日常に侵入する自己啓発: 生き方・手帳術・片づけ

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326653935

作品紹介・あらすじ

自己啓発書はどのように生み出され、誰によってどのように読まれているのか。自己啓発書には結局のところ何が書かれてあるのか。各年代の生き方指南書、「手帳術」ガイド、掃除・片づけで人生が変わるとする書籍、さらには自己啓発書の作り手と読者へのインタビュー、質問紙調査の分析から「自己啓発の時代」を総合的に考究する。

感想・レビュー・書評

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  • 巷に溢れる「自己啓発本」に関して社会学的アプローチにより研究者が記した1冊。
    表題『日常に侵入する自己啓発 生き方・手帳・片付け』が言い得て妙。

    膨大な脚注や巻末の参考文献リストから、著者が時間と労力を費やし、70年代以降出版されてきた、おびただしい数の「自己啓発本」を実際に読んで記した著作と分かる。

    印象的だった点:

    ・出版社側の自己啓発本に関する商業的意図
    売らんかなの著者選定やストーリー作り(学歴がないのに成功した事例、学歴があっても失敗し続け、最後に成功した事例など)、表題の設定…。何を書くかよりも、どう描くか。

    ・消費者側の選択的読書
    仕事上や生き方の困りごとや不安において、それらを軽減するための一つの手段という位置づけであり、新興宗教の信者のような妄信は本著によるとない印象。

    ・ジェンダーによる論点の違い
    男性向けには「仕事上の卓越」、女性向けには「自分らしさ」の探求。
    男性の場合、私生活や趣味娯楽までもが、仕事の生産性に直結するものとして捉えられる。

    女性は旧来の「妻」「嫁」「母」という固定化したジェンダー的役割からの解放という意味で「自分らしさ」の探求が模索されたのではないかな。

    正直なところ、私自身は自己啓発本について懐疑的であり、なにがしかの胡散臭さを感じているため普段手に取ることはあまりない。

    日常的な事柄すべてを仕事の生産性につなげて利害をコントロールする考え方を好まないし、手帳や片付けの方法も人それぞれ、向き不向きもあるので、一事が万事的発想には無理があるように感じている。

    本来、他人と自分を比べてしまう本能や、他人より優位に立ちたいという競争心があることは否定できない事実。
    だが、それらに付け込み、自己を完全に一元的にコントロールして「うまくいきます!」と説く「自己啓発本」が何だかなあ。

    著作は2015年の出版のため、今はこうした動きが出版物だけではなく、オンラインサロンに移行しつつあるように思う。
    そちらの「闇」も是非…。

  • 借りたもの。
    自己啓発本ブームは、社会にどのような影響を与えているのか?を統計を基に検証する本。
    1970年代~2015年までの自己啓発本の内容の変遷についても言及。

    ビジネス、ライフスタイル、スピリチュアルまで……多様に思える自己啓発本だが、男性向けと女性向けがあり、男性向けは「仕事効率・能力アップ」、女性向けは「家事や役割に囚われず、自分らしさを実現すること」になるという。

    結論としては、手段の変容でしかなく、根底にあるものは何も変わっていないという。
    生き方、手帳術、片づけと変わっても、そこには男性には「仕事効率を上げるため」のマネジメントであり、女性には「自分らしくあるため」の手段でしかない。

    巻頭には編集者によるテンプレート化も指摘しているものの、世間が求めるステレオタイプのイメージから、世間は抜け出せない現実もあるようだ……

    それでも、わずかながら内容が変わるのも事実だと私は思う。
    特に今は、女性の社会進出に伴い、女性のお金との付き合い方、家事・育児……そして男性は仕事ばかりで良いのか?という、家族の在り方(性別役割分担の弊害が明確化されてきた?)を見直す事が、急務のような雰囲気がある。
    (文中で引用されていた多賀太の文章は、私には性別役割分担の権化にしか見えなかったので、憤りを覚えた。男の存在価値がこの人の提唱する家庭には無い)
    自己啓発本が多く書店に並ぶのは、それを解消する手段を探しているからではないだろうか……?
    それは自己啓発本が促したのか、世相に敏感な著者たちが取り入れたのかは、判然としなかった。

    著者は僅かにほのめかしただけだが、男の「仕事」と女の「自分らしさ」の壁が瓦解すると時が、真にその効果が現れた事になるかも知れない……

    個人的な疑問は、本に限らない、実践的なセミナーはどのくらい社会に対して効力があるのか?という事。それは明言されていないし、お門違いな話なのだが……
    自己啓発本を読んでいる時に感じる矛盾やモヤモヤ感の原因を明示される点で、「よく言ってくれた!」と思った。

  • なんとまあ、こういう研究が存在するのか。男性は成功せよ、女性は自分らしくあれ。何歳までになにをしておけ、意識高い人々をナビゲートしてくれるビジネスマン向けの自己啓発本だけでなく、女性ターゲットではモノにこだわる雑誌an・anのインテリア特集、ときめく片付け「こんまり」、風水Dr.コパ、片付けで人生が変わるカレン・キングストン。ここ最近のトレンド手帳術、ビジネスマン必携の手帳の活用の仕方、ほぼ日手帳の販売戦略などなど、あらゆる今の生活をもっと素敵にするための指南書を分析。
    面白い本だが、読んでいてなんだかだんだん気持ち悪くなってきた。この本が悪いのではなく、自己啓発書であふれている世界の不気味さ。書店が広告のカタマリに思えてくる。

  •  自己啓発本には何が書かれているかを研究した一冊。

     仕事の成功、女性の自分らしい生き方、さらに片づけまで。何十年という中で多くの自己啓発本が出ている。作者はそれぞれのジャンルの自己啓発本の流れを振り返るなどして、自己啓発本とは何なのかに迫っていく。
     おいおいなんだこれって突っ込みたくなる自己啓発本の記述だが、作者は努めて冷静に論を展開していく。と思ったらこの本プレジデントの連載に加筆を加えたものだったのだ。自己啓発本批判ともとれる内容なのになかなかにすごい。

     自己啓発本を読む人は必ず読みたい一冊。

  • ●→本文引用

    やはり会社員として生き残るため、「仕事における卓越(ヘゲモニックな男性性)」の獲得ために読んでいるのか。他人事のようだが。自己弁護、自分を映す鏡、自分を納得、安心させるためのツールのように読んでいた。

    別件だが、付箋を付けながら読まなくなったのが、感想が出てこない理由のようだ。ということが分かった?

    ●だがおそらく、自己啓発書のメッセージそのままに、自己を完全に一元的にコントロールすべく、一元的に統合すべく購読を行なう者は多数派ではないだろう。第一章で示したように、状況による自己の使い分けを意識的に行っている者の方が啓発書購読経験率が高いことを考えれば、また啓発書のメッセージは基本的には一定の距離を置いて選択的・解釈的かつ応急処置的に摂取されていることを考えれば、そのメッセージは一元的な自己への単純な統合というよりは、多元的な自己のそれぞれに意味を与える資源として、あるいは多元的な自己を生き抜いていくための休息・退避的な自己のモードを創出する資源として、また多元的な自己の様態それぞれを「やりくり」していくためのヒントとして選択的・解釈的に消費されていると考えるのが実情に即しているのではないだろうか。つまり、やはり浅野が自己の多元性そのものをめぐる議論において指摘していた「多元性を維持することで自分自身を流動化し、それによって社会の流動性に対応していこうとする戦略」にむしろ近しいところで、その多元性それぞれに一定の見通しをつけ、また諸状況を多かれ少なかれ自らへと引き取り確認・啓発するための資源として、啓発書は消費されている筆者は考える。
    ●たとえば先に紹介した青少年研究会のデータからは、自己啓発書の購読経験者は非経験者よりもファッション、音楽、ヒーリンググッズ、エステ・クリニック、ダイエット(を通した自己変革)への関心が強いという結果が出ている。これらを考えるとき、啓発書は今日において自己を支える数多のツール(自己のテクノロジー)の一角に過ぎない可能性があr、だとすれば私たちはどのような「ツールに支えられた自己」を生きているのか、各種のツールによってその支えられ方は相違するのか否か、といった経験課題が新たに現れてくることになるだろう。

  • 1,2,終章のみ読了。◆自己啓発書には個々人の状況、あり方を確認する応急処置的な機能をを持ち、(それは意味がない、ではなく、それも大事、と)。自己による自己の働きかけをそれ自体目的とし、追求に値するというメッセージを発信しつづける。自らがその影響をコントロールできるような解釈の枠組みで目の前の事象を解釈、それでもコントロール不能なものはノイズとして排除する---たとえば「社会」とか---傾向をうながす。また傾向として、「かなり多くの啓発書においては、仕事における習熟・卓越を目指す男性(性)、自分らしさを志向する女性(性)という前提が、驚くほど何も顧みられることなく自明のものとされている」(p.282)と◆一時期けっこう熱狂して自己啓発書読んでた時期もあったけど、どれも同じだな、結局自分に取り入れてないな、と思ってもう読んでいない。けどそれらを総体的に把握して分析するってのは面白そうと手に取った一冊。

  • これはスマホ時代の哲学で引用されてて、気になって図書館で借りた本

    統計データをとり、客観的事実に基づいて自己啓発の流れ、どういう需要とマッチさせてるのか、などを淡々と、自己啓発を求める人間のモヤモヤとした気持ちを良く悪くも言語化していくプロセスは言語化の暴力では!?と思ってしまうぐらい。
    男性自己啓発編にて、他者よりも優位でありたい、卓越したいという男性の気持ちを満たすために、自己啓発本にて、周りは底辺である、周囲が劣っていると切り捨てるが、なぜ底辺で劣っているかについての根拠は言及されない、的なことが書かれてたのは笑った。
    そこは大事じゃないんだよな~。とにかく理由はいらないから、自分は周りよりも優れてる、卓越してる、ということを求めてる。
    女性は周囲とどう、ではなく、自分らしさ、ひたすら自分らしさにフォーカスされる。
    男性の自己啓発本では、誰が書いたのか、仕事で実績おさめてる人間が書いてるかどうか、作者の自己紹介がとにかく大事やが、女性の自己啓発本では、自分らしさを確立してる認められる人であれば、仕事の肩書きはそこまで重要ではない、というのも面白い。
    男性は競争心が高く、仕事でのナンバーワンを目指し、女性はオールジャンル、その人に目指すオンリーワン、自分らしさを追求している。面白い~。
    女性編で、自分らしくキラキラしている女性の二項対立として、「おばさん」がキーワードというのはなるほど、となった。
    ただの豚のおばさんにならないように、的な煽りから、奮い立たせてくるストーリー作り……。面白い!
    また、女性の自己啓発にて、時代が新しくなるにつれ、恋愛ジャンルは増えるが、結婚ジャンルは減っていく、というのも時代が反映されていて面白い

  • サブタイトルにもある、生き方、手帳、片付けの切り口で自己啓発本を論文的に分析していくとても真面目な本。
    でも観察し統計処理して考察するというプロセスはどうしても観察された側からしたら「意地悪」に思われるんじゃないか。
    時代と視点、自分のこれまで受けた影響などがフラッシュバックする興味深い本でした。

  • 「自己啓発本を読む人はどのような影響を受けているのか」俯瞰的に分析する視点が面白いなと思った。
    読者の自分も自己啓発本を読む人を俯瞰的に理解しようとして読み始めた。第五章「掃除」の自己啓発内容を割と信じていることを自覚した。掃除与える影響は本当かもしれないが、それを信じ切っていた過去から考え方が更新された。

  • 私は自己啓発本が嫌いである
    嫌いなのに心が弱ってる時ほど触りたくなる
    そんなジレンマを取っ払いたくてこの本に出会った。2015年の書

    自己啓発は緊急処方箋。自分の言葉で言い換えるとエナジードリンクだと思って卑下していたが、
    本書を読み進めるうちに悲しい考えが頭をよぎる。

    一般書、専門書、手に取るどんな本も、自分は自己啓発で吸収したい成分(心の安寧や能力向上)を求めて読んでいないだろうかということ
    悪いことではないんだけれど、、、気持ちの整理がつかない。
    本書は社会学的な本なので、内容は硬いですが、読みながらザワザワさせられている

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著者プロフィール

牧野 智和(まきの ともかず) 1980年、東京都生まれ。2009年、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(教育学)。現在:大妻女子大学人間関係学部准教授。主著:『自己啓発の時代――「自己」の文化社会学的探究』(勁草書房、2012)、『日常に侵入する自己啓発――生き方・手帳術・片づけ』(勁草書房、2015)、『ファシリテーションとは何か――コミュニケーション幻想を超えて』(共編著、ナカニシヤ出版、2021)。

「2022年 『創造性をデザインする 建築空間の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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