- Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
- / ISBN・EAN: 9784326653164
作品紹介・あらすじ
何が達成され、何に失敗しているのか?現代リベラリズムの批判的な解読を通して社会の規範的原理を問う、強靱でしなやかな思索。
感想・レビュー・書評
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非常に勉強になった! これまで読んだ正義論の解説としては群を抜いてわかりやすい一冊(もっとも、そんなに読んでないけど)。
そもそもロールズみたいな規範的社会理論と経験的社会理論ってどう違うの?という話から始まって、ロールズの「正義論」において、無知のヴェールから格差原理が要請されるプロセスを非常に丁寧に説明してくれている。そして、中盤からはセンやノージックなど、彼の批判者の議論もきちんと対比しながら説明してくれるので、ロールズだけでなくリベラリズムをめぐるもっと大きな見取り図も把握できる。
ただ、いまいち釈然としないのは、最後に文化多元主義的状況に対応することができない点を以てロールズらの規範主義的正義論の「限界」としているところ。そりゃあ、道徳の基礎付け主義がそもそも普遍性を志向する限り、固有性を主張する文化とは相容れないわけだけど、それって当然のことではなかろうか。そもそもロールズが「正義論」で取り組んだのはアメリカ国内での不平等の是正問題なのだから、批判としてあまり的を射ていない気もするのだが、どうなのだろう。
と、ちょっとひっかかる点もあるのだけど、全体としては非常に勉強になって面白かった一冊。また読みなおします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
3465円購入2011-03-31
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【目次】
目次 [i-v]
序章 リベラリズムという思想 001
現代を代表する思想/リベラリズムとは何か/リベラリズムをめぐる日本の言論状況
I ロールズ『正義論』とはなにか
第1章 多元的社会にとっての規範的な原理 015
1 脳死問題で何が問われたか 015
脳死論争/制度の問題
2 規範的な社会理論の探究 022
社会についての規範的理論/相対主義/自制的秩序と規範性
3 現代の規範的社会理論を代表するリベラリズム 029
かつてのリベラリズムと現代のリベラリズム/個人主義/社会を実体視する理論:個人主義が対立するもの
4 多元主義にどう答えるか 039
個人レベルの利害対立/文化の多元主義と寛容の問題
第2章 ロールズ『正義論』の衝撃 045
1 まどろみを破った巨大地震 045
現代の規範的社会理論の震源/道徳哲学・倫理学の状況/功利主義の挫折
2 協働の体系のための原理 056
制度の第一の徳目としての正義/正義の原理/『正義論』の骨格
3 社会の道徳性 067
「正義」の意味/なぜ正義は善に優先するとされたのか
第3章 契約論モデルと内省的均衡 073
1 原初状態の論理 073
無知のヴェールによる不偏的観点/マキシミン・ルール/原初状態におけるゲーム
2 契約というフィクションの規範的な力 083
元来の契約論と世俗的契約論/物語としての契約/ロールズにおける契約論
3 内省的均衡 091
内省的均衡とは何か/『正義論』の実践プロセスとしての内省的均衡/契約論とは異なるものとしての『正義論』/「正義」の二つの意味:正義の諸原理と公正としての正義
4 契約論から重なり合う合意へ 103
ハーサニの批判/合理性から道理性へ
第4章 格差原理とは何か──ロールズの平等理念 111
1 平等主義の課題 112
社会主義の挫折/なぜ平等なのか?
2 格差原理の解釈と批判 118
格差原理/主要ないくつかの批判/格差原理のさまざまな解釈
3 ロールズが格差原理で意味していたこと 125
マキシミン解釈の誤り/ロールズによる説明/発見法としてのマキシミン・ルール/資産平等主義と財産私有民主主義
II 現代リベラリズムの論理
第5章 責任‐平等主義とリベラリズムの深化 143
1 格差原理から平等の純粋理論へ 143
公理への探求/ロールズにおける「運の恣意性」/センの潜在能力論と厚生主義批判
2 責任‐平等主義の展開 154
ドゥオーキンの資源平等論と過酷な不運に対する補償/自然/選択の区別/レーマーの機会の平等:努力という環境/分析的マルクス主義
3 無視された帰結 169
責任‐平等主義の副次作用/心情倫理としての平等主義
4 「責任」の錯覚 174
責任という概念の困難/責任とは社会的に構成されたもの
第6章 自由という価値の理由 185
1 自己決定原理 186
生命倫理の因数分解/危害原理と自己決定領域
2 センのリベラル・パラドックスとその意味 194
チャタレイ夫人の恋人どのようにしたらパラドックスは解消できるか?/センの解決法とそのトリック/コンパートメント化の思想
3 リベラリズムと三つの自由 207
自由の意味と理由/三つの自由/三つの自由と規範的原理
第7章 包括的リベラリズムと限定的リベラリズム 223
1 階層から文化へ 223
文化多元主義という問題/多元主義の難しさ:神々の闘争か
2 リベラリズムの基本諸テーゼ 229
3 コミュニタリアニズムに批判されるリベラリズム 235
サンデルによる「負荷なき自己」批判/テイラーによる「手続き的リベラリズム」批判
4 包括的リベラリズムと限定的リベラリズム 243
ロールズの政治的リベラリズム/公共的理性を持った/道徳的な人々からなる政治的構想/包括的リベラリズムと限定的リベラリズム
第8章 文化の差異とリベラルな価値 259
1 マルチカルチュラリズム(多文化主義) 259
ケベック問題/テイラーとキムリッカの対立/集合的権利と集団別権利/マイノリティ文化に優越するリベラルな価値
2 フェミニズムからのリベラリズム批判 274
公私分離/ケアの倫理
3 文化的中立性の問題 284
普遍的な視点/宗教の自由の意味/政治と文化は分離できるか/中立性テーゼは何をもたらすか/中立ではありえないリベラリズム
第9章 リベラリズムの誤算 299
1 普遍の帝国 299
普遍的な価値/普遍主義と文化の相剋/何が普遍的か
2 正当化可能性の基礎づけ主義 308
正当化という問題/基礎づけ主義
3 超越としての正義とその不可能性 316
正義の中身の欠如/超越としての正義
終章 仮説としての規範的原理 327
構築されたものとしての正義/ローティのリベラル・ユートピア/暫定協定しかないのか:グレイのミニマム・リベラリズム/共通の価値を求めて
あとがき(二〇〇六年四月 盛山和夫) [345-350]
文献一覧 [ix-xix]
事項索引 [iv-viii]
人名索引 [i-iii] -
150926 中央図書館
ロールズ「リベラリズム」に対し、やや批判的なスタンスを見せつつ、ミル、セン、ノージックなどにも照らし、さまざまな切り口で、「正義論」以降、どのような概念が議論されてきているのかを、わかりやすく。 -
久々に内容の濃い本を読んでみた。
マイケルサンデル以降、一般的注目が集まってきた「リベラリズム」をロールズの「正義論」を中心に解説。
ただし、この本は2006年に出版されたので、「ハーバード白熱授業」のブームに乗っかった本ではない。
現代リベラリズムとは、「新しい平等主義思想」である。ソ連崩壊以降、社会主義思想は大きく魅力を失ってしまったが、社会主義の崩壊は、必ずしも平等主義そのものの誤りではない。
社会主義が平等を達成するための手段として間違っていただけで、平等を達成する目的そのものが誤りだということにはならない。
人間の平等については、自然権の考え方が問題になっている。
なぜ平等なのかという根源的な問いに、平等主義者は、ルソーの原始状態あるいは自然状態を想定し、そこでは人々は政治的社会的に平等であったこと、それが人間にとっての本来的な姿であった事、そこからの堕落としての文明化の過程の中で様々な不平等が成立していったと説く。
この、現実を批判し、それを相対化しうるような「超越的な視点」であり、「理念的に表象された自然」である。
ロールズは、正義論の中で「平等な基本的自由のもっとも広範な体系に体する平等な権利」を正義の原理としている。
イギリスのTHマーシャルというイギリスの社会政策学者は、平等を「法的平等」「政治的平等」「社会的平等」の三つに分けている。
ノージックのような、リバタリアンからは、富と所得の分配が本来的にその人に帰属し、自由意志に基づく交換や譲渡による以外は侵す事はできないとする。この原理に基づく配分と所得のみが「正義」であってそれに反するものは不正として批判された。
では、どのように平等を実現していくか?
マーレーは、「公正な機会の平等」を責任ー平等のロジックで解答を与えようとした。
教育達成のレベルを例にとり、教育に影響を与える諸要因を「環境によるもの」と「自らの責任によるもの」に区別し前者による影響を取り除くかその影響に対して保証を与えるべきであると主張した。
平等を機会における平等を重視するか?結果における平等を重視するかで、社会における規範的原理の考え方が違ってくる。
日本の格差社会を考えた時に、どうバランスをとるべきかが非常に悩ましい(もう少し読み込みが必要)。
また、リベラリズムの説く、中立性についても印象的であった。
「現実のわれわれは個別的な文化や共同体に生きているのであり、それらの中でのみわれわれの人生の意味を見出している。われわれはどんなにしても中立的であることはできない」
など、目からウロコの連発!
また、包括的リベラリズムは、社会のすみずみにまでリベラリズムの原理が浸透すべきだと考えて、個々の人々がリベラルな理念に沿った生き方をとることを要求する。それは他の信念や教義の視点からすれば、「決して中立的などと言えるものではない」というパラドックスを生むという解説にも納得。
現代リベラリズムの「権利基底主義」や「正義の善に対する優位」などのテーゼは、ひとつの社会や国を超えて、世界のすべての人々に擁護されるべきだという主張を導くことになり、多元主義という問題と衝突しかねない。
リベラリズムの普遍主義は、しばしば帝国主義的あるいは植民地主義的なものとして批判される。
信仰の自由やジェンダーの平等や政治的民主主義を説くリベラリズムは、キリスト教の宗教的覇権主義やアメリカ帝国主義の一翼を担うものである。
「いついかなる場合にもリベラルな価値が貫徹されなければならない」と考える包括的リベラリズムを原理主義的リベラリズムと呼ぶことができる。
現代リベラリズムは、対立する異なる文化を超越して普遍的に妥当とするような規範的原理を確立することを目指していた。しかし実際には規範的原理の中身を具体的に提示することは回避されるか、提示したとするとむしろ対立を煽ってしまう。
カナダのケベック州問題やフランスのスカーフ事件では、現代リベラリズムの誤算が顕在化している。
リベラリズムが抱える矛盾点をきちんと指摘しつつ、グローバル社会における危険性など、今読むべき本であると強く感じました。 -
前提知識が無くても常識が有れば読める。異様にわかりやすい。