一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病 (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
3.52
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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334035723

感想・レビュー・書評

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  • 他責について知りたくて読書。

    他責の人間が増えている。日本だけの現象なのか不明だが日本は確実に増えているなと感じている。

    本書は、著者が接している患者などの例も含めてモンスター〇〇について紹介されている。

    他責の癖がある人間が、新型うつ病と呼ばれる現象の原因になっていると指摘される。では、どうして他責の人間が増えてきたのか。

    著者は、現在の日本社会が原因だと指摘してると読み取れる。不況からの閉塞感や先の不安、現状の不満から自分を守るため責任を他人に押し付けることで無意識に自分自身を守っているのかもしれない。

    問題は、周りで関わる人間に他責の人間やモンスター〇〇の類がいたときの対処法だ。それが知りたいと思った。

    他責人間になるのは社会の問題もありそうだが、家庭教育にも原因がありそうだ。著者が指摘するように挫折や失敗が少ない人間は、自己肯定力が異常に高く、自己客観視や自己分析力は弱いと思われる。失敗やちょっとしたつまづきを多く経験させて、そこから立ち直るための助言や援助を経験して立ち直って前進してきた人間は他責人間にはなりづらい。

    大切なのは、転んだとき、
    一)他人のせいばかりにしない。
    ニ)敗因を分析する
    三)自分で起き上がる
    この三つの練習を積み重ねていくことだ。(p247)

    自責ばかりだと抑うつ状態になるので、他責と自責はバランスが重要。心のなかで思うのは自由なので、メンタルヘルスコントロールのために、意図的に他責を用いることも方法の1つ。

    前に読んだ人が、p47の引きこもりの子がインターネットに没頭するのは、インターネットは無限のパワーを手に入れた氣分にさせるからの下りに書き込みがあった。

    違う、インターネットに没頭するのは、楽で飽きないからだ、と。

    これに関しては書き込んだ人に同感で、インターネットや依存に陥るのはその行動の方がハードルが低くて楽だからだと思う。

    電車で読書よりスマホでゲームやLINEをやるのは、後者の方が楽だからだと思う。行動に多少の苦痛がもとないハードルもやや高いが読書をする人は、読書にそれ以上の価値があることや得たい目的があるからその行動を選択していると思う。

    本書は色々なことを考えさせてくれた。

    覚せい剤に溺れた芸能人の心理分析は、なるほどと思った。過去の栄光と現状とのギャップに耐えられない。そこにはやや歪んだ自己愛が関係している。

    かくいう私も先月末にこの10年で経験がないほど落ち込んだ。我ながら弱いなと思ったのだが、そんなときに本書を手にしたのは、潜在意識が手にさせたのかもしれない。

    読書時間:約1時間25分

    • だいさん
      書き込みも いいね
      書き込みも いいね
      2016/03/18
    • びあしん慶次郎さん
      だいさん、
      コメント有り難うございます。

      思わず書き込んじゃうくらい納得できなかったんでしょうね。
      だいさん、
      コメント有り難うございます。

      思わず書き込んじゃうくらい納得できなかったんでしょうね。
      2016/03/21
  • 「モンスター〇〇」という言葉が広まって久しい感がありますが、どうしてこんな世の中になっちゃったのかと常々思っておりました。
    本書を読んで納得。

    ひきこもりの病理も「自己愛が傷ついたり壊れたりすることから逃げるための成熟拒否」とあるのを見て手を打つ思いでした。
    確かにそうだわ 。
    ひきこもりの人って、社会に出ることには物凄い及び腰だけど、やりたいこととか自分の興味に関わることになるとプライドむき出しになってしかもそれに全く自覚が持ててなかったりします。
    そりゃうまく行かないよ、と思うけれどそういうことを言うと「何もわかってない」とか「気持ちがわかるわけない」とかシャッターを下ろします。
    「こどもじゃないんだから」ではなく「マインドは子供」なんですね。

    奥付を見ると6年前の出版。今現在もこの病理の改善の兆しは見えているとは言えないように思います。
    今も一度「ライン」から外れたら戻れない世の中のままです。
    「諦める」は大事ですが、これは諦めてはいけない事態だと思います。

    著者の文体の癖だと思いますが、文の末尾が「ゆえに」「だが」「ほどに」など言い差し表現で終わっているのが散見され、私だけかも知れませんがちょっと読みにくいと感じました。
    言い差し表現ではなく「である」「と考える」など言い切りの方が、こういう内容の文には適切なのではないかなーとちょっと思いました。

  • 偏りある部分はあったものの、対象喪失から目を背けてはならないというメッセージは同意する

  • 万能感とか成熟拒否とか対象喪失とかがテーマとなりますが、ひと通り読んでみると、どれだけ「諦める事」が大切なことかが良くわかります。

    「諦めたら終わりだ。」「絶対に諦めない。」「挑戦し続ける。」それは素晴らしい事ですが、むしろ、「もうこれまでだ。」「いい加減諦めよう。」「私には無理だった。」と認めることこそ大切だということです。

    諦めない。ことは素晴らしですが、諦めなくて一生終わってそれでいいのかどうかです。
    諦め、出来ないことを認め、そして、では次にどの方向に進むかを見定め、方向転換しまた新し可能性を見出すよう努力を続けることこそ大切なのです。

    また、どうしても失うことが避けられないものにしがみつかないこと・・・

    先日ピアノ・レッスンで、先生と次のような会話をしました。

    「ピアノはせっかく一生懸命覚えた曲でもちょっと弾かないとすぐに弾けなくなってしまいます。せっかく苦労して覚えた曲、苦労して獲得した能力を失うことに諦めが付かないのです。なので、失うことを食い止める方法はないのですか。」

    すると先生は・・・

    「弾けなくなって構わないのです。忘れてしまって構わないのです。むしろ、変にしがみついて、気分や気持ちに任せてひとりよがりで弾き続けることで、曲に変な癖がついてしまい、どんどん崩れていってしまうのです。」

    「獲得した能力を失うことを認められず、しがみつき、万能感に優越することこそ成熟拒否の典型で、それは貴方が大人になれていないということに他なりません。」

    最後の部分は言葉にされたわけではありませんが、言わんとしていたことはそんなことかもしれません。

    出来ないことを認める。だめなら諦める。それが大切です。

    最初から諦めていたのでは話になりませんが、しばらく取り組んでだめで、そして努力の方法や方向を変えたりしてもだめならばとっとと諦めなさい。そして、方向転換をしてその方向へ自分を伸ばすべく努力すべきでしょう。

  • 現代は「成熟拒否」の社会である。
    大人になるおということは「断念」しながら「現実適応」していくことである。しかし「無力」であることを受け入れることが現代人はできなくなっている。万能感の否認を拒否する方向が引きこもりや鬱であり、怒りとなって他責に向かうとモンスターペアレントやモンスタークレーマーとなる。モンスターペアレントは親としての万能感を保持して「パーフェクト・ペアレント」「パーフェクト・チャイルド」を失いたくないからこそ親の非も子供の非も認めずに学校や教師の責任とするクレーマーと化す。
    消費社会があきらめないでというメッセージを発信し続ける以上は、一方で肥大化した自己愛的万能感を抱えて、あきらめきれない「成熟拒否」が増加し、他方で薬物などによって自己愛や万能感を補おうとする現象が生じるのは当然の帰結、というお話。

  • 著者が精神科医という事もあって心理学的な話が多い。自己愛と万能感。他責的な人々。最もはじめの対象喪失である離乳。罪悪感。幻想と万能感を膨らませる消費社会。

  • 著者は、精神科医であり、精神分析を学んだ経験を活かし、臨床事例と合わせ多数の著書をだしている。

    内容的には、以下の3点について論じている。

    1.ひきこもり、登校拒否、出社拒否に象徴される現代人の打たれ弱さ。
    2.モンスターペアレントなど、他責傾向の強い人々。
    3.ドラック、酒などの依存症。

    これらが急増している背景には、「対象喪失」を受け入れられない=大人になれない人々の増加が原因であり、「対象喪失」を直視し、乗り越えてゆかねばならない。

    この本を読んでいると、説得力があり筋が通っているように思える。
    しかし、内容を細かく見ていると、肝心な部分で客観的なデータが示されておらず、結果から論理が組み立てられているように感じる。

    「対象喪失」を受け入れられないのは、普通の人にも見られる傾向であるし、時代によってかかるストレスも大きく変化している。
    必ずしも大人になれないからという一義的な論点で説明しきるのは無理があるように感じる。

  • モンスターペアレント、モンスターペイシェントの生まれる過程を社会の移り変わりを交えて説明していく。
    第4章は哲学的な内容が続いてどうも苦手だった。

  • ・3/6 読了.確かに成熟するということは難しいし一部の人達には環境的にも境遇的にも無理があることは想像がつく.人類皆が総じてできることではないだろうから、これも現代病の一種としてあることを前提とした社会を作っていくしかないのかもしれない.過去の時代に戻ればこういう病はなくなるかもしれないが、それは解決策とは言わないだろうし.

  •  「スゴイ自分」を捨てきれない大人が増え続ける日本社会に警鐘を鳴らす。ちょっと前にそこそこ話題になった本。
     ひきこもりやモンスターペアレントや依存症患者は「あきらめる」ことができないという点で同じであり、彼らのような人が増えた背景には、「あきらめるな!」というメッセージを発し続ける社会の影響があるというのが主な主張。
     ちょっと言い過ぎな感じも受けたけど、なかなか納得できる本だった。「『あきらめない』のであれば、当然、そのために重ねるべき努力も、あがくことに伴う苦悩も、失敗したときに味わう絶望も、引き受ける覚悟がなければならない」という著者の言葉が重い。

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著者プロフィール

1961年生まれ。大阪大学医学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。専門は精神医学、精神分析。フランス政府給費留学生としてパリ第八大学でラカン派の精神分析を学びDEA(専門研究課程修了証書)取得。精神科医として臨床に携わりつつ、精神分析的視点から欲望の構造について研究。日生病院神経科医長、人間環境大学助教授を経て、現在、神戸親和女子大学教授。著書に『オレステス・コ
ンプレックス—青年の心の闇へ』『17歳のこころ—その闇と病理』(共にNHK出版)『分裂病の精神病理と治療7—経過と予後』(共著、星和書店)など、訳書に『フロイト&ラカン事典』(共訳、弘文堂)などがある。

「2005年 『攻撃と殺人の精神分析』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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