- Amazon.co.jp ・本 (685ページ)
- / ISBN・EAN: 9784326301317
作品紹介・あらすじ
『組織化による近代化』はいかに挫折したか。現存した社会主義の歴史的な位置づけを鮮やかに提示し、この20世紀を総括する。
感想・レビュー・書評
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著者:塩川伸明
装丁:右澤康之
【書誌情報】
ジャンル:政治
ISBN: 978-4-326-30131-7
出版年月:1999年9月
判型・頁数:A5判・700ページ
定価:本体7,500円+税
在庫:品切れ
1980年代末から90年代初めの世界史的激動の中で崩壊したソ連・東欧の社会主義とはどういう体制だったのか。著者は20世紀の世界を「組織化によって近代化を推進した時代」ととらえる。社会主義は組織化による近代化を最も徹底して体現したモデルである。しかしやがてそれは吸引力と輝きを失い、魅力的な目標ではなくなった。かつての希望とその後の衰退の双方を説明し、現代という時代を理解するために、社会科学全般への問題提起を行なう。
〈http://www.keisoshobo.co.jp/book/b27230.html〉
【目次】
はじめに [i-v]
目次 [vii-xii]
序章 対象および視覚 001
a 問題提起 001
b 対象設定――「現存した社会主義」 007
補論 広義の社会主義について 013
c 従来の社会主義の諸類型 018
序章の注 025
第I章 方法と枠組み 031
1.1 緒論 031
a 「方法論」についての反省 031
理論と実証 社会主義体制研究と多方法性
b 「異文化論」の視点 037
「異文化」理解の対象としての社会主義諸国 文化人類学の視点 「文化相対主義」と価値の問題
1.2 体制間比較 049
a 社会主義と対比される体制は何か 049
経済体制と政治体制 自由主義的民主主義と「ソヴェト民主主義」
b 体制間比較 054
異質性と共通性 対比の様相
1.3 社会主義諸国の比較 059
a 近接比較および体制移行 059
近接比較の一般論 体制移行と比較体制論
b 社会主義諸国における共通性の要素と異質性・独自性の要素 065
共通性 個性および変動 図式の第一次的具体化の試み
第I章の注 074
第II章 社会主義体制の基本的特徴 077
2.1 経済体制 078
a 一般的考察 078
互酬・交換・再分配 資本主義と社会主義 「組織」の時代とその限界化
b 社会主義経済計算論争 088
初期の問題提起 社会主義可能論からの応答 展開 再燃
c 指令経済(一)――その原型 109
指令経済の基本型 「ソフトな予算制約」と「不足経済」
d 指令経済(ニ)――その裏面 116
公式制度とその裏面 非公式行動様式の諸相 「ぬるま湯性」
e 小括――指令経済の有効性と効率性 126
2.2 政治体制 131
a 比較における社会主義政治体制 131
「民主主義」の多義性 社会主義・自由主義・民主主義 権威主義体制およびファシズムとの比較①――方法論的考察 権威主義体制およびファシズムとの比較②――四つの指標に照らして
b 社会主義国における「政治」 149
「政治」の不在? 社会主義国における「政治」の発見 「第二の政治」と温情主義的統合 小括
c 政治制度の特徴 160
一党制とソヴェト制 党官僚制と国家官僚制 「官僚制」の限界――問題提起 社会主義的官僚制の限界 選挙・議会・社会団体
2.3 時系列的変動 183
a 大衆統合の要因とその枯渇 184
大衆統合と正統性 理念による統合 実績による統合 「ぬるま湯性」による統合 統合要因の限界 反応の両義性と体制転換
b 崩壊の「必然性」 200
指令経済行き詰まりの「必然性」 政治体制変動との関連
第II章の注 207
第III章 各国の独自性・個性を規定する諸要因 225
3.1 文化としての「現存した社会主義」 226
a 「文化」論の視点 226
b 文化としての社会主義体制 228
「社会主義」という文化 社会主義と伝統文化のシンクレディズム 政治文化と政治的伝統 社会主義と民族政策
c 伝統文化の型 245
問題の所在 事例――ロシア帝国・ソ連邦・東欧諸国 ロシア帝国/ソ連邦 東欧諸国
d 社会主義期における社会特性の比較 264
ジェンダー・家族と民族 教育および専門家養成と民族 民族と言語政策 伝統残存度の比較
3.2 近代化と高度産業社会化 293
a 一般論的考察 293
問題の所在 概念論争略史 「近代化」再考 近代化と「民主化」 近代以後?
b 社会主義以前の時期における近代化 312
近代化の課題と社会主義 諸国における近代化の進展度
c 社会主義政権下の近代化 318
後発国近代化の特異な類型としての「社会主義的近代化」 工業化戦略および原始的蓄積 各国の社会主義的近代化における個性 社会主義的近代化と「民主化」
d 「高度産業社会」化の跛行的・早熟的進行 334
高度産業社会症候群 「高度産業社会」としての旧社会主義国
3.3 国際的要因 342
a グローバルな国際関係 343
冷戦 ソ連の「覇権」性と国際秩序
b 社会主義諸国の間での国際関係 349
ソ連と東欧諸国の関係 中ソ対立およびその波紋 連邦国家内の諸共和国間の関係
c 前二項以外の諸要因 360
地政および経済関係 国境をはさんだ隣接関係
第III章の注 370
第IV章 変動と体制転換 385
4.1 社会主義体制での変化 386
a 客観条件の変化 386
前提――スターリン体制の成立および移植 「近代化」の進行性 指令経済の不適合の拡大 事実上の体制変質・浸食の進行 正統性の枯渇
b 体制内改革及び異論派運動 404
スターリンの死と「改革」模索の開始 体制批判の二つのヴェクトル 異論派と体制内改革派 経済改革――市場導入論 もう一つの改革論としての自主管理論 脱社会主義論の萌芽的登場 体制側のリーダーシップ
4.2 変動の拡大と体制転換の選択―― 一九八九‐九一年 431
a 一般論的考察 431
「比較民主化論」――その批判的検討 政治変動の段階と当事者の選択 政治改革と経済改革
b 変動過程とその比較 444
方法論的考察 国際要因についての補足 第一類型――ソ連 第二類型――中国(およびヴェトナム・中央アジア) 第三・第四・第五類型――東欧激動のいくつかの型 第六類型――ユーゴスラヴィア 自由選挙と新体制の発足―― 一九九〇年
c 小括 473
連続性と非連続性 「市民社会」復活論
第IV章の注 479
第V章 脱社会主義過程およびその展望 493
5.1 総論 495
a 視点 495
視座の再検討 現状評価と判断基準
補注 498
b 全般的特徴 500
多重的なシステム転換 「遺産」と「後遺症」 政治体制転換と経済体制転換
5.2 経済体制移行 511
a 市場移行の一般論 512
移行経済の基本性格――他の歴史的事例との共通性と独自性 「市場経済化」の困難性――「自生的秩序」か「粗野な資本主義」か 「市場経済」の多様性
b 市場移行における具体的な道の選択 523
「ショック療法」とその評価 私有化の方式 「ノメンクラトゥーラ私有化」とその評価 格差拡大・不平等の問題 現実の政策の揺れと経済実体
5.3 政治体制の転換 538
a 全般的特徴――「民主化」のディレンマ 538
権威主義の誘惑 制度としての「民主主義」維持の理由
b 新しい国家制度の確定――憲法問題 544
憲法をめぐる手続き上の問題 政治制度の選択
c 新しい政治的対抗と政治過程 552
対抗の複雑性と政党政治形成の困難性 政治闘争の特徴を規定する諸要因 主な政治主体とその特徴
d 小括――体制転換の政治的帰結 563
5.4 国家のアイデンティティー 566
a 一般論――国家・国民・民族の原理的問題 566
国家の統合あるいは分離 「国家」相対化の中での「民族」 社会主義と民族問題
b 国家枠組みの再編 574
体制転換と国家枠組み 新国家形成における基本問題 ソ連解体とCIS 分離過程の比較――ユーゴスラヴィアとチェコスロラヴィア
c 各国の民族問題 595
ナショナリズムの高揚と少数派問題 国家/国民のアイデンティティー危機
5.5 小括 603
第V章の注 609
終章――世界史の中の社会主義 621
種々の二〇世紀論 「近代化」と「組織化」 大衆社会化および共同体過剰解体 極限的モデルとしての社会主義とその終焉
終章の注 637
あとがき(一九九九年七月 塩川伸明) [639-644]
参照文献 [xi-xli]
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現存した社会主義国家を同時代史の中に位置づけ、その崩壊が持つ意味を問い直し、現状への含意も考える野心的、意欲的著作。ただ、どうも言及する問題やそこでの議論があまりにも広大で、しかも氏は、そうしたものの一つ一つと丁寧に向き合おうとするので、読者としてはかなり疲れるし、正直、そこはそれほど切り込む必要があるのかと疑問を持つ箇所も多々ある。
ただ、今からちょうど10年前、研究者としては油の乗り切っていた壮年期の氏がソ連および社会主義国家解体という激動から約10年過ぎて、「あの現象とは一体なんだったのか」を本来、氏は距離を置くような理論や比較を前面に押し出した研究をし、またそれを広く世に問おうとした精神は同じ研究者として評価できる。
この著作は、重量感たっぷりでそれ故に多くの読者には胃もたれ気味ではあるが、胃もたれにあっても味わう(一見の)価値はある。そんな思いも持った。