時代の正体――権力はかくも暴走する

  • 現代思潮新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784329004956

作品紹介・あらすじ

安保、集団的自衛権、米軍基地、ヘイトスピーチなど戦後70年の重大問題に焦点をあてる。高畑勲、想田和弘、内田樹、高橋源一郎、辺見庸ほか時代を問うインタビューを収録。

感想・レビュー・書評

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  • 2014年7月、集団的自衛権の閣議決定が行われた直後に連載を始めて、2015年8月憲法違反の安保法制が衆議院で強行採決された直後までの記事を主に載せる。時系列の「記事の記録」だと予想していたら違っていて、テーマ別に再編成していた。

    若者たちよ、独りではないんだよ。

    私はそう一言添えてこの本を多くの若者に勧めたい。ここに出てくる若者たちは動き始めた者たちである。しかし、動き始めは共に迷いがあった。新聞記事らしく、その一時期の気持ちの揺れを切り取っている

    例えば、SEALDsに対して「こいつら共産党の別組織」「民青がバックで間違いない」という中傷がある。そこに当の民青の西穂波さん(18歳)を登場させる。自分が民青の一員であることに誇りを持ちつつも、自分が参加することで要らぬ批判をされるのではないかと心配する。そして「やっぱり、おかしいと思うことをおかしいと言うのは、とても大事」と一歩を踏み出す。

    例えば、沖縄に「助けたい」という思いで行った長棟はなみさん(21歳)は、直ぐにそれは「おごり」だったと気がつく。米軍キャンプ・シュワブのゲート前で知り合ったおばあは「海上で抗議活動をするために、78歳で船の免許をとった」という。「この人たちはずっとこうやって生きてきたんだ」こうべを垂れるほかなかった。今年の5月3日の記事である。現在彼女の名前を検索すると、SEALDsで活動していた。

    記者の迷いもそのまま書かれる。ヘイトスピーチに対して「ヘイト豚、死ね!」と書く横断幕を見て、「それを言っては、どっちもどっちじゃないか」とカウンター(ヘイトに路上で批判する人たち)に言ってみる。反論される。記者(石橋学)に、結論は出てこない。私は「どう理屈つけようと、それを言っちゃあ、おしめえよ」と思うのだが。

    新聞らしく、いろんな識者のインタビューを載せる。秘密保護法が通った直後の高畑勲さんの正月インタビューは、その後の2年間の動きを見据えたかのようなものだった。

    想田和弘さんの指摘は重い。「無関心や「そこまでひどいことにはならない」という根拠のない信頼。そうして、低温やけどのようにいつのまにか傷を負っている。「少し熱いな」と放っておいて、気づいた時にはもう手遅れになっている。自民党はこの手法を明らかに意図的に、そして一貫的に採っている。」(230p)今朝の新聞のTPP政策大綱もその手法の一つだろう。

    高橋源一郎さんのいう「安倍さんのおかげで、いっぱい勉強出来ている」という指摘も、とっても重要だと思う。安倍さんのおかげで、我々は声をあげなくちゃずるずると変わっていってしまうことを教えられた。安倍さんのおかげで、我々は憲法のことを勉強出来た。そうやって、議論が高まればいい、高まらなくちゃいけない。

    この本には載っていないけど、この秋に神奈川新聞は「あんた所は偏向している」という批判に対して、「偏ってますが、なにか」という主張を出して論議を呼んだ。私見であるが、新聞や報道機関が公正中立であるとか、でなければならないとかいうのは幻想である。事実に厳密であるというのは当然だが、事実を選んだ結果を見て、他の何者でもない、私たちは他の新聞よりもこの新聞を選ぶのだ。私たちはその新聞の「見識」を買うのである。神奈川新聞が地域新聞であることが、惜しくてたまらない。

    2015年11月26日読了

  • 辺見庸が言う全体社会ではなく虚無社会というのは言えているかもしれない。

    <blockquote>「人の内面も空虚になっているのではないか。」忖度、斟酌、皆一緒。言葉を脱臼させ、根腐れさせるシニシズムがはびこる、進んで不自由になろうとする社会に、どう抗えば良いのか。(P.255)</blockquote>

  • インターネットやSNS(TwitterやFacebook)上で自然と目に入ってくる話題とテレビのニュースのギャップ。ニュアンスの違い。その温度差は何なのか?誰の発言を信じればいいのか?投稿された映像で見る光景が本当だとしたらただ事じゃないはずなのに‥!
    日々もやもやした気分を抱えていた頃、神奈川新聞連載の「時代の正体」の記事を読んでホッとしたのを覚えている。
    「本当のこと」は時代が変わってからしか検証されないのかもしれない。だけど、2015年、戦後70年、節目の年に実際にあった事、大手新聞が敢えて無視した「空気感」危機感が連載記事をまとめたこの本には書かれている、と同時代に生きている者として直感する。

  • 社会
    政治

  • いつからだろう。「日本や日本人スゴイ」というテレビ番組が増え、
    新刊書店の店頭には「日本は世界から尊敬されている」みたいな
    内容の本が並ぶようになったのは。

    先日、家人がつけっぱなしにしていたテレビから日本の幼児教育の
    現場を海外のプロが視察するという内容の番組が流れていた。

    確か幼稚園だったと思う。園児たちが先生の後について、百人一首を
    暗唱し、難しい漢字を唱えていた。番組の趣旨としては「ほら、日本の
    幼稚園児はこんなに凄いんですよ」と見せたかったのだろう。

    だが、正直気持ち悪かった。百人一首も漢字も、意味が分かって読ん
    でいるのではない。「集中力がつく」と当の幼稚園の人は言っていた
    けれど、意味を理解せずにただ読ませることに意味があるんだろうか。

    海外から視察に来た方は「軍隊みたい」との感想を述べていた。
    どちらかといえば私の感じ方も海外の方に近かった。

    日本人であることを卑下することはないけれど、こんなに日本と日本人
    を持ち上げる必要はあるんだろうか。もしかして、愛国教育の一環か?
    なんてうがった見方をしてしまう。

    これがエスカレートすると、「日本人スゴイ。他はゴミ」みたいな発想に
    ならないだろうか。不寛容を助長し、異なる者を排除する。少しずつ、
    そんな空気が蔓延しているのじゃないか。

    本書は神奈川新聞に掲載された記事の書籍化だ。なんとなく息苦しく
    なっている今の時代を現場取材を通して描こうとしている。

    解釈改憲を行って集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法
    案に「No」の声を上げ続けた人。沖縄同様、県内に米軍基地を抱える
    神奈川の新聞だからこそ提起できる基地問題。

    川崎市内を我が物顔でのし歩くヘイトスピーチと、それに対抗するよう
    にカウンターを行う人々。黒岩神奈川県知事時代の歴史教科書問題。

    「偏ってますが、なにか」と堂々と宣言してしまう神奈川新聞の記事だけ
    あって、確かに偏ってはいる。だが、それは権力を持たぬ人々の声を
    拾い上げようとする偏りだ。私は好きなんだけどね、神奈川新聞。

    特定秘密保護法が施行され、武器輸出三原則が見直され、「平和」だ
    とか「安全」だとか口当たりのいい言葉を冠した安全保障関連法案が
    採択され、次に控えるのが改憲ならぬ壊憲だ。

    権力を監視すべきメディアは今、萎縮している。「これはおかしくない
    か?一体、どういうこと?」と思っても大手メディアが報じることは少な
    い。だったら、私たちは何を材料にして国がしようとしていることを
    判断すればいいのだろうか。

    安全保障関連法案が「戦争法案だ」と言われた時、安倍晋三は自ら
    テレビ番組に出演し、へんてこりんな模型を使って何故安全保障関連
    法案が必要なのかを説明していた。

    あれで理解できた人がいるんだろうか。戦争を火事に例えること自体、
    無理があったと思うし、アメリカの艦船が在留邦人を乗せてくれること
    なんて過去にもなかったのにね。

    声を上げても何も変わらないかもしれない。でも、もしかしたら何かが
    変わることもあるかもしれない。おかしいことをおかしいと言える人間
    でありたいと思う。どんなに息苦しくなろうともね。

    そういえば、昨年夏、何度か国会前デモに行ったんだが、その時、
    警視庁の機動隊が出動していた。デモ参加者にカメラを向けいた
    私服がいたんだけど、あれは公安かしらね。

    私、わざわざカメラに向かってVサインしてあげたんだけど、残って
    ますか~。

  • 良書

  • 安保、集団的自衛権、米軍基地、ヘイトスピーチなど
    新聞で関連記事を目にしないことはないくらい関心の高い問題。
    これらの正体とは何か。その先にあるものは。
    神奈川新聞記者が連載しているものをまとめた1冊。そのためか、分かりやすい内容です。近々第2巻が刊行されるようです。
    多くの人にとって重たいテーマかもしれませんが、本書の中でも指摘があるように、無関心でいることによって結果的に誰もがのぞまないであろう方向への舵取りを手伝っている、という言葉は、なかなかぐっとくるものがあります。誰もが一番使える力は「投票権」。
    内容としては、若者から知識人・著名人まで幅広く取材をしているところが特徴だと思います。
    若いのにおかしいものはおかしい、と声を上げる学生。友人と話が合わないこともあるが、それでも活動をしていくという頼もしい若者。
    沖縄の米軍基地移設問題で、手伝いたいと思い都会から沖縄へ行った大学生。沖縄に来るのではなく都会で声を上げてくれと言われ、今何をすべきか肌で感じたという。
    偏った知識で行われるヘイトスピーチ。教育の重要性が問われる一方、これを政府が黙認することで近隣諸国に対する不安や憎悪を煽り、集団的自衛権推進につなげる政府の意図を記者は感じ取る。
    戦争経験者は語る。過去の大戦では、ある日いきなり政府が全体主義を唱え、個人の自由を奪い、情報操作をして、戦争に踏み切ったわけではなかった。徐々にそして着実に下地を整えて、民衆を同じ方向に向かわせた上での開戦だった。その時の状況と今が非常に似ていると警鐘を鳴らす。
    こうした問題で最近よく目にする内田樹氏の取材もあるのですが、安倍首相の発言の矛盾点を端的に突いていて面白い。たいていの人は気付いていると思うのですが。例えば「米軍の戦争に巻き込まれることはありません」⇔「米軍が攻撃を受けても私たちは何もできない。本当にこれでよいのでしょうか?」
    本書の取材では主に戦後70年に関する社会的な動きが対象だったので、おのずと戦争というテーマがメインになっていますが、要はどの問題であれ、一人ひとりが政府に対して目を見開いていないと、気付いた時には手遅れになっているかもしれないですよ、ということだと思います。

  • ぼくは安全保障関連法案そのものは賛成でも反対でもない。国民がよく考えて決めるべき話だと思っている。とんでもないのは憲法違反という学者が大勢を占め、国民の8割が説明不足だと考えているのに法案を成立させるというやり方だ。安倍政権は国民をバカだと思っている。選良である自分たちが正しいことを決めてあげる、つべこべ言わずついてきなさいと言っているのだ。7,80年前のヨーロッパでも、どこかのちょび髭が似たようなことを言っていたぜ?
    “無関心や「そこまでひどいことにはならない」という根拠のない信頼”が安倍政権を支えているのだ。

    それはそれとして、新聞はやっぱり浅いなあ、というのも正直な印象。感情的、感傷的だ。若者や年配者が声を上げて頑張っている姿は印象的だが、頑張っているから正しいわけではない。正しいと信じているからがんばっているのだ。「正しい」の根っこのところを聞きたいのに、新聞は「がんばっている」を取り上げる。若者の政治参加にしろ、ヘイトスピーチ問題にしろ、関東大震災時の朝鮮・中国人の虐殺事件の掘り起こしにしろ、文法は変わらない。感情に訴えかけるやり方は新聞的にわかりやすく、インパクトも強いけれど、理屈でも哲学でも信念でもないから、すぐ揺らぐ。

    ともあれがんばれ、神奈川新聞。

  • 「有権者の意識の低さこそがこの安倍政権を生み出したエネルギーとなっている」塚田信一郎
    「神奈川県内1952年~2012年米軍機事故は223件死者11人負傷者28人」神奈川県基地対策課
    「ヘイトスピーチをする彼らも結局、居場所が無いのだろうな」キムチャヌク
    「他者を虐げることで自分より下に位置づけられる存在を作り、いまの立場から浮かび上がろうと必死にもがいている」笹尾裕一(神奈川県立高校教諭)
    「日本人の空気を読むという言葉に絶望的な気持ちになる。歩調を合わせることが絶対の価値になっている。ズルズル体質で憲法までなし崩しになっていく」高畑勲
    「八紘一宇の理念の下、世界が家族のようにむつみあい、助け合えるような経済、税の仕組みを安倍首相がイニシアチブを取り世界に提案すべき」三原じゅん子
    こんな発言を予算委員会で発した三原は、絶対八紘一宇の精神を判っていない。こんな人間を神奈川県から今年の参院選で選んだら、県民の恥として語り継がれるだろう。

  • 不特定の誰かではなく、名前を持った記者が、名前を持った人たちと真摯に向き合い、時に絶句し、時に悩み葛藤しながら記事にしてきたものをまとめた1冊。

    沖縄の基地に対する関わり方。在日の方に対する眼差し。ヘイトスピーチの横行とそれに対抗する人たちの罵詈雑言。

    まだ考えがまとまらず、ぐるぐるしてる。

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