脳はいかに治癒をもたらすか──神経可塑性研究の最前線

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011372

作品紹介・あらすじ

脳卒中、パーキンソン病、自閉症、ADHD、慢性疼痛、視覚障害など、治療困難と考えられていた神経に由来する機能障害の諸症状は、神経の可塑性を活用した治療で劇的に改善する可能性がある。

米国で人気の精神科医が、難病を克服した数々の患者や医師、関係者らへ徹底的に取材し、回復までの驚きのエピソードと共に神経可塑性研究の最前線を綴った全米ベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • フェルデンクライスの項目から、

    「自分の体のあらゆる部位の微細な無意識的結合を感じ取れるよう」自分自身を観察していた、と語っている。


    その動作がいかなるものかより、自分がそれをどのように実行しているかを観察することに没頭していた。

    あらゆる身体の経験には、身体的な構成要素が含まれるのと同様、私たちの主観も常に身体的な構成要素を含む。

    脳は運動機能なくしては思考することができない。

    「求められているのは、間違いの除去ではなく、学習である」フェルルデンクライス。

    筋緊張が可能な限り低下しているときに、脳の学習効果が最大限得られる、と彼は考えていた。

    相手が気分良く感じるためには、その瞬間に自分に何ができるかをただ感じ取るだけである。

    回復の鍵は、脳のどの機能が失われているかを特定した上で、感覚刺激の差異化を行えるよう、導くことにあった。

    小脳は、脳の体積のおよそ10%を占めるに過ぎないが、脳のニューロンのおよそ80%を含む。

    子供が歩けるようになるためには、背中を弓なりにする能力や頭を上げる能力など、歩行以外のスキルがまず身に付いていなければならない。

    発話は脳が口、唇、舌とともに、呼吸(横隔膜、肋骨、背骨、腹筋の動きの協調を必要とする)をコントロールできて、初めて可能になる。

  • 2016年に発行された本だが、その時すでに神経可塑性を引き出す医療行為が行われており、効果を上げているということにとにかく驚いた。
    その種類として、歩行によるパーキンソン病の治療(第2章)や(以下訳者あとがきより抜粋)
    ------
    視覚化による慢性疼痛の治療(第1章)、低強度レーザーによる脳損傷の治療(第4章)PoNSと呼ばれる舌に刺激を与える小さな装置を用いた多発性硬化症、外傷性脳損傷などの治療(第7章)、音、音楽、音声を用いたさまざまな疾病の治療(第8章)
    ------
    などが紹介されている。
    こういった治療がはやく日本でも認められてほしいものだ。

  • 不自由な体も脳の配線が更新されることで動く場合がある。神経可塑蘇性の発見は全く新しい視点をもたらし、多くの人々に生きる光明(こうみょう)をもたらした。
    https://sessendo.hatenablog.jp/entry/2022/05/11/190950

  • とても刺激的な内容。歩くことでパーキンソン病を治す、イメージトレーニングで痛みを克服する、リスニングセラピーで自閉症を治す。
    今後、こうした実践の有効性が実証されていくことを期待します。

  • ふむ

  • 米国で人気の精神科医が、難病を克服した数々の患者や、医師、関係者らを徹底取材。回復するまでの驚きのエピソードとともに神経可塑性研究の最前線が克明に綴られニューヨークタイムズ・ベストセラーに輝いた科学読み物。

    請求記号:491.37/D83

  • 脳の可塑性 (Neuroplasticity)に関する不思議な話がたくさん紹介されている。多くのエピソードが丁寧に書き込まれているため、かなり冗長だと感じる。また、脳の障害の様子を文字で表現する限界というのもあるのかと思う。現実に患者が目の前にいて、その回復を目の当たりにすると、文字情報から得られるものとは比較できない衝撃を受けるのではないだろうか。

    「幸いにも、脳は融通がきかないほど精巧なものではない」と言う。「可塑性」というように、何らかの障害が脳内の神経細胞に与えられても、まだ生きている他の神経細胞が新しい配線を作って機能が復活するということがありうるという。慢性疼痛、パーキンソン病、多発性硬化症、自閉症、脳卒中、小頭症、そのための方法がまた独特で、強い思い込み、意識歩き、舌への電気刺激(PoNS)、日光、低強度レーザー光、周波数を調整した音、などがそのための刺激として用いられる。

    ともすれば、代替医療のひとつのように受け止められかねないが、神経可塑性を信じるならば、論理的にもありうる話なのだろうとも思う。そのためにももう少し論理的にここで紹介された方法がどうやって神経可塑性を発現させるのかが研究によって証明されることを望む。また、控えめに表現されているように、ここで紹介された方法は万能のものではない。効く人もいれば、まったく効かない人もいる。その統計的な実証や、うまくいかない場合の想定条件なども明らかになり、どこまでが実行的なものなのかについての知見がと世の中の受け入れが進むことを期待する。

    翻訳者は、クラーク・エリオットの『脳はすごい』も訳した人だった。この本では外傷性の脳機能障害を受けた著者が、プリズムメガネを用いて脳を再配線することで治癒したという大変に興味深く印象深い本だったが、神経可塑性というのは急速に常識として受け入れられているように思う。神経可塑性への期待が広がると、そのための手法も洗練され、いずれ脳卒中やパーキンソン病への治療方法のひとつとして取り入れるのではないか。脳卒中にかかったりすることはこれから大いに可能性があることであり、そのときのための大きな期待ともなっている。著者は、『心臓の科学史』も訳しているという。よく調べるとスタニスラス・ドゥアンヌの『意識と脳』、ゲオルク・ノルトフ『脳はいかに意識をつくるのか』、アントニオ・ダマシオ『進化の意外な順序』なども訳している。面白い本に注目する人で、少し注目したい。

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    『脳はすごい -ある人工知能研究者の脳損傷体験記-』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/479176885X
    『意識と脳』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4314011319

  • これは名著だ

  • 慢性痛は、身体の該当する箇所が痛みを発するのではない、という事実は多くの書籍で語られているが、その痛みをどう克服するかに答えた一冊。

    以前、耳の穴に光をあてることで時差ボケを防止するデバイスが注目されていたが、そうした光や音などによる刺激による治療をトンデモ医学として扱わずに、効果があって結果が出ているのであればそれが正解とする姿勢が良い。定説を疑い、様々な方法で「脳」に刺激を与えることで難病の治癒を目指す。
    本書ではこれらの治癒能力を神経可塑性というキーワードを使って説明している。この神経可逆性についてある程度の説明は試みているが、「神経可逆性ということを科学的に説明できているのか」といった問いは無意味であり、それを存在すると仮定して「治らない病」を実験的に治療していく姿勢が重要に感じられた。たとえばレーザーを脳にあてることで「目が見えるようになる」のであれば、科学的に説明できるかどうかは患者にとってどうでもよい、見えるようになったという事実が重要であるという当たり前の「事実」をあらためて理解する。

    印象に残ったのは、長い歴史の中で人は日光に当たることで脳や内臓に光を当ててきた、脳や内臓は暗い存在ではなく明るい状態であるのが脳や内臓にとって普通の状態で、事実として皮膚はかなりの光を透過する。それら自然の状態に近い生活を送ることが脳に刺激となり治癒をうながすという箇所。日本でも過去に結核患者は暗い場所に置くのがよい、という常識を変えたことで治癒するケースを増やしたというようなケースもあったことを思い出す。
    現在のような屋内でほとんどの時間を過ごす状態は人類400万年の歴史から見れば「普通ではない」というのは、食生活(穀物の摂取)も含めて急激な変化が起きていて、それら新しい環境に適応し切れていないのが我々の身体であることをあらためて感じさせてくれる。

    暗い屋内から屋外の「普通の状態」に出ることで治癒を目指す、というのはバーネット『秘密の花園』で見たような劇的な治癒のイメージに近い。本書はこのような「物語としての治癒」を「現実」として柔軟に受け入れられるだけの内容であるし、自身や自分にとって大切な人が難病にかかったときには本書が必ず役立つと思えるだけの説得力がある。

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著者プロフィール

【著者】ノーマン・ドイジ(Norman Doidge, M.D.)
精神科医・精神分析医。前作『脳は奇跡を起こす』(講談社インターナショナル)はニューヨークタイムズ・ベストセラーとなり、全世界での売上部数は100万部を超え、ダナ財団から3万冊以上の一般向け脳科学書のなかで最高の本として選ばれている。ニューヨークにあるコロンビア大学精神分析トレーニング・リサーチセンターの研究員、トロント大学精神科の教授を30年にわたって務めた。トロント在住。

「2016年 『脳はいかに治癒をもたらすか――神経可塑性研究の最前線』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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