解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)

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制作 : 矢野 真千子 
  • 河出書房新社 (2013年8月6日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463896

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 18世紀イギリスの外科医療に携わるジョン・ハンターは大工出身だと。夜な夜な墓泥棒から死体を手に入れ、解剖にいそしみ、さらには博物学の知識ももち、自宅に様々なコレクションを有しているというからドリトル先生のモデルだといわれ、その家はジキル博士とハイド氏もモデルになったといわれるのもなるほど納得。

    医療が宗教と密接に結びついていた当時、宗教観を覆すような意見を発表し、医療を科学に押し上げたジョン・ハンターは相当な変わり者だったようだ。梅毒患者の膿をつけたメスで自分のペニスにキズをつけて経過観察した記録も残っているというから、推して知るべし(対象が本人かどうかは記述が無いそうだが、状況から推理してまあ本人だろうという見解だそうだ)。
    それにしても麻酔もない時代の外科手術は、かなりおぞましかっただろう。

    こんな数奇な人物の物語は、医療や進化論などにも精通していたと思われる手塚治虫によってマンガ化されたらどんなに面白いだろうか、思わず想像してしまう。

    ジョン・ハンターのコレクションを見ることができる博物館:ハンテリアン博物館

    その他関連施設:
    ジョンソン博士の家
    オールド・オペレーティングシアター博物館
    クリンク博物館

  • 皆川博子のバートンズシリーズが面白かったので読んでる。不衛生(細菌の知識なし)かつ麻酔なしの切開とか読んでてリアルSAN値ががが…な部分もありますが、18世紀末のロンドンの狂気的な空気感や、科学博物学医学辺りがまだごっちゃになってる今では想像も付かない知識体系の中で、分野を超えて拡がる主人公を代表する当時の人々の知的探求心が面白い。あと作者めっちゃハンターのこと好きやんなあと思う。

  • 労作であることがよくわかる。じっくり読まないと申し訳ない気になるくらい。
    単に偉業をたたえるだけでなくて、ジョン・ハンターのエキセントリックさもきっちり伝えている所がいいよね。この人、相当な変人だなあ。

    山形さんの解説も考えさせられる。なるほど。

  • 2015/5/27購入

  • 冒頭にある出産直前の子宮内の胎児の描写が写真のようで思わず凝視した。人でも動物でも解剖しまくって、標本を作りまくった人の話。当時の外科治療方法や解剖用の死体の調達法などが興味深く普通に面白かった。

  • 「奇人」なんて枠じゃ収まりきらないほどの怪人っぷり。

  • 貧乏人からは金を取らず、金持ちからはふんだくる。類希なる手術の腕を持つ男でありながらうさん臭さもある、こう書くとまるでブラックジャックだが、愛嬌があり弟子には慕われ、しかし怒りっぽいとかなり人間臭い人でもある。

    1748年二十歳のジョン・ハンターは2ヶ月ほど大工仕事をし手先が器用ですぐに玄人並みの腕を身につけたが仕事場がつぶれたのをきっかけに既に医者として成功している10才年上の兄ウィリアムを頼りロンドンに出てくることにした。ちょうどウィリアムも開設したばかりの解剖教室が好評で信頼できる助手を必要としていた。初めてメスを握ったジョンだったが兄の指示に従い死体の解剖を兄が期待する以上の水準で発揮した。

    とは言え助手としてのハンターの主な仕事は解剖実習で使うための死体集めだった。解剖教室では人体の標本を見て学習するだけではなく実際の解剖があってこそ生徒が集まる。ウィリアムがライバル視していたのは故郷スコットランドのエジンバラ大学でウィリアムの師であったモンロー教授の元にはヨーロッパ中から学生が集まっていた。しかしエジンバラのような田舎ではそうそう死体は集まらない。しかしロンドンでは闇ルートを使えば集めることができ、ウィリアムの教室の評判が高まるにつれ必要な死体も増えていく。ウィリアムは上流階級のつきあいに忙しく、その点でがさつで、口が悪く質素な身なりのジョンはロンドン暗黒街になじみやすいように思えた。当時はまだ医学のための献体と言う考えは無く検死もほとんど行われていない。死体集めで真っ先に考えるのは絞首刑の公開処刑の場で完全に見物としてお祭り騒ぎになっていた。そして刑が執行されるやいなや外科医とその仲間や受刑者の関係者が集まりまだ息がある受刑者の足を引っ張り死体争奪戦が始まる。そこまで含めて見物になってるというまあ無茶苦茶な世界だ。後の話でも時々出てくるのだが呼吸は止まっても解剖しようとしたら生き返ったケースもあるという。ジョンがこの仕事を始めた頃から死体泥棒は大きな産業になっていった。

    当時のジョンの生活は明るくなるとともに解剖実習と講義の下準備をし、標本を作り、夕方から2時間ウィリアムの講義に参加する。ウィリアムの講義は素晴らしく1777年にはアダム・スミスとローマ帝国衰亡史のエドワード・ギボンも参加している。そして夜は墓場漁りをするか荷受け場で死体を待つ。半年後には解剖に関しては既にウィリアムが教えることはなくなっていた。当時ジョンが作製した標本は今でも残っている。夏は死体解剖の季節ではない。暖かくなったころにウィリアムはジョンをチェルシー王立病院の外科医チェゼルデンに弟子入りさせた。当時外科医になる正式なルートは14〜5で外科医に多額の謝礼をつんで奉公し7年ほど修行をしてからやっと解剖学の勉強に取りかかる。あるいは軍医を多く必要とした軍に入り何の経験も無く兵士や船員相手に好き放題やった後復員後は一般人を相手にする。当時の外科医組合の試験は解剖学や外科手術の経験は問われず、奉公期間の終了とラテン語知識の口頭試験だけで資格が取れ、復員後なら奉公していなくてもこの試験が受けられた。

    だいたい当時の外科医はまだまともな医者とは認められていない。医者はすなわち内科医であり、外科医の主な仕事である瀉血は床屋がやっていた。今も床屋の前でくるくる回る赤青白のサインポールは一説によると動脈、静脈、包帯を表す床屋外科医の名残だそうだ。近代的な外科の多くはジョンの実績が元になっている。ジョンが師事したチェゼルデンは優秀な外科医でその仕事に対する取り組み方は以後のジョンに大きく影響を与えている。他の外科医は昔のやり方を守ることそして新たな挑戦を戒めるのに対し、チェゼルデンは何より観察と実験を重んじ、成功する見込みのない手術を避け、解剖を熱心に勉強した。ジョンはさらに読み書きが不得意なこともあり書物から得られる過去の知見にはとらわれることが無く自分の頭で考えることを重視している。後にジョンが解剖学を教えた際にはノートを取ることすら禁じているし、自分が語った過去の講義の内容すら古くなった知識と切り捨てている。

    ジョンはメスの技術を除けば天才肌という感じではない。ただひたすら観察を続けそこから合理的に得られる結論を導きだしているのだが、今なら当たり前のようなことでも当時は画期的なことが多かった。発生学の研究では鶏やヤギの胚を時間をかけて解剖して観察し、当時信じられていた最初から卵の中にある小さな胎児が成長する前成説が誤りであることを示した。細菌がまだ発見されていなかった当時は外傷が原因の感染症が大きな死因であり手術そのものが命に関わる者だった。当時の軍隊で撃たれた兵士は傷口を大きく開いて玉を取り出していたがジョンは観察の結果何もせず自然治癒に任せた方がいいという結果に到達し実証した。傷口の消毒が発見されるのはまだ100年ほど先のことだ。患者群を二つに分け二種類の治療を比較する対象試験を既に取り入れている。人体実験には自分の体も使っている。淋病患者の膿みを自分の性器になすり付けて感染させたのだ。後に書いた性病全書はその後数十年性病治療の基本となった。

    ジョンの幅広い研究分野には以下の様なものもある。
    進化論 ダーウィンより前に進化論にたどり着いていた。猿、アフリカ人、ヨーロパ人の骨格標本を並べアダムとイブは黒人だったと述べた。魚とほ乳類はおろか植物や無生物まで含め形を比べたり分類学者のリンネとも交流していて動物間の交配ができるかどうかから祖先が同じかどうかを推論している。ダーウィンはビーグル号から戻った後化石をジョンが作った博物館に寄贈しその後も通いつめていた。
    博物学 クック船長と交流し新大陸から新しい動物を取り寄せては解剖し新しい種かどうかを調べている。カンガルーやクジラを解剖しクジラはほ乳類だと示している。奇形や巨人症の死体も集めている。マンモスの化石を見て象とは別の種類だと判断した。ハンターが集めた様々な動物の剥製や骨格標本は現在ハンテリアン博物館として残っている。
    獣医学 動物好きで自宅にヒョウも飼っていた。そして何でも解剖した(例えばカイコの脳なども)が生きた動物をむやみに解剖することには反対だった。ついでに魚に聴覚があることを主張したりもしている。
    地質学 世界は神が6日間で作ったとは信じず波による数十万年にわたる浸食が地形を作ったとの論文を書いたが当時の聖書の教えでは天地創造から数千年しか経っていないことになっていたので教会の教えに反対する内容だった。
    歯科治療 当時抜歯は床屋がやっていた。新大陸の発見の成果で砂糖の消費とともに虫歯が増えていた。ハンターは司会に助言し抜歯後の金や鉛の詰め物、歯石除去、歯磨きや歯肉炎の治療を提言している。
    移植 鶏の睾丸を別の鶏の腹に埋め込み後で解剖して血管が新生していることを確認した。免疫の知識は当時はまだなかったが偶々同系交配だった様だ。他にも人間の歯を鶏のとさかに埋め込んだり、ロバの額に牛の角を移植したりも試している。
    蘇生術 死体をすぐに氷温にしてあとで蘇生するかを試したがこれはうまく行かなかった。
    帝王切開 当時は名前だけが残っていた帝王切開手術を行った。

    ただ観察を続けただけでこれだけの結果にたどり着いたのだからすごい。その割に業績が知られていないのは義弟がハンターに腕を買われていないことをねたみハンターの論文を独り占めにし自分の者として発表して後に焼き捨ててしまったからというのもある。しかしハンターの優秀な弟子達は外科医と言う職業を尊敬される地位に引き上げ科学的な手法をイギリスとアメリカで拡げた。弟子のひとりには種痘を発見したエドワード・ジェンナーもいる。ハンターの生活の一部はドリトル先生のモデルとなり、裏では動物の死体を運び込む怪しい家はジキルとハイドの住む家のモデルになった。本書の原題はThe Knife Manしかしメスの腕よりも考え方の方が切れ味が鋭いようにも思える。

  • いいよ、と言われつつもなんだかイロモノっぽくて読む気になれなかった、奇人近代医学の父の話。読みだしたらこれが私好みで、確かに変人で実際に身近にいたらドン引きだろうけれども、解剖はしなくても別のところでこういう奇人て割といるのじゃなかろうか。と、思ったらもう、この人柄にほれ込んでしまったと言っていい。「自分の頭で考えよ」、これは私の人生の指針でもあるので、とてつもなく身近に捉えてしまい、本当に、読み終わるのが悲しかったくらい。

  • 読み始めは(今の眼で見れば)残酷なシーンの連続でぞっとしたが、読み進めるうち、ジョン・ハンターという人物に魅了される。
    確かに死体を泥棒して解剖したり、動物を生きたまま解剖したり、貧しい子どもの歯をぬいて金持ちの歯茎に植え込んだりしていて、現代の倫理観からすれば許されないことだが、当時は仕方なかったわけだし、何よりジョン・ハンターは私利私欲のためにそれをしたのではない。
    ジョン・ハンターは奇人・変人だが変態ではない。あまりに強い好奇心と探求心が彼を動かしたのだ。
    こういう天才がいて、医学が進歩したのだから、殺された動物や、解剖された人間に感謝し、冥福を祈る。
    それまでの瀉血や催吐といった何の根拠もないどころか体に害のある治療が、彼によって大きく変わったのだから。
    それにしても、現代に彼のような天才が生まれても、学校の勉強についていけないのだから、学者や医者にはなれないわけだよね。
    そういう人たちの才能を生かす道を社会が用意してやるべきだと思う。
    あとは、麻酔と消毒のある時代に生まれてこれたことを、深く感謝。
    私には、麻酔なしの手術は、無理。

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