ベーシック・インカム入門 (光文社新書 389)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034924

作品紹介・あらすじ

ベーシック・インカムは直接的には新しい社会保障の考え方であり、何より貧困問題の解消に一役買うことができると私は考えているけれども、本書は社会保障についての技術的なものではなく、もう少し別のものを目指している。個人の生活と社会の関係、労働とは何か、といった事柄について改めて考えてみる、そんな本のつもりである。近年におけるグローバリゼーションのなかで、約二〇〇年の歴史をもつ「ベーシック・インカム(基本所得)」の概念が世界的に注目を集めている。この新しい仕組みは、現代社会に何をもたらすのか。労働、ジェンダー、グローバリゼーション、所有…の問題を、あらゆる角度から捉え直す。

感想・レビュー・書評

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  •  昨今の生活保護ブームは高額納税者だけでなく低所得者層や社会的弱者までをも一斉に生活保護バッシングへ駆り立てている。現物支給や労働の強制が公然と主張され、受給者は完全に怠け者の犯罪者扱いである。現代に懲治院を復活させようと言うのであろうか。
     こうした状況は論外としても、社会保障を論じる上で避けて通れないのは、特定の人々の救済を図ることが、結果としてそうした人々の生き方を制限することにもなるということである。例えば、生活保護受給者や被扶養者として税制優遇を受けている人々が、対象者から外れてしまうことを恐れて生きた方や働き方を間接的に強制されてしまう場合や、児童扶養手当を受給している人々がまさしくセックススパイによる監視を受けることなどである。
     ベーシックインカムの導入は、こうした社会保障の抱えるジレンマにコペルニクス的転回を与える。それぞれの生き方を最大限尊重したうえで、さらに家族の監獄からも解放するのである。社会保障が治安対策の地位にとどまってしまってよいはずはない。現状をこえて、更なる自由を提供してこそ、その本来の機能を果たすことになる。
     興味深いのは、ベーシックインカムが労働の価値まで変質させてしまうことである。われわれは労働をあまりに尊重しすぎたのではないか。同時に、あまりに軽視していたのではないか。こういう問いは、仕事を通して多くの人々を傷つけて来たことを、全人類に対して悔い改めるよう要求するのである。必要のない生産関係にしがみつくのはやめて、もっと自分の人生を大切に生きたいと切に願う。
     

  • 入門というタイトルと新書らしさを考えるとギャップがあるかも。過去の経過を書いてる本ははじめて読んだので為になった。他の本も読んだ方が良さそうという意味では確かに入門?

  •  ベーシックインカムは「すべての個人が無条件で生活に必要な所得への権利を持つ」というもので、本書によると
     1.個人に対して、どのような状況におかれているかにかかわりなく無条件に給付される。
     2.ベーシック・インカム給付は課税されず、それ以外の所得はすべて課税される。
     3.望ましい給付水準は、尊厳もって生き、実際の生活において選択肢を保障するものでなくてはならない。その水準は貧困線と同じかそれ以上として表すことができるかもしれないし、「適切な」生活保護基準と同等、あるいは平均賃金の何割、といった表現になるかもしれない。
     というものである。

     現在の生活保護などと決定的に異なるのは「世帯や世帯主に支払われるのではなく個々人に支払われる」「資力調査なしに、全員に支払われる」「稼働能力調査なしに支払われる」「毎月ないし毎週といった定期的な支払い」となることである。

     基礎年金や雇用保険、生活保護などは廃止され、すべてベーシックインカムに置き換わることになる。

     この根拠は
    「私たちが現在享受している社会の冨が、現在の私たちの労働からだけではなく、過去の世代の労働の遺産からもなりたっているとすれば、その分は私たち全てが平等に継承できるものではないのか」というものであり、「例えば私たちは、この地球に等しく生れ落ちたという点で平等であるなら、一定の土地を平等に与えられなくてはならない」というものである。「その土地が一部の私有に任されていることの補償としてベーシックインカムを正当化する」。

     このことによって、ホームレスやワーキングプアは完全になくなるし、おそらく老後の生活の問題もなくなり、将来に展望が持て、したがって個人消費は活発になり、人々は明るく生きることになるだろう。

     「働かざる者、食うべからず」とか「働く気のないものにも給付するのか」とか「お金持ちに給付する必要があるのか」とか、そういう疑問にも本書は丁寧に回答していく。

  • 経済にはいるともうだめです。
    でも、ベーシックインカム取り入れられたらいいね。

    ベーシックインカムってのは全員に対して、月7万くらいのお金が支給されるんです。

    うん。学生はバイトしなくていいしさ、

    くそ金持ちにも支給されるんだけど、くそ金持ちは多く税金取られて7万支給だから結果的には損だし。

    いいね。これ。

  • すべての個人に無条件の基本所得を給付する「ベーシックインカム」についての入門書。
    「本書のテーマは、ベーシック・インカムという考え方を概観することを通じて、労働、ジェンダー、グローバリゼーション、所有といった問題について考えていくものである」と著者が述べるように、本書はベーシック・インカムのテクニカルな話題だけではなく、現在の先鋭化した資本主義社会の凝り固まった価値観への挑戦状である。

    確かに、実際的な人間(すなわち現在の日本のような資本主義の考えにどっぷり浸かった人間)からすれば、ベーシック・インカムのアイデアは非現実的で、社会システムを狂わせる、もはやSFかユートピア小説に登場する幻想的な制度に見えることは間違いない。
    本書では「ベーシックインカムを導入すると人々は働かなくなるのでは?」「財源はどうするのか?」といった、現実的な向きの人からの典型的な質問にも答えてはいるが、それよりも強い主張は「発想を切り替えろよ!」ということに尽きるだろう。
    持続的な経済成長、完全雇用を前提とした社会ならベーシック・インカムの仕組みはしっくりこないけど、そもそもその前提条件から見直す時期がきているんじゃないか? 全体を通して著者のその主張が強く感じられる。
    いまの日本の経済社会からするとやはりベーシック・インカムは夢物語のように聞こえるが、環境問題の視点から経済活動を制限する動きが進展しつつある昨今の状況を鑑みると、本書の描く社会というのは強ち夢物語だとも言い切れないかもしれない。

    本書の主張に賛同できるかどうかはともかく、なかなか刺激的な本だった。久々に頭が柔らかくなった気分。でも、頭の固い人が読んだら腹立つだけだろうな、コレ。

    余談だが、俺は冷血な人間で、ジェンダー問題とか福祉とかの話題には頭が勝手に拒否反応を示しちゃうんだけど、本書ではベーシック・インカムという経済学的な切り口からそれらの問題を扱っているため、意外とスンナリ読めたのはなかなか気持ちいい体験だった。

  • ベーシック・インカムについて調べる必要があり、読んでみました。
    著者は賛成派ということで、ベーシック・インカム推しの記述が目立ちましたが、ベーシック・インカムの考え方が出てきた歴史や過程について、それなりに紙面を割いて触れてあったので、勉強になりました。

    ただ、全体的に、概念的なことや、大枠に関する記述が多く、具体性には欠ける印象を受けました。
    そのあたりを補足してくれそうな本を、次は読んでみようと思います。

  • ふむ

  •         -20090430

    基本所得を無条件給付とするベーシック.インカムについて近現代200年を概観することを通して、労働.ジェンダー.グローバリーゼーション.所有といった問題のパラダイム転換を試みる。

  • 私は刊行される著作には敬意を払っている。なかなか☆2以下はつけられない。だが、この著書にはがっかりした。ベーシックインカムについて、歴史の説明はあったが、これがもたらすモノについての論考が私には理解できなかった。「衣食足りて礼節を知る」という知恵にも耳を傾けてみては。とだけ言われても困る。残念でした。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000675575

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著者プロフィール

京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、東京都立大学人文学部講師(休職中)。ケンブリッジ大学研究員。専攻は社会政策。興味のある分野は障害者運動と基本所得構想。主な論文に「必要と公共圏」(『思想』2001年6月号)、「基本所得」(『現代思想』2003年2月号)がある。

「2006年 『障害の政治 イギリス障害学の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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