指揮者の仕事術 (光文社新書 501)

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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334036041

感想・レビュー・書評

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  • 音楽ど素人の私にはとても新鮮な驚きがたくさん、でも難しすぎず丁寧。指揮者はプロデューサーだ。第九のくだり(原書の意味を知る大切さ)が良かった。

  •  指揮者がどんな仕事をしているのか、普段聴衆の目に見えない部分、どうやってプレーヤーたちをまとめていくのか、その下準備がどのようなものかという話を、著者自身の経験談をふんだんに入れて、一般のビジネス書的な要素も若干入れつつ解説した本。
     まずもって著者が東大で物理を勉強してました、とか実は全然音楽と関係のない本を書いて賞をもらいました、という話、音楽に関してはレナード・バーンスタインと仲良く話しました、とかいう話があったりして、なんか凡人からかけ離れた人の自分語り、という感じで読んでしまって、素直に読めなかった。まず「仕事術」みたいなビジネス書的な要素はもういらないんじゃないか、と思う。
     以下は面白かった部分のメモ。まず「歌手はしばしば歌詞を忘れます。しかも、リズムがずれる、音程が外れる、楽譜の繰り返しを勘違いする。」(p.38)というのは、そんなしばしばあることなのか、と思った。確かに自分が見た数少ないオペラでも、なんか歌手が無言だった時があったような、という、そういう時に指揮者が何かしてるのか、と思った。最近、少し指揮について勉強しないといけない機会があって、ピアノの先生が、「オレンジの斎藤秀雄先生という方が書かれた『指揮法教程』がバイブル的な本で…」ということを話していて、図書館でちらっと借りてみたりしたけど、これはどうやら「禁断の本」らしい。「『サイトウメソッド』は、日本生まれの型から入る指揮法です。日本のテレビドラマなどで俳優が、実に器用に指揮者の真似ができるのも、この型を教えてもらうからです。逆に言うと、このような型から入る指揮法は本家本元のヨーロッパ音楽には存在しません。」(pp.45-6)ということで、色んな楽曲をこの型にあてはめて指揮をする、というのは初心者には使い勝手がいいけれど、本職はやるべきことではないらしい。そして、古い斎藤先生の本、と言ったら、おれは英語学の巨人の斎藤秀三郎、という名前を何となく連想していたのだけれど、そしたら「斎藤先生のお父上は、明治時代に日本語で英文法を整備した斎藤秀三郎」(p.46)というのがあって、驚いた。あと音の勉強をしていると平均律、という話を聞くけれど、「指揮者になるにはピアノとヴァイオリンを習う必要があるという本当の理由は、平均律、純正律、それに金管楽器などで活用される自然倍音列など、複数の異なる音律の音感と合奏法を身につけるためなのです。」(p.113)ということで、平均律だけではないらしい。そしてこの「平均律」という仕組みは、「正解がほとんどない代わりに落第点もあまりない」(p.126)という感じで捉えられるらしい。へえ。じゃあ五線譜で書いてあることをそのまま表現してもダメではないけど正解にもならないのかあ、と思ったりした。そして、音楽科教育の勉強をすると、「豊かな感性」とか出てくるのだけど、「音楽は言葉と違って、論理的に複雑な意味を伝えることはできません。その代わり、人の気持ちや心の微妙なニュアンスなどは、とても雄弁に伝えることができます。そういう意味で音楽はとても正直であるため、意味が分からないまま歌詞を棒読みしているような歌などは、仮にリズムや音程が整っていても魅力的には聴こえません。」(p.182)というところは、なるほどと思った。でもまず指導者が「雄弁に」というその雄弁さを感じ取れるだけの感性を身に付けないといけないのだけれど。あと、「実は、人間は音を聞きとろうとするとき、利き耳だけで聞いています。そして利き耳でないほうの耳から入ってくる音は、脳のなかで『捨てて』しまっているのです。」(p.200)だそうだ。へえ。どっちが自分の「利き耳」なんだろう??ちなみにp.200の「携帯電話は『利き耳』で聞く」の「携帯電話」の写真はいつの時代の携帯なのか、この写真必要なのか?という。どうでもいいけど。最後に、音の響きを聞き分け、「劇場の中で言葉に生命を吹き込む技術」(p.206)である「職人技」は今では失われていっている、そして「職人的に高度な技術は一度伝承が途絶えると、ちょっとやそっとで復活させることはできません。」(p.207)という、おれの前の仕事とすごい関わりがあるなあと思って、個人的には注目したポイントだった。
     あとはやっぱりヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」は見てみないとなあ、という感じ。指揮の振り方の話も少し書いてあって面白い部分はたくさんあるが、最初に書いたように、この本を素直に読めるきれいな心が欲しい、と思った。(22/08/21)

  • なるほど、と色々と思った。
    ベートーベンの交響曲第九番はそんな意図があるのか、と感じ、
    ワーグナーややっぱり偉大だ、と感じたり。
    この本に出てくる作曲家はドイツ語圏の作曲家が多かった。
    私はドイツ語圏の作曲家がかなり好きだ。
    なので非常に興味深く読むことが出来た。
    読んでつくづく音楽や芸術というのは
    物理現象なのだと深く感じた。
    芸術といえば思想ばかりを語りがちだけど、
    やっぱり物理現象なのだと強く感じた。

  • 日経ビジネスオンラインなどにもよくコラムを書いておられる、指揮者、東大准教授の伊東乾さんが書き下ろした仕事術の本ということで、指揮者がオーケストラをまとめて総合力を発揮するための方法を学び、ビジネスシーンにおいてリーダーが持つべき信条や仕事術を学びたい、と思って買ったのだが、いい意味で期待を裏切られた。一つ一つの内容が非常に濃いのだ。指揮における関節の動き、バーンスタインやブーレーズのリハーサルの様子、第9交響曲の歌詞に秘められたべートーヴェンの真の思い、ヴァーグナーが設計したバイロイト祝祭劇場の音響効果・・。作者が実感したことが生の言葉で語られ、実に面白い。ただ、これらの内容を一般の仕事術に落とし込もうとするところはかなり無理があると感じた。なぜこんなにオリジナリティに満ちて面白い内容を「仕事術」の狭いカテゴリに収めなければならないのか。出版社の企画ミスだと感じた。

  • 新書

  • 前回読んだ「人生が深まるクラシック音楽入門」があまりにも良かったので、こちらも買ってみました。

    著者の来歴が詳しく紹介されており、東京大学入学と同時に音楽もしっかりと勉強されていた経緯がよく分かりました。

    バーンスターンやブーレーズとの交流、指揮棒の振り方など楽しく読めます。

    感銘を受けたのは音響学。

    有名なバイロイト祝祭劇場のホールを写真付きで詳しく紹介し、ワーグナーが求めた音について深く理解することが出来ました。

    やはり音はホールで聴くべきだとつくづく思います。
    2スピーカーで聴いていても音響ニュアンスが違うんですね。

    今は5.1chで録音再生できるので、我が家も5.1chにしたくなったのですが、この前2chのスピーかに買い替えたばかりだと後悔しきり。

    余談でした。

  • 元吹奏楽部員であり、オーケストラもすきなわたしにはとても楽しめた。
    ただ、リーダーシップ論は記述自体も少なく、参考になったのはイントロダクションの部分だけ。

    オペラや、様々な作曲家についてはとても勉強になったし、面白かった!
    2014.01.09

  • 指揮者も教師と同じ。
    知識も必要だけど、周囲をまとめる力も必要。
    それを気づかせてくれました。

  • ベートーベン運命は「ん・ジャジャジャジャーン」、片耳のみに聴かせる、バイロイト劇場のオケピットだけでなく、観客席の下にある木製の空洞が共鳴箱となり劇場全体で1つの楽器となっている・・・ 非常に興味深い話の数々でした。 指揮者が唯一、音を鳴らさない演奏者であるだけでなく、「沈黙」を作る演奏者という説明は大変示唆に富むものです。最後の結論として仕事は「みんなに夢を見せる」ということで、指揮者とは素晴らしいやりがいがある仕事ですね。

  • チェック項目5箇所。「仮に社長さんがいなくても、工場で職人さんは製品を作れますね。でも優れた経営者がいれば、品物の売り上げを五倍にも十倍にも伸ばすことができるでしょう?」。指揮者の仕事は、自分の芸術的イメージという小さな箱庭を奏者に伝えるだけのものではありません、反対に、自分の限界を超えて、メンバーと一緒に音楽を豊かに飛翔させること、そこにこそ、指揮の最大の可能性があると思います。指揮者はオーケストラの中で唯一、休符を演奏できる演奏家なのです、その意味で指揮者は”沈黙の演奏家”ということもできるでしょう。同じ作品を練習しても、さまざまな巨匠がそれぞれにまったく異なった「素晴らしいリハーサル」を繰り広げます、芸術的には、唯一の答え=正解は存在しません、あるのは、無数の正解か、ないしは無数の誤答です。長い人類の歴史の中で、音楽とは、現実の空間で生身の人間が歌ったり楽器を弾いたりして表現するものでした。

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著者プロフィール

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。
東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。第一回出光音楽賞ほか受賞。東京大学大学院情報学環・作曲=指揮・情報詩学研究室准教授。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で第4回開高健ノンフィクション賞受賞。

「2009年 『ルワンダ・ワンダフル!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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