図説|日本の近代化遺産 (ふくろうの本)

  • 河出書房新社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (143ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309761008

感想・レビュー・書評

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  • 正直、日本の近代建築物には興味が持てずにいました。
    日本古来の木造建築とは違う、石やコンクリを使ったものは、デザインに欧米のようなロマンが感じられず、武骨なもののように思えていたのです。
    ただ、挙げられたものを見ると、欧米の建築法にのっとったものも多いことに気がつきました。

    ニッカウヰスキー余市蒸留所は、歴史は浅くても、日本のウイスキー製造施設の完成度は高く、そこから生まれる酒の完成度も高いそうです。
    なかでもここの蒸留所はスコッチ・モルト・ソサエティが認めたスコットランド地方以外では数少ない場所なんだそう。

    野田にあるキッコーマンの御用醤油醸造所には、白壁に瓦屋根の蔵が立ち並び、伝統的趣をかもし出しています。

    竣工当時の姿への復元工事が完成直前となっている東京駅。中央口はいつも閉鎖されていますが、皇居を正面に見据えて皇室用の入り口となっているものだとは知りませんでした。

    日本橋は、はじめは太田道灌と家康の銅像で飾る予定だったのが、変更されて今のデザインになったそうです。
    銅像となっている麒麟は瑞祥、獅子は東京の守護と威厳、榎と松は日本橋を起点とする全国の一里塚に植えられたもので、寓意に富んでおり魅力的。
    その後、日本の橋は、銅像などの装飾を排して、シンプルなデザインが主流になっていったそうですが、デコラティブな方が好きな私にとっては残念な潮流となりました。

    産業編、交通編、土木編と、用途によって章立てされています。
    隧道や閘門、堰堤など、漠然とわかる程度で読み方さえ知らないものが登場し、このジャンルへの知識のなさを感じました。
    大井発電所のところで、堤高15m以上のダムを「ハイダム」と呼ぶということも知りました。
    つまりエジプトのアスワン・ハイ・ダムは、巨大だというわけですね。

    読書発電所という名前がとても印象的。
    よみかきと読むそうです。これらを作った福沢桃介は、福沢諭吉の養子(次女の入り婿)で、「電力王」と呼ばれた偉大な人だったとか。

    目下、原発事故で問題視されている東電ですが、日本の電力が民間企業の手によって発展された理由の説明もありました。
    近代初頭には、国は鉱業を有効なエネルギーとしており、電力は注視されていなかったからだとのこと。
    第二次世界大戦とともに国が電力管理を決め、特殊法人日本発送電会社を設立しましたが、戦後、米軍の占領政策で民営化され、今に至るそうです。
    現在、東電は世界最大級の民間電力会社と言われるとのこと。
    今後の日本の電力管理の歴史には大きな変化が生じるかもしれませんが。

    「日本は世界先進国の中で、新築される建築物の寿命が最も短い国として知られている」ということも初耳でした。
    修理して使い続けることをせず、古くなったら使えるものも合わせて丸ごと廃棄し、新規に取り換えるため、先進国内でも産業廃棄物の割合が高い国だというのはショッキングなことです。
    さまざまな利害関係が絡んでいての結果でしょうけれど、地球のために改善する方策はないものでしょうか。

    また、西欧の街並みが美しいと感じるのは、それを支える法制度や手続きが存在しているからだそうです。
    日本では建築物などは所有者・管理者の意向が尊重され、西欧のような風景継承が望める仕組みになっていないために、都市は雑然としたごたまぜ感を伴っていることを知りました。

    著者が指摘している通り、多少強めの法律改正を行ってでも、全体的な統一感をもたらす街づくりを進める方が、住みやすさや愛着感が高まり、美しい国となっていくのではないかと思います。

    この本で紹介された建築物の目的と用途と歴史がわかり、多少理解が増したことで、これまでは特に興味を持たずに見過ごしていたさまざまな近代建築に、今後は注意を払っていけそうです。

  • 字が小さく多い。写真と文字の比率があんまりよくなくて、図鑑的要素が少ないんで、読んでて直ぐに「行きたーい!」という気分にならない。

    以下、気になる遺産。
    京都の梅小路機関車庫。毎度行きたいと思うんだけど、なかなか行けない。円形転車台観たい。

    天城山隧道。明治では一般的に、レンガを使っていたが、ここは総切石積で作られている。総切石積の道路隧道としては、日本最長。
    ディテールの石加工がいいらしい。

    長野の牛伏川階段工。フランス式階段工とも呼ばれ、階段を流れる水の流れが綺麗。

    神戸の布引水源地水道施設。滝と、日本初のアーチ式堰堤、日本初の本格的重力式コンクリート堰堤。自然も綺麗っぽくて、みどころも多そう。自然の中に現れる人工物の良さがよく出てると思う。

    山梨の八ツ沢発電所。猿橋の脇に作られた鉄筋コンクリート造の第一号水路橋が見事。ここも、自然なかに現れるコンクリートがいい味出してるように見える。

  • 請求記号:602.1ズ
    資料番号:011006715
    「Column」で、松永安左ヱ門を紹介しています。福沢桃介が関わった発電所も載っています。

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著者プロフィール

北河大次郎
文化庁主任文化財調査官。東京大学工学部卒。フランスのエコール・ナショナル・デ・ポンゼショセ博士課程修了。博士(国土整備・都市計画)。文化庁入庁後、イタリア勤務、東京文化財研究所勤務を経て、2019年から文化庁にて近現代建造物を担当。専門は土木史、文化財。主な著書に『近代都市パリの誕生』(河出 書房新社、サントリー学芸賞・交通図書賞)。土木学会のオンライン土木博物館ドボ博の館長も務める

「2023年 『東京の美しいドボク鑑賞術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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