ゼッサント。渋沢龍彦が最も愛した翻訳が今甦る。
感想・レビュー・書評
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主人公のデ・ゼッサントは今風に言うと、デカダンというよりはむしろ引き蘢りの帝王といった趣きで(笑)金に明かして理想の住処を構築し、本と妄想に埋もれて余生を暮らすという、同じ引き蘢り体質の人間としては非常に羨ましい限りの環境。衒学的だなと思うのはデ・ゼッサントがというよりむしろ、彼の趣味はそのまま作者のユイスマンスの趣味だからでしょう。訳注だけで、本文の5分の1くらいはあるのじゃないかしら(苦笑)。なんにせよ、この主人公の引き蘢りデカダンっぷりは、どこかしら滑稽でもある反面、羨ましくもあったりする。100年たっても、人間の思考パターンって大差ないんだね…。
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デカダンスを夢み、襤褸とサロメと梅毒のかたまりになった者へ。
飢餓を喰い気が狂い、さかしまに取り憑かれた者へ。
斬首を望み、おどろおどろしいアウトローに嗤笑する者へ。
奈落の赤と黒を取り入れ、偶像への供物を貪る者へ。
この言葉を贈ろう。
「Salut!」 -
ウエルベックの「服従」の流れで読んでみた。
1884年の小説だけど、とにかく暗い。
いくらお金があっても、病気になるとネガティヴになる感じがリアルに書かれている。
そしてとにかく性格が悪い。金持ってるやつが性格悪いと最悪だっていうw
好きなのは
主人公のデ・ゼッサントが、歯医者が怖くてたまらないけど、引き下がれなくなって歯を抜く場面。(こわい!)
あと芸術作品をコレクションしているけど、その割に「最近の芸術は全部ダメ」とか思っているところ。「わかる、わかるよ!」と思った。
あとはまあ、この時代にベルエポックを準備してるわけだから、そこまで悲観的にならないで!って未来から -
再読。
衒学的な夢想には何度読んでも圧倒される。しかし、理想郷は永遠に続かない……。
作中では様々な芸術について言及があるが、一番凄いのは色彩感覚だと思う。割と悪趣味スレスレのところにあるが、妙に心に残る。それを『文章』で表現しているのはかなり凄い。
それにしても、こういう生活、いっぺんしてみたいもんだw -
反自然主義、反小説であり、デカダンスの聖書と呼ばれ、ワイルドやブルトンに影響を与えたらしい。人工的な楽園に閉じこもり高度に洗練された収集物を前に奔放な想像力は時間や地理上の制約を受けることなく旅をする。想像力の前では現実は無力であり虚しい幻想である。没落する貴族になりかわり台頭してきたブルジョワへの痛烈な皮肉、カトリシズムの堕落と古き良き中世への憧れが強く感じられた。
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退廃的、厭世的。自分で作り上げた孤独の世界。薄暗さの中に翳った金属や宝石などの鈍い輝きが見えてくるような描写だった。
文学的な知識はなかったのでよくわからないところは多かったが、ルドンやギュスターブ・モローなどの画家の作品は知っていたので、その部分は世界観が映像でイメージできた。
亀の話は嫌な記憶として残りそう。なんとも不思議な読後感。 -
読了までかなり時間がかかりましたが、やっと読み切ることができました。デカダンスの聖書とまで称される本書は暗鬱に燦然と輝く人工楽園。一寸の隙もない緻密で偏執的とも言える過剰な文章は、読み始めはなかなかついていけませんでしたが、途中から主人公デ・ゼッサントが必死に築き上げようとする「小宇宙」を一緒に眺めるような気持ちで読み通すことができました。「さかしま」は煌びやかな魔術的書物、神秘的な暗黒世界、デ・ゼッサントの病める精神そのもの。翻訳者である澁澤龍彦氏によれば、凝りに凝った原文の難解さ、辞書にも見当たらない奇異な単語の頻出、ラテン文学や神学関係の参考資料の乏しさ等により、かなり悪戦苦闘したそう。ユイスマンスの他の作品も気になります。
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引きこもり貴族が世界中から宝石とか花とか香水を買い漁って部屋にぶち撒けて遊ぶ、スーパーこどおじ小説。
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覚悟して読み始めたが、思いの外読みやすく、スッと入ってくるものがあった。(実情は作品真意の3割程度しか解釈できていないものだろうと思うが、理解できた範囲で感想を書く)
ストーリーは、主人公の
社会に対する絶望
↓
厭世的生活(美と頽廃の「人工の小宇宙の創造」。宝石を埋め込んだ亀、口中オルガンなど)
↓
病魔
↓
大衆社会への帰還
(ブルジョア社会•功利主義•芸術鑑賞の通俗化•宗教の商業化)
芸術、信仰、知性による救済の滅亡
↓
絶望
の流れを描いている。
一連の流れを通じて、現実を直視する当時のヨーロッパ的自然主義に一石を投じ、芸術、女、悪魔、神を崇める反自然主義を唱えた稀有な作品である。
科学万能主義とブルジョア道徳の19世紀にあって、中世紀特有の神秘的象徴主義を作品全体に再現したと言う点で秀逸。
教育は可能性を提示するものではなく、絶望を示すものである。無益な生殖による生存競争の辛辣さ。など、最近考えてる事がまさしく言語化されていて、やはり自分は、ゼッサントのようにどこか捻くれた頽廃的な人間なのかもしれない、と思った。
とはいえ彼も、聖職崇拝に想いを寄せたり、特殊でありつつも芸術に対する高い関心を示していたりと、何かに縋り、無意識のうちに自分を捉えるこの世にある嘔吐すべき事実から救われたいと願っていたに違いない。
それでいて、これらの救済措置がブルジョアによる功利主義によって完全に断たれた時、そこに絶望しかないのは当然だ。。
「信じようと欲して信じられない信仰者」を憐れみたまえ!
「たった1人で、夜の中に舟出していく人生の罪囚」を憐れみたまえ!
社会を批判し、ひねくれてるように見えても、実は誰よりも社会と繋がって、救われたいと願ったのがゼッサントだったのかもしれない。
•あらゆる不幸には、一種の曖昧な補償作用があって、不幸の均衡を取り戻している。(人生における幸不幸の総量→=?)
•魂は思案する時、己を苦しめるもの以外には何も見ようとしない。(自分を優しく見つめるものの存在を無視してしまう)