蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 150
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309622019

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀英国の作家(但し、アメリカ出身)、2000年に病没した
    ジョン・スラデックの奇天烈な短掌編集、全23編。
    SFありミステリありホラーありと盛りだくさん。
    ギャグ漫画のようなナンセンスなストーリーに呆れていると、
    不意にシリアスな話が現れるので油断禁物。
    心理描写に重点を置かず、アイディア勝負の力業が多いため、
    好き嫌いが分かれそう。
    個人的に、笑いの中にもペーソスが感じられる物語が好きなので、
    面白かったがドップリ浸れたとは言い難い(笑)……すまぬ。

    以下、特に印象的な作品について。

    ■高速道路(The Interstate)
     単身、優雅なバカンスを楽しもうと、
     長距離高速バスでリゾートを目指す会社員の男。
     指定された巨大チェーンのレストランで
     食事休憩を取ることを繰り返しながら、
     目的地に向かうはずが……何かがおかしい。
     食欲旺盛なのは結構だが、
     これでは太ってしまいそう(笑)。

    ■血とショウガパン(Blood and Gingerbread)
     本当は恐ろしいグリム童話=「ヘンゼルとグレーテル」異聞。
     粗暴な父にも、か弱い母にも、強欲な継母にも、
     優しい魔女にも従わない、
     一枚も二枚も上手(うわて)で残酷な双子の兄妹。

    ■小熊座(Ursa Minor)
     仕事の打ち上げで酒を飲んだ後、リチャード・マトロックは
     いつの間にかクリスマスプレゼントを携えていた。
     それはアンティークなテディベアで、
     首輪のプレートには「ダニエル、7」と記されていた。
     幼い息子ジミーはそれをとても気に入ったが、
     次第に奇妙な出来事が……。
     家の中で何か不都合が生じたとき、「くまたん」が
     勝手に動き回っていたずらしたことにしよう、
     と考えたくなる気持ちは、よくわかる(笑)。

    ■蒸気駆動の少年(The Steam-Driven Boy)
     アーニー・バーンズ大統領の専横に危機感を覚えた
     タイムパトロール隊は、
     彼の少年時代の姿を模(かたど)ったダミーを
     1937年に送り込んで本物とすり替える作戦を取った。
     当時の人々に万一分解されたとしても、
     彼らに理解可能な仕組みで出来た蒸気駆動式アンドロイドを……。
     カモフラージュを重ねた挙げ句、
     誰がどれで何がどうなっているのか、グチャグチャに。

    ■おとんまたち全員集合!(Calling All Gumdrops!)
     タイトルの「おとんま」は「お頓馬」。
     grownup:大人→gumdrop:(子供が好む)グミ
     というダジャレの原題を巧みに邦訳。
     最近の子供たちの言動は理解に苦しむと嘆く大人の話……
     かと思いきや、どうやらおかしいのは彼らの側で。
     就職し、結婚し、親の立場となっても、
     子供の頃のまま遊び呆けたい人たち。
     カットされたジーンズから剥き出しになった膝頭の瘡蓋を気にして、
     いつも弄っているという主人公の描写が秀逸。

  • 短編集。SF。ファンタジー。ミステリ。
    解説が一番面白かった。
    "スラデックはたぶん天才だったのだが、才能の使い道をまったくわかっていなかった"
    "一部に熱狂的なファンを持ち、大多数からはほぼ無視された"
    自分は無視する方ですね。
    「息を切らして」「小熊座」「教育用書籍の渡りに関する報告書」は好きです。

  • 「古カスタードの秘密」「アイオワ州ミルグローブの詩人たち」「ゾイドたちの愛」のぶっ飛び加減が非常に素晴らしい。

    しかし「おつぎのこびと」「ベストセラー」はその先を行き過ぎているのか?・・・何を言っているのかさっぱりわからないのだ。

  • 物理学を応用した作品などは難しかったけど、基本的にどの作品も奇想が楽しめた。奇想の才能がない人はSF作家にはなれないよね。SFでは侵略とか乗っ取りとかのテーマが多いかな。「小熊座」はホラー。「教育用書籍の渡りに関する報告書」は本好きにとっての悪夢。

  • 生涯奇妙な小説ばかりを書き続け、
    熱狂的なファンと大多数からの無視を得た
    究極の異色作家ジョン・スラデック。
    その著作の中から23篇を、編者である柳下毅一郎をはじめとした
    豪華訳者陣の競演でおくる、スラデック最初で最後の決定版!
    河出書房“奇想コレクション”第14回配本。

    「どんがらがん」同様、殊能将之の日記に
    名前が出てきたので気になって購入した一冊。

    やはり奇想コレクションのラインナップに
    名前を連ねるだけあって、
    「なんじゃこりゃ?」という短編が多い。
    何を言ってるのかさっぱりわからないというレベルのものから、
    どこからこんなアイデアが湧いてくるんだというものまで。

    しょっぱなに収録されている「古カスタードの秘密」は
    前者のタイプに属し、読者をいきなり混乱させるが、
    次の「超越のサンドイッチ」はシンプルなワンアイデアもの。
    その後も、バラエティ豊かな作品群が続く。

    「月の消失に関する説明」と、
    「神々の宇宙靴――考古学はくつがえされた」の2篇は
    スラデックの疑似科学趣味を象徴する作品らしいし、
    「見えざる手によって」「密室」「息を切らして」の3篇は
    サッカレイ・フィンなどの探偵が活躍する
    本格ミステリの短編となっている。
    最後に収録されている「不安検出書(B式)」などは
    もはや小説ではないのだが、発想はとにかく面白い。
    「最後のクジラバーガー」や「ゾイドたちの愛」、
    「おとんまたち全員集合!」からは
    社会制度に対する風刺やメッセージ性が読み取れる。

    いろいろな作品が収録されているが、
    とにかくひとつ残らず風変わりな作品ばかりで、
    それでいてすべての作品がしっかり面白いのだから感動である。
    2100円は決して高くない。

    お気に入りは、荒唐無稽な展開が愉快な「ベストセラー」、
    エロくて、さらに笑える一篇「ピストン式」、
    屁理屈に溺れる狂人の様が滑稽な「月の消失に関する説明」、
    法螺話が現実を飲み込んでしまう「不在の友に」、
    これぞ奇想と言える一篇「教育用書籍の渡りに関する報告書」、
    と、このあたりだろうか。

    しかし2冊続けて大当たりを引いたとなると、
    奇想コレクションという叢書は宝の山なのかもしれない。
    次はシオドア・スタージョンあたりに挑戦してみたい。

  • 既存のタイム・パラドックスをあざ笑う表題作、スプラスティック・コメディ「古カスタードの秘密」、あの“四重奏”の荒唐無稽なパロディ「ベストセラー」、重力はないと“証明”する男の狂気を描く「月の消失に関する説明」、名探偵のサッカレイ・フィンやフェントン・ウォースが不可能殺人に挑む本格推理小説3篇、なぜか西部劇マニアな宇宙人が襲来する「ホワイトハット」、宇宙人が地球文化に溺れていく様を描く「おつぎのこびと」、グリム童話をさらに残酷に練り直した発禁寸前の「血とショウガパン」ほか、全23篇を収録。

  • 最初読んだときはネットに親しんだインテリが書いた、50-70年代SFのパロディかと思いました。
    訳が新しいせいもあるかもしれませんが、作風やノリがすごくいまどきの作家っぽい。『悪への鉄槌、またはパスカル・ビジネススクール求職情報』や『月の消失に関する説明』なんかは円城塔が書きましたって言われても違和感なかったです。

    ディストピア世界を題材にしたF・K・ディック的な作品もありますが、ディックのような切迫した終末感はなく、「世界の終わりにも日常は続く」的な倦怠を感じるところが、50年代から活動したディックと70-80年代を主としたスラデックの違いなのかなあと思ったり。まあディックはどの時代でも切迫していますが。

    「ベストセラー」、「高速道路」、「おつぎのこびと」、「蒸気駆動の少年」、「教育用書籍の渡りに関する報告書」あたりが好きです。特に最後のは爽やかで良かった、私も表紙がとれた小説や背表紙の真ん中からぱっくり割れた漫画とかを持ってるのであれらがちゃんと飛べるのか心配です。

  • 私にはわけがわからない話が多すぎた。

  • 2009/6/1購入

  • 未読。

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著者プロフィール

1937-2000年。アイオワ州生。SF界随一の奇才。マッドでシュルレアリスティックな短編小説で有名だが、本作をはじめとするロボットSFも高い評価を得る。84年、BSFA(英国SF作家協会賞)受賞。

「2016年 『ロデリック (または若き機械の教育)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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