【現代思想の現在】レヴィ=ストロース まなざしの構造主義 (河出ブックス)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309624464

作品紹介・あらすじ

人類学を刷新しただけでなく、二十世紀後半の思想の流れを根底から変えた巨人・レヴィ=ストロース。神話、家、仮面、自己などの重要な主題をめぐりつつ、生涯をかけて他者を探求し、かぎりなく他者に開かれつづけた、その「まなざし」を問う中から、「漂泊の思想家」という新しい姿を描き出し、さらに人類学の最前線へ向かう。いままでになかったレヴィ=ストロース入門にして、レヴィ=ストロース論の決定版。

感想・レビュー・書評

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  •  レヴィストロースについてもっと勉強しないといけないと思った。理由としては、ある思想が絶対正義になって、相手を糾弾する。それが当たり前の世の中になったからだ。
     またはあるジャンルの音楽があるとして、その音楽はある思想に基づいて行われるべきで、他の思想によって表現されるべきではないといった固定化が、当たり前のようになってきたからだった。
     真面目な人ほど邪悪にそれを押し付けるので、そのねじれを考えるためにも、レヴィストロースは重要と思われる。

     例えば、似たような造形のものが、世界各地にあることについて、レヴィストロースはこんな風に思っている。
    【砂時計型形象による宇宙の表象が、かくも広範囲に確認できるのは何故か、レヴィ=ストロースは断定的な答を提出していないが、深層心理学的解釈は断固として拒否している。名指ししているわけではないが、念頭にあるのは、こうした象徴が人類に普遍的な無意識の層に属し、その意味するところはどこでも同じだと説くユングの元型概念のような考え方であろう。
     レヴィ=ストロースは一貫してこうした深層心理学的象徴解釈を批判してきた。(深層というが実は底が浅い心理学だと手厳しい)。ヤコブソンの構造言語学の影響を受けた彼にとって、象徴に限らず言葉や物の意味とは、それ独自で決まるのではなく、必ず他の言語や事物との関係によって決まるものだからである。】
     意味とは関係性である。「ホーム」の意味は、例えばあなたのホームはどこかと外国で聞けば私は「日本」というし、日本で聞けば「大阪」と言うし、大阪で聞けば「谷町」となる。それが話される状況によって変わってくるものなのである。
     各地に散らばる造形は、他の造形との関連によって生み出されるもので、断定的な答えはない。それは、「神話に起源がない」というのと似ている。
    【先住民「固有」の神話は、体系という点で完成しておらず余白あるいは空洞がそこにあるとき、直ちにそれを埋めようとするのではなく、いずれ到来してその体系を充実させる他者の神話のために、「空洞」をそのままにとっておいたと彼は述べるのである】
     神話には、必ず余白がある。(たとえば、古事記でいえば、ツクヨミとかもしくは流されたヒルコ)いや、あらゆる創作物がそうであろう。こうした余白を残しておくことで、関係性が生まれ、何かを排除し区分してしまう体系的な静的世界を乗り越えたものができあがる。
     これはアントロペミー社会である西洋と対比される「アントロポファジー社会」である。犯罪者から社会との絆を奪ってしまおうとは思いもしない社会に対してレヴィストロースは深い敬意を持っていた。

    【拘束を批判し自由を唱える人たちが創造者というとき、彼らは、無文字社会や前工業時代の農民のように「確立した規格にそって、隣人が作るものとおなじものを作れるようにしたいと思っている」のではなく、それよりも多くを要求し「物質面、精神面で真の革新のみを」もたらす人を創造者と考えているのだ。しかし「成員すべてが革新者である」社会など果たして可能なのかとは考えてみようとしない。誰もが革新的創造者であるというのは、まとまりのない混乱状態でしかなく、そのような社会は実現も再生もありえないと気づいたなら、安易に創造力を頌えることなどできなかっただろう。そこにあるのは、「豊かな革新が生み出し得るものではなく、革新そのもの」を理想とみなし、それをあくことなく追い求める態度なのである。】
     しっかりとした勉強のうえで、余白を残して、もしくは余裕を残して、豊かな革新を生み出す。それがもっと生産的であろうが、それをやめて「革新」だけを目的・理想と思うと、最初から「革新」的なことばかりさせ、革新以外のものを捨て去ってしまう。
     余白と埋められているもの。
     こうした関係やシステムが、合理的、体系的な考えを徹底すれば、革新によって一色に染められてしまう。

     「他者」に対して、わたしたちは、鏡としてみることができるだろうか。
    【自分たちのしきたりと全く反対なので軽蔑し嫌悪感から拒絶したくなるようなしきたりが、実は、裏返しにしてみると(さかさまにしてみると)、われわれの姿に重なることを旅人は納得するのである】
     似ているけれども決して一つに重なることがなく、決定的に異なっていること。他者の立場に身を置いた「遠いまなざし」で、自らを眺め直すこと。そして余白。余白に他者が入り込めること。その他者が入り込んでも、またさらに余白ができること。それが重要なのだろう。

     むしろ神話は「余白を生産すること」に本質がある。そして、神話と共に生きている私たちも、永遠に余白を生み続けることが本質であって、成果や金やもしくは思想によって反政府だったりなんだったりすることに溺れる、言葉や観念で己を満たすことは本質ではない。

  • レヴィ=ストロースの著名な作品を取り上げながら、レヴィ=ストロースの思想がどのようなものだったのか解説する本。

    レヴィ=ストロースの著作を読む前に軽く理解できるかと思って読んでみたけど、後半は難しかった。
    レヴィ=ストロース以前の学者の著作の話が出てきたりして、そもそも構造主義をあんまり理解してないから着いていけない部分はあった。

    単純に進んでいる文化と未開の文化という対立ではなく、それぞれの立場から見ることで見方が変わり、進んでいるとか未開という視点ではなくなる。

  • レヴィ=ストロースの思想の足跡を、その主な著作に触れながら追っていくという作業は、よほどその内容を理解していないとなかなか難しいであろうことは想像に難くない。ましてや、それを一般の読者に理解できるよう著述するとなれば尚更である。
    巷間に数多ある解説書の中でも、これはわかりやすいと言える部類に入るのではないか。著者の力技であろう。

  • レヴィ=ストロースの構造主義人類学を、静的な社会構造の分析方法として捉えるのではなく、西洋的主体が他者に向ける「まなざし」を、他者から向けられる「まなざし」との交錯の中に開こうとする、人文科学の方法論上の冒険として捉えようとする試みです。

    西洋中心の進歩史観がもはや成り立たなくなって久しいものの、単なる文化相対主義も、自己の同一性を疑おうとしない点で、同じ前提に立っていることは、あまり省みられることがありません。著者は、モンテーニュの懐疑主義とレヴィ=ストロースの人類学の立場を比較することで、単なる文化相対主義を越えて、いまだ到来しない他者のために自己のスペースを開けておくことで、自己の同一性に亀裂を走らせる可能性をみようとしています。

    比較的コンパクトなサイズの本ですが、レヴィ=ストロースの思想がいまなお新しいインパクトを人びとに与え続ける理由を探ろうとする、冒険的な内容の本だったように思います。

  • レヴィ=ストロース入門編。少し難しいけどなんとか分かる。

  • 自分が属しているものと異なる文化への「まなざし」。レヴィ=ストロース自身が漂泊の人類学者だったが故に獲得した超越的な視点が、構造主義として20世紀の思想に大きなインパクトを与えた事がよくわかりました。
    多文化主義なんて今じゃ当たり前だけど、多自然主義となると、おお、そこまで行くか、という感じです。でもまあそうなるか。

    バルガス=リョサの「密林の語り部」を読んで何故かレヴィ=ストロースを思い出したのは、やっぱりマチゲンガ族の神話が出てきたのと、ユダヤ人てところですかね。

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著者プロフィール

1957年島根県に生まれる。筑波大学卒業、東京都立大学大学院博士課程中退。1996年博士(文学)。島根大学教授。著書に『名前のアルケオロジー』 (紀伊國屋書店、1995年)、『レヴィ=ストロース斜め読み』青弓社、2003年)、『神話論理の思想 レヴィ=ストロースとその双子たち』 (みすず書房、2011年)、『レヴィ=ストロース まなざしの構造主義』 (河出ブックス、2012年)、『ほんとうの構造主義 言語・権力・主体』 (NHKブックス、2013年)、編著に『読解レヴィ=ストロース』 (青弓社、2011年)、共著に『新書アフリカ史 改訂新版』(宮本正興・松田素二編、講談社新書、2018年、「ナイル川流域世界」の章を執筆)などがある。

「2019年 『神性と経験 ディンカ人の宗教』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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