女ぎらい――ニッポンのミソジニー

著者 :
  • 紀伊國屋書店
3.84
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314010696

作品紹介・あらすじ

ミソジニー。男にとっては「女性嫌悪」、女にとっては「自己嫌悪」。「皇室」から「婚活」「負け犬」「DV」「モテ」「少年愛」「自傷」「援交」「東電OL」「秋葉原事件」まで…。上野千鶴子が男社会の宿痾を衝く。

感想・レビュー・書評

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  •  上野千鶴子さんの著書をちゃんと読むのは初めてだった。この本は、二〇一〇年つまり十三年前、自分に引きつけて考えると、だいたい私が働き始めたようなころに出た本だ。女性の私が会社員として働くなかで見えていた風景ひとつとっても、この十数年でけっこう変わったという実感がある。この本の内容は、そういう意味では「古い」と感じる点がないわけではなかったが、だからといって今更読む意味がないということにはならない。理由は次の通り。
     第一に、「けっこう変わったという実感がある」といってもそれはつまり、「私が個人的に経験する範囲では、女性蔑視的な文化・習慣が弱まったりなくなったりしていると感じることもある」という意味なので、社会全体から見ればまだまだ局所的な変化でしかないと思われるため。それどころか、逆に女性蔑視がより強まっている領域だって、おそらくあるようにも思う。
     第二に、第一の理由の通りまだ大きく視座が変わるほどの変革は起きていないとするならば、執筆時点以前の歴史的経緯や、事件や、作品や、先行研究(上野さん自身のものも含む)に対して本書で上野さんが行なっている整理・紹介・評価は、全く古びることはなく有用であるため。流行りが過ぎれば価値がなくなるというようなものではない。
     第三に、仮に一部の局所的な恵まれた環境においては女性蔑視の克服が達成されているとして、かつ読者がそこに安穏に暮らす者であったとしても、そこに至るまでの凄惨な歴史や、折り重なる死屍累々の存在や、周囲では今もなおそれが現実であるということを、知らないよりも知っていた方が人として深く豊かになるだろうと思うため。
     …というわけで、少なくとも私にとってはこの本を読んだことがフェミニズムに目を開く第一歩となった。「今この本」だったのはたまたまのご縁だが、上野千鶴子という人の積み上げてきた功績の偉大さ(の片鱗)がわかったので、今後も読んでいきたい。
     内容各論の読書メモや感想は山ほどあるが、ありすぎるので割愛。中途半端にはまとめられない…。

  • 二日連続でレビューを全消ししてしまい、泣きそう。

    読んでいて、具合が悪くなってきた。
    でもこの本に出会えてよかったと思う。
    女性学に向き合い続けることが、いかにしんどいかわかったから。

    女性の困り感をなくしたいし、でも男性のしんどさも理解しようとしたいし、誰もが平等という意味でのフェミニズムって良いよな、と思っていたけれど、女性学ってのは、カテゴライズしたくないという意思に反して、男性とは~女生徒は~と両者の溝を深める作業なのか、と感じてしまった。
    歴史を知れば知るほど、きついし、そんなんだったらフェミサイドとか起こるよな、とかぐちゃぐちゃとした思考でよくわからなくなった。

    面白かったところ、納得したけどしんど~と思ったとこ⇓
    (抜粋ではない)
    P.58-
    1960年代の半ばに「全員結婚社会は」ほぼ100%に達しそれ以降下降に転じた。
    階層差の大きい身分社会では、上位の男がたくさんの女を独占し、下層の男には女が行き渡らない。独身者の都市であった江戸には、かれらのための遊郭が発達したことは知られている。

    P.146-
    母は娘の幸せを喜ぶだろうか?母は娘に期待しながら、娘が実際に自分が達成できなかったことをなしとげたら、喜ぶだけでなく、ふくざつな思いをするだろう。息子が何かを達成しても母はそれと競合する必要はないが、娘なら同じ女だから、自分自身がそれを達成しなかった言い訳ができない。

    P.180-
    F県の名門公立女子高が共学化に踏み切ったときのこと。上野ゼミの学生が目の覚めるような卒業論文を書いてきた。「男子生徒の出現で女子高生の外見はどう変わったか」
    本人は女子高としての最後の卒業生、妹は共学化初の生徒。彼女の論文の鮮やかなところは、「主観的な」意識調査を避け、第三者の目から客観的に判断できる「外見」という指標に、徹底的にこだわったことにある。彼女が通っていた時に、授業中は体操服のズボンに履き替えて受けるという慣行は消え、スカート=最も強い女性性の記号である を履いて女子高生は「女装」を自ら選んだ。

    P. 225-
    女がミソジニーを自己嫌悪として経験しないで済む方法=自分を女の「例外」として扱い、自分以外の女を「他者化」することで、ミソジニーを転嫁すること
    二つの戦略=男から「名誉男性」として扱われる「できる女」になること、女というカテゴリーからドロップアウトし、値踏みから逃れる「ブス」になること
    「論理的な女はいない」
    「そうなのよ、ほんとに女って感情的でいやになるわ」
    「キミ?キミは特別だよ」
    「そう。わたしは『ふつうの女』じゃないわ」
    この「例外視」をつうじて、「ふつうの女」への蔑視を再生産しているのは彼女自身だ。
    「二グロの使用人ってのはね、ほんとにこずるくってすぐごまかしばかりやりやがる、眼を離したスキにね。あ、キミ?キミは特別だよ。キミはボクらと同じ教育をうけてきているもの。」
    「年とるってほんとにいやーね、ぐちが多くてくりかえしばかり。あら、お義母さま、お義母さまはべつよ、アタマがしっかりしていらっしゃるんですもの。」
    「日本の女ってのはどうしてあんなにハッキリしないんだい?イエスもノーもわからないじゃないか。キミ?キミは特別だよ。キミは典型的な日本の女の子とは言えないね。」
    「ええ、あたしだってうんざりよ。あたしは日本に合わないのよ。だから、日本を出てきたんだわ。」
    ほとんどブラックジョークだ。
    特権的な「例外」を産出することで、差別構造は無傷のまま、再生産され続ける。

  • 図書館にて。
    確か韓国で上野千鶴子さんの本がすごく読まれているというニュースを見てさっそく予約した中の1冊。
    筆者本人があとがきに書いている通り、”不愉快な読書経験”はそれはそうだった。
    でもそれは読めば読むほど、私たち女性の置かれている環境、現実がその通りだったからだ。
    でもこのような的確な分析がされている、ぐうの音も出ない状況分析を目の当たりにすることで、違う状況に置かれている人たちも気が付くべきだ。
    もしくは気が付いていないふりをやめるべきだと思う。
    読んでいるときはつらかったけれど、この本の文章はたいへんわかりやすく、ある意味痛快ともいえる。
    そして私たち自身も現実を見て感じることによって、理不尽を当たり前と思わないことが大切だと思う。
    ナチュラルに虐げられることに慣れてはいけないと強く思う。

  • ある種のタブー(「言ってはいけないこと」「誰も言ってはいけないと言ってはいないけど誰もが口を噤んできたこと」)をはっきりと言語化しちゃっている本です。
    それをタブーだという認識自体が「ミソジニー」にどっぷりと漬かっているのだなあ、という気もしますが。

    いろんな人に読んでもらいたい。怒り出す人、否定する人、我関せずの(振りをする)人、共感を覚える人、励まされる人、いろんな感想の生まれる本だと思います。
    ちなみに私は「打ちのめされる人」でした。
    私の感じてきたこと、幼い頃からの、誰とも分け合うことのできなかった痛み、苦しみが、まるで見てきたように書かれていたので、「私は一人ではなかった」という安心感を覚えるのと同時に、苦しみの根源を目の前に曝け出されたことによる恐怖感で、私は混乱しました。
    また、私の拙い処世術までも暴かれ、その薄汚れた本質を抉り出され、私が必死で守ってきた「自尊への諦念」という殻まで打ち砕かれ、何もかもをバラバラにされるという、稀有な体験までも、この本はさせてくれました。
    私はいかにして、今後、自分自身を再構築し、社会や家庭に対峙していけばいいのか、頭を沸騰させながら考えましたが、まだ答えは出ていません。
    上野さんに教えてもらいたいぐらいです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      幾つか著作を斜め読みして以来、敷居が高くて遠慮していた上野千鶴子。
      ともさんの意味深なレヴューを読んで少し興味が、、、(困った奴ですスミマセ...
      幾つか著作を斜め読みして以来、敷居が高くて遠慮していた上野千鶴子。
      ともさんの意味深なレヴューを読んで少し興味が、、、(困った奴ですスミマセン)
      2013/04/23
  • 再読。「読むと不愉快になる」と帯に堂々と明示してある本ですが、私は読んでいて不愉快というよりむしろ辛かったです。なぜ私は私のことが嫌いなのか、今まで無意識に考えるのを避けていたことをはっきりと眼前に突きつけられた感じ。特に後半は、一文一文が鋭利な刃物になって心臓を抉ってくる。

    上野的に言えば、私は典型的な「女の顔をした息子」で、それでいて紛れもない「名誉男性」志望者なんだと思う。男は嫌いだけど、女扱いされるのはもっと嫌い。東電OLの彼女はジェンダーに勝てなかった「未来の私」の姿かもしれないと思うと、背筋が寒くなる。それから、男性と女性それぞれのコミュニティにおける関係の非対称性。ホモフォビアと男性のミソジニーって、異物排斥という意味では似たり寄ったりなのね。くやしい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「男は嫌いだけど、女扱いされるのはもっと嫌い。」
      じゃぁ、どのように処遇させて貰えば気持ちが落ち着くと言うか、納得されるんですか?(私は多分...
      「男は嫌いだけど、女扱いされるのはもっと嫌い。」
      じゃぁ、どのように処遇させて貰えば気持ちが落ち着くと言うか、納得されるんですか?(私は多分ノー天気なので、女性の立場を判っていないのに、「そんなに肩肘張らなくてもイイじゃん」って思ってしまいます)。。。
      2013/04/17
  • ホモソーシャルという概念、非常に面白かった。男社会に存在する絆を理論的に解き明かして、そこから得られる帰結としての「ミソジニー」。
    難解な部分もあったが、これを機にミソジニーについて考えることができた。

  • どうしてこんなに他の女性に対して違和感を感じるのか、その理由をこの本は行き過ぎるくらい説明してくれた。一方で自らが自覚せずに取ってきた処世術まで明らかにされ、急所をずばっと刺されたようだ。作者の明晰さには毎回舌をまくが、今回は特に鋭かった。

  • ミソジニー問題が最近あまりにも話題なので読んでみた
    上野千鶴子さんはミソジニー問題のときネットでよく声明を上げていらっしゃるイメージ

    ミソジニーの根深さなど知れて勉強になった
    少し上から目線だなぁと思う書き方があったし、この方はミソジニー文化のせいでたぶん男ぎらいになってしまっているので、男性に対しても割と当たりがきつい気がする

    けれど女性がこれだけひどい目にあってきたんだ、ってことがよく分かる文だなと思うので、入門編としては良きだと思う
    東電OLとか恥ずかしながらこの本で初めて知ったのだけど、なるほど女性たちが共感してしまう気持ちが分かる気がした。関連書籍読みたい……

    男とか女とかそういうの無しにして生きていきたいけど、それをするには乗り越えないといけない壁が多すぎるんだよね

    弥生時代のときから男性器を模した土器とかが作られてるってことを博物館で知ったとき震えちゃったもんな 男性至上主義の時代長すぎたんだよね その考えを塗り直すのは相当大変だと思う
    私たちは同じ人間で、優劣など存在しないのだ
    どっちが偉いとかない

    私は母が弟に対しては「男の子だからしょうがない」と言って異常に甘やかしてるのが本当に気持ち悪くて嫌いなんだよね
    女の子である娘たちには「自分でしな」と言ってきたことを息子には嬉々としてやってあげる母親
    そういうところから世直ししていかないとミソジニーなくならないと思う 父親もそれを当たり前のように見ているしね。

    著書にも書かれていたけど、娘たちは色んな役割を担わされるのだ 娘なのに息子でもあり 母の友達でもあり 娘でもある。 そりゃ息苦しくもなるし、自分が分からなくもなりますよ

    ハッピーに生きたいものですね
    みんなハッピーにね せめて自分の半径5メートルだけでも その為にはまず私から
    男性を怒らせないように、機嫌を損ねないようにヘラヘラするのやめよう
    男性には「力で絶対勝てない」と思うから下手に出ちゃうところがあると思うんだよ女性って
    でももうそれやめる やってきていいことがなかったので

  • ミソジニーを乗り越えたい。(本気)

  • この本を読み終えて10日はたっているが、いまだにこの本のことを考えている。こんだけ食い込んでくる本は、すごい。

    差別者は被差別者の存在に依存している。依存なのだ。不均衡さがエロスだけどノットイコールではない。

    もうおなかがいたくなっちゃうよ。忘れたいくらいだ。

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著者プロフィール

上野千鶴子(うえの・ちづこ)東京大学名誉教授、WAN理事長。社会学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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