居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464152

感想・レビュー・書評

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  • 海外の変な話を集めさせたら右に出る者はいない岸本さんの、安定の不条理短編集。
    どの話も、明け方に見る脈絡のない悪夢みたいで、うっすら不安になる。よくこんな話思いつくよなあ。

    ずっと意味不明なのに、へべとジャリのような人間関係を経験したことがあるような気がして、より気持ち悪さが募る『へべはジャリを殺す』、
    ちょっぴりゴシック調な美しい不穏さが印象的な『あざ』、
    違和感のある入社オリエンテーションが当たり前のように続く『オリエンテーション』、
    何か起きそうな予感が、なぜか読み終わった後も消えない『潜水夫』が特に好き。

    • ロッキーさん
      111108さん
      いつもレビュー読んでいただきありがとうございます!
      岸本さんがあとがきで「読みおわったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に...
      111108さん
      いつもレビュー読んでいただきありがとうございます!
      岸本さんがあとがきで「読みおわったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、なんだか落ちつかない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説」と書いてるんですが、まさにそんなお話ばっかりの短編集です。
      もし読まれたら、111108さんの推し短編教えてくださいね!
      2023/02/04
    • 111108さん
      ロッキーさん

      こちらこそいつもおじゃましてすみません(๑˃̵ᴗ˂̵)
      岸本さんの『変愛小説集』なども、すごく面白かったのとちょっとよくわか...
      ロッキーさん

      こちらこそいつもおじゃましてすみません(๑˃̵ᴗ˂̵)
      岸本さんの『変愛小説集』なども、すごく面白かったのとちょっとよくわからないのと二つに分かれたので、こちらも読んでジャッジ(何を?)したいと思います♪
      2023/02/04
    • ロッキーさん
      111108さん

      『変愛小説集』とってもいいですよね!
      この本は、よくわからない方の作品多めですが、ぜひジャッジしてみてください笑
      111108さん

      『変愛小説集』とってもいいですよね!
      この本は、よくわからない方の作品多めですが、ぜひジャッジしてみてください笑
      2023/02/04
  •  ジャンルに分類できない「居心地の悪さ」のある小説をテーマに編まれた12の短編からなるアンソロジー。岸本佐知子さんの編訳ということで購入。

     そうそう、そういえばそうだった。そういえば小説は、こういうやり方が許される媒体だった。わずか10ページ前後の一つ一つの作品を読むたびにそんなことを思い出す。
     説明も無しに投げ込まれる感覚が生み出す不安。そして作家によって変幻自在に変わる構成や自由な文体。正統派の幻想小説もあれば対話体の小説があり、トリビア本のパロディなんてものもある。

     翻って自分の書くものは無理な整理がされすぎてはいないか。アンソロジーなんてものを読んだのが久々だったからだろうか、自分の中でいつの間にか生じていた小説に対する“凝り”のようなものがいくらかほぐれた気がして少し楽になった。
     書くことについて道に迷ったときに選集を読むのはありかもしれない。

     内容に関しては、ルイス・アルベルト・ウレアの「チャメトラ」、ルイス・ロビンソンの「潜水夫」、ケン・カルファスの「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」あたりが特に良かった。

    「チャメトラ」は銃で撃たれた兵士の頭から“夢”が流れ出てくるというシュールで悪夢的なビジョンが色彩豊かに描かれた作品であり、収録された作品の中でも最も幻想小説的だった。
    「潜水夫」はサスペンス風だがそこに夫婦間の不安なども混ざってきて面白い。世話にはなったが嫌いな人間が遠ざけておきたいのに妙に馴れ馴れしく、妻もそれを歓迎しようとするので離れられないという状況は嫌なリアリティがある。
    「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」は1打席に56本のファウルを打った男や、年間121個のセーフティバントを成功させて誰からも嫌われた男など、架空の出来事を描いた作品なのだが、その“居心地の悪さ”は本物であり、実に野球的。

     自分にはピンとこない作品もあったが、それもアンソロジーらしさだろう。
     こんどはそう来たか、という楽しみが味わえる良い一冊だった。


  • なんとも言えない読み心地の短編が12編収録されている。
    不思議だったり変だったり、意味がわからず不可解だったり。時にはユーモラスだけどゾッとするような、一筋縄ではいかない話ばかり。
    「チャメトラ」「分身」「オリエンテーション」「ささやき」が特にツボ。
    オチも説明もなくすっきりしない読後感だけれど、それがかえって印象に残った。

  • 居心地が良い本だった

    当たり前と信じていたものを失い
    苦しかった時期、
    何時間も新幹線に乗っていて
    このままどこにも着かずに乗り続けたいと
    心底、心底願ったことがある

    それを叶えてくれる一冊だった

    なんで?の追求を諦めて
    受け入れるでもなく
    ただ一緒に居座る
    それは、なんのためにもならないかも
    しれないのに、ただ読み進めて完了させる

    繊細だとか、ポジティブだとか、不安だとか、
    孤独だとか、理想だとか、
    そうじゃなくて
    そうじゃなくって
    愛なんだよ
    わからなくてもいい
    ただ私に愛させろ

  • まさにタイトルと表紙の通りの感覚。奇妙な内容と切り捨ててしまえばそれまでだが、どうも日常の何かとリンクするのでは、という底知れぬ不安感が全体を覆っていて、引きずられる。

  • タイトル通り。怖いというより、「居心地が悪い」。読んでいてなんとなく落ち着かない。
    『ヘベはジャリを殺す』解説にある「低体温な暴力」が言い得て妙。特に説明とかなく、無闇に盛り上げることもなく、それが一層寒気がする。
    『オリエンテーション』嫌だなこの職場…いやいいところもあるのか…?やっぱり絶対働きたくないな…の絶妙さ。嫌な奴ではないんだけど、関わりたくない人間が多すぎる。
    『やあ!やってるかい!』リズミカルな文章に突然引き摺り込まれる。ずっとあった不穏な空気の原因はあなた、と名指しされてドキッとする。
    『ささやき』ストレートに怖い。一文のパンチが重い。

  • まさに『居心地が悪い』という言い方がぴったりな話たち。
    怖いわけでも気持ち悪いわけでも痛いわけでもなく、ハッキリとしたオチがあるわけでもなく、モゾモゾモヤモヤとした気持ちになる。

    一番読みやすくて怖かったのは『ささやき』。
    エヴンソンの『ヘベはジャリを殺す』、『父、まばたきもせず』も良かった。訳がわからないなりに不穏で嫌な気持ちになる。
    遠くから父母が来る途中で母が電話をかけてくる『来訪者』も好きかな。

  • 短編アンソロジー。この本に限り「居心地が悪い」は最高の褒め言葉であり、どの話も期待は裏切らないと思われる。夢の中で奇妙な出来事に遭遇し、目覚めてホッとする感覚に近かった。眠りの話は、なぜそうなるのか。面白いけど。勝手にリフォームはちょっと。微妙に両者の好みも合ってなさそうだし。オリエンーションの話に至っては、サラッと爆弾発言の連発。え、無理だよ、この職場で働くの。居心地の悪さを通り越して笑った。

  • 不穏さが漂うアンソロジーでした。面白かったです。
    既読の作品もありましたがどれも「どう生きたらこんなこと思い付くんだろう…」と思ってしまいます。
    「オリエンテーション」「ケーキ」が特に好きでした。
    オリエンテーション…こんな会社でやっていけるのか不安が募るばかりです。部長がとても気になりますが考えないようにしなければならないのでしょう。
    ケーキは読んでいてとても不安になりました。何か精神に病を抱えてる人の思考がその流れのまま文章になっている気がします。。
    あざは既読でしたがアンナ・カヴァンはやはり良いです。
    こんな作品ばかりを集められる岸本さんのアンテナとセンス…信頼しています。

  • サイコーですわ

    「へべはジャリを殺す」
    ・ジャリはへべがいると見当をつけた方向に笑みを向けたが、へべはそこにはいなかった。
    ・よせよ友達じゃないか

    緊張感のあるシチュエーションでのコメディは緊張感不条理感を増す装置になる。
    ずっとなんかおかしくて違和感があるのに、全て正しい当たり前の手順のように進む異常事態。
    岸本さんの解説の、低体温の暴力…なんてかっこいい表現!

    「チャメトラ」
    ・だから男たちはみんな胸の内で夢を育むことを覚え四六時中夢を見た

    辛い状況下で人がどう生きるか、ということから、頭クラクラする思っても見ない展開、そして結びの、〜夢の重みで飛べなくなるまで〜かっこいいーー!
    空腹とはいえゲレロの傷口から出た長椅子と寝台と竃を針金に差し、火の上で炙った。豚肉に似た味がした。とは…うまそうだな。

    「あざ」
    思春期の友情と愛情がないまぜになった感覚。
    そのわずかなすっかり忘れてしまっていた断片が襲ってくる。大したことは起こっていないのになぜか引っかかっている断片。それがおよそありえないような奇妙な体験の中に立ち上る。それは恐怖とも郷愁とも言える。

    「どう眠った」
    ・こっちはピラミッドみたいに眠ったよ。
    ああそう。
    といっても小ぶりのピラミッドなんだけど。

    眠りという究極的な個人的体験を共有しようとするとこんなにも不条理になるのか。夢の話が不条理なのは普通だがそこを共有しようとするとこうなるのか。〜みたいに眠ったよ、、入りも独特。
    そしてその不条理の中にある日常。
    嫌なことを言う人間自分が正義だということを疑わずまたそれを善意で押し付けてくる人間。それに怒りを表せず微かな抵抗でなんとなく不機嫌にすることしかできない弱い自分。
    こういう嫌な感じを突きつけてくる話がもうべらぼうに好き。

    「父、まばたきもせず」
    娘の顔の泥が乾いて灰色になり、やがてひび割れる、という描写好きだなぁ。
    なかなか重めの内容の話が、ただ起きている状況に対して淡々と進んでいく話。ただ拍子抜けぐらいに話は進み淡々と終わり、タイトルを思い出す、「父、まばたきもせず」…痺れる!

    「分身」
    うん、それだけの話なのだがすごくいいよね。

    「オリエンテーション」
    あなたには関係のないものです。がそこここにあるのがいい。
    奇妙なマニュアルがたくさんあるこの会社と私の会社にどれだけの違いがあると言うのか。

    「潜水夫ダイバー」
    ・こいつさえいなくなれば何もかも元通りうまくいき〜
    ・ピーターは体じゅうに力がみなぎるのを感じていた。
    …いや、そういうとこやぞお前。
    身につまされるわ自分も含めて人は卑小で簡単に人を見下しそして懲りない。

    「やあ!やってるかい!」
    不意に屈託のない声が肥大化した自意識を打ち破り
    勝手に慌てふためく。これは俺だ。各年代ありとあらゆる俺だ俺はいくつになっても性を超えてもこうやって内なる自意識に囚われいつも屈託を抱え…などとごちゃごちゃ考える自分に背後から声がする、やあ!やってるかい!

    「ささやき」
    シルプルになんで面白い話だ!すきだ!
    ちょっと間抜けなユーモラスエピソードだったのに急なサスペンス。安心し切っていたリラックス空間は冷え冷えとした油断ならない空間に変わる。そしてそのきっかけとなる録音された音が怖がらせようとするもんでなく見てよこの人、なんていう普通の会話なのがいっそ恐ろしい。
    そしてラストの一言、なんてゾッとする言葉か。なんて何気ない言い方か。これ以上ないくらい恐ろしく
    しっくりくるラストにゾクゾクする快感!
    これ関西弁でもいいな。「そんな」は「すんな」くらいの発音がいいななどと考えるのも楽し。

    「ケーキ」
    丸々となりながらも何かに囚われできない。
    できるためにしなければならなかったことも思い煩っていた内に機を逸してしまう。
    「〜についてあまり考えなくなった、そしてとうとうほとんどそのことを考えなくなった」人生とはこういうものかもしれないが、そうだとしたら嫌なことだ。

    「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」
    予告編でもう名作だとわかる映画がある。デヴィッドフィンチャーとかのそれは全部好き。なんなら本編より面白いものも。この話正にタイトル勝ち。このタイトルのカッコ良さすごい。肝心の内容は…これがまた抜群に面白い、それぞれに人生があるのだ。
    神は細部に宿る。
    解説岸本さんのエディ・ゲーデル選手の話がすごいいい!


    素晴らしいものに出会うとボキャブラリーは消える。好き、だけ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。現代アメリカを代表する作家の一人。ブラウン大学文芸科教授。邦訳に、『遁走状態』(新潮クレスト・ブックス)などがある。

「2015年 『居心地の悪い部屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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