さすらう者たち (河出文庫 リ 4-2)

  • 河出書房新社
4.13
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464329

感想・レビュー・書評

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  • すごいものを読んだ…と衝撃を受けたが、訳者あとがきで紹介されている「人々は、自分が歴史の中に生きているとは思っていません」という、著者であるリーの言葉にハッとする。

    事実大きな歴史のひとコマではあるが、その時代その場所に暮らしていた人々の日常の物語なのだと気づかされ、この作品に再び打ちのめされてしまった。

    壮絶な死の恐怖、それ以上に生の生々しさを感じずにはいられない。人間の冷酷さより優しさがあることに胸が痛くなる。

    どうにもならなかったり、どうにでもなってしまったりする日常。現在の香港のことも考えてしまう。

  • 政治的な題材を扱いながらも、この作品の一番の特徴は、登場人物たちが世の中のめぐり合わせの中でそれぞれ複雑な人間であることが描かれているところだと思います。たとえば八十。彼のゆがんだ純粋さ。悪趣味なんだけれど、読む側が悪趣味なヤツだとは切り捨てきれないでいるうちに、世相の波が彼を絡め取っていき、なんとも言えない気持ちになります。
    あと、登場人物が多い作品としては視点の切り替え方が上手いというか、ちょっと映画っぽくて、「Xデーに向かってそれぞれの日々を過ごす人びと」みたいな感じなのですが、それが無理なく組み上げられていて、作者の筆力を感じました(最初だけ少し違和感がありましたが)。

  • ほぼ覚えていなかったから再読

    舞台は文革時の中国。反革命分子として処刑される女性がおり、彼女が暮らした街の住人達が、処刑を中心にぐるぐると回っていく感じ。

    でも文革も中国も超えて、普遍的な人間の愚かしさや、人生のままならなさの話。

    失うものがある人は、綺麗事ばかりでは生きていけない。綺麗事を言って胸を張れるのは、周りに守られているか、無知だからだ。

    何も持たない人だけが、こころ安らかに生きていける。でも、好きで物乞いをしているわけではないし、彼らも苦痛を経験している。

    登場人物がみな人間臭くて、みっともなくて、非常に面白かった。

  • 久しぶりに読み応えのある作品。
    人間って、関係性によって善人にも悪人にも見える。
    1冊読むだけで何人もの中国人と友だちになったような感覚になる。狭く深くではなく、広く深く、楽しませてもらった。

  • 誰かが加害者の一面しか持たないことはないし、被害者の一面しか持たないこともない、ということが徹底されていると感じた。

    それまでの価値観が揺らぎ始めたとき、その価値観を維持するか捨てるかで、生活がガラッと変わるかもしれない恐ろしさを垣間見た。
    フランス革命とかロシア革命とか、歴史では淡々と習うけれど、この作品の登場人物のように、どちら側につくべきか、恐れたり迷ったりした人がいたのかな。

    幸せな物語でも温かい物語でもないけれど、食べ物の描写だけは温かさを感じられて、どんな状況にあっても、ひとは食事によって多かれ少なかれ希望や幸せを感じられるのかなと思う。

    最近河出文庫が好き。
    河出文庫の取り扱いが多い本屋さんを見つけるとすごく嬉しい。

  • 4.3/132
    『文化大革命後の中国。一人の若い女性が政治犯として処刑された。物語はこの事件に否応なく巻き込まれた市井の人々の迷いや苦しみを丹念に紡ぎ、庶民の心を歪めてしまった中国の歴史の闇を描き出す。』(「河出書房新社」サイトより▽)
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464329/


    冒頭
    『その日は夜明け前に始まった。一九七九年三月二十一日、顧師が目を覚ますと、妻が毛布に顔を埋め、声を立てずにむせび泣いていた。等しくなる日か。春分であるこの日のことを考えるとき、顧師はそんな思いによくとらわれた。そしてまた脳裏に蘇ってきた。太陽もその陰も君臨しないこの日に、娘の命が終わるのだと。』


    原書名:『The vagrants』
    著者:イーユン・リー (Yiyun Li)
    訳者:篠森 ゆりこ
    出版社 ‏: ‎河出書房新社
    文庫 ‏: ‎462ページ

  • 素晴らしきイーユン・リー!
    でもこれは読むのがつらくてつらくて、休み休み進めた。
    短編で知られる彼女が、文革直後の小都市で起きた政治犯の処刑を巡る惨状…?を描く長編。
    文革とはかくも苛烈に人を歪めたのか。押し付けられた価値観が、中国の古き良き文化と伝統と共に、人の心のもっとも良い部分を破壊していく。立派になりたいと願う少年の善、虐げられた若者の間に生まれたはかない恋、長年を共にしてきた夫婦の絆…痛くてたまらない。
    これまで知らなくてごめんなさいシリーズだ…。本の学びにありがとう。
    でもしばらくはお気楽なミステリなどに逃避しまーす

  • 文化大革命後の中国で、1人の女性が政治犯として処刑されたことから、否応なく激動の時代の流れに飲まれてしまった市民一人ひとりの生き方を描いた作品。

    いずれも苦しい境遇や、ハンディ、苦悩を背負った人々がフォーカスされるけれど、妙に悲痛な描写に感じないのが不思議だ。

    「さすらう者たち」というタイトルが素晴らしく、時代の流れの中における人間の矮小さを感じさせつつ、時代を紐解く鍵は、決して教科書に載らない人々の生活の中にあることを伝えてくれる。そういった意味で、訳者後書きのコメントも素晴らしい。

  • 文革直後の中国のお話。
    登場人物が多くて、それぞれがそれぞれの立場で必死に生きようとするお話。完全な悪人も完全な善人もそこにはいない。

    八十と妮妮がすき。世間知らずというわけではなく、むしろ世界の嫌な面をよく知っているはずなのに、二人の間に漂う純朴な空気がたまらなくやるせない。

  • 中華人民共和国の文化大革命後の話。とにかく重くて辛い物語。しかしページを繰る手が止まらない。
    反革命分子として処刑される若い女性とその周囲を取り巻く人々の日常が描かれている。
    ひどい生活環境の中、逞しく生き抜く人々。中華人民共和国民の力強さを感じる。しかし、あらゆる人々が最後まで救われない…。重く、つらい小説だが、それでも読んで良かったと思わせる本である。

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著者プロフィール

1972年北京生まれ。北京大学卒業後渡米、アイオワ大学に学ぶ。2005年『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞、PEN/ヘミングウェイ賞などを受賞。プリンストン大学で創作を教えている。

「2022年 『もう行かなくては』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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