平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 全30巻)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (908ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728797

感想・レビュー・書評

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  • 「私は、平家が語り物だったという一点に賭けた。」
    訳者の古川日出男さんが、前書きでそう大胆に宣言したとおり、語り手たちの息遣いが耳元に聞こえる気がするほどに、「読んでいる」というより、「聴いている」という感覚がしっくりきた、実に見事な「語り」の物語でした。
    こんなに体感的な読書経験は初めてだったかもしれません。

    平家物語といえば、日本人には少なからずお馴染み、

    「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。」

    という原典の書きだしそのままに、平清盛を筆頭とした平家一門の、儚い隆盛と滅亡の約10年を中心に描いた歴史物語です。

    しかしながら、その本軸の「平家の話」の合間合間に、平家を取り巻いていた法皇や公卿、僧、源氏一門などの武士たち、男たちの陰で憂き目をみた女たち、はたまた誰かの悪行の引き合いに出す唐天竺の説話など、無数の人々のエピソードが無数に差し込まれていることで、一つの物語としては、構成軸がぶれてどことなくメタボ化してしまっている側面があることは否めません。

    古川さんは、そんな原典の「欠点」を敢えて尊重し、一つのエピソードも省いていません。
    無数の琵琶法師たちによって語り継がれる中で、変形し、エピソードが増殖し、人々に愛されながら多くの演劇の題材になったとされる平家物語。
    古川さんは、この愛すべき欠点を、平家物語が持っていた「語り」の活用によって、見事な魅力に変えています。

    もっとも大きくは、清盛の死の前と後でガラリと語り口が変わることで、平家の衰退と、時代がいよいよ変わることを暗示しています。
    そして、要所要所で何度も変わっていく語り口は、滅んだ平家一門や、はたまた平家によって不遇の生を終えた誰かの亡霊に語りかけられているような気になったりして、まるで万華鏡のような多彩さや新鮮な魅力を醸し出しています。

    そして、なによりすごいのは、原文には存在しない古川さん独自の言葉を、要所要所にほんの一言から数行程度差し入れることによって、人生の悲劇性や因果性などを強調するとともに、明確な伏線をつくりだし、原本ではとかくブレがちな「構成力」を、原本の趣を壊さずに巧みに強化していることです。

    それによって、主軸からは外れているような末節のエピソードも、平安の貴族の時代から鎌倉の武士の時代という社会の一大転換期の中で、多くの人生が否応なく捻じ曲がっていったんだなあ、と感慨を覚え、物語に奥行きと立体感を与えることにつながっています。

    平家物語の中で好きな場面、印象的な場面はたくさんありすぎて選べないので控えます。
    しかし、多すぎるくらいに多くの登場人物がいることで、主題とされる無常観を基軸としながらも、欲望や愚かさ、執着心、親子や夫婦の切れない情、別離の悲哀、死を前にした潔さなど、人間のあれこれが、これでもかとたっぷり詰まっている約800年前の稀代の名作を、雰囲気そのままの耳なじみの良い言葉と的確に構成力を強化された形で読むことができると言う点で、一読の価値ある作品となっています。

    そして、相変わらず、編者の池澤夏樹さんの解説が見事です。
    平家物語の骨太だけれども細部が細かすぎるメタボリックな独特な様を、若冲の絵画になぞらえたり、「『平家物語』が優れているのは、一人ずつの肖像であり、それらが絡み合ってことが決まってゆく過程の物語である。」などとおっしゃってみたり、平家物語の本質をここまで端的に表現している点に、感激してしまいました。

    • nejidonさん
      hotaruさん、こんにちは♪
      とても面白そうなレビューですね!なんだかワクワクしてきます。
      著者・編者の名前だけで敬遠していたのですが...
      hotaruさん、こんにちは♪
      とても面白そうなレビューですね!なんだかワクワクしてきます。
      著者・編者の名前だけで敬遠していたのですがぜひ読んでみたいです。
      平家物語はどの登場人物の描き方も際立っていて、つい読みふけってしまいますね。
      メタボ化していても気になったことはなかったのですが、「語り」の形式を
      活用しているという点にとても興味をそそられます。
      ところでhotaruさんはどの場面がお好きですか?(多すぎて選べないかな・笑)
      2017/06/11
    • hotaruさん
      好きな場面…本当に沢山あって困るのですが、うーん、一番は「維盛入水」でしょうか。
      家族への想いを捨て切れずに潔くなれない維盛の姿は情けないで...
      好きな場面…本当に沢山あって困るのですが、うーん、一番は「維盛入水」でしょうか。
      家族への想いを捨て切れずに潔くなれない維盛の姿は情けないですが、「家族を導くことになるので」と聖に説得されて漸く海に飛び込んだ執着心や想いの強さがわかる気がします。
      あとは、「大臣殿被斬」の、宗盛の最期とか。往生のための念仏を無駄にしてまで息子のことを考えてしまうところとか。
      情けないシーンが好きなようです^_^
      2017/06/11
  • こういっては何だが、本人の書いた源氏物語を材にとった小説『女たち三百人の裏切りの書』より面白かった。現代語訳とはいっても、本来語り物である『平家物語』を、カギ括弧でくくった会話を使用し、小説のように書き直したそれは、もはや別物だ。加筆した部分に作家自身の小説作法が顕わで、いかにも小説家らしい訳しぶりであることが評価の別れるところかもしれない。が、そのおかげで、この大部の物語を読み通せるのだから、ありがたいと思わないわけにはいかないだろう。

    読み通した人は少ないだろうが、誰でも中学や高校の教科書でその一部は読んだことがあるはず。冒頭部分の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」を暗記している人も多いだろう。那須与一の「扇の的」や、義仲の死を描く「木曽最期」など、授業で教わったことを今でも覚えている。また、歌舞伎にも『熊谷陣屋』、『平家女護島』など、熊谷次郎直実や俊寛僧都といった『平家物語』に登場する人物にスポットを当てた芝居も多い。

    そうした有名な合戦の様子や武士たちの戦いぶりばかりが目に留まりがちだが、冒頭部分にあるように、『平家物語』は、諸行無常、盛者必衰といった仏教的無常観にどっぷり浸かった物語だ。また、祇王、祇女と仏御前の悲話からはじまり、後白河法王が草深い大原の里に建礼門院を訪ねる「大原御幸」で終わる、そのことからもわかるように、戦いに明け暮れる男たちだけでなく、その陰で夫や子、孫、想い人と別れなければならない女たちの物語でもある。

    もちろん、「平家にあらずんば人にあらず」とまで言わせた栄耀栄華の暮らしから、清盛の死を契機に凋落、源氏の旗揚げにより、西国に落ち延び、壇ノ浦で滅びるまで平家一門の姿を追った部分が主たる筋となる。それを太い幹としつつ、幾つもの挿話が枝分かれし、時には本邦を遠く離れ、中国にまでおよぶ。項羽と劉邦、蘇武に李陵、玄奘三蔵まで登場するにぎやかさだ。おそらく、琵琶法師によって語り継がれてゆくうちに、増殖していったものでもあろうが、その雑多な物語群の入れ子状態にこそ『平家物語』の魅力があるように思われる。

    数多く登場する武士や公達のなかでも特筆すべきは、頭領である平清盛ではなく、嫡子重盛。清盛が尋常ではない悪人として一目置かれながらも、高熱を発しての有り得ない死の有様を見ても分かるように、どこかカリカチュアライズされて描かれているのに対し、重盛の方は、その学識、物腰、人に対する配慮、朝廷を敬う態度、とどれをとっても申し分のない人物として最大級の扱いを受けている。平家の凋落は、重盛が神意によって病を得て、父より先に死ぬことがその遠因となっている。

    しかし、聖人君子のような重盛では物語の主人公はつとまらない。そこで、登場するのが朝日将軍木曽義仲や九郎判官義経といった武人たちだ。現役バリバリの小説家による現代語訳最大の成果は、人物造形の力強さにある。特に義仲は、奔放なエネルギーを持て余す豪傑として出色の出来。「だぜい」を語尾につけるところは、どこかの芸人みたいだが、都流の雅など知らぬと言いたいばかりの無礼千万な振る舞いは、いっそ小気味よく、墨をたっぷり含ませた太筆で一気に描き切ったといった感じ。剛毅であって、稚気溢れる人物像が粟津の松原での最期のあわれをいっそう掻き立てる。

    それに比べると、反っ歯で小男という外見もそうだが、奇手奇策を用いて相手の隙を突く戦法を得意とする義経は、あまり英雄豪傑らしくない。搦め手の大将という位置にありながら、功名手柄を独り占めしたがり、配下の梶原平蔵相手に先陣争いをしてやり込められるなど、梶原の言う通り将たる者の器量ではない。扇の的を射た後、船上で舞い踊る人物を必要もないのに射させるなど残虐なところもある。性狷介固陋にして子飼いの者にしか心許すことがない。後に先陣を許されなかったことを恨みに思う梶原の讒訴により兄との仲を割かれるが、あながち梶原ばかりが悪くはないと思わせる人物として描かれている。

    意外に思うのは、重盛をはじめとする当時の政治家たちが自分の国をどう見ていたかという点である。幼帝の践祚や還俗しての重祚など、何かというと中国の先例を引いて、その正当性を確かめようとするところに、中華文明圏の一員としての自覚を見ることができる。自分の国は粟粒ほどのちっぽけな島であるという言葉さえ見られる。また、自分の置かれた状況を図るのに、『史記』にある蘇武や李陵の例を引くなど、中国文化をモデルにして生きていたことをうかがわせる。自分の国の小さいことや歴史の浅さをよく知り、中華文明を生きていく上での規範としていた訳だ。

    多くの作者によって語られた物語群の統合としてある『平家物語』。そのなかに、何人かは知らないが、世界を俯瞰できる眼の持ち主がいたのだろう。今でこそ『平家物語』は軍記物の古典である。しかし、当時これだけのものを書こうと思えば、中国古典に習うしかない。そして、そのなかに仏教的無常観を招じ入れ、独特の語り物文学をつくり上げた。訳者は、そこに諸国放浪の琵琶法師はもとより、皇族、公家や武士、多くの女人たちの声を聴きとり、ポリフォニックな語りの文体を採用した。かなりの長さだが、単調になることなく最後まで面白く読み通すことができたのは、その工夫によること大である。古川本で『平家物語』を読んだ、という人が増えることはまちがいない。

  • 古典に興味が湧いてきていたのと共に、アニメの面白さに後押しされて読み始める事に。

    学生時代の教科書以来だと思うけど、想像以上に哀しく胸を打つ物語として読めたのは、栄華と零落の中で揺らぐ礼節や狡猾さ残酷さが今も変わらないリアルさを持っているからか。

  • 900頁近くに亘る語りが、凄すぎる。
    以下、ネタバレ有り。
    ストーリーは知っている方も多いだろうが、古川日出男の紡いだ声が凄い。
    敢えて伏せないので、引用等、ネタバレ嫌な方は気をつけてください。



    最後の最後まで、読ませきる。
    それが仕事だからか。
    そこに生きていた人々の、無数の声と、撥と、琵琶の音が響き渡る。
    幾つか『平家物語』を訳した本や小説を読んできたけれど、筋ではなくまさに物語として秀逸だった。
    泣けます。

    序盤、政治パートとした、清盛の栄華からの驕り、そして後白河院や山門とのバランスを上手く保てなくなってゆく。
    そこに文覚上人、頼朝、そして木曾義仲登場。
    まもなく清盛の壮絶な死に様が描かれる。
    このターニングポイントを盛り上げる語りが、ものすごく上手い。


    「閏二月四日、いよいよ病苦に責められて、最後の手段として板に水を注いで、その上に寝ころばされたけれども楽になった心地もなさらず、悶えられ、苦しまれ、気絶され、地に倒れ伏され、とうとう踠き死にをなされました。悶絶死を。


    悶絶死をなされました。清盛公は。


    死んだ。清盛は。」


    語りの口調が変わり、そのハッとさせられた気持ちはそのまま、戦パートへ。


    「一つ鳴れ。鳴らせ。よ!
    また一つ鳴れ。二つめの撥、鳴らせ。た!
    いま一つ鳴れ。三つめの撥、鳴らせ。は!
    それから控えよ。この三面、この撥三つ。琵琶と琵琶と琵琶、三分の天下の寿永の三年。いよいよ戦さに次ぐ戦さに次ぐ戦さの年は来る。合戦の年は、来る。いや、もう来た。しかしまずは静けさがある寂しさがある。そこからだ。」


    平家の都落ち、福原落ちの後、九の巻にある有名な木曾最期でわーっとなる(笑)
    義仲の鼓判官イジリが仇となったか、自軍がどんどん減っていく中での巴ちゃんと今井四郎が格好良すぎる。

    からの義経に追い詰められ、忠度、敦盛、知章の最期と重衡生捕り。
    男と女、それぞれの悲哀。
    父と子、それぞれの悲哀。
    敵も味方も宿命の前には何も出来ない。
    けれど、死を選ぶその時に、最期の名誉を考え、死後の安らぎと解放を願う。
    潔さに清さを伴わせ、語りは遺されてゆく。

    十一の巻。
    壇浦が近付く。
    男も女も船から飛び込み、平家の赤旗と相まって海が赤く染まる。


    「二位殿は、見られていた、女房たちのありさまを。また戦さの形勢を。男たちの合戦がどうなったか、どうなり果てるのかを。戦場には出られない女として、一切をご覧になっていた。女としてー。
    そう、女としてです。女。
    二位殿は、女なのです。
    かつ主上の、おん祖母。そうなのですよ。女。」


    誰も残らない。
    灌頂の巻に辿り着き、
    そして鎮魂の語りは止む。

  • 「平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集)」(古川日出男 訳)を読んだ。
ええ読みましたとも。
訳者あとがきまで含めて880頁。
    
原文は『祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、云々』のところぐらいしか知らないけれど、この古川日出男さんの訳文は見事だと思うな。
まさに琵琶の音に合わせて歌うような語りかけるようなリズムだものな。
畳みかける饒舌さが良いです。
    
単なる英雄譚ではなく人の弱さを余さず語るところが平家物語の真髄か。 
    
しかしまあ誰も彼もよく泣くのね。
    
『赤地の錦の直垂に紫裾濃の鎧を着て』とか『赤地の錦の直垂にに唐綾威 の鎧を着て』とか『朽葉色の綾の直垂。その上に赤革威の鎧』とか誰も彼もオシャレだしね。
    
あー面白かった。
    
今このときの『安◯派』の凋落ぶりを見るにつけてもまさにまさにおごれる人も久しからずということでございますでしょうか。嗚呼!

  • ふうぅ。。。ようやく読み終えた。

    つまらなかったわけではない。逆にその圧倒的な語りに魅了されて、疲れた、良い疲労だ。ただ字面を追うことを許さない物語。

    とにかく、あまりに多くの人物が登場する。そしてあまりに多くの人物が死ぬ。諸行無常、盛者必衰では片付けられないドラマがここにはある。ありすぎる。

    そして、当時の日本列島に生きた人々の行動原理の合理性と不条理とが現在まで継承されていることに、ぞっとさせられもした。例えば、恥をかかないために自害するという文化。これは武家の文化。一方、そそくさと鞍馬へ逃げ出す後白河上皇の、これはこれで微笑ましい、公家の文化。
    国籍は問わず、日本に長く暮らしている人の意識の中では、ひそかにこの相反する文化が同居し、いまもなおせめぎあっているのではないかと思った。

  • アニメ「平家物語」の元になったということで興味があり読んだ。
    大変な長編で圧巻だったが、読んでいくにつれ、私はここまでのものを求めていたわけではないということに気づいた。なぜなら、アニメとはだいぶ違ったからだ。アニメでは、重盛や建礼門院徳子など描かれるのは数人ながら、その代わり心情などは細かく描写されていた。一方今回読んだ「平家物語」は文字どおり平家の物語。実にさまざまな登場人物とエピソードがある。これがあの有名な「平家物語」か、という満足感はあったものの、やっぱり私はアニメの方がわかりやすくて好き。幼い我が子を亡くし自分だけ助かってしまった徳子の悲しみや、次々と入水していく様子などは、アニメの方がダイレクトに伝わってきた(きっと短い回数に凝縮されていたから)。
    とはいえ、これだけの長編が何年も語り継がれ写し継がれてきて、そして現代でもなお訳されていることは、大ベストセラーの証。
    欲を言えば、もっともっと現代の言葉で訳してほしかった(人物が役職などで書かれているが、当時は確かにそうだけど、ずっと名前で書いてほしい、とか)けど、そんなことを言ってるようでは歴史物を読む前に勉強しなさいと言われちゃうかな。

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  • 年末から延々と読み続けた・・・。
    900ページ。
    途中で投げ出したくなるんじゃないかなと思っていたけど杞憂でした。
    おもしろかったー!
    現代語訳といいながら、小説として成立しているし、「読ませる」演出があって、読みやすかった。
    たしかに人名が似ているから、「は?あれ?」ってなることもあるけど、巻末についている系図を見れば解決するし、断片的にしか知らなかった平家物語を通しで読むと、有名な冒頭の祇園精舎の鐘の音・・という一節が胸に響く。

    受験生じゃなくても、ぜひ一読を。

  • 2017.1.14市立図書館 →2022.1購入
    図書館の予約待ちが意外と(話題になっているわりに)はやく回ってきたけど、ちょっとじっくり腰を据えて読める状況ではなく、この厚み、手元においてゆっくりゆっくり読み続けていくものかも知れぬと読了は諦め、冒頭や解説などをぱらぱらとつまみ読み。現代語訳の語り口はするするとひきよせられるものだし、やはり買うしかないか。

    巻末に系譜などがあってたすかるのだけど、(この作品に限らず大河文学の場合)できれば折り込み付録か切り取れる仕様になっていると参照しやすくていいのになぁ、と思う。

    ***
    2022年1月、アニメ版の放送が始まるため、とりあえず購入。映画のほうの犬王(文庫)もあわせて。

  • なんといっても木曽義仲の最後が泣ける。

  • ついに読み終わった。いろんな素敵なエピソードがあり満足。

  • ついに読み終わりました。
    読みやすかったし読み応えあった。
    複数の語り部がいる複雑さを見事に表し、琵琶のリズムを巧みに躍らした文章だった。
    悲哀に満ち満ちた、敗者、弱者に寄り添う物語。
    何百年も時を隔てたその物語の登場人物に感情移入出来ることが素晴らしく、時を超えた読書だった。

  • 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
    中学生の時だったか、高校生の時だったか、授業で暗記させられ、しかしそこしかほとんど記憶になかった日本の古典。
    今回、古川日出男の新訳ということで、はじめて通読した。
    長い。そして、まえがきで訳者自身が述べているように、後からとってつけたのだろうな、と感じるようなエピソードや回り道の挿話が多々ある。
    しかしその回り道が案外面白かったりする。
    今回読んでいて面白かったのはキャラクター造詣だ。どこまでが訳者の脚色でどこまでが原本によるのかわからないけれど、入道清盛の悪辣さ(でもどこかとぼけた面もある)、そんな父親の非道ぶりのフォローに東奔西走する誠意の人・重盛の苦労人っぷり、いいやつなんだろうけれど馬鹿だとしか思えない木曽義仲の田舎っぽさ、他、もっと細かなキャラクター一人一人も突っ込みどころがあり、面白い。
    清盛が案外あっけなく死ぬことにも驚き、源頼朝の本作の中での存在感の薄さにも意外性を感じ、でも源義経に感情移入するかといったら案外この判官も平家物語の中では人の気持ちを思いやらない猛進型人間で、じゃあ誰が一番いいかと言うと、うーん、今井四郎?
    でもこういうキャラクターたちが好き勝手暴れまわるのを往時の人たちは楽しんでいたのかなと思うと興味深い。その同じキャラクターをはるか後代の自分が「いや、コイツはないな~」とか「いいヤツだ」とか感じているということも、考えてみればすごい。
    琵琶法師による「語り」を意識した訳文が、そのリズムが読みやすく、分厚い古典が身近に感じられたのが嬉しい。

  • ●うむ。たいそう手こずった。
    夏休みの読書感想文(←平成末期でもこの課題は存在してるんですかね?)に悩む中高生には1ミリもお勧めしませんぞ。
    古川日出男作品のファンなら御自由に。

    ●まえがきでは「一文も訳し落としていない」とのこと。たしかに。
    気になった箇所について、底本として挙げられてる小学館全集版をひっぱりだし、どれどれと(部分的に)見比べてみたのですが、確かにそのようです。
    むしろちょいちょい足してますな。ま、でなきゃわざわざ現役作家が現代語訳なんかしなくてもいいよねー。

    ●ではここで唐突に古川日出男作品チェーーーック! ファンの皆様のご意見は知らんぞ。

    1・いきなり一定の単語を反復する
    2・いきなり文章を倒置する
    3・いきなり読み手に話しかける

    ……私、古川作品を読むのは約6年ぶりなのですが(←その辺りが確認できるブクログさんありがとうございます)、どうやらまったくもってあいかわらず1~3を踏襲されている模様です。ソコはええんやで?スキ。

    ただし。
    面白いか面白くないかを問われれば、「よくわからない…」とお答えします。
    なんせ『平家物語』。
    そもそもの筋立てがつまらなかったら、21世紀まで語り継がれるわけないだろうこのやろう!(白目)

    ●率直に申し上げると、本来の『平家物語』の筋立てを追いたい方にお勧めするのは、こちらではなく底本の小学館版日本古典文学全集です。
    するする読める訳文です。
    挿絵も訳注も充実。素敵。

    それでも古川版を選んだ人の目的は、散りばめられてる(はずの)古川色だと思うのですが…どうなの皆様ご満足なの?? 
    個人的には

    1・比較的長い文章は、もすこし切り分けて古川粉を振りかけた上で提供してくれてもよかったんやで?

    2・そんで終盤にドヤドヤ登場する語り手の皆様は、もすこしはやめに声を大きく話しかけてくれてもよかったんやで??(←原典を損うギリのラインかな? でも、語り物ならもちっと前面に出てみてもいいのでは。各々が/口々に語る効果はいいと思います。声は出す&張るものです。特にマイノリティはな…声をデカくしたら品がないと言う意見はわかりますが…)

    ●そんなところで。ウエメセ気味な感想部分は申し訳ございません。期待値が高いと比例して厳しくなるものです。            
    ちなみに、お試しでとある段を声に出して読んでみたらちょっと楽しかったです。壁ドン!されない住まいの者ならではの遊び方ですね。もちろん貴族ではない。

  • 完訳というのは素晴らしい。900頁近くある大作だけれど、読みやすく一気に読んだ。
    それにしても、断片的な知識というのは勘違いが多いということをあらためて思い知られた。こうして物語を通読してみると、切れ切れのエピソード同志の因果関係が理解できて、頭の中がすっきりする。

  • 声が幾つもの鳴り響いている。『平家物語』は単一の語り部ではなく複数語り部が物語を継ぎ足した、だから声は幾つもある。
    異なるvoiceの集合体だ。だからこれはミックスされた物語としてある、古川さんの作品を読んだ人ならわかるだろうが、古川日出男という作家は幾つもの声を、voiceが鳴る小説を書いてきた。そして、DJのように繋ぎミックスしている。だからこそ、『平家物語』が古川日出男訳で新しく形になることは極めて正しいと読みながら思う。
    幾つもの声が鳴り響いている。諸行無常、あらゆる存在は形をとどめないのだと告げる響き。

  • 17/01/04。

  • 古川日出男による『平家物語』の完訳。
    そもそも平家は原文自体が美しく、リズミカルだが、現代から見ると説明が必要だったり冗長だったりする部分も多い。訳者はそこに複数の「語り手たち」を、しかも無常観や仏の功徳について深く知っている「語り手たち」(彼らの正体は平家滅亡時の語りで明かされる)を登場させることによって、物語の主題がより明らかになるようにしている。「前語り」にて、訳者が書いた「物語の中味に改変の手を入れず、どうやって『構成』を付す? 私は、平家が語り物だったという一点に賭けた」という文に示されているように、「語り手たち」の登場によって、物語に新たな構造が生まれている、ということなのだろうと思う。
    平家そのものの美しさと訳者の特徴的な文体の迫力とが相まって、始まりから終わりまで、活劇の場面も陰鬱な場面も、飽きさせられずに読み終えることができた。

  •  2022年1月からアニメ「平家物語」と大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が始まらなければ、私はこの本を読もうと思わなかったかもしれない。とはいえ抄訳版の『平家物語』(角川ソフィア文庫)を持っているくらいには好きで、だが本書の情感の深さは抄訳版とは比べものにならないほど違った。
     
     小松殿こと平重盛の清廉でどっしりとしたたたずまいへの敬意がそこかしこから感じられる。その嫡男で富士川の戦いや俱利伽羅峠の戦いに敗れ、断ちがたい妻子への思いに苦しみながら入水する維盛への温かい眼差し。その訃報を聞いた弟・資盛の嘆き。世を儚んで兄より先に逝った清経の絶望。アニメはこの本を原作としているが、重盛の子どもたちを軸に描いた理由がよくわかる。

     文体は「琵琶法師による語り聞かせ」であることを重視し、短く、わかりやすい。だから圧倒的に読みやすい。合戦の場面では琵琶の数を増やし、合いの手を入れ、躍動感に溢れていて、まるで演芸場で実際に琵琶語りを聞いているような臨場感さえある。武士の直垂や甲冑の色まで細やかに描写されているから、情景が鮮やかに浮かぶ。その背景となる平安時代の自然もさぞ美しかっただろう。
     特に一の谷の戦いから壇ノ浦にかけて、平家の武将が次々と討ち死に・自害していく様は圧巻で、哀切極まりない一人一人の死に様が胸に迫り、いつまでも読み終わりたくないと思うほど世界観に浸れた。

     殺し、殺される男と生き延びて後世を弔う女という2つの視点が強調され、”男”の物語は維盛の嫡子・六代御前の処刑で終わる。”女”の物語は清盛の娘で安徳天皇の母・建礼門院が最後を担い、この世の栄華も苦難も全て見たと語り静かにその人生を終えていく。「穢土から浄土へ。」その一文に尽きる。一貫して鎮魂と祈りを込めた物語なのだ。
     これほど長大な古典文学を飽きずに読ませるすばらしい現代語訳をして下さった古川日出男さん、二段組みにせず読みやすい文字の大きさを保ちながら四六判ハードカバー・厚さ4.5㎝の美しい装丁に仕上げた出版社やブックデザイナー、製本所など関係各所の見事な仕事ぶりにも深く感じ入っている。

  • 2020年5月、NHK「100分de名著」が本書を取り上げていたのをきっかけに読んだ。

    国語の授業で扱っていたものの、自分がこの作品を記憶の彼方に置いてきたことがよく分かった。

    ・概要
    平家一族がいかにのし上がり、そして没落していくのかを描いた作品。
    本書は古川日出男氏が現代語訳した。原文や解説は無し。

    ・驕れるもの久しからず
     平忠盛→平清盛→木曾義仲…と、頂点に立つものが入れ替わった時代。どの人物も驕りが見えたところから凋落が始まる。また、驕った者は念仏を唱えることなく成仏できないまま命が絶たれる。この様が情感たっぷりに描かれる。

  • 一谷嫩軍記を国立劇場で見たのをきっかけに平家物語を全訳で再読.900ページ近い厚さでなかなか時間がかかる.今年の大読書の一つとなった.
    有名シーンも本筋と関係のないエピソードもすべてに無常感がただよう.読み手を物語に引き摺り込む力に圧倒される.

  • 印象に残ったフレーズ
    ・平重盛
    聖徳太子の十七条の憲法にもこうあります。「人には皆心がある。心にはそれぞれ固執するところがある。彼を正しいとすれば、私は正しくない。私を正しいとすれば彼が正しくない。よって是非というのは定め難いもの。人は皆、相互に賢であり愚である。ちょうど環には端がないのと同じである。以上を持って腹立たしいことがあったとしても、それは自分の方に過失があったのではないかと省みよ」

  • 初めて平家物語を読みました。
    長い!!!
    800Pはなかなか読み応えのある内容でした。
    読み終わったことに満足しました。

  • なかなか苦労して読んだ。感じたことを記す。仏教にまつわる話、表現がかなり多い。俊寛が哀れすぎる。配流の島に行ったことがあるだけに、その思いは募る。俊寛のみ許されず、配流の島で亡くなった。源氏挙兵のくだりは興味深い。平家たちの「聞き逃げ」は遊女たちに笑われた。私も笑った。清盛は意外に早いところで亡くなった。平家も源氏に勝つ戦いもある。悲恋もある。間違いなく名作である。

  • 生者が、死者が、怨霊が、物怪が、語る平家の没落の物語。明確な作者が存在せず、無数の琵琶法師たちにより形成された本作は、このようなポリフォニックな無数の声により形成された稀代のエンターテイメント作品である。

    本書は古川日出男による平家物語という古典の現代語訳である。その訳文は死者の世界にいる無数の琵琶法師たちとの一種の霊的な結びつきにより示されたのではないか、と思うくらうの完成度を誇る。それは何よりも、この物語が、恋愛、戦争、政治紛争、災害、物の怪への恐怖、家族との情愛など、人間が生きる上での様々な要素を余すことなく盛り込んだ一大エンターテイメントであるということを完膚に伝えることに成功している。

    正直に言って最初のページを繰る手が重かった本作であるが、やはり歴史を経た弩級のエンターテイメント作品の面白さというのは途轍もない重力がある。池澤夏樹監修の日本文学全集の中の一冊であるが、この平家物語の役者に古川日出男を選んだ同氏の慧眼に感謝したい。

  • 古典

  • 何ヶ月もダラダラと寝る前に読んでましたが、今年中に読み終わっておこうと最後は(やや駆け足になりましたが)一気に読みました。おもしろかったです。
    学校でも習う、有名な古典「平家物語」ですが、現代語訳の完全版は、あまり無い気がします。橋本治の「双調平家物語」も大変面白いのですが、作者の解釈や「平治物語」など他の作品も入っており(それ故わかりやすくなっていますが)「平家物語」の完訳とは言えないと思います。
    今回、古川日出男という現代文学の人気作家(だと思う)が、一冊にまとめて完訳というのはとてもありがたい仕事だと思うし、源氏物語と比べると刊行数が少なく感じる平家物語にもっとスポットが当たるのでは無いでしょうか。近年、大河ドラマでも平家物語は取り上げられましたし、30〜40歳くらいの方にぜひオススメしたいと個人的には思います。
    あえていうなら、古川日出男という作家の文体の好みは分かれるかもしれません。

  • 読み終わった達成感がすごい。
    飽き性で、書き下し文で読むの辛い…とか思ってたので、口語訳・しかも琵琶法師の語り口調で書かれていたのは、語調に引っ張られるようにぐいぐい読めて楽しかった。
    それにしても、平家のことよく知らなかったけれど、平清盛ってあんなに破天荒な人だったんだァ…と今更衝撃。

  • 900頁の大作をやっと読み切った。
    平家物語が源平合戦で亡くなった武将達の鎮魂の物語というのがよく分かった。
    前半で清盛の傍若無人を描き、後半で子孫達の哀れな末路を描く。因果応報である。
    この平家物語を起点とする幾多のスピンオフ作品があり、興味があり、色々と読んでみたいと思った。

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著者プロフィール

1966年生まれ。著作に『13』『沈黙』『アビシニアン』『アラビアの夜の種族』『中国行きのスロウ・ボートRMX』『サウンドトラック』『ボディ・アンド・ソウル』『gift』『ベルカ、吠えないのか?』『LOVE』『ロックンロール七部作』『ルート350』『僕たちは歩かない』『サマーバケーションEP』『ハル、ハル、ハル』『ゴッドスター』『聖家族』『MUSIC』『4444』『ノン+フィクション』『TYOゴシック』。対談集に『フルカワヒデオスピークス!』。CD作品にフルカワヒデオプラス『MUSIC:無謀の季節』the coffee group『ワンコインからワンドリップ』がある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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