社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011174

作品紹介・あらすじ

理性に訴えるリベラルは、感情に訴える保守には勝てない――気鋭の社会心理学者が、従来の理性一辺倒の道徳観を否定し、感情のもつ力強さに着目した新たな道徳心理学を提唱する。豊富な具体例と、進化心理学や生物学、哲学、社会学などの幅広い知見を応用した説得力のある理論で道徳を多角的に分析し、明快に解説した全米ベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルからは政治のにおいが香るが、理性や感情、意識や無意識といった、人間の内面に関わることに興味のあるあらゆる人に勧められる素晴らしい一冊。「本書は、皆で仲良くやっていくことが、なぜかくも困難なのかを考える本だ」「道徳は文明の発達を可能にしてきた、人類の類まれなる能力であることを本書で示したい」らしい。直観と理性の関係、道徳の起源、人間の持つ政治の道徳的基盤、私たちが集団を志向する理由などが、論理的かつ明快に説明される。個人的には、リチャード・ドーキンスやダニエル・デネットといった新無神論者が否定する宗教に存在意義を見出しているところ、集団選択を肯定しているところがおもしろかった。
    印象に残ったところメモ。
    ・成功の秘訣をたった一つあげるとすれば、それは他者の考えを把握して、自分の視点からと同程度に、他人の視点からものごとを見通す能力だ。
    ・悪臭を嗅ぎながら他人を裁くと、より厳しい判断をする。
    ・乳児は、社会環境を理解する能力を先天的に備えている。→人間はけっして、空白の石板として生まれてくるわけではない。
    ・人間は、他人の言葉に異を唱えるのには長けていても、ことが自らの信念になると、ほとんど自分の子どものごとく扱い、疑ったり、失う危険を冒したりはせずに、なんとか守ろうとする。
    ・私たちは何かを信じたいとき、「それは信じられるものなのか?」と自分自身に問う。これに対し、何かを信じたくない場合には、自分自身に「それは信じなければならないものなのか?」と尋ねる。
    ・自然の畏敬を感じると、集団志向のスイッチがオンになる。
    ・世俗的なコミューンの9%、宗教的なコミューンの39%が長期間存続した。後者の圧倒的な勝利。
    ・新無神論者が高コスト、非効率、不合理として捨て去る儀式の実践こそは、人類が直面するもっとも困難な課題の一つをつまり親族関係なくしていかに協力が可能かという問題を解決してくれるのだ。

  • リベラルと保守は陰と陽の関係にある。両者とも健全な政治に必要な要素。リベラルはケアの専門家で、既存の社会システムの歪みによる犠牲者を見分け、状況の改善を求める。一方、自由を神聖視するリバタリアンと特定の制度や伝統を神聖視する保守主義者はリベラルの改革運動に対し、釣り合いを取る役割を果たしている。道徳は人々を結びつけると同時に盲目にする。従って異なる道徳を持つ人と出会ったら、即断せず、共通点を見つけ、信頼関係を築けるまでは道徳の話を持ち出さない。持ち出す時は相手に対する称賛の気持ちを忘れないように。

  • 田舎在住ですが、最近都市からUターンで戻ってきた年配の方が、地域の祭りや習慣を否定する発言を繰り返し、コミュニティが混乱しているところです。
    家族以外の集団が価値観を共有するための仕組みとして機能してきたものが否定されていくと、その先には繋がりの崩壊もあるのかもしれません。
    個人的にはリベラルな考えをもっていると自覚していますが、道徳的な価値について考えるよい機会になりました。

  • 地政学・戦略学博士の奥山真司さんがおすすめしていたので読んでみた。人間は理性的であるべきだしそういった人物によって統治されるべき、という哲学者の言葉に疑問を感じていたので(で、そんな超人はどこにいるの?)なぜ哲学者や合理主義者がそんな事を主張するのか納得はしないが理解の手がかりになった。リベラリストにとっては耳の痛い話が多いと思う。注釈が死ぬ程多いので少し読みづらい。日本、米国、欧州では保守とリベラルの定義が少しづつ違うのでそれを理解していないと混乱するかも

  • 道徳的価値観、良いことがどうか、正しいかどうかについて、単一の答えはあるのだろうか?

    もしあるとすれば、今の国家間の対立、政治的対立は、どちらかが頭が悪い、ということになってしまう。一方で、善悪は所詮人それぞれ、感じ方次第としてしまうと、集団の善悪は権威か多数の力で決めざるを得なくなり、あまり幸せな感じがしない…

    本書は、このようなテーマを扱う道徳心理学に光を当て、人類学的な観察に遺伝学の知見を取り入れ、悟るか逃げるしかなかった道徳の問題について、共通理解の可能性を啓く、世の中を良くしたいと考える人の必読書だ。

    本書のポイントは、味覚受容器に例えられる6つの道徳基盤である。人類が進化的に獲得した道徳感情の源泉を明らかにし、所謂左派と右派は道徳基盤の強弱が要因だとする。不規則に人それぞれとすると相対主義になり、同意と解決の道は閉ざされてしまう。だが道徳基盤のバランスだとすると、共通理解のスタートになる。

    論理的な説得力もあるし、世界を良くする実用的な意義もある理論であり、あらゆる社会性に関わる人のリテラシーとして必要だと感じた。

  • 素晴らしい。素晴らしく読むのに時間が掛かった。それくらい、まどろっこしい論旨になっているが、通読するとなぜこういう構成になっているかが腑に落ちる。それくらい、価値観や道徳観、支持政党の問題は根深い。

    小生による理解では、書き手の主張はおおむね以下のようになる。
    - 「まず直感、それから戦略的な思考」・・・人は道徳的なイシューに出くわすと、まず直感で良し悪しを判断する。そのうえで理由づける。理由付けに失敗しても判断を変えることはない。
    - 「道徳は危害と公正だけではない」・・・本書では6つの道徳基盤が存在し、その強弱がその人の道徳観を形作っているとする。左派は「ケア/危害」「自由/抑圧」の2つの基盤に重点を置き、他の道徳基盤「公正/欺瞞」「忠誠/背信」「権威/転覆」「神聖/堕落」に対する感度が低い。保守は6つの道徳基盤に対してバランスよく取り入れる傾向がある。
    - 「道徳は人々を結びつけると同時に盲目にする」・・・人間は利己的でありながら集団を形成するホモ・デュプレックスである、とする。文化のみでなく遺伝子レベルで共進化しており、人が集団に属しようとする欲求は非常に強い。私は2つの道徳基盤だけでなく、6つ全部に目配りします、といった頭で考えてサインしたところで何の役にも立たない。

    欧米的な個人主義の価値観にさらされていると、リベラル的な(下手するとリバタリアン)こそが真っ当な価値観と洗脳されがちであるが、筆者は異を唱える。中国の陰陽の考え方を持ち出し、左派も右派も政治を真っ当な方向に進めていくために必要な考え方とする。右派は道徳基盤の毀損に気づきやすく、左派は現体制で虐げられている迫害に気づきやすい。非常に真っ当な結論だ。

    結論だけ読みたければ、Conclusionの項目を読めばよろしい。が、原題 "Why Good People are Devided?" を知りたい人はじっくり腰を落ち着けて読んでみることをおススメする。良書。

  • ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリの本を読んだ時のような衝撃がありました。延々と政治の話をしているのかと思っていたらもっと根源的な話でした。素晴らしい名著。

  • 「幸せ仮説」が、すごく面白かったジョナサン・ハイトの2冊目。(多分。。。少なくとも翻訳は2冊目)

    前回は、幸福系の話題だったので、いわゆるポジティブ心理学的な人かな、と思ったのだが、道徳心理学がメインのよう。あと、進化心理学みたいなところにいて、ポジティブ心理学とは関係あるものの、やや関心の向きは違いそうですね。

    本書は、そういうハイトの専門領域である「道徳」に関するところで、かつ政治的な意見がどうして対立して、そこをなかなか乗り越えることができないのか、心理学的な構造を解明する。

    そんなに難しい内容ではないし、面白いのではあるが、なかなか読み進まず、読んでは止めを繰り返して、1年以上、読了にはかかってしまったかな?

    なので、正確な内容はあまり頭に入っていないのだが、リベラルな多元主義的な人が、保守的な人が大切にしている価値を理解していない、という構図はとてもよくわかったし、自分的にも痛いところだなと思った。

    先日読んだ、ウィルバーの「万物の理論」でしつこく書いてあった多元論の問題性と繋がって、納得の度合いがたかまっった。

  • リベラル、左派的な見解かなぜ日本人に嫌われるのか知りたくて読んだ。道徳心理学で一定程度分析できるけど、これだけでは足りないように思う。アメリカの大衆についての研究だからかもしれないが、日本の左派には独特のエリート主義、大衆蔑視、客観性の欠如があると思う。参考にはなったが、すごく役に立ったわけではない。
    他方で、人間の政治的な選択か直感の先行するものであることなど、今後の自分の活動に有効な分析も多かった。
    これを生かして、自分なりのやり方を見つけたい。

  • 全米でベストセラーになった道徳心理学の名著、「なぜ政治的な主張が異なる人々はこうもわかり合えないのか」を科学的見地から(本書にも断りがある通り)記述している。実験、アンケート、先行研究の引用を基に、直感を肯定するための理性、6つの道徳基盤、集団と一体となるミツバチスイッチ、宗教の合理性などなどの概念を提唱し、最後に道徳(道徳資本)について機能論的な定義を与えている。

    道徳といったふわふわしたものに対して科学的ににじり寄ろうとする姿勢、構造主義的な書きっぷりが非常に印象的で好印象だった。文句なしに★5つ

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著者プロフィール

ジョナサン・ハイト(Jonathan Haidt)
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授(倫理的リーダーシップ論)。1992年にペンシルバニア大学で社会心理学の博士号を取得後、バージニア大学で16年間教鞭をとる。著書に『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を超えるための道徳心理学』(紀伊國屋書店)、『しあわせ仮説:古代の知恵と現代科学の知恵』(新曜社)がある。

「2022年 『傷つきやすいアメリカの大学生たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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