介入するアメリカ: 理念国家の世界観

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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326351657

作品紹介・あらすじ

「他国を作り変えようとする衝動」に突き動かされる超大国。主に90年代後半以降の外交を分析し、「衝動」の輪郭を描く。

感想・レビュー・書評

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    ── 中山 俊宏《介入するアメリカ: 理念国家の世界観 20130925 勁草書房》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4326351659
       
    (20220510)
     
     

  • ジョージ・ケナンのいうところの、「自らの姿に似せて他国を作り変えようとする衝動」に基づく介入。よって、アメリカの介入は単に空間的なものではなく、ときとして人々の意識の次元、さらには記憶の次元にまで及ぶ場合があった。
    piii

    《序章 21世紀もアメリカの世紀か》pI
    20世紀の国際秩序は、多極から米ソ二極へ、そして最終的にはアメリカを頂点とする単極秩序へと変容していった。p2

    【世界中に浸透していったアメリカ】
    雑誌『タイム』や『ライフ』の創始者ヘンリー・ルースが「アメリカの世紀」を高らかに謳い上げたのは1941年のことである。(Henry R. Luce, "The American Century," Life (february 17, 1941), pp 61-65)
    彼にとって、アメリカは、「民主主義」、そして「自由」そして「正義」などといった利権を体現した大国であり、「良きサマリア人」として人類を良き方向に導いていく使命を与えられている、「特別な国」であった。p3

    アメリカを頂点とする「単極秩序(unipolarity)」の存在を保守派の論客チャールズ・クラウトハマーは躊躇無く肯定した。(Charles Krauthammer, "The Unipolar Moment," Foreign Affairs, vol. 70, no. l, (1990/1991), pp. 23-33)

    【9.11テロ攻撃の衝撃】p13
    9,11テロ攻撃はアメリカにかつてないほど大きな衝撃を与えた。ロバート・ケーガンは『歴史の復活と夢の終焉』(2008年)という小著のなかで、9.11テロ攻撃を契機として世界は本来の状態に戻り、冷戦の終焉によってあらゆる戦略的・イデオロギー的対立は解消されたという夢からアメリカは目を覚まされたと論じている。(Robert Kegan, Return of History and End of Dreams (new York: Alfred A. Knopf. 2008) 和泉裕子訳『民主国家vs専制国家ー激突の時代が始まる』(徳間書店、2009年)

    オバマ大統領「あの絶望に満ちた顔がアメリカ軍のヘリコプターを下から見上げるあの少年は、アメリカをみて、希望を感じなくてはならない」(ウッドロウ・ウィルソン・センター、2007年8月1日)p23
    (Remarks by Senator Barack Obama to the Woodrow Wilson Center in Washington, DC "The War We Need to Win," August 1, 2007.)

    +マケイン、p149-150二箇所

    「価値の秩序」については、ブッシュ政権がその典型であったが、同政権はいわば「民主主義」、「人権」、「信教の自由」など「価値の体系」に属する問題群を外交の目的そのものに設定し、これらの実現こそが「問題解決」の糸口になるとの基本認識を抱いていた。p24

    《第1章 アメリカの理念外交とコソヴォ戦争ー人道的介入をめぐるアメリカの言説》p28

    アメリカの「地政学的野望」が道義的レトリックの背後に隠されている。

    政治における言説は、通常、より抽象的なもの(理念)からより具体的なもの(政策)へと階層構造をなしており、言説がより具体的になるにしたがって、考慮の対象となる政策の選択肢の範囲が限定されていく。(坂口功「象牙取引規制レジームー知識・言説・利益」『国際政治』第119号(1998年10月)、171頁

    《第2章 リベラル・ホークとは何かー人道的な武力介入論》p46

    ブッシュ政権を引き継いだオバマ政権は、中東に地殻変動をもたらした「アラブの春」に際して、再び介入すべきか否かという選択に直面した。とりわけリビアにおける危機が、外部勢力の介入を要請した際、オバマ政権は人道のための武力介入という決断を迫られた。道義的正当性を欠くカダフィ政権が、レジーム崩壊の危機を前にして反体制勢力の徹底弾圧を訴えると、アメリカはフランスやイギリスに追随する形で「オデッセイの夜明け作戦」を実行し、トマホークを100発以上発射した。地上軍の派遣こそしなかったものの、この介入を主導したのは、ライス国連大使であり、『ナショナル・インタレスト』誌に「介入主義者!」と呼ばれたサマンサ・パワー国家安全保障会議多国間外交担当上級部長であり、この時点では国務省を辞していたものの、ツイッターなども駆使して盛んに介入を訴え続けたスローターであり、最終的に彼女たちに同調するかたちで介入を提唱したクリントン国務長官であった。提唱を主導した高官がほぼすべて女性だったため、彼女らは「レディ・ホーク」と呼ばれたりした。(Maureen Dowd, "Fight of Valkyries," The New York Times, March 23, 2011 sec. A, p.27, col. 0.)

    《第3章 アメリカにおける国連不信と保守派の言説》p72

    セイモア・マーチン・リプセットは、『アメリカ例外論』(1996年)において、アメリカという国家は、「アメリカニズム」という特異な政治的イデオロギーに根ざした国家であると述べている。リプセットによれば、アメリカは「自由」「平等」「個人主義」「ポピュリズム」そして「レッセ・フェール」によって構成される信条体系(クリード)を基盤として成立している「イデオロギー国家」(もしくは「理念国家」)であり、その結果として、アメリカには「反国家的(anti-statist)」な傾向が強いと論じている。p79 (Seymour Martin Lipset, American Exceptionalism: A Doble-Edged Sword (new York: W.W. Norton, 1996), pp.20, 31-32, 51-52. 上坂昇・金重紘訳『アメリカ例外論ー日欧とも異質な超大国の論理とは』(明石書店、1999年)21、36-38、68-69頁

    《第5章 イラク戦争の脱争点化とブッシュ政権の言説戦略ー増派作戦の言説効果の検証》p116-

    《第6章 リベラルな帝国是認論ーイグナティエフと対イラク武力行使をめぐる論争》p151

    (イラク戦争に際して)イラクにおける「深刻かつ集積する危険」を放置しておけないという「危機のレトリック」と、民主化というアメリカの「歴史的な使命」を全うすべしという「義務と希望のレトリック」が渾然一体となって、アメリカな戦争になだれ込んでいった。p153

    《第8章 「アメリカ後の世界」におけるアメリカ外交ーオバマ外交の世界認識》p192-
    『フリーダム・アジェンダーなぜアメリカは民主主義を広めなければならないか』(2009年)の著者でもあるジャーナリストのジェームス・トラウブは、オバマ外交に関し次のように述べている。「早い段階でのオバマの過ちの一つは、世界の視線が自分に集中していること、そして彼の表情、声、そして生い立ちをアメリカの再生の証として世界が見ていると信じきってしまったことにあった。それゆえに2009年のカイロ演説は、自らの生い立ちをちりばめ、高貴な想いへの言及はあったが、具体案を欠いていた。この演説にアメリカは幻惑され、諸外国でも当初は評判が良かったものの、中東においてアメリカのイメージを変えることはなかった」。(James Traub, The Freedom Agenda: Why America Must Spread Democracy (Just Not the Way George Bush Did) (New York: Farrar, Strauss and Giroux, 2008)

    《終章 「アメリカの衰退」と日米関係ー同盟を漂流させないために》p245-

  • 最近の国際ニュースを考える上で極めて有用な著である。コソヴォ紛争以降のアメリカの対外政策を範囲とし、イラク戦争前後が中心となる。淡々と外交政策とその背景を分析するものではなく、その裏にあるであろう理念の分析が主である。(残念ながら著者の言う通り現実的対応が主の東アジア外交はあまりこの本の良さが活きていないが)コソヴォ以降のアメリカ現代史の知識を前提とするが、時に歴史を遡りながら理念のバックボーンを示してくれるので、勉強になる。特に民主党タカ派(リベラルホーク)についての記述が多いが、参考となる本がなかなか見つからないので現代アメリカを考察する一つの視点として非常に役に立つ。また、細かく文献がついているので、多少知識があればここからどんどん掘り進められる。

  • アフガン戦争が終息に向かうとアメリカは、対テロ戦争をどのようにして継続するかという問題に直面した。
    アメリカが自国を頂点とする単極秩序に自信を強めるい一方で、国際社会ではかつてないほど反米感情が高まった。
    19世紀から冷戦期に至るまでは「国境策定能力」が重要であったのと同様に、ポスト冷戦期以降の国際政治においては、「規範形成能力」が重要なパワーの構成要素になっている。

    イラク戦争が顕在化させたのはポスト冷戦時代の新たな非派遣的秩序形成を志向するヨーロッパとポスト冷戦時代という歴史の小休止の時期が終わり、新たな歴史的闘争の時期に入ったとするアメリカの世界観の相違だった。

    国際政治におけるパワーのわかりやすい象徴である核兵器を中国が保有したことによって、一般のアメリカ人はの対中イメージは好意的にならなかったにせよ、その存在は認めるべきだという方向に動いた。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授

「2021年 『アメリカ政治の地殻変動 分極化の行方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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