書物としての新約聖書

著者 :
  • 勁草書房
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本棚登録 : 148
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (745ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326101139

作品紹介・あらすじ

新約聖書をめぐる基本的な問いに答える。成り立ち、言語、写本、翻訳を詳細に解説した画期的な入門書。

感想・レビュー・書評

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  •  とにかく複雑な感情を持っている本だ。お値段は張るが、意外と類書のない「書物としての新約聖書」を紹介した入門書だ。
     改版するなら刊行当時に「話題になっていた」?「死海文書の謎」やシーリングの「イエスのミステリー」など知らない人もいるだろうから削除していいだろうか。
     この本ではRSVが"Epistle"ではなく”Letter"と訳したのを評価しているのに例の新約聖書のドデカい分冊本では「書物としての新約聖書」で書いた評価には一切言及しないで他人事のように正反対な事を書いている。この本では「聖書の世界」と「聖書外典偽典」で「二重出版」した人がいると批判しているけれど、さてどうだが。この本の原稿を書いた時には「聖書の世界」の「新約聖書外典」と「教会教父文書」が講談社文芸文庫で再版するとは知らなかったらしい。他人の事をあれこれ批判するなら自分が書いた事も整合性を持たせて書くべきだ。何しろ「たかがヘンデルでさえ」とバカにしている「例のオラトリオ「メサイア」」のテキストの翻訳を依頼されたら請け負っているのだ。
     「聖書の世界」と「聖書外典偽典」を紹介していない「門脇文庫 日本語聖書翻訳史」で自分が書いたマルコ伝の注解書が紹介されていないと「下劣な党派心」だと批判している。この本を使っていたら新共同訳が「旧約聖書続編」を使ったのは昭和9年に日本聖公会が刊行した「舊約聖書続篇」があるのを受け継いだ為であり、これは新共同訳の「聖書について」に「すでに戦前に使用されていた「続編」の用語を採用することにした」と書かれている事を指すと分かるのだが。日本語訳聖書については「門脇文庫 日本語聖書翻訳史」と海老澤有道の「日本の聖書」を参照すれば、もっとマシな内容になった可能性はある。例えばベルギー人のエミール・ラゲ神父を「フランス人」と書いている個所は彼がパリ外国宣教会から派遣されているので勘違いしたのか?
     ただし新改訳第2版を持っているらしくあとがきを引用しているのに頁をめくって奥付を見る手間をしないので海老澤有道が第1版の刊行年度は昭和45年なのに誤記した「1973年」を鵜呑みにしている。また新改訳聖書を「英訳のNIVにほぼ対応する」とあるのは「ほぼ」正しいとしても、新改訳聖書のスポンサーはNASBを刊行したロックマン財団であり、日本側と版権を巡って裁判闘争をしたぐらいなので、NASBにも触れた方がよかったのではないか。
     反権威主義の割にはオックスブリッジ崇拝はあるらしく、"The Catholic Study Bible"はオックスフォード大学出版局が出した書名であり、"New American Bible"は"NAB"をロゴに使っている。当のオックスフォード大学出版局が出した"The Precise Parallel New Testament"の背表紙には使われている8種の新約聖書の中に"New American Bible"は"NAB"とある。そんなにオックスフォード大学出版局が好きなら「ファンダメンタル」御用達のスコフィールド注釈付き聖書の版元なので紹介したらどうなのか?と言いたくなる。
     これはメッツガーの「新約聖書の本文研究」の方が辛辣だが、エラスムスが校訂したギリシャ語新約聖書について「世情に通じたエラスムス」ではなく版元のフローベンが準備期間を置かずに刊行していた。この本にあるようにエラスムスは「コンマ・ヨハンネウム」を認識した程度には写本の校合をしていたとしても、どういう写本が古くて良質なのかは彼が生きていた時代には分かるわけがないだろう?言ってみればエラスムスに1年足らずの日数でほとんど一からネストレ26版並みの校訂をしろ、と要求するようなものだ。第一、エラスムスはギリシャ語は取得してもヘブライ語とアラム語は取得出来なかったというし、メッツガーと違ってコプト語やゲエズ語を取得したとは聞かないのでラテン語以外の古代訳の研究には限界があるだろう。田川建三がエラスムスを酷評するのは彼がこの時代には珍しい平和主義者であり改良主義者でもあり、カトリック教会に挑戦しながらもルターやカルヴァンと違って中庸を基にしていた人なのが気に入らないのか、という気がしてくる。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/470191

  • 聖書に関して興味のある人間であれば、一度目を通して
    おかなければならない、必携書とでも言える内容だった。
    他人の著作や見解を否定する厳しさが少し気にはなるが、
    それも著者の誠実さの現れなのだろう。この本を読むと
    いかに聖書が多層的で多重的で1冊の本として簡単に括る
    わけにはいかないかということがよくわかる。もっと早く、
    聖書に関して勉強してみようと思ったその当初に読むべき
    本だった。745ページという大著だが、それだけの価値の
    ある本である。

  • 著者:田川建三
    ➡〔http://www.tagawa-kenzo.server-shared.com/sub4.html

    【書誌情報】
    価格:8,000円+税
    出版年月日:1997/01/25
    ISBN:9784326101139
    版型:A5
    頁数:770
    http://www.keisoshobo.co.jp/smp/book/b26618.html

    【簡易目次】


    第一章 正典化の歴史
     一 はじめに
     二 カノーン(正典)と「新約」
     三 旧約聖書という矛盾
     四 異端から正典がはじまった!
     五 マルキオン以前の正典的権威?
     六 正典化を促進した諸異端
     七 正統派教会による新約正典の結集
     補遺1 新約聖書、使徒的教父、新約偽典
     補遺2 この章の参考文献
     補遺3 ムラトリ正典表
     補遺4 アタナシオスの第三九復活祭書簡

    第二章 新約聖書の言語――新約聖書のすべての文書がギリシャ語で書かれているという事実は何を意味するか
     一 導入
     二 後一世紀のパレスチナの言語
     三 パレスチナにおける帝国支配の言語
     四 地中海世界の言語状況
     五 初期キリスト教=ギリシャ語の宗教=都市の宗教
     六 新約聖書のギリシャ語
     七 新約の各著者の言語的特色

    第三章 新約聖書の写本
     一 写本の種類
     二 正文批判について
     三 ギリシャ語テクストの印刷公刊本
     四 大文字写本の紹介
     五 本文の確定
     六 正文批判の実践
     七 正文批判の実例
     補遺 参考文献

    第四章 新約聖書の翻訳
     一 どの翻訳を用いるのがよいか
     二 聖書翻訳の社会的機構
     三 古代ラテン語訳
     四 近代のドイツ語訳
     五 近代フランス語訳
     六 英語訳聖書の歴史
     七 日本語訳(その1)口語訳聖書まで
     八 日本聖書協会訳と英語訳のつながり
     九 日本語訳(その2)カトリック訳から共同訳へ
     十 新共同訳の訳文
     十一 その他の翻訳

    後書き
    補遺 欽定訳とそれ以前の英訳の比較
    索引

  • 新約聖書学者の田川健三の大著。新約聖書を宗教書としてではなく、歴史的書物として分解し考察する。近代化と多元主義の啓蒙の中で、聖書の神性も客観的に暴かれ、人工の書物として眺められ続けている。日本の新約聖書学者としては名実共に第一人者である田川だが、相変わらずの皮肉節も炸裂して刺激的な一冊になっている。

    年号で表すのも困難な古代を、時系列を丁寧に整えながらその思想内容と当時の時代性、歴史性を読み取っていくその仕事は舌を巻く。途中専門的に過ぎて意識が飛びそうになったが、何とか読み終えた。


    17.9.6

  • キリスト教に興味はなかったのですが、読みだすと止まらない。
    面白い。読む価値ありの本です。

  • 最初に買った、田川本。

    著者の弁によると・・・

    『書物としての新約聖書』の続編。というよりも、『書物としての……』は新約聖書概論のうちの序論の部分。次に書くのが本論。
     まあ、 要するに、 新約聖書の諸文書とはこういうものです、 ということ。
     しかし、 書いていて思うのですが、 新約聖書が事実としてどういうものであるのか、日本語の読者にはほとんどまともに伝えられていない、 というのが実情でしょう。これだけは何とかしないといけない。 大変な仕事ですが。

    ・・・・・・・・・・・

    つまりね・・・近々、「新約聖書概論」というのが刊行を予定されていて、その序論にあたるのが本書、「書物としての新約聖書」であると、そういうことなんだそうだ。
    「新約聖書概論」の方は、刊行が遅れているのです。
    なぜ、遅れているのか・・・ということについても、著者本人のHPで書かれていましたが、「・・概論」を書くということは、いろいろと参照してもらう聖書箇所が出てくると・・・それなのに参照に値する訳出された日本語聖書はまだ無い。
    そこで、先に新約聖書の日本語訳に精を出す・・・ということのようです。
    (それが、書棚にもある「新約聖書 訳と註」)
    どっちにしても、大変すぎる仕事ではあります。

    (この項、書きかけ)

  • 新約聖書をめぐる基本的な問いに答える、というのだが大変分厚い本。で、読んでみるとたしかに含蓄も深く、ちゃんと勉強する気ならこの本を読まずにものを言うのは不遜だと思う、そういうレベルの本。
    素晴らしい。逆にお手軽にものを知りたい、という人には向かない。もっともこういう問題をお手軽に知りたい、という考え方自体が不遜きわまりないが。
    ともかく新約聖書について何か責任ある意見を持とうと考えるのなら、これは必読の書である。

  • 新約聖書の正典の成立から、翻訳論にいたるまで興味深々の一冊。

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著者プロフィール

田川建三(たがわ けんぞう)
1935年東京生まれ。新約聖書学者。ゲッティンゲン大学、ザイール国立大学、ストラスブール大学、大阪女子大学などを経て、大阪女子大学名誉教授。訳著『新約聖書 訳と註 全7巻(全8冊)』で第71回毎日出版文化賞を受賞。その他、主な著作に、『書物としての新約聖書』『イエスという男 逆説的反抗者の生と死』など。

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