聖戦と聖ならざるテロリズム: イスラ-ムそして世界の岐路

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314009751

作品紹介・あらすじ

なぜアメリカが嫌われるのか、なぜテロが止まないのか、なぜ「聖戦」や「十字軍」が持ち出されるのか、なぜ民主化が進まないのか…。現代イスラーム理解の必読書!中東研究の泰斗が、イスラームの教義と歴史から9.11以降の国際情勢までを明解に考察。

感想・レビュー・書評

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  • [内の危機、外の危機]近代化と呼ばれる流れにイスラーム世界(特に北アフリカ・中東地域のそれ)がどのような苦難を覚え、その中でアメリカをはじめとする西側諸国が、一部の集団にとってどのように敵として認識されるに至ったかを示す作品。著者は、中東イスラーム研究の泰斗とされるバーナード・ルイス。訳者は、哲学関係に関しての翻訳を多く手がけている中山元。原題は、『The Crisis of Islam: Holy War and Unholy Terror』。


    今からおよそ10年ほど前に執筆された作品であるにもかかわらず、国境線を無視するイスラーム過激派の強大化や、イスラーム・コミュニティを抱えた欧州地域内部の不安定化などが示唆されており、大きな文脈を外していない視点が提供されているのだなと感じました。いささか仰々しいタイトルがつけられていますが、近代から現代にかけてのイスラームを知る上で、そこまで知識や背景を知らない人にとっても手に取りやすい一冊ではないかと思います。


    いわゆる「オリエンタリズム(注:西側諸国からの東側諸国・東洋に対する植民地主義的な視点を主に指す言葉)」的見方が一部で散見されるのも事実ですが、だからと言って本書のすべてを斬って捨てるべきかと言われれば、訳者の中山氏もあとがきで指摘されているようにもちろんそうではなく、一つの大きな視座として読者は受け止めれば良いのではないかと思います。そういった意味でも、非常に議論に適した作品かと。

    〜もしも自由が敗退し、テロが勝ち誇るならば、何よりも大きな犠牲をこうむるのはイスラームの人々である。しかしイスラーム教徒だけではない。世界中の人々がともに苦しむのである。〜

    西欧社会との比較についても読みどころが多かった☆5つ

  • イスラム教徒は、キリスト教の啓示はかつては本物であったが、その啓示が正しく維持されず、腐敗したと考えられる。キリスト教の啓示は最終的には完璧なイスラムの啓示によって克服されたという。

    イスラム法ではイスラムからの転向は背教であり、死刑に値する犯罪である。
    ソ連が崩壊したためにアメリカの中東政策は一変した。新しい政策には様々な目的があったが、なによりも重要な目的は中東地域において強力な覇権を握る国の登場を妨げることであった。
    中東の人々は、外部の自由世界は豊富な機械で満ちているのに、中東地域には驚くほどの貧困と抑圧がはびこっていることを強く意識している。

    アラブのメディアではホロコーストについて
    1.なかった
    2.誇張されている
    3.ユダヤ人にふさわしい運命だった
    という論調。

    アメリカの腐敗とユダヤ人による支配を非難する議論はナチの時代に由来するもの。

  • 原題:Bernard Lewis「The Crisis of Islam: Holy War and Unholy Terror」(2003)

    アメリカ国内でも著名なイスラム研究者であるバーバード・ルイス氏による著書。9月11日のテロ事件以降、国軍による戦争でテロに対抗してしまったアメリカ政府の間違いを指摘しながら、なぜアメリカに対する反感や憎悪はここまで渦巻くことになったのかを懇切丁寧に、しかも歴史的な文脈を分かりやすく整理して解説してくれます。さすが重鎮と言わしめる素晴らしい作品です。

    現代イスラム世界を構成する国家構成が近代欧州の政治学的概念を具現化したものであり、それがそもそもウンマと呼ばれるイスラム教独自の共同体思想とは相容れないものであることを明らかにします。

    この違いを加味すると、イスラム教国家における政党というものが国民の声を聞くためのもの(一部は確かにそうだが)ではなくて、統治することを最優先する機械として国民に対する宗教的教化と強制のために機能することになると分析する。

    欧州がルネサンスから産業革命までの暗黒時代の数世紀を苦しんだときには世界の中心であったのは中東であったこと。しかし、その間にイスラム世界で花開いた数学や天文学、幾何学など現代世界にも大きな影響を与える文化は、国家という政治的概念とは別次元の力であり、近代化の過程で西欧の帝国主義的覇権競争には抗いきれなかったとみています。

    また20世紀を通じて新米的でった中東諸国というのは、首脳部とアメリカ政権がくっついていただけであって国民同士がつながっていたわけでなかった点に注目する。王家や宗教上のヒエラルキーが機能している間は良いがビンラディンはその国家や王家による縛りや規制から解き放たれた国家にとっては新しいタイプの教徒だったともいえるのです。

    今現在おきている自爆テロに対してコーランやイスラム教関係者ができることはコーランが持つ多様性を汲み取りながら自戒と自省を促すことであおうろとする。コーランにおいて、自死は何よりも重たい罪なのだから。そうしたイスラム教の教義を正しく解釈しながらそれを適切に使用し、国際社会におけるイスラム教自身の自浄作用に期待する筆者の見解は、外部から何かを押し付けられることのないイスラム自身による解決を期待するものです。

    内容がかたよらず、時にイスラムにもそしてもちろんアメリカに対しても厳しい批判と改善にむけたアドバイスを示すルイス氏の洞察の深さに感嘆する本です。イスラムに関心のある方は必読です。

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