空港まで1時間は遠すぎる!? - 現代「空港アクセス鉄道」事情 (交通新聞社新書057)

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  • 交通新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784330394138

作品紹介・あらすじ

日本の鉄道レベルは世界一といってもいいのに、"空港アクセス鉄道"となると、成田エクスプレスやスカイライナー、はるか、ラピートなど立派な車両があり、整備されてはいるものの、使い勝手やサービスなど完璧ではない。問題点はどこにあるのか。空港ごとに歴史を紐解きつつ、競合する空港バスや変化の激しい航空事情など多岐にわたる視点から、その課題をあぶり出す。また、海外の事例も比較参考にしながら、国内外問わず豊富な旅行経験を持つ著者の、利用者としての提言も織り交ぜていく。

感想・レビュー・書評

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  • 我が家(愛知県豊田市)から飛行機に乗つて何処かへ行くとき、概ね中部空港(セントレア)へ行きます。電車で行かうとすると、知立と神宮前で二回乗換が発生します。大きな荷物を抱へてゐると、結構難儀であります。また、バスの場合、豊田市駅前から直通バスがありますが、これが時間がかかるのですよ。1時間20分くらゐですかな。早朝のフライトなんかは、暗いうちに出てタクシーか自家用車で行くか、前泊をしなくてはいけません。要するに不便であるといふことです。

    日本の空港の弱点の一つは、そのアクセスにあると言はれてゐます。折角空路で時間を節約......と思つても、空港まで時間がかかり過ぎたら意味がなくなつてしまひます。2時間前には到着して搭乗手続きをせよ、などと言ふので、一層焦るのであります。新幹線なら10分前でも良いのに。

    本書『空港まで1時間は遠すぎる!?』では、現在の空港アクセス事情を、鉄道の面から考察してゐます。
    著者も述べるやうに、かつては空港へ鉄道を走らせるなんて考へられなかつた。何でわざわざ商売敵の飛行機に利する事をせねばならんの? といふ意識ですね。
    しかし鉄道が交通の王者だつた時代は疾うに過ぎてゐるのです。首都圏対北海道の移動を例に取ると、確かに昭和30年代頃までは青函連絡船で北の大地へ渡る人が主流でした。しかし航空機が庶民にも乗れるやうになつた現在、空路:鉄路の比率は95:5くらゐまでになつてゐるさうです。つまり鉄道はライヴァルでさへなくなつたといふ訳。
    さうなると、せめて空港アクセスは鉄道を利用していただきませう、と発想を変へてきたのであります。

    第1章では、日本の玄関となる成田・羽田・関空を取り上げてゐます。
    その中でも成田国際空港にかなりの頁を割いてゐます。それだけ問題が山積してゐるといふことか。とにかく都心から遠い。子供の頃は、成田新幹線なるものが出来て、遠くても時間はかからない、と聞いてゐましたが、周知のやうに結局新幹線は作られませんでした。
    遠いといふことは、当然交通費も嵩むといふことですね。LCCなんてのが普及して、数千円の格安で空路を利用できる時代に、アクセスに同じくらゐの運賃がかかつたら、利用者から不満の声も出ませう。
    羽田の再国際化が進み充実度が増す中、成田の存在意義すら疑はれる事態になりかねません。国が強引に建設を進め、多くの血が流された末に開港した成田。今後の行方はどうなりますやら。

    羽田に関しては明るい話題が多いですな。課題も前向きなもので、まだまだ進化する余地があります。
    関空のアクセスは、JR「はるか」・南海「ラピート」共に苦戦を強ひられてゐるさうです。確かに「ラピート」は、いつ見てもガラガラで、その実力を出せずに持て余してゐるかのやうです。

    第2章では新千歳・中部・福岡の三空港を取り上げてゐます。新千歳は確かにいつでも賑はつてゐますな。賑はひ過ぎて、わたくしは敬遠していつも函館空港から帰ります。
    福岡空港の便利さは反則級ですな。特段のアクセス鉄道ではなく、普通に地下鉄で直ぐに到着します。これでは山陽新幹線を擁するJR西も大苦戦するのは頷けます。でもこの空港、滑走路が中中空かなくて、上空で着陸待ちなんてことがあり、気持ち悪いのであります。

    第3章はその他の、鉄道アクセスがある空港。即ち、仙台・大阪(伊丹)・神戸・米子・山口宇部・宮崎・那覇の各空港を紹介してゐます。
    続く第4章は「そのほか、鉄道がアクセスに関係している空港」で、広島・熊本・丘珠・山形の4空港と、番外編として女満別・花巻の2空港を取り上げてゐます。

    最後の第5章では、海外のアクセス事情を紹介してゐます。これを読むと、特にアジアのハブ空港と呼ばれるところは、利用者優先の考へが浸透してゐて羨ましい。交通機関に関しては、何となく日本はアジアの手本みたいな雰囲気があつたが、とんでもない話です。空港の遠さや運賃の高さ、24時間稼働しない空港など、問題は多い。著者は述べます「海外ではさして問題にならないことも、日本では問題になってしまう」「日本は世界の標準に合致していないことが多いように思われる」
    つまり、新幹線(特に整備新幹線)と同じですな。「日本の技術は世界一」などと浮かれてゐないで、謙虚に海外に学んでいただきたいものであります。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-611.html

  • 交通機関ネタ。
    社会工学的なこういうネタが結構好きです。勉強になりました。
    論点として全く記載がありませんでしたが、「東京の1時間は地方の30分」という観点で評価したら、もっとひどい内容になったと思います。

    内容についてですが、基本的に鉄道にフォーカスした内容に終始していて、あまり脱線していないところに好感を持ちました。
    一時期ブームになった地方空港開発で、まともに上手くいったケースがないことの要因として、空港までの交通手段に関する課題を解消できていないことがよくわかります。利権などがからんで作るという話はもちろん理解しますが、公共投資のスコープを「都市開発」という観点で設計できない視野を持つ限り、こういう不幸はなんども繰り返し起こるんだろうな、なんて思います。
    もちろん、地元住民の意見を無視するのは論外ですが、関空と神戸空港なんて、非合理の極致だということもあります。
    ま、関空とセントレアの処理可能数からした投資額に雲泥の差が出る時点で、調子に乗った関空開発関係者の失敗を見てとれますし、ダメ施策だと改めて思いますね。
    需要を考えるってところをすっとばした企画がどうして通るのかは、政治以外のファクターでは説明つかないわけで。
    少し前までは、鉄道と航空便は敵対していたのかもしれませんが、成田空港に向けた京成電鉄の執念みたいなブレない取り組み姿勢はどこでも出来るもんじゃないですし。

  • 歴史やいきさつを押さえたうえで、無駄なものは無駄と切り捨てている部分が非常に良い。

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著者プロフィール

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40ヵ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)、『ローカル線ひとり旅』(光文社知恵の森文庫)、『世界の駅に行ってみる』(ビジュアルだいわ文庫)、『台湾のりもの旅』『タイのりもの旅』(ともにイカロス出版)などがある。

「2018年 『ニッポン 終着駅の旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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