「ゼロリスク社会」の罠 「怖い」が判断を狂わせる (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
3.93
  • (48)
  • (73)
  • (32)
  • (9)
  • (3)
本棚登録 : 481
感想 : 63
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334037062

作品紹介・あらすじ

現代の我々を襲うリスクは、歴史や経験からは教訓を引き出せないものばかりである。何が、どれくらいの量あると、どれだけ危険なのか。イメージや先入観、本能の発する恐怖に惑わされずに、一人一人が定量的に考え、リスクを判定していくためにはどうしたらよいのか。本書では、この時代を乗り切ってゆくために必要な「リスクを見極める技術」について、著者の専門とする「化学物質」「医療」「健康」の分野を中心に解説。さらに放射能のリスクについても、基礎から再考する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • こないだ読んだ『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』につづいて認知バイアスがでてきました。本書は2012年、『ソクラテス』は2013年に出版されています。認知バイアスは、この時期、気にかけられるべきとされたトピックのひとつだったのでしょう。それはまさに、東日本大震災と福島第一原発事故の直後でしたから。認知バイアスは、いわば偏見のような、脳のクセです。たとえば以前、「こんにゃくゼリー」がのどに詰まる事件があり、消費者たち(一般人たち)やマスコミなどによってメーカーが叩かれましたが、おなじく、というか、「こんにゃくゼリー」以上にのどに詰まる被害者のでる「餅」についてはこの問題の俎上に乗りませんでした。ここには、同様のリスクをもっていたとしても、新参の目新しいモノについてのリスクには敏感になり、昔からあって一般化しているもののリスクは低く見積もるというバイアスが存在していると、著者は説明します。そして、そういったバイアスのために、このケースでいえば、メーカーの経済的損失が大きくなってしまった。これこそ、リスクを考え損ねた損失なのです。また、リスクとはトレードオフという考え方を適用するべきもの。トレードオフとは、一方を取れば一方を失うという道理についての言葉です。一挙両得だとか、一石二鳥だとか、そういうものもありますが、多くのケースでリスクを考えたときには、トレードオフの関係になる。ましてや、ゼロリスクを求めて過剰に対策を行って、精神的に疲弊したり、経済的なコストがかかりすぎたり、時間をとられすぎたりと、そのために生じるいろいろな交換損失があります。だから、ちょうどいいところで落とし所を見つけることが大切になるんです。

  •  リスクを取ることを極端に嫌う国民性のためか、ゼロリスク信仰が蔓延している日本だが、リスクをゼロにすることはもちろんできないし、他のリスクが高まったりコストがかかり過ぎたりするらしい。
     原子・分子の話は正直何のことやら?だったが、人工より自然のものが良しとされる風潮や、発がん性のある添加物の本当の危険性についてなど、なるほどと思う内容がたくさん。以前シリーズで読んだ『〇〇の危険度調べました』の著者を名指しで挙げ、反対意見を述べておられたのが大変興味深かった。
     何事もきちんと調べて、何となく怖いから禁じる・叩くではなく、正しく知ることに尽きる。著者のコロナ関連の出来事に関する意見が知りたい。

  • 【感想】
     「必読である」とか持ち上げる人が多いから買ったのに……やや残念。

     根拠レスな主張やデータの無い議論は(どんなテーマでも)論外だろう。本書の指摘する通り、巷でも「天然素材だから安全」みたいな駄目駄目な宣伝はよく見かける。そして、確率を無視したくだらない言説(このクスリ・タベモノは危ない、みたいな)を根絶したい気持ちも私は理解できる。この本を読む人は、科学技術を信頼する立場だろう。

     しかし、本書の説得力は弱かった。
     例えば、本書に載っている「これはこのようなデータからリスクは低い」と、ロジカルに著者の示している各分野の証拠も、(安全性について陣営が別れている議題にたいして)判断の最大の根拠に採用するには、個人的には弱いと感じた。新書という制約があるからだろうか。

     敵とみなしている「ゼロリスク信仰」について。極端な低リスクを求める志向を、著者は有害なものだと認識しているが、ホントにそうだろうか。
     私が思うに、できるべくして醸造された意識ではないのだろうか。日本における公害や薬害にしろ、企業や政府や各種団体によるまずい対応への強烈な不信が積もっていき、こういった過剰にも思える警戒意識が形成された部分もあるだろう。
     それらを、企業などに無茶を要求する消費者側の妄想だとか、仕方無しの出費の要因とみなしてしまうのでは、モヤモヤする。

     一言でまとめると、「リスク排除だなんて世の中が息苦しいぞ」に対して「多少の警戒心は仕方ない部分もあるのでは」ということです。
     この集団の持つ警戒心をうまくマネジメントする方向なら(社会心理学の路線?)、ぜひ続編を読みたい。

    【追記】
    ・一般に向けて「冷静に考えること」を薦める点では本書には賛成。
    ・よみ返すと、この感想文は細かいかもしれない。暗い『地の底の笑い話』を直前に読んでいたせいか。
    ・著者が職業ライターだけあって文章はそつがない。
    ・著者は各種コンプライアンスの意義すら軽んじてるようだ。未だにそんな前時代的な感覚で大丈夫だろうか。
    ・著者は啓蒙的な著作を複数刊行している(『炭素文明論』等)。ただ、この本には理系的悪いところが存分に滲み出ているだけだ。

  • 大学時代に習った内容もいくつかあった。
    食品添加物の基準値、トランス脂肪酸、ニセ科学、リスクはゼロにできないことなどなど
    考え方を学んだはずなのに、メディアが偏った内容を大々的に流すとそれだけが真実に思えるときがある。
    テレビで言ってたから、雑誌に載ってたから正しいわけではない
    いろんな側面からみないといけないな

    何がどれだけあればどの程度危険なのか、わかるようになりたいなぁ

  • これから日本がより成熟した社会になるために、重要な提言。すべての人が、この本の内容を理解していて欲しい。
    個人的には、農薬も、添加物も、不要ないわゆる化学物質も避けて暮らしたいが、その理由は、「安全ではない(かもしれない)から」ではなく、「そういうものが好きじゃないから」と、これからは言うようにしたい。

  • 日本人はリスク評価と相性が悪い。減点法社会や同調圧力の影響だろう。リスクの中でも、恐怖心を煽るもの、制御不能のもの、人工的なもの、子どもに関わるもの、未知のもの、関心の高いもの等はリスク評価を謝りやすい。
    この本ではリスク分析の中でも特に筆者の専門の化学物質のリスクについて分かりやすく解説されている。どんな危険要因も定量的な評価(分母は何でいくつか)が重要だなと感じた。

  • 岩田健太郎 医師 と 佐藤健太郎 科学ライター を 混同しないよう
    ●日本では企業がリスキーである以上、社員は大企業にしがみつくほかなく、少しずつ足場が悪くなる中で、守りの戦いに徹せざるを得ません。これは日本人の極めて根の深い問題。
    ●リスクの大きさ=起きたときの影響の大きさ×起きる確率の高さ
    ●人間はあまり合理的にはできていない。過去の記憶や経験をもとに反応する「本能」の部分と、頭で考える「理性」の部分の2つ。その「本能」の部分が人を強力に支配している。 
    ●カエサルの言葉。「人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ようとしないものだ」
    人間は嫌いなものは間違っているはずだと思ってしまう。これを確証バイアスと言う。例えば「ゲーム脳の恐怖」など。
    ●マスコミの罪。安全と言ってしまうと、後から危険性が発覚した場合には責任が発生しますが、危険と言っている分には、可能性があるのだから警告を発したまでだで通ってしまいます。だから危険を煽るほうが楽なのだ。
    ●個人情報保護による問題。病院では事故の被害者に対して情報提供に応じなくなったり、名札を取り外してしまったことにより患者の取り間違いを起こすなど。
    ●リスクをきちんと測る(定量分析)を行わないから、無駄な騒動が度々起こり、無駄なコストがそこに閉じられることになる。
    ●昔、超能力ブームの頃、「今からあなたの時計を念力で止める」と言うコーナーがあった。ある時計が3年に1度止まるとしたら、1時間のうちにその時計が止まる確率は約26000分の1程。テレビを見ている家計は何百万世帯もあるので、放送時間中に全国で数千台時計が止まって当然なのです。

  • ゼロリスクはない。定性より定量でリスク判断する。

  • ゼロリスクが幻想であることを端的に示している。リスクとどう向き合うか、万人に当てはまる正解はなく、また状況によっても変化するものであり、結局は一人一人が自分の置かれた状況を踏まえて判断するしかないと思う。

全63件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

千葉大学大学院社会科学研究院准教授。1976年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)

〈主要業績〉
『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』(吉田書店、2014年)
「大正期の東北振興運動――東北振興会と『東北日本』主幹浅野源吾」(『国家学会雑誌』第118巻第3・4号、2005年)

「2019年 『公正から問う近代日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤健太郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×