【人と思考の軌跡】永山則夫---ある表現者の使命 (河出ブックス)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309624150

作品紹介・あらすじ

一九六九年、「連続射殺魔」永山則夫は一九歳で逮捕、獄中で文字を学び、膨大な書物を読む中から、ノート『無知の涙』、小説『木橋』、『捨て子ごっこ』などを執筆して社会に衝撃を与えながら、一九九七年に処刑された。永山にとって「表現」とは何だったのか。その著作は何を問いかけるのか。そして永山の「使命」とは何か。はじめて永山の「表現」のすべてと向きあいつつ、犯罪、死刑、そして文学を根底から問い返す果敢にして真摯な試み。

感想・レビュー・書評

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  •  団塊世代にとって「永山則夫」という名前はよく知られた名だと思う。
     1968年に4人を殺害した「連続射殺魔」として知られ、その後1971年に獄中において「無知の涙」を出版。自らの貧困の出自と社会を告発する戦闘的姿勢の内容でベストセラーとなり、その後も1983年に小説「木橋」で新日本文学賞を受賞するなど執筆を続けたが、1997年に死刑執行となった。
     本書はその「永山則夫」の「生」と「文学」を語っているのだが、「文学」の領域はよくわからないと感じた。
     「詩」や「文学」の世界はそれなりに独自の世界で、ある程度の訓練や耽読がなければ理解しにくいのではないかとも思えたが、それにもかかわらず本書を読み終えて感じたのは、「永山則夫」とわれわれの距離の近さである。
     団塊世代の多くにとって、永山則夫の出自の「貧しさ」は身近にあるものではなかったか。
     高度成長前の日本では、「永山則夫」の幼少期のようなひどい貧困ではないにしろ、みなほとんどが同じような貧しさの中にあった。
     その中でもクラスで一人や二人は、かなりひどい貧困の中にあったようにも思える。当時「貧困」とは、身近な環境であったのだ。
     その社会の中から、生まれた犯罪者「永山則夫」が「自らの犯罪は社会の貧困の中から生まれた」と告発したとき、当時もちろん犯罪は許容できなくとも、一定の共感はあったのではないだろうか。
     中卒の「永山則夫」は、獄中で猛勉強をし、人生を考え、いくつかの文学書を残した。
     「木橋」は読んだことはあるが、その圧倒的な貧しさのリアリティーある表現に押しつぶされるような感想を抱いたことがある。
     本書で読む「永山則夫」を知ると、やはり人間を抹殺する「死刑制度」には反対したいと思えた。「人間は変わり得る」のだ。
     本書は、文学的視点についてはあまり良くわからないと思えたが、「永山則夫」をとおしていろいろ考察させてくれる書であると思えた。

  • 1968年に永山則夫が起こした連続ピストル射殺事件=広域重要108号事件によって、東京で10月11日に撃たれて亡くなられた中村公紀さん(当時27歳)、京都で10月14日に撃たれて亡くなられた勝見留次郎さん(当時69歳)、函館で10月26日に撃たれて亡くなられた斎藤哲彦さん(当時31歳)、そして名古屋で11月5日に撃たれて亡くなられた伊藤正昭さん(22歳)の4人の方に、黙祷。

    ともすれば私たちは、逮捕後の獄中での殺人犯・永山則夫の勉強ぶり、その思考その文学作品に目を奪われがちで、明確に彼が4人の何の罪もない人の尊い命を奪ったことは間違いない事実です。

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著者プロフィール

1962年、兵庫県丹波篠山市生まれ。2014年10月から大阪文学学校校長。2016年4月から京都大学教員。
詩集:『沈むプール』、『バイエルの博物誌』、『言葉の岸』(神戸名ビール文学賞)、『ホッチキス』、『家族の午後』(三好達治賞)、『闇風呂』、『ほとぼりが冷めるまで』(藤村記念歴程賞)
主な詩評論集:『アイデンティティ/他者性』、『言葉と記憶』、『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』、『石原吉郎』、『「投壜通信」の詩人たち』(日本詩人クラブ詩界賞)

「2023年 『京大からタテ看が消える日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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