現存在分析 (精選復刻紀伊國屋新書)

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  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314006699

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  • 「現存在」とはハイデガーの用語であるが、それはフッサールの現象学を機軸としてつくられた造語である。現存在とは、よく「人間」と言い換えられたりもするが、まさしく人間そのものであろう。ただ、人間をいかにしてとられるか?というところにその特徴があるのだろう。哲学者は誰しもが、その根本的な特質を追及してきた節は在る。これは、ある種の科学主義ともいえるだろうが、古代ギリシアのイオニアなんかもそうなのだろうけれども、ハイデガーによれば、根本的な特徴とは「不安」なのであろう。つまり、我々は存在している、つまり現在存在しているというその一点によって、言い知れぬ不安を感じるのである。だが、この不安とは人間が本性的に備えている特質なのであり、これは否定されるべきではないし、見逃されてもいけないのである。我々人間の大半はこの不安から目をそらして生きているが、それは我々が人間であることを否定しているようなものなのであろう。だからして、この不安が強く現出して、いわゆる「精神病」に陥ったとしても、ここから目を向けてはならずこれを背負いながら生きなければならない、背負いながら生きれるように、世界に目を向けて生きていかなければならない、と本人が感じられるように導かなければならない、というのが現存在分析の本領ではあるが、ここで一つ注意しておかなければならないのは、催眠療法のように一方的に診察者側が患者を手助け(尽力的顧慮)をしてはならず、むしろ、彼が本来持っている力を呼び覚ますような助け(垂範的顧慮)をしなければならないということだろう。


    だが、冷静に考えれば、これってどこかで見たことがある。まあ、ロジャースである。ロジャースが唱える「開かれた人間」や「機能する人間」というのは、つまりこのことなのではないだろうか?また、尽力的顧慮と垂範的顧慮も、フロイトの指示的な精神分析に対して、非指示的療法を唱えた彼の理念にかなりの具合で応答している。という、意味合いにおいて、現存在分析は現在も生きていると、言えるのかもしれない。


    だが、反面でロジャースにおいてプラス面が強調されすぎているような気もする。無論、現存財分析においてもビンスワンガーとボスが本著では取り上げられており、ビンスワンガーやボスはマイナス面だけではなくて、プラス面にも視線を注ぎ始めたということが強調されているが、ロジャースにおいてそれが桁違いに跳ね上がってしまっているというのも事実だろう。ちなみに、不安の反対概念が愛だとだとされているが、その愛ってやつは他者に向けられるものではなくて、「自己に向けられる愛」である。つまり、世界(他者、共同体)に開かれていることによって我々は不安となり、それと同時に自己を見つめることによって愛を得る。世界=他者と捉えるあたりが確かに現象学的なのかもしれない。ちなみに現存在分析が経験科学でありながら自然科学ではないとされているあたりも興味深い。自然科学によれば、我々は身体をそのままの物理的な身体として規定するが、現存在分析からすれば、我々の身体は精神と身体の中間的なもの、つまり我々が普段捉えている身体に近しいイメージで捉えているのかもしれない。我々は普段鏡などを通さなければ自分の顔すら見えないわけで、鏡を通しても全容は知りえない。つーことは、我々が普段捉える身体というのは実は半分が物理的でありながらもう半分は精神的なものであると言える、つーことは我々はその精神的な身体を世界に対して開かせる必要がある、と言える。だから、早い話が整形手術ってやつは半分身体ってやつを捉え損なっているとも言えるのだろうね。

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著者プロフィール

1921年大阪に生れる。1944年京都大学医学部卒業。元慶應義塾大学文学部人間科学科客員教授。1991年歿。主著『精神病理学入門』(誠信書房、1964)『ドストエフスキー――芸術と病理』(パトグラフィ双書6、金剛出版、1971)『現象学的精神病理学』(医学書院、1973)ほか。訳書 ビンスワンガー『夢と実存』(1960)『現象学的人間学』(共訳、1967)ほか。

「2019年 『現象学的人間学 新装版 講演と論文1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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