「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334038168

感想・レビュー・書評

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  • 著者が1984年生まれで同い年、ワーキングマザーの書いた本ということで手に取ってみました。

    勉強もできて、大企業の総合職に就いて、晩婚・少子化が進む現代においては比較的早く結婚して出産もした。
    言ってしまえば「勝ち組」のバリキャリ女性たち。生め、育てろ、働け、の全てをこなす“スーパーウーマン”たちは、はたして偉い人たちの言うように輝いているのか?というと、既存の企業のシステムや世間が求める「母親像」などに苦しめられたりして、実はボロボロだったりする。
    …とはいっても食うに困っているわけでなし。こんなことは贅沢な悩みだ、私たちの苦労なんて苦労じゃないよね。…と、ものわかりが良く声をあげない彼女たちに対し、著者は言います。

    贅沢だとか、あんたたちはどうせ勝ち組だとか、人は言うかもしれないけれど。
    同じ立場の男性たちは全く経験しない苦労を味わっていることを、隠してはいけないのでは?
    最終的に「女だから」「男だから」という言葉しか残らない不平等がある。悔し涙があり、憤りや生きづらさを感じたということ。そういう気持ちに誰も寄り添ってくれない世の中ってのはおかしいのではないか。つらいって言ってもいいんだよ、私たちだって。
    (これで終わりません。)
    というかむしろさ、勝ち組なんだからさ、エリートなんだからさ、私たちが感じた理不尽を出発点に私たちが社会を変えて行くんだよ!涙拭いたらやることやるぞ、おまえら!

    という感じの、優しうて後に強し、なアツい本です。

    ※勝ち組とかバリキャリとかって言葉はキャッチーだしイメージがわきやすいから本書でも使われていたように私もここで使っているけど、なにかと議論を呼ぶ言葉ですね。ま、それはここでは割愛。


    アツいといっても想いだけが空回りということもなく、どういう構造がこういう現象を引き起こすのか?といったところの分析がとても丁寧です。それもそのはず本書は著者が育休中に大学院で書いた論文を出版用に書き直したものなのだそうで。新書とはいえ「流行の話題と上手いタイトルが目を引くが1章だけでほぼ言い終わっててあとは薄味」みたいなことになっておらず、頭からつまさき、指先まであんこみっちり。その点だけでも感服の力作です。

    以下、備忘メモ。

    ■「育休世代」という定義
    ・均等法施行から何年とよく語られる、施行直後の世代とはまた違う苦労があるよねという差別化。
    ・各種制度も整ってきて、昔に比べたら恵まれている。だけど!同じ女としての苦悩があるよね。

    ※この、「私とあなたとで状況は違う、お互い羨んだり妬んだりという気持ちを持つことも正直あるかもしれない、だけど、実は共感し合えるところもある、そこを出発点に、建設的に物事を変えて行く話をしようよ」っていう主張は、本書全体を通して、ある。世代間、未婚・既婚、子供のいるいない、出産後仕事を辞めたか・続けているか、さらには復職者同士でさえ、あの人は親と同居だからとか、シッターまで雇ってるとか、旦那さんがどうだとか・・・そういう対立構造、意味ないよね、と。

    ■高学歴で大企業の総合職、バリキャリ女性15人だけにインタビュー対象を限定していることについて
    ・著者自身がそうだから、自分の友人やその友人などをインタビュイーにしたようである。彼女たちの発言の引用を見てもかなりくだけた口調なので、いろんな発言を引き出せたであろうことは伺える。
    ・それはそれで強みでもあるが、同じ手法で別のグループの人たちを対象にこの研究をするのは難しそうだなあと思った。たとえば「絶対に家事をしない夫たち」の気持ちとかすごく聞き出したいのだけど、この著者には語ってくれなさそう(笑)。
    ・また、そんなバリキャリ女性は世の中の少数派だという批判に対しては、「そういう対立構造(を煽る姿勢)から脱したい」という話と、「(エリート意識と言われるかもしれないけど)バリキャリが活躍してこそ女性全体、ひいては社会全体の利益にもつながる変革を起こせるのだという理念」で回答。
    ・傍目からは恵まれているように見えても、みんなそれぞれの事情を抱えて頑張ってる、こうやって生活してる、そういうことをつぶさに伝え合えたら知り合えたら、もっとわかりあえるんじゃないのか?ということでまずは入り口として、この人数のインタビューなのであろう。
    ・私自身本書の定義で言うと「バリキャリ」なので、同じ穴のムジナですが、はたしてどこまで多様な層に著者の思いは届くだろうか。

    ■「ケア責任を負う就労者」という概念
    ・そもそもこうした就労条件のばらつきやなんかの話って「女性」の問題にされがちだけど、実は女性に限らない。育児や介護などのことを「ケア責任」という言葉で表現するらしいのだが、これまで慣習としてケア責任を負うのは女性とされてきたというだけのことで、今後企業は「女性を」ではなく「ケア責任を負う就労者を」どう活用するかを考えなければいけないよという指摘。ちょっとずれるがLGBT的な意味でも。

  • 自分と同じ世代の女性・現役ワーキングマザーが書いたということで気になり、購入。少しずつ読んで、読了。
    あーなるほどなあ。わかるわあ。という内容が多数。

    私は転職してるのもあって比べにくいけど、完全にやりがい重視で就活した。女性の働きやすさがないとわかっていながら。のちのち転職するし、それまでがんばろう!くらいにしか思ってなかった。そしてやっぱり訪れた、「ああはなれない」「なりたくない」思ってしまうような、子育てと仕事の両立なんて非現実的だというロールモデル。
    やっぱり早く辞めようと思うのに決定的だった気がする。
    本書でも何回か出てくるように、「そこまでして働く価値はあるか」ってかなり思った。結婚相手もいない時やったけど、この会社でずっと働いていく自分は全く想像できなくて辞めた。
    「まだその問題に直面してないのに逃げてるんじゃない?」って上司から言われたことが忘れられん。その人は女性総合職に理解があって色々がんばってくれてたけど、直面してなくてもわかるだろうよ。誰がどう見たってムリやん?って思ってしまった。
    私もアマちゃんやったかもしれん。

    ・・・と、この本読みながらそんなことを思い出した。
    これからほんまに妊娠・出産したら、たとえ公務員で恵まれてるっていっても色々あるやろうと思う。でも世の中のワーキングマザーはみんな似たような思いを抱えてると思うとがんばれるのかも。

    すごくたくさん資料やデータが載せられてて根拠が明確だったけど、インタビューする人に偏りがあるなあと思った。旦那の年収1000万オーバーなんて人そうそういないと思うので、もう少し低所得で「共働きじゃないとやっていけない」という女性の声も載せてほしい。

  • なんでバリキャリ女性ほど出産を機に辞めてしまうのか、その辺の理由、背景が分かりやすい。
    確かに、男性にも読んでほしい本。

    自分が出産を控える立場になって感じることだが、復帰してバリキャリを続けるか、それなりに妥協して働くか、会社を変革してさせるようなパイオニア的なスーパーな女性を目指すか、戻る場所があることに感謝して淡々と与えられた業務をこなす日々を送るか、など、どんな立ち位置とかスタンスで行くべきか、将来の自分を想像しながらもまだまだ他人事として考えてしまう。

    実際に、育休から復帰して、両立してみてはじめて見えてくるものもあるんでしょうね。

    色々考えさせられた。

  • 総合職として入社し、男性社会の中で必死に働き、頑張っている女友達に贈りたい本。そして、女性だけでなく、大企業で働いてる管理職〜若手層の全て年代の男性に読んで欲しい本。

    本書は、なぜ育休という制度があるのにやめてしまうのかという問題意識に対し、育休の制度が定着した2000年以降に大企業に総合職として入った女性に取ったアンケートを元に、女性参画が進まない理由を論じたもの。論文を再編成したということもあり、新書にしては読みにくい本だったが、同世代もしくは少し上のロールモデルの経験に基づいた話ということで参考になった。

    私は、自立した女性を育成する女子高で育ち、大学ではジェンダーを感じず生きてきた。私は女性であることを無関心であったが故に、業種といった”やりがい”だけを重視してしまい”女性の役割を求められる一般職”を選んでしまい、入社後ジレンマを感じていた。本書が扱っている「総合職女性」とは立場が若干違かったものの、「育休後に周りの目が変わった」「専業主婦を楽しめるキャラだったらどんなに楽だろうと感じた」「ジェンダー化された女性に嫌悪感を持ってしまう」など非常に共感した部分があった。

    男性と同様に競争しやる気があふれていた人(マッチョ型)がやめるという決断をし、逆に自分は女性であることを受容し、仕事に対する意欲を調整できる人が続職しているというのは非常に面白い結論だった。

    男が女に合わせる=残業や転勤の有無で出世を判断するのではなく、質で評価する多様な働き方がもっと可能になればよいと思う。

    女性個人に対するメッセージとして「WLBが整った状態でなくても、入った企業でパイオニアになる。ルールを変えようと戦う姿勢」が印象的。こういう世界が全てではないと思うので、共感できる人とできない人の振れ幅は大きい本だと思います。

  • 結論は、既によく指摘されているような内容。
    ただし、15名の被験者のライフコースを分析するという手法は大変興味深かった。
    今回の被験者は、筆者も指摘する通り、いわゆる「勝ち組」の女性ばかりだったけれど、今後は様々な職種や年齢の女性に対する研究を期待したい。

    終わりに、の部分に書かれていた最後の一文は、20代から30代の、働くすべての女性に対するエールだと感じたので星4つで。

  • アカデミックな部分とインタビューに答えた女性のリアルな声の部分がバランスよく盛り込まれており、著者や女性たちの主観に偏っていなくてニュートラルな立ち位置で書かれているなと思った。自分が当事者じゃないので100%共感・理解することは難しいかもしれない。そのなかでも、自分の工夫や努力、会社の理解、夫の協力、仕事内容、等の条件が揃わないと、育児も復職もままならないのだという事実がつらい。きっと私の周りにワーママは比較的多いけど、彼女たちはすごくすごく頑張っているのだと改めて感じさせられた。尊敬。

  • 育休復帰から半年後に夫が海外へ、実両親・義両親ともに遠方かつ双方共働きの中、早朝・延長・病児保育やベビーシッターを利用しながら働いていたところ、専ら補佐系のポジションへ異動、楽になって嬉しい反面、エネルギーを持て余して資格を取りまくり、周りにロールモデルがいないと嘆いては、それなら自分がロールモデルになればいいじゃないかと非難されて、無茶言うなよとしか言い返せなかった頃に中野さんのこの本のことを知った。読んで良かった。

  • どうしてこんな思いして働いてるんだろう、とかほんとに共感できた。ワーママに読んで欲しい。みんなジレンマをかかえてる。

  • 2015年02月13日 18:03

    年齢的には少し下の世代に焦点をあてた調査だが、院卒、専門職を経て会社員となった自分の年齢を考えると、かなり共感できた。 
    貧困層、育休切りなどから比べたら、高学歴で恵まれてると取られる層にも、やはり両立の壁ははだかり、残念なことにバリキャリを目指しているクラスタほど、退職を選択しているところに興味を持った。 
    男並みに、と目指すことなく、自分のやり方での両立を目指せるような社会基盤が必要。

  • 出産を経験した女性総合職にターゲットを絞り、彼女たちが抱える葛藤を研究した一冊。

    総合職として働く道を選択した女性たちは、なぜその道を選択し、
    入社、結婚といったライフイベントを経て、仕事や家庭への感じ方や考え方どう変わり、
    出産を機にどんな道を再選択し、その選択にはどんな理由があるのか?

    といったことを、企業に総合職として就職し、20代で出産を経験した15人の女性へのインタビューを通じて研究した本です。

    【感想】

    私は今まで、「女だから損している」というような感じ方をしたことがないのですが、
    出産や育児をもし今後経験するとしたら、もしかしたらそのとき初めて、「女だから」に直面するのかな・・・

    と思い、予習(?)のためにこの本を買いました。

    出産するのは女性しかできないことなので、「産休」を女性がとるのは仕方ないけど、
    育児は男性がやっても女性がやってもいいはずなのに、なんで女性ばっかりが育休をとらされて、キャリアをあきらめなきゃいけないのか?

    ・・・というような葛藤が、筆者と15人の女性たちもには共通してあるようでした。

    企業の側が、女性が働きやすい施策を打ち出せば打ち出すほど、
    家庭の中では 「おまえ(女性)が仕事休めば/時短勤務すればいいじゃん」 という話になり、
    男女差別を助長してしまう、というジレンマがあるのだと。

    ・・・ほー。

    確かに、女性が働きやすい施策というのは大事だけど、
    女性だけが働きやすい施策は、結局女性を苦しめてしまうのかと、 なるほどと思いました。

    本当の意味で女性が働きやすい会社になりたかったら、
    女性だけが働きやすくなるための施策はだめで、女性も男性も働きやすくなるための施策が必要なのだということに、とても共感しました。

    その他、なるほどと思ったこと。

    ・男性は基本的に総合職しか選べないのに、女性は一般職という選択肢があるのは、女性の「特権」だと思っていましたが、
     本書ではそのことを、男の仕事・女の仕事 という男女差別が、 総合職・一般職 という職種差別にすり変わり、より本質が見えにくくなったと書いてあり、
     なるほど、そういう見方もあるのかと思いました。

    ・女性管理職が少ないのを、女性の意欲の問題にするのはだめらしい。
     「そもそも、男性は意欲があってもなくても管理職になっていくのに、女性の場合はなぜか意欲が問題にされる。」 というのはなるほどと思いました。

    ・多くの企業における男女平等は、「女性と男性を同じように」ではなく、「女性を男性と同じように」扱おうとしているところに問題がある、という指摘。
     それで 「男なみ」 の考え方や生き方をしている女性だけが上に上がれる仕組みを作っても、
     結局 「男性」 と 「男なみ女性」 の意見しか経営に反映されないことになって、真の女性活躍とは言えないんじゃないの、という主張にナルホド。

    読んでいるときは議論の粗さが気になり、あまり良い本じゃないような気がしていましたが
    (筆者が修士論文として書いたものを、一般向けに改訂した本だそうです。)、
    感想を書いてみて改めて、色々感じるところのある本だったと気付きました。

    研究としての精度より、多くの人に読んでもらいたくて書いたという筆者の狙いは、当たっているな! と思いました。

著者プロフィール

ジャーナリスト、東京大学大学院博士課程

「2019年 『なぜ共働きも専業もしんどいのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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