「正しい戦争」という思想

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制作 : 山内 進 
  • 勁草書房 (2006年4月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326450787

「正しい戦争」という思想の感想・レビュー・書評

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  • 「正しい戦争」というのは正義の概念とは相いれず、合法か非合法かのみが存在する。合法的な戦争というのも、ヨーロッパ的な考え方に依拠しており、それが今日に至る世界の歪みを生み出したともいえる。でも、【戦争】においてある程度のルールを設けることは、戦争法、国際法が生まれた17世紀ごろは必須だったのだろう。それを、また異教徒のところに持ち込んだりしてるから今こうなのかな。随所で引用されているシュミットの本を読もうと思いました。

  • 編者:山内 進
    執筆者:山内 進、染田 秀藤、荻野 弘之、奥田 敦、権左 武志、阪口 正二郎、佐藤 哲夫、森村 進

    【版元】
     戦争はすべて悪……か? ジハード、十字軍、帝国、アメリカ ── かれらは戦争の良し悪しをどうやって決めてるのだろう。
     「戦争はすべて悪い」。この論理はきわめて明快でわかりやすい。けれども戦争の歴史は人類と同じくらい古い。古代ローマからイラク戦争まで、キケローからハーバーマスまで、世界の思想家たちは「正しい戦争」という思想を鍛えあげてきたのだ。日本人が誤解しやすいこの思想を検証する、画期的論文集。
    http://www.keisoshobo.co.jp/book/b25648.html


    【抜き書き】
     事実、正しい戦争をめぐる議論は西洋世界では古代ギリシア・ローマの時代からこの21世紀にいたるまで頻繁に行われてきた。この議論の過程でいわば専門用語として確立したのが「正戦」(justum bellum)という概念である。これは西洋精神史のなかで培われてきた神学的、法学的概念で、論者によって内容は異なるが、かなり精級な内容を有している。これに対して、正しい戦争、英語で justifiable war か righteous war あるいは good war は、より一般的で、より感性的だといってよいように思える。したがって、思想として戦争の是非を論じたり、他文明圏を含めて議論する場合には「正しい戦争はあるのか」とか「正しい戦争とは何か」というようにテーマを設定するほうがより適切であろう。本書はその立場をとっている。  (p.ii)


    【目次】
    はしがき――「正しい戦争」という思想〔山内 進〕 [i-iv]
    「正戦」と「正しい戦争」/三つの論点
    目次 [v-xiv]

    序論 聖戦・正戦・合法戦争──「正しい戦争」とは何か〔山内 進〕 001
    1 「正しい戦争」 001
    否定・肯定・条件派/条件派の思想としての「正しい戦争」/諸文明における正しい戦争
    2 聖戦 010
    「正しい戦争」の諸類型/聖戦の諸類型/十字軍/近現代における聖戦
    3 正戦──古代・中世 017
    正戦と聖戦/キケロー、アウグスティヌス、イシドールス/トマス・アクィナス
    4 正戦──近世・近代 024
    近世スコラ学/自然法学派(1)──聖戦からの訣別/自然法学派(2)──ヨーロッパの拡大/文明のヨーロッパ/正戦論の転回
    5 合法戦争 035
    ハーグ平和会議/正戦論の復活──グロティウス主義/国際的合法戦争

    第I部 ヨーロッパの内外からみた「正しい戦争」
    第1章 異教徒に権利はあるか──中世ヨーロッパの正戦論〔山内 進〕 045
    1 ホスティエンシスの理論 045
    タンネンベルクの戦い/ホスティエンシスの理論/『黄金の集成』
    2 カノン法学の聖戦論(1)  051
    グラティアヌス『教令集』の問題提起/異端者との戦い
    3 カノン法学の聖戦論(2)  056
    インノケンティウス三世と十字軍/フグッチョの十字軍論/アラヌス・アングリクスにおける異教徒の権利
    4 私の羊たちを飼いなさい 062
    再びホスティエンシス/インノケンティウス四世/パウルス・ウニフディミリ
    5 文明と野蛮 068
    大航海時代――マルティヌス五世とニコラウス五世/自然法の逆説/文明が野蛮を制する

    第2章 《征服はなかった》──インカ帝国征服戦争──正戦論に対する敗者の異議申し立て〔染田 秀藤〕 075
    1 インディアス論争とインディヘニスモ 075
    勧降状/インディヘニスモ
    2 ビトリア、セプールベダ、ラス・カサス 079
    ビトリア/セプールベダ/ラス・カサス/征服戦争=聖戦論の否定
    3 インディアス論争の風化とアンデスの状況 086
    インカ暴君説/行動するインディオ
    4 ポマの訴え 089
    『新しい記録と良き統治』/偶像崇拝/征服はなかった/傲慢さ/教会は焼け落ちなかった/キリスト教世界アンデス
    5 ポマとラス・カサス 101
    文字の暴力性/ラス・カサスとポマ/ミティマエ/ラス・カサス主義の継受

    第II部 キリスト教とイスラームの「正しい戦争」
    第3章 キリスト教の正戦論──アウグスティヌスの聖書解釈と自然法〔荻野 弘之〕 111
    1 西欧中世における正戦論の成立 112
    2 古代教父における二つの伝統 116
    古代教会の平和主義とその転換/ローマ帝国とキリスト教
    3 アウグスティヌスの聖書解釈 119
    正戦諭の源泉としてのアウグスティヌス/相反する解釈
    4 選民イスラエルと「聖戦」の可能性 135
    神裁政治と古代の聖戦/イスラエルの聖戦/戦争記事をどう理解するか――三つの類型/アウグスティヌスの旧約解釈
    5 現代のキリスト教正戦論と平和主義の課題 140
    国民国家と戦争の世俗化/冷戦下での戦争観/宗教的正戦論の可能性と課題

    第4章 イスラームにおける正しい戦い──テロリズムはジハードか〔奥田 敦〕 145
    1 ジハードとは何か? 145
    ジハードの真の意味を問う/クルアーンのなかのジハード/戦闘的なジハード
    2 戦闘行為によるジハード 151
    敵対に対する敵対/盟約/戦闘的ジハードの倫理性
    3 テロリズムはジハードか? 157
    イルハーブ/畏敬に値する文明の確立/イスラームの教えにおける人命の重さ
    4 なぜ自爆テロはやまないのか? 162
    パレスチナの例外的状況/カラダーウィーの三つの疑問/抵抗運動/武装による平和の限界
    5 最善のジハード 167
    政府の不在/不信心者に従ってはならない/最善のジハード

    第III部 現代の「正しい戦争」論──ヨーロッパとアメリカ
    第5章 20世紀における正戦論の展開を考える──カール・シュミットからハーバーマスまで〔権左 武志〕 175
    1 欧州正戦論への問い 175
    2 ポスト冷戦期における正戦概念の復活──ハーバーマスのコソボ空爆擁護論 178
    コソボ空爆=「人道的介入」擁護論/国際関係の法制化/法と道徳の境界線上の戦争
    3 戦間期における正戦論の起源──C・シュミットの正戦批判 184
    国際連盟論/最初の正戦批判/正戦批判の本格化/正戦批判の集大成
    4 9・11以後における正戦論の再活性化──ハーバーマスのイラク戦争批判 191
    「テロリズムとの戦争」批判/「中東の民主化」批判/「軍事的ヒューマニズム」批判
    5 欧州正戦論の意義 200

    第6章 最近のアメリカが考える「正しい戦争」──保守とリベラル〔阪口 正二郎〕 204
    1 アメリカにおける「正しい戦争」論の磁場 204
    自由と民主主義の国/「自由と民主主義の国」の戦争/「自由と民主主義の国」の反テロ戦争/国際法上合法な戦争/合法な戦争と正しい戦争
    2 保守派の正戦論──エルシュテインの議論 213
    知識人の共同声明/正戦としての反テロ戦争
    3 左派の正戦論──ウォルツアーの議論 218
    ウォルツアーの正戦論/正戦と人道的介入
    4 人道的介入のわな──イグナティエフの迷走 223
    ヒューマニズムと人道的介入/人道的介入としてのイラク戦争
    5 アメリカの正戦論をどう受けとめるべきか 227
    「自由の女神」とアメリカ/日本国憲法と正戦

    第7章 国際法から見た「正しい戦争」とは何か──戦争規制の効力と限界〔佐藤 哲夫〕 233
    1 「正しい戦争」をめぐる歴史的展開 234
    近代初期の正戦論/19世紀における無差別戦争観
    2 戦争違法化と国際連盟 238
    国際連盟の集団的安全保障制度/評価と実際
    3 現在の武力行使の規制枠組み 243
    国際連合憲章の集団的安全保障制度/武力行使禁止原則の例外の拡大
    4 冷戦の解消と国連安全保障理事会 249
    5 岐路に立つ武力行使規制枠組み──最近の三つの事例 251
    NATOによるコソボ空爆──人道的干渉/アメリカによるアフガニスタン侵攻──国際テロリズム/米英によるイラク攻撃──大量破壊兵器の拡散防止

    むすびにかえて──「正しい戦争」の道徳性〔森村 進〕 [263-269]

    引用・参考文献 [21-32]
    事項索引/人名索引 [3-20]
    著者紹介 [1-2]

  • 9.11の後、アフガニスタン、そしてそれに続くイラク侵攻を世界は認めた。テロとの関係が深いアフガンはともかく、その時点でイラクとテロとは直接の関係がなかったことは誰もが認めていた。それでも、米英を中心とする勢力はフセイン政権を打倒することに執着し続けた。それには、どうやら理由がある。石油の利権を含む政治家の思惑のことではない。ヨーロッパやアメリカには、キリスト教に由来する「正しい戦争」という思想があるということだ。

    しかし、「ジハード」や「聖戦」という言葉が飛び交い、「正しい戦争」という思想とヨーロッパ由来の「正戦」が、混用され、本来の語義を離れて用いられることで無用な混乱も生じてきている。「正戦」と「正しい戦争」とは何がちがうのか、そして、「正しい戦争」という思想が、世界に果たしてきた役割とは何か。敗戦後、憲法九条の下で絶対的平和主義を標榜してきた日本人だが、このあたりで戦争というものについて一度整理しておいた方がいいかもしれない。

    よく囁かれる「戦争とは最大の人権侵害である」という標語は、耳に心地よい言葉だが、現実に人権を侵されている他国民を知りながら、それに目を瞑っているのが果たして正しい態度か、という問いかけは切実である。ましてやそれが、民族浄化のための虐殺にまで進行していく可能性のある場合、他国の主権を侵しても人道的な介入がなされるべきではないのか。その場合の戦争は、人権侵害を止めるための戦争といえる。それでも「戦争は最大の人権侵害」なのか。

    スーザン・ソンタグをはじめNATOによるコソボ空爆を支持した知識人たちの頭の中にあったのは、そうした考え方であったろう。戦争を全否定する絶対的平和主義はグローバル・スタンダードではない。当然、無条件に戦争を肯定する立場というのもごく少数にとどまる。「正しい戦争」だけは認めるという条件的肯定論というのが、大方のところだろう。

    「正しい戦争」とは何かを明らかにしようとする、この本によれば「正しい戦争」には歴史的に見て「聖戦」「正戦」「合法戦争」という三つの類型がある。キリスト教、イスラム教を問わず十字軍のように神の名において行われる戦争が「聖戦」である。それに対して「正戦」とは、トマス・アクィナスに代表される中世スコラ学が法理論を戦わせて完成させたヨーロッパ流の「正しい戦争」思想である。そして「合法戦争」とは、二回にわたるハーグ平和会議で完成を見た戦争法規に則った戦争のことである。

    ハーグ平和会議は、戦争のルールを定めたものであり、戦争の正、不正を判断したり、休戦をはかるものではなかった。戦争法規に則ってさえいれば、各国家は「各国家に対する絶対的かつ無制限の戦争の自由」を有する。これが、世界大戦の元凶だとして20世紀以降再び「正戦論」が浮上する。ヴァレンホーヴェンというオランダの国際法学者が、「独断的な戦争を行うことは『国際法上の犯罪』であり、そのような侵略行為を『諸国家の連合軍』または、『組織化された国際警察』によって撃破すべきだ」と主張したのである。

    今回のイラク戦争を見ても強硬論を主張した米英二国にこの新しい「正戦論」が根強いことが見える。しかし、カール・シュミットは「人間性を口にする者は人を欺こうとする。」と言っている。つまり、「人権政策の追求は対立者を道徳的な敵と見なす『正戦』の概念に帰着する以上、戦争の全面拡大を引き起こし」、「敵に与える道徳的保護までも奪い去ってしまう」のだ。ことは、イラク戦争におけるイラク人民の被害や捕虜虐待の事実を見ても明らかである。

    「正しい戦争」というのが本当にあるのかどうか、というのは、この本を読んだ読者が自分で答えを出すしかない。イラク戦争のその後を見る限り、シュミットの批判は正鵠を射ているようにも見える。が、そのシュミットの正戦論批判がナチス・ドイツのオーストリア併合と時を同じくして行われているのを考えるとき、全面的に評価するのも危ぶまれる。「正しい戦争」という思想の成り立ちから現代における問題まで、幅広い視野で問題を考えさせてくれる良い意味での教科書的な一冊である。

  • 聖戦とは何か、正義とは何かを様々な歴史的、宗教的な観点から捉えている。
    国際関係思想の正義論に繋がる問題。
    ブッシュの信奉する新保守主義ドクトリンは20世紀の軍事的な成功体験を世界新秩序のモデルとして受け取っており、規範的目的の議論なしでも軍事力さえ使えば勝利者は最初から決まっている以上、世界を改善する戦争は崩壊するフセイン像だけで正当化できると考えている。

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「正しい戦争」という思想の作品紹介

ジハード、十字軍、アメリカ。戦争はすべて悪…か?古代ローマからイラク戦争まで、キケロからハーバーマスまで-いまもっともアクチュアルな「正しい戦争」という思想を考える。

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