近現代作家集 III ((池澤夏樹=個人編集 日本文学全集28))

制作 : 池澤 夏樹 
  • 河出書房新社
3.91
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728988

感想・レビュー・書評

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  • 231206*読了
    女性作家さんが増えたのが嬉しい。
    稲葉真弓さんの「桟橋」が情景付きで心によく残っている。
    ホッキョクグマが主人公の多和田葉子さんの「雪の練習生(抄)」と、クマが主要登場人物で過去に読んだことがあった川上弘美さんの「神様」。どちらも好き。
    「神様」は3.11以降にリメイクされた「神様2011」も収録されていて、川上さんのメッセージを感じた。
    この巻は動物がよく出てくる。上記2作に加えて、「鳥たちの河口」「鳥の涙」「魚藍観音記」。「動物の葬禮」はキリンという名の男の人。
    村上春樹さんの読んだことのない短編「午後の最後の芝生」もさすが春樹さんな作品。ここでももちろんパスタが登場。
    川上未映子さんの「三月の毛糸」も3.11が話の中に入っている。好きな作家さんの短編が入っているのも、喜びの一つ。にやけてしまう。
    世界文学全集、日本文学全集を編まれた池澤夏樹さんご本人の作品を初めて読めたのもよかった。

    古典も、明治から昭和の小説も嫌いではもちろんない。読めてよかったと思う。
    でも、やっぱり現代に近づくほどに、自分の中ではしっくり来るし、読みたい気持ちが高まる。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055915

  • 戦後を越えて高度成長期以降の作品を中心に選ばれた作品集。

    収録作品は次の通り。

    日没閉門(内田百閒)/鳥たちの河口(野呂邦暢)/崩れ(抄)(幸田文)/動物の葬禮(富岡多惠子)/午後の最後の芝生(村上春樹)/イシが伝えてくれたこと(鶴見俊輔)/連夜(池澤夏樹)/鳥の涙(津島佑子)/魚籃観音記(筒井康隆)/半所有者(河野多惠子)/スタンス・ドット(堀江敏幸)/ゴドーを尋ねながら(向井豊昭)/『月』について(金井美恵子)/桟橋(稲葉真弓)/雪の練習生(抄)(多和田葉子)/神様・神様2011(川上弘美)/三月の毛糸(川上未映子)/The History of the Decline and Fall of the Galacti(円城塔)

    私が特によかったと思うのはこの4編。

    鳥たちの河口(野呂邦暢)
    冒頭、主人公が干潟で渡り鳥たちを観察する描写が美しい。朝日がのぼる少し前、空が白み始めるころ合いに、ひとり海辺に立って鳥たちを双眼鏡で追う様子が静かに描かれている。
    全体を通じて静かで淡々とした書きくちな一方で、主人公の置かれている状態は公私ともに袋小路。落ち着いている状況ではない。それでも最後に飛び立つカスピアン・ターンに希望を重ねてしまうのが文学なのだ。

    魚籃観音記(筒井康隆)
    孫悟空と観音様か愛欲を尽くし、猪八戒をはじめ、弥勒や文殊といった神仏一切、はては釈迦までが野次馬根性丸出しで覗きに行く。悟空と観音が愉悦果てるまでを筒井康隆がもつ文学性、語彙や知識を総動員して表現する。
    ポルノもここまで貫き通せは、日本を代表する作品として「日本文学全集」に収録される。
    いや、思えば日本古来、古事記の最初からして、それは神々の愛欲が、古代の人々のおおらかな性がテーマであった。現代においてもひとびとの営みがある限り、性は文学の重要なテーマなのだ。編纂者の池澤夏樹に言わせればそういうことになるだろう。
    古事記、源氏物語に伊勢物語、好色一代男に谷崎潤一郎。われわれは、文学性とか表現の自由を笠にこういった愛欲の限りを覗きみている。それは西洋ではもっと直接的で絵画の分野でヌードが美の一つの主題であった。

    スタンス・ドット(堀江敏幸)
    さびれたボウリングレーンの最後の一日の様子。
    池澤夏樹の解説に「短編小説の模範のような作品」と評される通り、短いページ数の中で、ボウリングのピンが倒れていくたびに現在と過去が、起承転結が、小気味よく転がる。
    短編小説で大事なのは余韻だ。カチッと「結」で締るだけではダメだ。最後の一投がはたしてボウリングピンをすべて倒したのか、最後の音は幻聴なのか現実なのか、結果は読者に委ねて終わる。引き際まで含めての模範のような短編。

    雪の練習生(抄)(多和田葉子)
    人間性を持ったソ連のシロクマが主人公となり、自伝を記すことから物語が動いていき、西ベルリンにカナダにと亡命していく。
    ソ連時代には嫌味なオットセイのもと、半ば騙されながらも順調に書けていた自伝が、西ベルリンではシロクマのための西側活動家(それは表面的な活動であることにシロクマは当然気が付いているのだが)による不自由ない生活の中では、一転して書けなくなる。
    そこには、偽善的な活動家を通しての文学的な批判の姿勢が表れているのだろうが、主人公のシロクマはそういった批評を読者に任せておき、自分は自分の軸で社会や自伝に向き合っていく。
    何しろ西ベルリンはソ連と違って暑いのだ。二月なのに零度以上の気温の日があるなんて。

    名言も多い。お気に入りは「パンダが政治に口出しするのは熊として正しい態度なのだろうか」

    その他いくつか気になったもの

    日没閉門(内田百閒)
    エッセイのような随筆のような。内田百閒という人は偏屈、屁理屈爺なのだろう。その彼とたちあっていく登場人物たちも逞しく、また頑固だったり。
    巻頭に収められていて、面白く読める。一巻読む際にこのような清涼剤から入れると、読書の助走がぐっと早くなり、気が付けば巻末の円城塔、銀河帝国の終焉まで走ってしまった。

    午後の最後の芝生(村上春樹)
    村上春樹は10代のころに読みまくった。出会いが早かったためか、村上春樹によく表現される「アメリカ的な文章」というものが分からなかった。日本文学全集の中で読んでみると、はじめてその文体のアメリカらしさを認識した。一人だけ翻訳した文章を読んでいるかと思ってしまう。
    既読の短編も文学集で読むと違った読み味が出てくる。ベスト盤で聞いたときには大して印象になかった曲が、オリジナルアルバムでは際立って聴かせることもあるように。

    神様/神様2011(川上弘美)
    「神様」は良い作品だ。その分「神様2011」には私は否定的だ。あまりに表現が直接的すぎて、本歌の「神様」の作品性まで毀損してしまっているように感じてしまった。
    それはきっとつづられ、編纂された時期がまだ3.11から日の立たない中で選ばれた作品であったためであろう。コロナという2020年代の社会現象も2030年あたりのひとびとには今と違った印象を与えるはずだ。

  • やっとここまで来た。あと源氏物語3巻だけ。
    昭和(戦後)以降の文学選
    幸田文『崩れ』
    村上春樹『午後の最後の芝生』
    鶴見俊輔『イシが伝えてくれたこと』
    池上夏樹『連夜』
    筒井康隆『魚籃観音記』
    堀江敏幸『スタンドっト』
    稲葉真弓『桟橋』
    が気に入りました。

  • ・まごうことなき現代だ…

    ・内田百間の随筆は…twitterだ、これ。

  • この百年の間に書かれた傑作、今こそ読むに価する名作を、もっぱらモダニズムの尺度から選んで供する。

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