好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11)

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制作 : 島田 雅彦  円城 塔  いとう せいこう  島本 理生 
  • 河出書房新社 (2015年11月11日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728810

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好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11)の感想・レビュー・書評

  • 名所旧跡というものがある。人の口に上るので、自分では特に行ってみたいと思っていなくても、一度くらいは行っておいたほうがよいのではと思ってしまう、そんなようなところだ。古典というのもそれに似たところがあるのかもしれない。学校の歴史の授業で名前だけは聞いていても、『雨月物語』はともかく、色恋や女郎買いを主題とした『好色一代男』や『春色梅児誉美』などは、文章の一部すら目にしたことがない。ましてや山東京伝の名前は知っていても廓通いのガイドブックである『通言総籬』などは作品名さえ教科書や参考書には出てこない。しかし、出てこないから、大事ではないということではない。

    「色好み」というのは、日本の文化・伝統というものを考えたとき、まず最初に指を折るべきところ。何しろ『古事記』の国生みからして、その話から始まるのだし、世界に名立たる『源氏物語』は全篇「色好み」の主題で貫かれている。というわけで、十七世紀から十九世紀にかけての日本文学を代表する作品として選ばれているのは、浮世草子、読本、洒落本、人情本というまあ、今でいうエンターテインメントばっかし。面白くないはずがない。そうはいっても、怖いもの見たさで現代語訳を読んでみた『雨月物語』を別として、あとの三作は原文はおろか訳文すら目を通したことがない、という体たらく。

    それもそうだ。『平家物語』の書き出しのように人口に膾炙しているわけでなし、『源氏物語』のように、何度も映画化されていて、原作を読まずともある程度のストーリーに通じているといったキャッチーなところが少ないのだから。まあ、世之介という主人公はけっこう有名で市川雷蔵主演の映画でそのキャラクターも知ってはいたが。『源氏物語』五十四帖をパロディにした、こんな愉快な物語だったとは、現代語訳を読むまではとんと知らなかった。

    これは、江戸時代前期の日本各地を舞台にした一種のピカレスクロマンではないか。女だけではなく若衆、つまり男も相手にした好きものの男の一代記。日本が諸外国と比べ、性に対してあけすけなのは知っていたが、これほどまでとは知らなんだ。ところかまわず、相手かまわずことに及び、子どもが生まれたら捨て子にし、どれほど一生懸命に口説いた相手でも、時がたてば別の場所、別の女にいれあげる。この世之介という男、とんでもない男である。その一方で、女にまことを尽くし、どこまでも連れ添おうとする律儀なところもある。価値観というものがそんじょそこらの男とはちがっているのだ。

    長い戦国時代が終わり、徳川の世になったことで天下泰平の時代の空気のようなものがそうさせるのか、「金もいらなきゃ名誉もいらぬ、わたしゃも少し背が欲しい」というギャグがあったが、世之介が欲するのはただただ色事に尽きる。歌枕を訪ねるように女を求め日本各地を漂泊する前半も読ませるが、親の遺産を蕩尽しようとして果たせぬ後半のアナーキーさがニヒリズムさえ漂わせ凄みをみせるのが、「好色丸」と名付けた船で女護ヶ島目指して旅に出る最後の場面だろう。バイトやヘルプという俗語も自然になじむ島田雅彦の現代語訳は読みやすい。各巻七章で八巻のみ五章の構成。短い章立てがテンポよく、飽きさせない。

    中国白話小説を翻案し、日本を舞台にした怪談集の体裁をとる『雨月物語』は、円城塔訳。儒仏道の薀蓄を散りばめた上田秋成の原文を格調を失わない現代文によく移し変えている。「白峰」にはじまる怪異を描いて鬼気迫る迫力を見せるが、軟文学でないという点で他の三作に比べると異色。

    いとうせいこう訳による『通言総籬』は訳者も言うように田中康夫の『なんとなく、クリスタル』を髣髴させる当世カタログ風の出来。通人が当時流行っていた遊郭にあがって太夫を呼んで騒ぐ午後から夜明けまでの一部始終を、当時最先端の風俗をこれでもか、というよ... 続きを読む

  • 江戸期は市民の時代であり、先取りされた近代であった。日本の小説は既にこの時期に完成していたのかもしれない。

  • どこかで雨月物語は円城訳が一番怖いと読んで、手に取った。知らない話が多かった。現代語で通読できるのは、ありがたい。

  • 色欲に目がくらんでいる時の人間は割と生き生きしていると思うのですが、一体何でなんだろうって考え込んでしまいました。

  • 『好色一代男』の世之介のように若い頃に五百億円を遺産相続したら人生狂ってしまうだろうな。庶民のわたしとしてはその千分の一位が現実的かな。この読書メーターにレビューを書いて楽しんでいるのですからそんなにお金があっても使い道がありません。もう若くはないので色に狂うこともないのです。『雨月物語』はすこしオカルト的。『通言総籬』は江戸版「なんとなくクリスタル」といった感じ。『春色梅児誉美』は男女の手練手管が見事に描かれています。ハッピーエンドで良かったですね。

  • 現代語訳、分かりやす。
    目から鱗が落ちる。
    時代で移ろうもの変わらないもの。若い頃にもう少し勉強しておけばよかった、こう言う本を現代語訳ではなく理解できる人間だったろどれだけ楽しかったんだろう。

  • それぞれ初めて読みました。
    井原西鶴 好色一代男
    上田秋成 雨月物語
    山東京伝 通信総籬
    為永春水 春色梅児誉美

    それぞれ、江戸文化の良さや面白さについていまいち
    理解できないというか、合わない感じがしました。

  • 江戸時代に出版された物語が4つ、収められている。
    大雑把に江戸時代とくくっても、「好色一代男」から「春色梅児誉美」まで150年の間があって、江戸という時代の長さに改めて驚かされる。
    どの作品も今回の新訳ではじめて読んだ。予想以上に面白かった。
    『好色一代男』では世之介の無節操ぶり・無茶っぷり・エロっぷりにあきれ果て、これが源氏物語のパロディだとは学がないため巻末の解説で指摘されるまで気づかなかった。世之介に夢中になる遊女とか、見てくれがよくて金を持っていたとしてもこんなあほな男のどこがいいのかと思うけれど、まあ総資産500億円だしな。当時の江戸の「いい男」の基準が不思議過ぎて面白い。
    『雨月物語』では、亡霊や悪霊が迫力たっぷりに登場してきて、この物語の展開は現代でも十分通じる、と物語の基本というものはこの時代からすでにあったのかと唸らされる。
    『通言総籬』はいとうせいこうの弾けた注釈が面白く、現代作家が描いた時代物で当時に思いを馳せて想像するのとはまた違う、当時の流行り、「江戸の粋」の羅列を追うことで江戸時代という文化が垣間見える気持ちになる。
    『春色梅児誉美』では訳者の島本理生が言っている通りずいぶん男に都合がよくて、こんないい加減な生産能力のないダメ男のどこがいいんだと思いつつ、ついつい物語に引き込まれてしまう。「実は誰それの御落胤・・・」という都合のよすぎる流れはもうなんか古い昼ドラのようで、こういうストーリー展開は江戸時代からあったのかとおかしくなる。(巻末で池澤夏樹が「作者が全体の構想などなく」何にも考えずに書いている、と断じているのも笑える)
    いずれの作品も訳者の力がすごく大きいのだろうけれど、それでも、物語自体の持つ力、面白さ、というのは時代を経ても変わらないものがあるんだなとしみじみ思った。
    こんな機会がなければなかなか知ることもなかった作品だけに、出会えたことがありがたい。

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