セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011471

作品紹介・あらすじ

分子から人間、ヌーの群れから生態系まで――すべては調節されている。

「生体を維持するべく体内で様々な種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールが存在するのと同様に、一定の区域における動植物の種や個体数を調節するルールがある」

本書で著者は、生命の《恒常性(ホメオスタシス)》という概念を提唱したウォルター・キャノンや、《食物連鎖》の仕組みを示して《生態学(エコロジー)》の礎を築いたチャールズ・エルトン、分子レベルの調節の原理を解き明かしたジャック・モノーほか、生物学・医学における数々の偉大な発見に至った過程を活写。生体内における分子レベルの《調節》と生態系レベルで動物の個体数が《調節》される様相とのあいだに見出した共通の法則と、蝕まれた生態系の回復に成功した実例を、卓越したストーリーテラーの才を発揮していきいきと綴っている。

E. O. ウィルソン、ニール・シュービン、シッダールタ・ムカジーら絶賛!

感想・レビュー・書評

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  • 食物連鎖の話。捕食者と、捕食者の捕食者の関係が重要。人体における細菌同士と、セレンゲティの動物同士の関係はそっくり同じということだそうだ。割と自明では。

  • 二重否定という論理が、細胞レベルから生態系レベルまで、生物が係るあらゆる階層で調節機能を果たしているということが、具体的な事象をもとに分かりやすく書かれていて、とても面白かった。

    生態系は危機に瀕しているものの、関係者が団結し、個人個人が自分にできることを実践すれば危機から抜け出せるということが、天然痘撲滅を引き合いに出して語られていて、生態系への責任を痛感するとともに、希望も感じられた。

  • 「生物多様性」がわからない。どの本も「生物多様性は善である」が前提で話が始まる。なぜ「生物多様性が善なのか」を知りたいのに。そのためぼくは外来魚が殺される理由がわからない。パンダは保護されるのに、絶滅に瀕しているみのむしが無視されるのはなぜだろう。ゴキブリを殺すなという主張を聞いたことがない。

    読みはじめてすぐに、あ、これはアタリかも、と思った。話はいったんセレンゲティから離れて、生物学、医学の分野に。生命にとってバランスと調整の機能がいかに大切かを解く。癌も調整の病だという。わかりやすく、読みやすい。翻訳書にありがちなもったいぶったところも、回りくどいところもない。説得力は半端ない。

    で、満を持して、自然界でもバランスと調整が大事、という議論が展開される。それがセレンゲティルール。生態系のバランスが崩れたことで起きるトラブルもいくつか紹介される。が、ここには飛躍があると思う。生命体のバランスと、自然界のバランスはイコールではない。生命体はバランスを崩すと死んでしまう。死んでしまう=NGに決まっているが、自然界にとってのNGとは何なのだろう? ブラックバスが増えて、在来魚が減るのはNG? それは単にブラックバスの側に立つか、在来魚の味方をするかの違いでは? オランウータンの立場からすれば、人間はもう少し減らしたほうがいいのでは? だとしたら人間の駆除は良いことなのか?

    イエローストーンでは一度絶滅したオオカミを再導入したそうだ。その結果は本書に紹介されているが、家畜を襲うからと駆除されたオオカミが戻ってくることでデメリットだって当然あったはずだ。そこが簡単にスルーされているのがどうもモヤモヤする。

    で、結局モヤモヤが完全に晴れることはないのだった。

  • 「生物の数はどのようにして調節されているのか?」
    この問いに対して、著者がセレンゲティ国立公園での観察を通して得た生態系の調節のルール、セレンゲティ・ルールについて解説されている。
    体内の分子レベルの調節と同じように、生態系も調節されているというものだ。

    生物は食物が増えれば増加し、減れば減少する。
    また、捕食者が多いと食べられる側の生物は減少し、捕食者がいなくなれば増加する。
    そういう食物連鎖の中では、敵の敵は味方で、天敵の天敵がいることで、自身が恩恵を受けていたりする。反対に、例えば、殺虫剤が稲を食べる虫の天敵となるクモなど殺してしまうことで、殺虫剤の使用の結果として、稲が大きな被害を受けることもある。
    順調に増えていても、群れの中の個体数が増え、密度が高くなると増加が緩やかになる生物もいる。

    生態系のルールが破られると大きな被害がでるが、そういった生態系のルールを知ることが、生態系を癒すことにつながると筆者は訴える。

    ところで、本書の内容と直接関係があるわけでもないが、日本の出生率の低さは、密度が増えると増加が緩やかになるという、当たり前の生態系のルールに則った出来事なのではないかと思った。
    日本の人口密度は世界的にも高い。

  • セレンゲティ ルールとはタンザニアのセレンゲティ国立公園から撮ったものであるが、一定の範囲内に生息する生物の数を調節するルールのことである。
    ここでは分子レベルから話を始めており、直接増やす要因、抑制する要因、抑制する要因を抑制する要因の三つでコントロールするとしている。食物連鎖も同様の考えではあるが、より要因を広範囲に求めている。アフリカの草食獣の頭数であれば、餌となる草木の量と捕食者である肉食獣の頭数が直接の要因であるが、肉食獣の頭数を変化させる要因例えば人間による駆除、疾病あるいは同様なところに住み食料を競争する種(あるいは同じ種でも狭いところに多くはまかないきれない)の頭数も大きく関わってくる。そのような条件を改善させると急速に頭数を戻すことができるが、その広範囲な因果関係を見極めるのは、粘り強い観察が必要。

  • セレンゲティから始まり微生物やウイルスまで、生物間の調整の物語。具体的な例が豊富で面白いです。

  • #科学道100冊/つながる地球

    金沢大学附属図書館所在情報
    ▼▼▼▼▼
    https://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB23900679?caller=xc-search"

  • 科学道100冊 2021 テーマ「つながる地球」
    【配架場所】 図・3F開架
    【請求記号】 468||CA
    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/volume/457681

  • 分子や細胞の数を調整するルールがあるように、一定の区域で生息可能な動植物の種類や個体数を調整するルールが存在する=セレンゲティルール。セレンゲティ国立公園の観察から。
    生命とは食物である。=食物連鎖からくる定理。
    大きな魚>小さな魚>水生の昆虫>植物や泥。
    大きな鳥は小さな穀粒を食べることができない。
    一つの丘に二頭のトラは共存できない。
    共通の資源を求めて競い合う生物種がいて、他の過剰な生物種を調節する。
    動物の身体サイズによって、小型の動物は捕食者によって、大型の動物は食物供給によって、調節を受ける。
    食べられずに多く食べる方法=移動すること。水牛6万頭に対して、ヌー100万頭。ヌーは、定住する群れと移動する群れがいる。定住する群れは87%が補食で死ぬ。移動する群れは25%が補食で死ぬ。
    ライオンやハイエナは、子供を育てるため広範囲を移動できない。
    移動性のヌー、シマウマ、トムソンガゼルは、異動によって優位性がある。
    移動は、個体数を優位に保つ。

    地球の生産能力の150%を人間は消費している。

    捕食者が草食動物の数を調整する。補色の対象になる動物もならない動物にも影響を与える。
    キーストーンの動物が存在する。食物連鎖の地位ではなく影響力が大きい。増えても減っても他の種に影響を及ぼす。
    共通の資源を求める生物種が存在し、片方の増減はもう一方の増減に影響を及ぼす。
    身体サイズは、調整の様態に影響を及ぼす。獲物を捕らえる能力で上限が、自己のニーズを満たせるか、で下限が決まる。
    密度依存要因によって個体数が調整される。
    移動は捕食される確率が低くなる。ライオンやハイエナは縄張りから離れられないから。移動は個体数を増加させる。

    正の調節=捕食者によって制限される
    負の調節=捕食者の競合で捕食者の数が制限される
    二重否定論理=種の増減は、捕食関係がない種にも影響する
    フィードバック調節=密度依存によって個体数が制限される。

  • 読み進めるのに時間が掛かった本。
    しかし、難しい話が書かれている訳ではない。どちらかと言えば、とても興味深く、ある種楽しく、文化系でも読める理科系の本。
    それが為に凡庸な自分の脳味噌が、スパークする箇所が随所にあった。

    著者は進化生物学という分野の専門家であり、本のタイトルは野生の王国であるアフリカの保護地区の名前。自ずと動物の話かと思いきや、医学の分野から始まり、薬学、生物学へと変遷。生態系の破壊から再生までの実例を教えてくれる。

    そこに串刺しされる様に紹介されるのが「二重否定」。最も「閃いた」言葉である。一見、二者間に正(あるいは負)の相関関係があるようだが、そこには抑制(あるいは増進)させる三者・四者がいるというもの。「風が吹けば桶屋が儲かる」の理屈に近い話。

    この本がそうであるように、分野が違っても働いている仕組み、法則は同じであると思え、社会科学(科学とは言えないと思っているが)分野でも、この理屈は当てはまるのではないかと、一度、自分でこの「二重否定」を取り込んで、世の中の動きを考えて見たい。細切れになった読書時間を費やす度に考えた。

  • ☆分子レベル、生態系レベルでの調節機能

  • 進化発生生物学の第一人者である著者が、生命や生態系の調節の理論的・実践的側面を紹介するポピュラーサイエンス書。内容は、ホメオスタシス、食物連鎖、酵素生産の調節、コレステロールレベルの調節及び合成阻害薬の開発、調節の不備によるがんの発生、抗がん剤の開発、セレンゲティ及びゴンゴローザ国立公園における生態系の回復の試みなど。適切な保護と生息環境さえ与えられれば、激減した生物の個体数の回復は可能ということ、「栄養カスケード」「二重否定論理」「密度依存調節」など初めて知ったがとても面白かったし、図や写真や丁寧な解説のおかげで理解しやすかった。

    身体内で生じるあらゆる事象は調節されており、身体によって維持される安定状態である「ホメオスタシス」という造語を作った生理学者キャノン、動物の個体数はいかに調節されているかを研究し「食物連鎖」や「食物循環(食物網)」という言葉を生み生態学の礎を築いたエルトン、「アロステリズム」と呼ばれる、フィードバック抑制と酵素誘導の基盤を発見した分子生物学のモノー、細菌の糖代謝の調節や人間のコレステロールレベルの調節、がん細胞を消滅させる薬の開発、生物コミュニティを構成する生物の種類と数を支配する調節のルールである「栄養カスケード」、二重否定論理に基づく調節のメカニズム、個体数の増加率は密度に依存するという「密度依存調節」

    p18
    「さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールが存在するのと同じように、一定の区域で生息可能な動植物の種類や個体数を調整するルールが存在する」

    p20
    ところが二〇世紀のほとんどのあいだ、世界の多くの地域で、多様な生物種の個体数や生息環境を変えることで生じる副作用について理解したり考慮したりすることなく、人々は、勝手気ままに動物を狩り、魚を釣り、農場を造成し、木を切り倒し、手当たり次第に資源を燃やしてきた。そして世界の総人口が七〇億人に達した今日、私たちの繁栄がもたらしている副作用が、おぞましいニュースになりつつある。

    p21
    人口がおよそ三〇億人であった五〇年前、人類は毎年、地球の年間生産能力のおよそ七〇パーセントを消費していた。この数値は一九八〇年に一〇〇パーセントを突破し、現在ではおよそ一五〇パーセントに達している。これは、私たちが毎年使っている資源を再生するには、一個半分の地球が必要であることを意味する。

    p22
    分子レベルにおけるあらゆるミクロの脅威に対抗する治療法を競うように探し求め、次々に発見しておきながら、より大きなスケールで生命が、いかに機能しているのかについて無理解でいることによって生じる脅威と、私たちが共有する生活環境の劣化を知ってか知らずか、のほほんと無視していられるのなら、こんな皮肉はないだろう。

    p30
    私の心が「あばれゾウだ!逃げろ!」と叫ぶ以前に、脳の原始的な部位の一つである扁桃体は、危険を知らせる信号を視床下部に伝える。それから、扁桃体のすぐ上にあるこのアーモンド状の司令室は、主要な組織に電気的、科学的な信号を送る。視床下部は、神経を介して腎臓の上にある副腎に信号を送り、ノルエピネフリンやエピネフリン(アドレナリン)を分泌するよう促す。するとこれらのホルモンは、血流を迅速に循環しつつ種々の器官に届く。かくして心臓の鼓動は高まり、肺の気管支が開いて呼吸は速まり、骨格筋は収縮し、肝臓は蓄えていた糖分を放出して臨時のエネルギーを供給する。ホルモンはさらに、身体中の平滑筋細胞に達し、血管の収縮を引き起こし、体毛を逆立たせ、皮膚、腸、腎臓に血液が流れないようにする。視床下部はまた、副腎皮質刺激ホルモンを放出因子(CRF)と呼ばれる科学的な信号を近くの脳下垂体に送って、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌させる。このホルモンは副腎の別の部位に送られ、血圧を上げ筋肉への血流を増大させる化学物質コルチゾールの分泌を引き起こす。
    これらの生理的なへんかは、「闘争/逃走反応」と呼ばれる身体反応の一部をなす。一世紀ほど前にハーバード大学の生理学者ウォルター・キャノンによって名づけられたこの反応は、恐れや怒りによって引き起こされ、ただちに闘争、もしくは逃走できるよう身体を準備する。

    p38
    低血圧は、生体器官が十分な燃料を確保し、排出物を除去するのに困難を抱えていることを意味する。

    p43
    キャノンの目には、神経系や内分泌系の活動の多くは、大幅な変動を防いで、体温、酸性度、水分、塩分、酸素濃度、糖分などに関する、身体の内的な状態の恒常性を保つ役割を果たしているように見えた。そして彼は、変動が一定の範囲を超えると重病や死がもたらされることを十分に理解していた。たとえば血液の酸性度を示すph値は、七.四近辺で維持される。この値が六.九五まで低下すると、その人は昏睡状態に陥ってやがて死ぬ。また、七.七まで上昇すると痙攣や発作を起こす。同様に血中のカルシウムレベルは、一〇〇ミリリットルにつき一〇ミリグラム近辺で安定しているが、その半分のレベルに低下すると痙攣が引き起こされ、倍に上昇すると死に至る。

    p43
    彼は、食事後に血糖値が上昇すると、迷走神経が膵臓を刺激してインシュリンの分泌を促し、過剰な糖分を蓄えさせることに、また、逆に血糖値が低下すると、自律神経系の他の神経が副腎に働きかけ、肝臓に蓄えられた糖分を放出させることに注目した。彼の言葉によれば、こうして「身体組織は、血糖値が変化する範囲を自律的に制限するのである」

    p44
    ホメオスタシスとは本質的に調整の問題であり、身体の状態を特定の範囲に調節し維持するために作用する、身体の生理的プロセスなのである。

    p91
    画期的な発見は一般に、先入観から解放されることで得られる。何らかの現象の原因を知ろうとするとき、私たち人間には、それに関してもっとも直接的な説明を考え出そうとする傾向がある。つまり最少のリンクから構成される、原因と結果の連鎖を見出そうとするのだ。

    p92
    A(たとえば糖類)の存在がB(たとえば酵素)の出現をもたらす場合、私たちはそこに、「AはBを引き起こす」という正の関係が作用していると推論する。ところが、「Aは、Bを抑制する何か(リプレッサ)を抑制する」という説明を考えつくには、かなりの想像力を必要とする。

    p99
    酵素誘導における二重否定論理と同様、生合成経路における負のフィードバックの論理は、生物学的によく理解できる。経路の最終生産物が豊富に存在するときには、細胞は、最終生産物や中間生産物を生成するためにエネルギーを浪費したりはしない。だが最終生産物が豊富に存在しなければ、合成メカニズムは抑制されず、必要な生産物が合成されるのである。

    p103
    エルトンが、食物連鎖を介して相互作用する生物の社会として生態系をとらえ、キャノンが、神経内分泌系を通じて互いに連絡を取り合う組織の集まりによって構成される組織として身体をとらえたのと同じように、モノーとジャコブは、「自らの合成と活動を調節する複雑なコミュニケーションシステムによって結びつけられた高分子化合物の社会」として細胞の生命を構想したのである。

    p139
    染色体は巨大であり、各染色体には平均しておよそ一〇〇〇の遺伝子が含まれる。

    p147
    成人の身体を構成する三七兆個の細胞には、二〇〇を超える細胞型がある。それだけの種類の細胞を生成し維持するには、無数の調節が必要になる。また、数兆にも及ぶ、DNAの長い分子の鎖を複製しなければならない。DNAの複製にはミスがともなう。変異の多くは無害だが、災厄のもとを生むケースもある。より正確な診断を下し、ターゲットを絞った治療を行うためには、おのおののがんに関していかなる変異が生じているかを把握することがカギになる。

    p148
    (前略)それぞれのがんで変異(もしくは喪失)している遺伝子を探すことで、がんの発症に関与している度合いの高い遺伝子のほとんどが特定されてきたのである。

    これらの調査によって得られた重要な発見の一つは、ヒトの遺伝子よひと握りのみが、がんに関与しているということだ。ヒトゲノムを構成するおよそ二万の遺伝子のうち、頻繁に変異の対象になるのは一四〇程度であり、がん遺伝子と腫瘍抑制因子のあいだでほぼ半々である。

    さらに一連の調査によって、ほとんどのがんにおいては、これら一四〇の遺伝子のつち二個から八個が変異していることが明らかにされている。おのおのの腫瘍について、どの遺伝子が変化しているのかがわかれば、遺伝的構成に従ってそれらを分類し、遺伝子の変異もがんの振舞いの関係を解明するための新たな方法を手にすることができる。

    p152
    セレンゲティには、驚異的な数の動物が生息している。たとえば哺乳類は七〇種以上、鳥類は五〇〇種以上、フンコロガシだけで一〇〇種が生息する。また哺乳類に関して言えば、まれにしか見られない動物(野生のイヌ)、最速の動物(チーター)、最大の動物(アフリカゾウ)、数の多い動物(ヌー)と、実に多彩である。

    p162
    捕食者が草食動物の数を調節するという説は、現在では「HSS仮説」[HSSはハーストン、スミス、スロボドキンの頭文字]、あるいは「グリーンワールド仮説」として広く知られている。

    p170
    ペインは、彼と同僚が発見した、生物の除去や再導入の結果生じる強力なトップダウン効果を意味する用語、「栄養カスケード」を造語した。

    p175
    [セレンゲティ・ルール1]
    キーストーン種の存在ーすべての生物種が平等なのではない
    個体数やバイオマス[特定の時点、場所における生物の量]とは不釣合いに
    大きな影響を、生物コミュニティの安定性、多様性に及ぼす生物種が存在する。キーストーン種の重要性は、食物連鎖における地位にではなく、その影響力の大きさにある。

    p176
    [セレンゲティ・ルール2]
    栄養カスケードを介して強力な間接的影響を及ぼす生物種が存在する
    食物網のメンバーのなかには、不釣合いに強力な(トップダウンの)効果を与える生物種が存在する。この効果は生物コミュニティ全体に波及し、より低い栄養段階を占める生物種に間接的な影響を及ぼす。

    p184
    生物学的に見ても、セレンゲティは周囲を自然の障壁で囲まれた、二万六〇〇〇平方キロメートル近くもの面積を持つ広大な生態系を構成する特別な場所と見なすことができる。他の大陸ではほとんど消滅しかけている、もしくは完全に消滅した、いわゆる大型動物相をなすセレンゲティは、大型哺乳類が集中して生息し、地上を多数の動物たちが移動する、地球上で最後に残された地域の一つなのである。

    p199
    [セレンゲティ・ルール3]
    競争ー共通の資源を求めて競い合う生物種が存在する
    空間、食物、生息地を求めて競い合う生物種は、他の過剰な生物種を調節することができる。

    p203
    [セレンゲティ・ルール4]
    身体のサイズは調節の様態に影響を及ぼす
    動物の身体のサイズは、食物網における個体数調整のメカニズムを決定する重要な要因の一つであり、小型の動物は捕食者によってトップダウンの調節を、大型の動物は食物供給によってボトムアップの調節を受ける。

    p206
    密度依存調節は、負のフィードバック調節の一形態である。酵素反応による生産物の蓄積が、その生産プロセスを抑制するフィードバック機能として作用するのと同じように、動物の個体数の増加は、動物を増やすプロセスを遅らせたり、ときには逆転させたりすることがある。シンクレアは出生率と死亡率を調査することで、スイギュウが受けている負のフィードバック調節を研究した。そして、個体数が増加すれば、栄養不足で死亡する成獣の(数だけでなく)割合が高まることを見出した。

    p207
    [セレンゲティ・ルール5]
    密度ー密度に依存する調節を受ける動物種もある
    密度依存要因によって個体数が調節され、群れの規模が安定する動物種もある。

    p209
    実を言えばセレンゲティには、セレンゲティ内を大きく巡回する群れと、特定の区域(安定した水の供給が得られる場所の近く)で一年を過ごす「定住性の」群れという二種類のヌーの群れが存在する。定住性の群れでは、個体の死のほぼ八七パーセントが捕食によって引き起こされるが、移動性の群れでは、捕食による死は死因のおよそ四分の一を占めるにすぎない。言い換えると、移動性の群れでは、一年で全個体の一パーセントが捕食されるにすぎないが、定住性の群れでは一〇パーセントに達する場合もある。つまり移動性の群れでは、特定の個体が捕食される確率がはるかに低い。(中略)ライオンやハイエナは、自らの幼獣を保護し、育てなければならないために特定の区域に縛られ、移動する群れのあとを追えないのだ。

    p210
    [セレンゲティ・ルール6]
    移動は動物の個体数を増加させる
    移動は、食物へアクセスする機会を増やし(ボトムアップ調節の緩和)、捕食される機会を減らす(トップダウン調節の緩和)ことだ、動物の個体数を増加させる。

    p216
    実のところ、藻類の大規模な繁茂は生態系のがんなのだ。
    人体の内部でがんが拡大するとき、がん細胞は身体のホメオスタシスを維持している組織を侵略し、破壊する。がんが骨髄や肺を攻撃すると、体内の酸素の供給が不足する。消化器官を攻撃すると、血流に含まれる主要な化学物質の微妙なバランスが崩れる。それと同様、藻類のかたまりは、湖の必須の機能を阻害することでそこに住む生物を殺す。藻類が生産する毒素は、魚類やその他の生物にとって非常に有毒であり、食物連鎖が大きなダメージを受ける。また、死んだ藻類は湖底に沈み、それを分解する細菌の活動によって湖中の酸素は枯渇する。すると魚類や他の生物は窒息し、水質の変化した、生物が生息できない不毛の領域が出現する。

    p248
    キーストーン種の再導入は役に立つが、必ずしも完全な再生をもたらすとは限らないのである。

    P269
    実のところ、適切な保護と生息環境が与えられれば、世界の多くの激減した生物種は、個体性を劇的に回復できるだろう。たとえば、キタゾウアザラシは十九世紀後半にはわずか二〇頭に減っていたが、現在では二〇万頭以上が生息している。また、オーストラリア西部のザトウクジラは三〇〇頭から五〇年で二万六〇〇〇頭へと、北大西洋のラッコは一〇〇〇頭か過去一世紀のあいだに一〇万頭へと、ミシシッピワニは絶滅寸前から五〇年でおよそ五〇〇万匹まで回復している。

    p270
    個体数の増加の基本的な限界の一つに、その地域で利用可能な食物と水によって養うことのできる動物バイオマスの総量がある。これは、生態系の「環境収容力」と呼ばれる。

  • セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか

  • 純粋に生物学として分かりやすい解説。生態系に目に見える影響を与えるのは、必ずしもトップに君臨する生物ではなく、多くの場合、中間層である場合が多いと。ただ、この現象を社会科学系に応用するとか、そういう話は一切ない。誤解なきよう。

  • 理解の追いつかないところもあるが,わかりやすくいろいろな例を出し図解説明もあって,危機感も持ちながらもとても楽しく読めた.自然の中にあるルールの解明がたとえばがん細胞の撲滅にもつながるかもしれない.とても興味深い.そして最後に挙げられていた教訓のなかの「楽観的であれ」になるほどと感じた.

  • 生体内から動物の生態系まで、二重否定のメカニズムで絶妙に制御されていることが示されている。
    食物連鎖による生態系のバランス維持が、つい最近まで認められていなかったというのは驚きである。
    ただ、守るべき自然とされるものがいつの時点の状態のものなのか、何を基準に可否を判断するのか、その問題には触れられていないのが残念。

  • 遺伝子の調節メカニズムの1つである抑制の抑制という二重否定論理が生態系にも当てはまるという点は大変興味深かった。またこれに基づき生態系の回復に適用された事例にもとても関心した。

  • タイトル買いしたものの、内容的にはイマイチ。
    調節をキーワードに、人体と自然界が共通のルールで出来ているとの説明を試みたものか。
    普通に考えれば直接つながりにくい要素を、調節というキーワードだけでつなげて自然を説明するのは、かなり無理がある。
    ただし、人体と自然界の調節に関するエピソードやデータの一つ一つは興味深く読めた。それぞれに関する入門書、エピソード本としての価値はある。

  • やや冗長かつ、前振りが長くて読みにくかった。タイトルと中身が合っていないのが、最大の難点。

  • 読了。サバンナにおける食物連鎖から細胞の中のアミノ酸まで、自然界は抑制の抑制による調整で成り立っているという話。といっても難しい話ではなく、主に調査や実験のエピソードで構成されており、興味深く読んでるうちにスッと読み終わってしまった。二十世紀初頭の歴史的なエピソードから始まるが、最後は十数年前に始まって現在も継続中のプロジェクトまで扱っており、リアルタイムで起きていることだということに感銘を受けた。あと、装丁が全然凝ってなくて力が入ってないのがよかった。

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著者プロフィール

【著者】ショーン・B. キャロル (Sean B.Carroll)
1960年オハイオ州トレド生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校教授。進化発生生物学(エボデボ)の第一人者で、2012年にベンジャミン・フランクリン・メダル、2016 年にルイス・トマス賞を受賞。邦訳された著書に『シマウマの縞 蝶の模様――エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(光文社)と、共著の『DNA から解き明かされる形づくりと進化の不思議』(羊土社)がある。野球とロックをこよなく愛する。

「2017年 『セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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