夜更けのエントロピー (奇想コレクション)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309621814

作品紹介・あらすじ

ミステリ、SF、ホラー、現代文学のジャンルを超えて、「すこし不思議な物語」の名作を集めたシリーズ"奇想コレクション"刊行開始!第1回配本は、『ハイペリオン』でその人気を不動にした、まさにジャンルを超えて最高の作品を生みだしつづける巨匠ダン・シモンズ!ローカス賞受賞の表題作をはじめ、死んだ母がぼくの家に帰ってきた…デビュー作「黄泉の川が逆流する」、かつての教え子ケリーを殺すため異世界を旅する元教師の孤独な追跡劇「ケリー・ダールを探して」、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞受賞の傑作「最後のクラス写真」、本邦初紹介の「ベトナムランド優待券」ほか、全7篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。

    人生に絶望した男の再生譚として読める、表題作「夜更けのエントロピー」と「ケリー・ダールを探して」が好き。
    特に「ケリー・ダール・・」は、教師だったシモンズが、教師時代に救えなかった子どもたちの顔を思い浮かべながら書いたのだろうか、などと勝手な想像をして読むと、切なさも一入。

    同じく教師を主人公とした「最後のクラス写真」。
    教室内の秩序を保つことに腐心し、教室の支配者として君臨する教師にとって(最初はそういう教師に思える)、生徒が生きていようがゾンビであろうが、何の変わりもないんじゃない・・・と、意地悪く考えたりもしたけれど、
    己の教師としての使命に一点の揺るぎもないギース先生の、その不撓不屈の精神には感服。
    そんな彼女の心が折れそうになった時に起こった出来事は感動的ではあるのだけれど、これってまさかゴールディングの『ピンチャー・マーティン』
    風のオチってことはないよね、という疑問がちらりとかすめたりする。

    「バンコクに死す」は、まさにうぇぇなグロテスクな話なのだが、最後の一節でやるせない愛の話となっていく。

    本書で一番グロテスクなのは、「ベトナムランド優待券」でベトナム戦争のアトラクションに興じるアメリカ人観光客の姿かも。

    Entropy's Bed at Midnight by Dan Simmons

  • タイトルから勝手にほのぼのした物語を想像していたが、とんでもなく味の濃いホラー短編集だった。

    「黄泉の川が逆流する」☆☆☆☆
    主人公の大好きな母親が死んだ。
    父はそれを受け入れることができず、周囲の反対を押し切って母を生き返らせることした。
    しかしそれは理性のないただのゾンビにすぎず、しだいに家族がおかしくなっていく。

    みんな狂気に溢れていて怖い。
    死者をゾンビ化させて生き返らせる話は多々あると思うが、どこから始まったんだろうか。
    「フランケンシュタイン」か?
    伊藤計劃の「屍者の帝国」を読みたくなった。


    「ベトナムランド優待券」☆☆
    疑似的な戦争を体験できるベトナムのテーマパークの話。

    旅行者が戦闘をイベントのように楽しんでいるのは狂気を感じた。
    しかし、実際どういう話なのかはよくわからなかった。


    「ドラキュラの子供たち」☆☆☆☆
    ルーマニア革命後の再建支援に訪れた主人公たちは、チャウシェスク独裁政権が生んだ惨状を目にする。
    チャウシェスクは子供を産むことを奨励し中絶を禁止していた。
    おかげで子供の数は増えたものの、多くの子供を育てるだけの経済力が伴っておらず、育児放棄が多発。
    子どもたちが行き着いた孤児院もまた貧しく、そこでは栄養補給のため大人の血液を注射するという方法がとられていた。
    その中にはエイズ患者の血液も含まれており、しかも注射針の交換や消毒もなされていなかったため、多くの子供がエイズに感染した。

    あまりの衝撃に手が震え、フィクションだろうと思っていたが、調べてみると現実にあった出来事だという。


    「夜更けのエントロピー」☆☆☆☆
    保険会社の自己調査員を務めている主人公は、これまで多くの事故現場を目にしてきてた。
    その中には自分の息子を亡くした事故も含まれており、それすらも客観的に淡々と語っていく。
    そして今、彼は残された一人娘と共に休日を過ごしており、山の上からソリで下るアトラクションを楽しもうとしていた。

    何件もの事故の話をすればするほど、娘が事故にあうフラグが確固たるものになっていくような気がしてしまう。
    語り自体は淡々としているのだが、かえってそのせいでうすら寒い怖さが際立つ。


    「ケリー・ダールを探して」☆☆
    何年も前に行方不明なった教え子を捜索する話。
    著者の教師としての経歴が反映された話のようだが、物語をどうとらえればいいのかよくわからなかった。


    「最後のクラス写真」☆☆☆
    ほとんどの人間がゾンビと化した世界で生き延びている主人公の教師は、子供たちの理性が戻ることを願って、ゾンビの子供たちに教育を施そうとする。

    またも狂気。
    教える側のエゴのような気もするなあ。


    「バンコクに死す」☆☆☆☆
    法外な見返りを要求されるタイの性風俗。
    そこでは何が行われているのか。

    血の気が引くほどのグロさのはずなのに、同時に官能的なものも感じてしまうのは僕がおかしいのか?
    どちらにせよ、男にしかわからない表現も多いかも。

  • タイトルだけで選んだ本。読んでいていやな気分になる本かな。特に初めの2編が重かった。ちょっと失敗したかもと思った。設定や文章のトーンなども相まって、万人向けではなさそう。
    途中から読みやすくなった。作者の文体やトーンに慣れたのかも。ちょっとグロい世界を覗いてみたい人には良いかもです。

  • ややぴんとこないで途中脱落。

  • パッと見爽やかそうに見える表紙絵とは打って違い、ホラーものの短編が多いです。
    珠玉の短編が揃っていますが、最後に収録されている「バンコクに死す」の強烈さだけで自分は本書の評価を星五つにしました。
    限りなく負の方向に突き抜けている作品なので、他人には薦められるようなものではありませんが。

  • 「夜更けのエントロピー」……エントロピーとは失敗する可能性のあるものが実際に失敗する確率、つまり保険業としてはエントロピーが高くなってはだめなんだろう。多くの失敗を目にし、経験し、限りなくエントロピーが高くなっても、可能性を信じよう。「ケリー・ダールを探して」……なんて美しい話なんだろ。そして自分探しとしても極上。「ドラキュラの子供たち」ではリアルな社会問題とファンタジーの奇妙な合成がスレスレの所でとても良い。

  • 収録
    「黄泉の川が逆流する」
    「ベトナムランド優待券」
    「ドラキュラの子供たち」
    「夜更けのエントロピー」
    「ケリー・ダールを探して」
    「最後のクラス写真」
    「バンコクに死す」

    全体的に暗いトーンが漂う短編集。ベトナム戦争、エイズ、子ども、教師、屍者など、同じモチーフが形を変え何度も用いられている。

    「ドラキュラの子供たち」まで読んだ時点では、社会性が強い物語をブラックジョークのような設定で描いていて面白いとは思ったもののそこまでではなかった。
    しかし、
    「夜更けのエントロピー」以後は最高だった。どれも読み終わって溜息が出る。

    「夜更けのエントロピー」
    自動車保険会社員である父親が別居中の妻のもとにいる娘と久し振りに会ってアルペン・スライドで橇を滑る現代パート、過去の回想、様々な保険関係の自動車事故を「オレンジファイル」から選んで語る話。
    全体としてこの三つの軸が次々と入れ替わりながら語られる。
    積極的に語り手がどう感じているかは語らず、なんとなくジョークじみた調子で物語は進む(オレンジファイルから選ばれる話は当事者にとっては悲惨であっても、笑い話にしか読めない)

    しかし、現代パートである娘との橇に乗っている場面が、物語の進行とともに見え方が変わっていく。これが本当に鮮やか。
    「事故は死と似ている」
    いくら注意したって突然事故は起きてしまうように、死も突然起こってしまう。序盤では父親は、やたら神経質に娘の安全を気にする人間に見える。けれども娘を持つこの父親は人並み外れてその事実に触れて来ていて、そうしたものに対する不安や恐れを抱きながらどうすればいいのかと迷い続けている。
    こうした父親の思いと娘を見る視線が、橇で前を行く娘との移り変わる距離感とリンクしてて絶妙。
    そして重力(グラヴィティ)とエントロピーの解釈を交えつつ、父親は自身のスタンスを求めて、最後には……
    ラスト間近に父親が思う、「とはいえ、」以降の言葉がそれまでの伏線と展開がたっぷり効いてきて感動。

    「ケリー・ダールを探して」
    元・教師と元・教え子が誰もいない世界で狩り合う。
    装備品や描写が妙にリアルでありながらも、非現実観ある対話や雰囲気が気にいった。
    言葉にできないこうした関係性を描けるのはいい。

    「最後のクラス写真」
    ゾンビ小説として素晴らしい。
    冷静沈着に歯と爪を除去した子どもゾンビ相手に毎日規則正しく授業をし、時には迫りくるゾンビにレミントンをぶっ放すギース先生(60歳越え、88.5キロ)。
    ジョジョに出てきてもおかしくないレベルの精神力と意志力。
    消極的にではなく、積極的にあるはずのない日常を作ろうとする。

    「バンコクに死す」
    医学知識を大量動員&人間のとある営みを絡めて、古今東西で描かれたあるモノを描いている。とても面白い。
    これもインパクトが強烈過ぎて忘れ難い一編。
    なんとなく読みながら竹本健治「白の果ての扉」を思い出した。
    ひとつの感覚の行き過ぎた先を描いてる作品として。

  • ゾンビも出てくれば吸血鬼も出てくるし、ベトナム戦争まで出てくる。書き出しで何の話なんだかさっぱりわからないまま妙な世界に連れ込まれる感じ。「ハイペリオン」シリーズの緻密さはないけれど、守備範囲の広さに驚いた。

  • ダン・シモンズは短編もオッソロシイ。
    奇想コレクションの中でも大当たりの1冊。

  • 2009/6/5購入
    2010/12/31読了

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