トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463490

作品紹介・あらすじ

ぼくは人生を愛している。これはいわば告白だ-陽気で生き生きとした普通の人たちに憧れる、孤独で瞑想的な少年だったトーニオは、過去と別れ、芸術家として名を成した。そして十三年ぶりに故郷を訪れる旅に出る…二十世紀文学の巨匠マンの自画像にして、不滅の青春小説。後期の代表的短編「マーリオと魔術師」を同時収録。

感想・レビュー・書評

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  • とてもよかった。

    まずは、表題作『トーニオ・クレーガー』から。
    繊細で、感傷的で、扱いにくいこの感情を、何と呼ぼう。
    しかしその危うい心を、柔らかに緩やかに収束させるラストに、ほっとさせられる。

    「つまり、いまそこに座っているあなたはね、なんのことはない、要するに〈普通の人〉だってこと」

    トーニオが言われたこの言葉に、ショックを受けない少年少女が果たしているだろうか!
    そう、トーニオも迷子なのだ。私と同じように。彼もまた、〈迷子になった普通の人〉なのだ。

    そんなトーニオは、ささやかな故郷への旅に出る。そしてそれは、小さな決別と、大きな決意の旅となる。

    「危険をものともせず、偉大でデモーニッシュな美の道を行き、〈人間〉を見下す誇り高い冷静な人々にぼくは敬意を払っている――。でも、羨ましいとは思わない。なぜなら、もし物書きを作家にできるものがあるとすれば、それこそが、普通の人であるぼくの愛――人間的なもの、生き生きとして、平凡なものに寄せる愛なのだから」

    物語のラストで告げられるトーニオの決意は、まるで静かな祈りのようだ。


    『マーリオと魔術師』も、とてもよかった。
    悪魔的な人物の気味の悪さとその魅力を、じわじわと見事に描いた佳作。
    美しくて悪魔的な人物、というのはそう珍しくない。しかし、醜悪で、くたびれていて、不機嫌そうな悪魔的人物というと、これは難しい。
    しかし、この作品はそれをとてもよく描いていて、面白かった。その人物が登場するまでが単調に思えてしまうものの、それからの筆の乗り具合が素晴らしい。雰囲気に飲まれる一品。

  • 「トーニオ・クレーガー」、深く心に残る。
    芸術と生について、
    主人公が抱えている葛藤、美意識、憧れと卑下、渇望、迷い、
    そういうものを取り込んで、向かう人生。
    とてもパーソナルな、それでいて普遍的な、傑作。

  • 構成がとても美しかった。些細な表現もリフレインされ、本当によく作り込まれている…。妥協がない作品。
    トーニオが社会とのあいだで自分自身を見つめ、壊し、再構築していく過程に、彼の真摯さと希望を感じた。

  • うーむ、やはり病み上がりの状態にはフィットしなかったのかなぁ、、、好意的評価に満ちておりますが、あんまりピンと来なかった、正直に申し上げまして。
    海外モノによく見受けられるのですが、文章のグルーブ感が決定的に欠けていて、引き込まれて行かないんですよね。もう少し体調が良くって、落ち着いた環境で読めばその感想も変わってくるのかもしれないでけれども。
    あと、前評判が高かったので、微妙な受け止め方のズレが最終的に大きくなってしまったのかも。
    別の機会に改めて再読ですかね、本作は。

  • 訳:平野卿子、原書名:Tonio Kröger/Mario und der Zauberer(Man,Thomas)
    トーニオ・クレーガー◆マーリオと魔術師

  • 機会があって少し触れたところ、想像以上の面白さに一気にすべて読み切ってしまった。繰り返し読みたいと感じさせる作品で、今後愛読書になりそうである。
    「マーリオと魔術師」についてもその巧みな描写力に圧倒され、まるで自分もその場で催眠術にかかっているかのように空気にのまれながら、マーリオの登場と結末に向かうピンと張り詰めた空気に触れさせられたが、何よりも「トーニオ・クレーガー」が秀逸だった。言葉によるソナタと言う表現は的確で、完璧に構築された全体のなかでモチーフが美しく用いられ、心に迫った。貴重な作品である。
    この作品から我々が受け取るものは数多くあるだろうが、その中で「若きウェルテルの悩み」と通じるものが挙げられているのは非常に妥当だと感じる。この作品が「若きウェルテルの悩み」であり、また「人間失格」であると私には感じられた。
    文学に通ずる人からは批判されてしまうかもしれないが、おそらく当時の若者が「新世紀エヴァンゲリオン」を通して碇シンジから受け取ったものも、これと同種のものであったのだと私は考える。そしてまた、そのような受容の仕方が現代の世代(ハルヒ以降)の事後的なエヴァンゲリオンの受容の中には見られず、単純に碇シンジを軟弱な他者、旧エヴァを難解で未完成の作品ととらえる動きの中に、作品と人間の関係性について考えるべき問題点が潜んでいるように思われてならない。

  • ブックオフ練馬高野台、¥350.

  • トニオ・クレエゲルの新訳ということで興味を持ち読んだ。混乱を招きやすい箇所はなるほどあからさまに書かれており理解しやすい。表題作も素晴らしいが、同時収録作品が強く印象に残る。想像以上に挿絵が多かった。

  • 『芸術』と『生活』の対立に悩む主人公を描いた青春小説。
     
     多感な青春時代に読んでいれば、あるいは何かの影響を受けたかもしれないけれど。
     三十路手前の今となってはすでに手遅れという感もあり。

     もっとも青春とは心の若さという説もある。
     思い悩むだけの情熱がまだ残っているかどうか、試してみるのも一興だろうか。

  • 表題作は、これこそ今の自分にぴったりだと思った作品。大学生の頃に読めてよかった。
    中島敦と同じような悩み方だと感じたが、これはドイツ人と日本人の気質が似ていると言われているのと何か関係があるのだろうか。

    「マーリオと魔術師」はやや古めかしい感じも受けたが、政治と文学についても考えさせられた。今の日本においても、読まれる価値はあると思う。

    内容もそうだが、挿絵も素敵で、手元に置いておきたい一冊です。

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著者プロフィール

【著者】トーマス・マン(Thomas Mann)1875年6月6日北ドイツのリューベクに生まれる。1894年ミュンヒェンに移り、1933年まで定住。1929年にはノーベル文学賞を授けられる。1933年国外講演旅行に出たまま帰国せず、スイスのチューリヒに居を構える。1936年亡命を宣言するとともに国籍を剥奪されたマンは38年アメリカに移る。戦後はふたたびヨーロッパ旅行を試みたが、1952年ふたたびチューリヒ近郊に定住、55年8月12日同地の病院で死去する。

「2016年 『トーマス・マン日記 1918-1921』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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