ネオ共産主義論 (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
3.42
  • (5)
  • (8)
  • (21)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 114
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334033491

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  共産主義のなんたるかを可能な限り解説しようと試みる的場先生の心意気が伝わる一冊。副専攻として戦争史や革命史をかじっている私だが、まさにこの本はそうした知識の確認と補強に役立ってくれた。マルクス以前の共産主義、空想と科学の差異、革命という語の持つ意義など、専門家ならではの細かい注意点が盛りだくさんで面白い。

     マルクスの唯物論的な視点や、それに則った倫理学に対して受け入れがたさを感じるのは、私がカント主義者であることとは無関係であると思う。しかし、マルクスやそれに続いた者たちが平等と自由を望んで行動したことは事実で、それにはやはり、強い思索が背景にある。それが感じられるだけでも、世界史に残る文化に触れられた気がして心地よいと思う。

  • 題名から共産主義の未来、みたいな話かと思ったらマルクス以前の共産主義も含めて広く共産主義の歴史と変遷が書いてあります。といっても現代において古典的な唯物論は魅力を失っているわけで、その閉塞感を打破できるような展望があるかというとちょっと期待外れでした。

  • 前提知識がなければ、明らかに途中で挫折する内容。しかし、著者が講義の中でよくされる質問に答えようとしているのか伝わってきたので、自分の知識を増やした上で、再読してもよいと思えた構成と感じた。

  • 「共産主義」とは何かを分かりやすく解説している。マルクス以前の共産主義思想、マルクスがそれらの諸思想とどのように格闘したのかという問題、さらに、いわゆる「マルクス主義」の中で共産党がどのような役割を果たしてきたのか、といった主題が取り上げられている。

    著者は、共産主義のルーツに千年王国論とユートピア思想があることに触れる。それらの思想に惹きつけられた人びとは、現実の悲惨な状況を見つめるとともに、そこからあるべき未来の姿を描こうとした。その上で著者は、こうした努力が共産主義という運動にも引き継がれていることを指摘している。

    次に著者は、マルクスとエンゲルスが批判した「空想的社会主義」が、じっさいにはどのような思想運動だったのかを解説している。エンゲルスの『空想より科学へ』で批判されているのは、ロバート・オーウェン、サン=シモン、フーリエの3人である。サン=シモンが説いたのは、人びとの平等を実現するということではなく、社会の組織・計画を進めることだった。フーリエは、人びとの欲望を抑制するのではなく、むしろ情念を解き放つことで社会がうまく回ってゆくという可能性を語っていた。またさまざまな協同組合の役割を重視したオーウェンは、共産主義社会の特徴である財産の共同体という発想とは無縁だった。こうして著者は、マルクスとエンゲルスが「空想的社会主義」として批判したのは、彼らがじっさいに名前をあげている上の3人ではなく、むしろラムネー、カベー、コンシデランといった、同時代の他の共産主義思想家だったと主張する。

    共産党が前衛党として大衆を領導して革命へと導いてゆくという、「預言者」のような性格が、性急な暴力革命や共産党による一党独裁、財産の国有化といった事態を引き起こすことになった。だが著者は、むしろマルクスはブランキの急進主義や預言者的な共産党を批判し、資本主義経済の法則をつかむことが重要だと考えていたのだと述べている。さらに、預言者的な役割を持った共産党がプロレタリアートに階級意識を注入するのとは別の可能性を、A・ネグりの「マルチチュード」による連帯に見いだそうとしている。

  • 共産主義といえばなんとなく不穏な空気を感じるけれど、そういえばそれ自体を深く知っているわけではない。読みやすかったし、わかりやすかったです。

  • 最初の方しか読んでないけど、ちょっと話が飛び過ぎたり独り善がりな感じがして、非常に読みづらかった。今のところ積読しとく予定。
    自分の知識不足もあると思うので、知識を取り入れたら再度読んでみたいと思う。

  • マルクスについての啓蒙書が多い筆者が「共産主義」という大きなテーマへ新書で挑んだ作品。読みやすさ、丁寧な解説、まとめへの流れなどレベルは非常に高い。共産主義を『旧約聖書』やユートピア思想とくっつけて議論する辺りなど流石である。

  • [ 内容 ]
    共産主義は悪魔の思想か?
    世界的難問への最終解答か?
    今21世紀の視点で問い直す。

    [ 目次 ]
    序章 共産主義の五つの問題
    第1章 共産主義と社会主義とはどう違うのか
    第2章 共産主義のルーツはどこにあるのか
    第3章 共産主義にはどんなものがあるのか
    第4章 共産党とは何か
    第5章 共産主義社会を実現するのは誰か
    終章 ネオ共産主義論

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 共産主義というものをイマイチよくわかっていなかったということがわかったと共に、共産主義というものの概要がわかった。
    ただ、空想的社会主義とされるフーリエは個人的にはおもしろいと思った。
    ユートピアなるものの魅力とその欠点は、今後もう少し考えたい。

  • 分類=共産主義。06年4月。歴史の教訓や世間に流布するイメージからは距離を置いた上で、共産主義の長所を再検討する。共産主義=悪・未成熟という図式にとらわれている人には一読の価値あり。ただ一方で、「共産主義」「社会主義」「資本主義」といったカテゴリーの呪縛から逃れられていないのは残念。時代は既に上記概念の長所を融合させてより良い社会システムを模索ないし実現する、そういう段階に入っていると思われるのだが…。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

的場昭弘(まとば・あきひろ)1952年宮崎県生まれ。マルクス学研究者。1984年、慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。一橋大学社会科学古典資料センター助手、東京造形大学助教授を経て現在、神奈川大学教授。マルクス学の提唱者。マルクスの時代を再現し、マルクス理論の真の意味を問い続ける。原資料を使って書いた作品『トリーアの社会史』(未來社、1986年)、『パリの中のマルクス』(御茶の水書房、1995年)、『フランスの中のドイツ人』(御茶の水書房、1995年)をはじめとして、研究書から啓蒙書などさまざまな書物がある。本書には、著者による現在までのマルクス学の成果がすべて込められている。

「2018年 『新装版 新訳 共産党宣言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

的場昭弘の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×