贋作 (河出文庫 ハ 2-14)

  • 河出書房新社
3.67
  • (3)
  • (6)
  • (5)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 132
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (483ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464282

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『太陽がいっぱい』から6年後の話。

    リプリーはいまや自信もあり、贋作に関する仲間もいて、金持ちの妻や気の利く家政婦もいるという最高の身分になっていてびっくりした。

    前作より登場人物が増え、サスペンス色も強まって面白かった。
    殺人、自殺偽装、殺人未遂、生き埋め、自殺、死体を焼く…などの衝撃的な場面が散りばめられていて先が気になってどんどん読めたが、終盤は行ったり来たりする場面が多くすこし冗長に感じたかもしれない。

    警察はだいぶリプリーを疑ってはいたけど、もっと頑張れなかったか?という感じ…。
    当時だとネットとかもないから色々証明するの難しかったりするのかな?

    こんなにいろんな罪を犯しておいて、ディッキーについて話をふられたときが内心一番動揺してるのがよかった。
    ディッキーのいとこのクリスが出ててたのでなにか起きるか!?とおもったら、そこはたいして何もなかったのはちょっと拍子抜け。
    今後も出てきたりするのかな…?

  • ディッキー事件のあと、結婚しパリ郊外に住んでいるトムの元にロンドンから「至急来てくれ」と一本の電話が入る。トムの一言からはじまった現代画家の贋作事業が、コレクターの一人に勘付かれたのだ。死んだ画家のダーワットに変装しコレクターのマーチソンと対峙したトムは贋作疑惑を晴らすため画策するが、仲間の一人であるバーナードが罪悪感から思わぬ行動にでてしまう。「太陽がいっぱい」で逃げおおせたトムが新たな詐欺に手をだし、自ら境地に追いこまれていく、トム・リプリーシリーズ第二作。


    死ぬまで売れなかった現代画家を、その悲劇によって売りこみ、贋作でビジネスをするというのが皮肉で面白かった。ダーワットが有名になったのは贋作仲間たちがつくりあげたストーリーゆえであり、人びとはその虚構に金を払うのだということをトムは掴んでいて、そこに罪悪感は微塵もない。
    しかし、生前ダーワットの友人であり、今は彼の贋作画家になってしまったバーナードが苦しんでいる理由はトムには痛いほどわかるのだ。ディッキーとの日々となりすましの逃亡劇を直接振り返ることはないが、トムはバーナードに過剰な共感を寄せ、己に重ねている。
    だが、トムの思いはバーナードには伝わらない。バーナードにとってトムは贋作事業の言いだしっぺであり、己の罪をより大きくした張本人だ。トムは自分を殺そうとしたバーナードを許していると伝えたくて追いかけていくが、その行為がむしろバーナードを追い詰めていく。
    トムの悲劇は、自分も誰かを愛することができると信じたいと願っているのに、結局は保身と引き換えに孤独を選んでしまうことにある。演じるのが癖になっていて、自己開示が下手なのだ。なのに相手には過剰に感情移入してしまうから暴走していく。
    今作ではそんな〈役者〉トムのことを少ない言葉で理解してくれるキャラクター、妻のエロイーズが登場したのも嬉しかった。表面上は浮ついた感じのする女性だが、トムが本当にケアを必要とするときには思いやり深くなり、鋭い助言もしてくれる魅力的なキャラクター。トムが強く愛したいと衝動を感じるのは男性なのかもしれないけど、一緒に生活するならエロイーズみたいな人がいいよね。ハイスミスは現実的だなぁ。
    当の殺人のきっかけはバーナードのためというよりトム自身がいらんこと言ったせいだったり、そもそもディッキー事件で顔が知られている描写がありながら簡単に変装して警察まで騙しおおせるのは都合がよすぎるなど、前作同様、犯罪小説として緻密というわけではない。だがハイスミスの真骨頂はトムの心理描写にあるというのを今回もまざまざと感じられた。読者もトムと一緒にバーナードの行動に翻弄される分、サスペンスとしては前作を上回っている。
    緊張感にあふれた死体遺棄の共同作業、地下室に残された身代わりの首吊り人形、殺人未遂とトムの仮死、自殺を見届けて一人で無理やり火葬など、好きな展開が次から次へと続くのでご褒美のような小説だった。終盤はややグダつくが、ザルツブルクでの追走劇は〈幽霊視点の怪奇小説〉のような幻想的な書き方がされていて、ホフマンみたいで好きだった。そのあと森でガンジス川のほとりみたいに雑に死体を焼く。この雑さがほんと最高。
    犯罪もののBLが好きな人でまだ読んでない方は、ぜひトム・リプリーシリーズを読んでみてほしい。全然相互Loveにはならないので、〈二人だけの短く甘い記憶〉のパートは全くないけど。 そう思うと『黄昏の彼女たち』と本書は対照的な共犯関係を描いているなぁ。

  • ミステリーというのか犯罪小説というのか。
    悪事を働いて置きながら、自分本位な理屈で、解決方法として簡単に人を殺める。
    露見しそうな時にでも、逆に、隠しごとを誰かと共有できることすら、ギリギリのラインでどこか喜びを感じていたり、
    すべては自らの脚本、監督、主演による劇の一幕。
    生まれながらの悪党が覚醒したかのよう。

  • リプリーのサイコパスぶりがすごいな(๑˃̵ᴗ˂̵)

  • トム・リプリーシリーズの第2作。
    前作「太陽がいっぱい」から6年後、リプリーは結婚し、パリにほど近い村で城のような邸宅で暮らしている。豊かで満ち足りた暮らし、妻との家庭生活。守るべきものを持っている。
    前作、リプリーは劣等感や自己嫌悪が濃厚だったが、そうした要素は本作では影を潜め、
    意志決定の際の自信や、行動力の力強さを感じさせる。
    解説によれば、リプリーの悪の哲学、人生観が形成されている、とのこと。
    そのためか、犯罪行動を起こす際の不安や焦りは希薄になった印象。

    今回、リプリーは、贋作ビジネスに生じた綻び、危機に対して行動、奔走する。
    既にこの世に居ない天才画家ダーワット。その作品の贋作を描く画家バーナード。
    リプリーは、ロンドンの画廊経営者の仲間達と贋作ビジネスを営んでいるのだが、
    その絵画を贋作だと主張する男が現れ、リプリーらを追及、追い詰めるのだ。

    だが、贋作シンジケートの仲間達と共同で対処することもあってか、孤独感は少ない。
    時に和気藹々で明るいユーモアすら感じさせ、「太陽がいっぱい」の陰鬱な印象と異なり、悲愴感も少ない。
    “コンゲーム小説”に独特の、チームメイト感のためもあるだろう。

    そうしたわけで、緊迫緊密な感じが希薄で、展開が少々散らばった感もあり、前作に比べて呑気な印象も。
    また、今回も邪魔者を消す場面があるのだが、これまた無計画な行動で、唐突。
    その際の心理描写も軽く、ドライ。 罪悪感や不安の様相も薄い。
    このライトな感じには、少々物足りなさを感じた。

    だが、終章近くオーストリアのザルツブルグに舞台を移してから、様相が変わり、陰鬱になってゆく。贋作画家バーナードは、自身のアイデンティティが崩壊し、精神の危機を深めていた。そして、リプリーは、彼を追い詰める。
    ザルツブルクの山あい、森の奥での“ある作業”は凄惨を極める。
    贋作画家の肉体を用いて、不存在の天才画家の聖なる芸術と人生を完全なものにする営み。かような象徴性を思わせた。

    ☆の数を3としたが、4に近い3。 3.6というところ。

    以下、余談。
    ・コーヒー、紅茶、スコッチなどの飲み物。また食事と料理の内容を、省略することなく、その都度、律儀に書き込んでいるのが楽しい。
    ・その時々喫んだタバコの銘柄まで、ゴロワーズ、チェスタフィールド等と具体的だ。
    ・こうした、飲食の描写は、ミステリー小説の、大事な味わいだと、改めて思う。
    ・リーバイスをはき、ビートルズのレコードをかけた。 …なる、リプリーの生活・趣味を描く一節もあり、ちょっと驚き。
    ・各都市で投宿するホテルの名前も具体的で部屋の様子も必ず描かれている。
    ・物語の舞台は、フランスの小村ヴィルペルス、パリ、ロンドン、ザルツブルグへと展開。各都市の描写も本作の魅力のひとつ。

  • 『太陽がいっぱい』がひゃあひゃあ言いたくなるほど
    面白かったので、慌てて買ってきた、こちらの本。

    これが、ねえ、まあ、ものすごい話の展開でねえ。

    まず初っ端から、トムが大金持ちの娘と結婚して
    しゃあしゃあと暮しているのに我がハートは白けた。

    あんなに人間関係がうまく行かない感じで
    もがいていたのに、
    今では一緒に悪事を働くほどの仲の友達がいて、
    パーティーなんかも行っちゃって、
    家政婦とも良い関係を築き、
    奥さんとも上手くやっているの、驚き!

    って、それに貴方って恋愛対象がさあ…、違うの?

    ストーリーとしてはあのトムが、(あのトムがね!)
    天才画家の贋作を販売する金儲けに関わっていたが、
    ある男性にその秘密を嗅ぎつけられそうになり…

    こちらとしてはトムには
    お金はあるけれど過去の秘密から
    まわりと距離を置き、隠遁しているような生活を
    送っていて欲しかったの。

    周囲の人だって、確かに無罪になったけれど、
    日本で言う「ロス疑惑」みたいな感じのはずなんだから、
    おいそれと親しみをもって接し難いと思うのよね。

    それが、ごく当たり前に生活を楽しみ、
    さらに悪事を働いてるってさあ、
    まあ図々しい!

    また、突然現れるディッキーの従弟。
    でもまたそれが現れただけで帰って行って
    何でもないと言う!もうなんなの!

    大体息子を殺したかもしれない、
    そしてその財産を奪ったかもしれないと言う
    疑いが晴れない男の元へ
    身内を送り込んでくるディッキーのパパの心理状態ってどうなの。

    今回もまた、何も罪もないマーチソンさんが
    トムによって殺されてしまった!ひどい。

    そしてその殺人をけっこうペラペラ喋るトム。

    しまいには間接的に殺してしまったようなある人物の
    死体の始末方法についてはもうサイコ野郎としか言いようが無い。

    言いたいのはこんなに警察も馬鹿じゃない、ってこと。
    いつもは追う側(刑事、探偵)の話をよく読んでいる
    私にとっては信じがたい捜査方法だ。

    パスポートだの、電話の記録だの言う前に、

    「皆さん、皆さん!えへん、まず、指紋を、とりませんか?!」
    と言いたい!

    「へえ~、『太陽がいっぱい』に続編があるんだあ、知らんかった」
    と思ったらこれですよ。

    『若草物語』に続きがねえ、マーロウ君の短篇がねえ、
    へえ~あったんだあ、
    と知って、そして読んで、わかったよね。

    知らなかった理由を推して知るべし、なのです。

    そして驚きの情報、
    「リプリーもの」はあと、三作あるそうです!もう無理だわ。

    でもねえ、あまりにも破綻しておかしいストーリー、
    皆にも読んでもらいたいの。そんで語り合おう!

    ただね、これ「リプリーもの」にしなければ
    「過去に殺人をしたような感じがする男」が主人公にすれば、
    まだ面白くできたんじゃないかな?
    (ただ捜査方法はバツ!)

  • 『太陽がいっぱい』の続編。
    前作でややナイーヴさを見せていたリプリーだが、本作ではすっかりふてぶてしいダークヒーローぶりを見せている。
    現代なら簡単に『サイコパス』と言われそうだが、書かれた時代を考えると、このキャラクター造形はかなり斬新ではないだろうか。
    しかし、これだけシレッと殺人を告白した場合、誰か裏切りそうなもんだが、皆、口を噤んでいるのは凄いw

    さて、『太陽がいっぱい』と本書は復刊されたが、シリーズ全5作のうち、『リプリーをまねた少年』は品切れ重版未定、残りの『アメリカの友人』『死者と踊るリプリー』の2作も在庫が心許ない……という状況はちょっと寂しいものがある。取り敢えず全部揃えたが、これで全部改版→復刊されたらちょっと悔しいなw

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

1921-1995年。テキサス州生まれ。『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』が映画化され、人気作家に。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞、『殺意の迷宮』で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞。

「2022年 『水の墓碑銘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

パトリシア・ハイスミスの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
パトリシア・ハイ...
村田 沙耶香
ウンベルト エー...
パトリシア ハイ...
アンナ カヴァン
恩田 陸
ピエール ルメー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×