ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463810

作品紹介・あらすじ

世界文学を代表する巨匠にして、小説読みの達人ナボコフによるヨーロッパ文学講義録。なにより細部にこだわり、未踏の新しい世界として小説を読み解いてゆく。上巻は、フロベール『ボヴァリー夫人』ほか、オースティン、ディケンズ作品の三講義に加え、名評論「良き読者と良き作家」を所収。

感想・レビュー・書評

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  • 『ボヴァリー夫人』読書会に向けて、編者バワーズの前書き、アップダイクの序文、評論「良き読者と良き作家」、フロベールの章のみ読んだ。ナボコフの講義ノートをつぎはぎして形にしてくれたバワーズさんありがとう。そしてアップダイクの序文を読むかぎり、ナボコフは情熱的かつ真面目な教師だったようだ。「付録」の試験問題のサンプルを見ると、きちんと授業に参加して課題図書も読み込まないと合格しなさそう。

    ナボコフは「そこに書いてあることを全部きっちり読め、一回じゃ無理だから何度も読め」派の人だ。ナボコフが他の人が書いた小説を読むとき、当然ながらナボコフもテキストを精読するのがおもしろかった。そして自分は別にナボコフに「『青白い焔』は、『賜物』はこう読みなさい」と指導されたわけではないのに、どこでナボコフ式の読み方があると知ったのだろう。すぐれた小説は、その読み方も教えてくれるのだろうか。

    他に扱っているのは、上巻ではオースティン『マンスフィールド荘園』、ディケンズ『荒涼館』、下巻ではスティーヴンソン「ジキル博士とハイド氏」、プルースト『スワン家のほうへ』、カフカ「変身」、ジョイス『ユリシーズ』。

  • ナボコフがアメリカの大学で講師をしていた頃の講義をまとめたありがたい1冊(いや2冊)。読む前に、講義の題材になってる作品を先に読んでからこれを読むべきか、それともこれを読んで興味を深めてから作品に取り組もうか迷ったのですが、結局後者を選択。以前『罪と罰を読まない』を読んでから『罪と罰』を読んだら断然面白かったので、予備知識をたくさん入れておけば、ハードル高めの長編にもいつかチャレンジできるかなと。

    まずはジェイン・オースティン『マンスフィールド荘園』。私自身はジェイン・オースティンは『高慢と偏見』しか読んでいませんがこれが最高に面白かったので、ナボコフもきっとジェインが大好きで選んだのだろうと思っていたところ、まさかの「わたくしはジェインが嫌いです」宣言!こちらジョン・アプダイクの序文によるとコーネル大学の先輩教授エドマンド・ウィルソン宛ての手紙に書かれているのですが、「実を申せば、女流作家なるものすべてに偏見があるのです。彼女たちは全然別の種族です。『自負と偏見』のなかに、なにも読みとることができませんでした。」と続いてます。しかしそんなナボコフにエドマンド・ウィルソンは『マンスフィールド荘園』をお勧めしてくれて、どうやらナボコフもこちらは気に入った様子(世間の評価とはたぶん真逆ですね)。

    ナボコフ先生は、物語の構造を読み解くために結構くわしく粗筋を説明してくれるので、未読の私にも大変わかりやすかったですが、基本的に結末を盛大にネタバレしてしまうので、結末を知りたくない方は要注意。私はちょっと「自分で読む手間が省けた」と思ってしまいました(ダメな生徒)。続くディケンズの『荒涼館』も同じく、複雑な人間関係や事件の経過をきちんと整理して読み解いてくれるため、すっかり自力で読み終えた気分になれます。もう本編読まなくていいかも(先生ごめんなさい)

    唯一既読のはずのフロベール『ボヴァリー夫人』は、しかしあまりに昔のことですっかり内容を忘れていたのでこちらも再読の手間が省けました。ナボコフ先生は、作中に登場する地名を地図にしてくれたり、屋敷の間取り図まで書いてくれるので大変親切。とまあ、読まなくても知った気にはなれるものの、自力で読んでからナボコフ先生の分析を読めばさらに目からウロコということもあるかと思うので、やっぱりいつかちゃんと全部読んでみようと思い直したりもしつつ、ただ個別の作品分析だけでなく、普遍的な文学に対する姿勢や読書の方法論など、ためになる部分は沢山ありました。以下私がノートを取った部分です。


    〇「物語の形式」というのは「構造」と「文体」のこと
    ・構造:小説の構成、事件が次から次へとつながって起こる発展の仕方、一つの主題から別の主題へと推移する仕組、人物を登場させ、新しくこみ入った筋をはじめ、さまざまな主題をつなげたり、それを利用して、小説をおしすすめる、そういう巧妙な手段。
    ・文体:作家の流儀、彼独特の抑揚、彼の語彙、ある文章に直面したとき、これはオースティンのものであって、ディケンズのものではないと、読者に叫ばせるような何ものか。
     文体は道具ではない、方法でもない、ただに言葉の選択だけのことでもない。それ以上のものであって、作者の個性に固有な要素ないし特質を生み出すのは、文体なのである。

    〇読者が作家に求める三つの視点
    (1)物語の語り手:娯楽、もっとも素朴な精神的興奮を、なんらかの感動にあやかることを、時間的空間的にどこか遠くの世界に旅する喜びを求める。
    (2)教師:宣伝者、道徳家、予言者。道徳的教育のみにとどまらず、じかの知識、単純な事実でもある。
    (3)魔法:偉大な作家はつねに偉大な魔法使いである。わたしたちが本当に感動的なものと出会えるのは、ここだ。そこではじめて、われわれは彼の天才が織りなす独自の魔法をとらえ、彼の小説や詩の文体、イメージ、様式を研究しようと努めるのである。

    〇小説中における作家の代弁者の三つの型
    (1)第一人称で語るかぎり、語り手は物語の大文字の「わたし」であり、物語を動かす軸である。語り手は、
      ・作者自身
      ・一人称の主人公
      ・作家が一人の作者をこしらえて彼の語りを引用する
      ・小説における第三人称人物の一人が、いっとき臨時の語り手となる 等のパターンがある
    (2)作者の代弁者の一つの型=物語の動かし手(語り手と同一のこともある)
    (3)作者が読者に訪れてもらいたいと思っている場所を訪れ、作者が読者に会ってほしいと思っている人物たちに会う「かたつむり」(※ナボコフが名付けた)


    ※収録
    編者フレッドソン・バワーズによる前書き/ジョン・アプダイクによる序文
    良き読者と良き作家
    ジェイン・オースティン『マンスフィールド荘園』
    チャールズ・ディケンズ『荒涼館』
    ギュスターヴ・フロベール『ボヴァリー夫人』
    解説:池澤夏樹

  • 読書猿さんの記事を読んで、この本を読んでみたくなった。これは・・・すごい本で、文学をもっと深く楽しみたい人は必読だ。ナボコフ先生に、文学の面白さを教えてもらえる。巻末のテスト問題に挑戦したくなる。

    「文学の構造の謎を一種探偵小説的に探索するものである。」

  • 本書を読んでからディケンズを読もう。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 2013-1-12

  • 「文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年がすぐ後ろを一匹の大きな灰色の狼に追われて、ネアンデルタールの谷間から飛び出してきた日に生まれたのではない。文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年が走ってきたが、その後ろには狼なんかいなかったという、その日に生まれたのである」

    とりあえず上巻。「ロリータ」で有名になる前のナボコフ先生が大学で文学を教えていた時の講義録。上巻は、オースティン、ディケンズ、フロベール(下巻はスティーヴンソン、カフカ、プルースト、ジョイスとのこと)。
    文学はフィクションであるというその一点を徹底的に突き詰めて、文体の奥の奥まで読み込んでいく。そこまで読み込むか、というレベルまでの読み込みで、ちょっと真似できない。

  • 2015/2/26購入

  • 二流の読者というものは、自分と同じ考えが心地よい衣装をまとって変装しているのを見て、快く思うものだからである。

  • 本作を読んでいないときつい。

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著者プロフィール

1899年ペテルブルク生まれ。ベルリン亡命後、1940年アメリカに移住し、英語による執筆を始める。55年『ロリータ』が世界的ベストセラー。ほかに『賜物』(52)、『アーダ』(69)など。77年没。。

「2022年 『ディフェンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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