近代の神々と建築―靖国神社からソルトレイク・シティまで 廣済堂ライブラリー

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  • 廣済堂出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784331850121

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  • 靖国神社の建築について興味があったので手に取った。9.11テロから、日本の国家神道、天理教、大本教、ハワイの日本宗教、モルモン教、
    ベトナムのカオダイ教、終末論をもつ新興宗教などなど、近代以降に成立した宗教とその建築、国家との関係を素描的に書いている。


    大幅改稿しているとはいえ個別の評論をまとめたものなので、主張は少々散漫な印象をもつ。全体的な印象としては、宗教と国家ないし宗教同士の原理主義的な対立を解決するためには、純血主義な部分を緩め融和した混血的なあり方がよい、という感じか。プロローグで9.11を扱い、エピローグで同時期に完成したベルリンのユダヤ人博物館を取り上げたのはそういう事だと思う。


    それで靖国神社について。この神社は1869年に日本陸軍の創始者により招魂社として建設される。当初はサーカスなど催されるなど娯楽性があり、洋風の遊就館が目立つ「ハイカラな近代空間」だったようだ。しかし大正になると「自ら敬虔の念を喚ばしめ」るよう再編成され、伊東忠太設計の神門などが建てられるなどして日本的なイメージになっていく。この改築的な変化は日本らしいように思う。


    この神門を建てた伊東忠太という建築家は度々登場するが、彼は明治神宮や朝鮮神宮を造営に携わった人でもある。神門含めそれらは古代日本を想起させるような造であるのだが、その一方で、遊就館や築地本願寺、震災記念堂のような個性的で独特のスタイルの建築をした人でもある。


    興味深いのは彼の評価で、戦前は前者の神社建築が評価されていたが、戦後になると後者の作品が代表作と持ち上げられる。それは彼の評価だけでなく、戦後には神社建築の地位は軒並み低下するそうだ。国家と結びついた神社はその他のものと同様、戦後記憶から隠蔽される。


    他に面白かったのは、天理教とモルモン教についての記述だ。どちらも天理市、ソルトレイクシティという都市を作り上げる。宗教とは信仰を紐帯とした共同体ともいえるが、それが都市を形成するというのは自然であり、また脱領域的に世界に散らばる宗教都市は、21世紀的なテロリズムと符合する。その意味は両義的だ。

著者プロフィール

1967年パリ生まれ。東北大学大学院工学研究科教授。博士(工学)。建築史・建築批評。1992年東京大学大学院修了。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2008日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督。
主な著作に『過防備都市』(中公新書ラクレ、2004年)、『建築の東京』(みすず書房、2020年)、『様式とかたちから建築を考える』(菅野裕子との共著、平凡社、2022年)がある。

「2022年 『増補版 戦争と建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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