ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち

  • 光文社
3.95
  • (67)
  • (92)
  • (52)
  • (10)
  • (2)
本棚登録 : 1026
感想 : 99
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334039790

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【感想】
    「人生は生まれによって決まるのか、育ちによって決まるのか?」

    古今東西、多くの議論が繰り返されてきたこの問いに対する筆者の立場は「両方」であった。

    彼は、世界で最も裕福な国家であるアメリカの中でも、特に貧しい地域であるアパラチアに生まれた。
    筆者の街は退廃した雰囲気が満ちていた。家庭内暴力と夫婦喧嘩はどこの家でも日常茶飯事で、両親のどちらか(あるいはどちらも)が薬物中毒者など珍しくはなく、知り合いや身内の物を平気で盗み出す輩が後を絶たない。
    彼らのコミュニティでは、いつも誰かが誰かを憎んでいる。そこに新しく生まれた子どもも、同じようにコミュニティに取り込まれ、憎み憎まれる関係になる。

    彼らは自分達が貧しいということは知っている。しかし、「何故貧しいか」は知らない。そして、「知らないということを知らない」。
    そんな彼らに上昇する望みはあるのだろうか?自分達が陥っている貧困から脱却しようとせず、エリートの理知的な提案を拒み、ただ怒りに任せて周囲を攻撃する人間達に、何とアドバイスを授ければ生活が改善するのか?きっとエリートにも答えは出ないだろう。

    彼らは閉じたコミュニティの中で、自らの惨めな境遇を肴に、延々と誰かを呪い続ける。薬に逃げるよりも真面目に働くほうがずっと楽になるということは当たり前で、恐らく彼らもそれは理解している。でも、できないのだ。努力ができる環境に生まれなかったのだ。目の前の快楽と将来の希望を天秤にかけても、簡単に安きに流れる人間達なのだ。

    しかし、これは果たして、彼らが生まれ持った救いの無い障碍なのだろうか?それとも彼らの自業自得なのだろうか?挽回できるチャンスすら無いというのは、環境と彼らのどちらの責任なのか?

    この本に書かれていることは、今後先進国で現れる「地方格差」の一端である。それは遠からず、日本でも起こるにきっと違いない。

    追記:筆者のJ.D.ヴァンス、なんと2022年11月の中間選挙に「共和党候補」として出馬。トランプに否定的な態度を一変し、今度はトランプ公認の支持勢力に回った。わからないものだ。


    【本書のまとめ】

    1 ヒルビリーとは何か?
    筆者のJ.D.ヴァンスは、スコッツ=アイリッシュのヒルビリー(田舎者)である。ヒルビリーとは、オハイオ州、ケンタッキー州といったラストベルト地帯に住む白人アメリカ人のこと。
    筆者の故郷は、アメリカの繁栄から取り残された白人コミュニティである。社会階層間を移動する人が少なく、貧困や薬物依存症などの苦難の真っただ中にあって、よそ者を受け容れず、社会的に孤立している。彼らはこぼす。「職さえあれば、他の状況も向上する。仕事が無いのが悪い」と。

    しかしながら、ヒルビリーは職を与えられても努力しない。貧しいのに平気で無断欠勤を決め込む。政府の援助を受けずには自立できないのに、それを与える者たちに牙をむく。ドラッグのためなら平気で家族や隣人から盗む。
    困難に直面した時のヒルビリーの対応は、怒る、怒鳴る、他人のせいにする、逃げる、というものだ。
    周囲の大人は、「努力しても無駄」だと思い込んでいる。そんな場所で育った子供もまた、「努力しても無駄」だと考え、努力の仕方を学ばずに貧困に落ちていく。ヴァンスのように幸運だった者以外は、「努力はしないが、ばかにはされたくない」という歪んだプライドを、無教養と貧困とともに親から受け継ぐ。


    2 筆者の祖父母について(ケンタッキー州とオハイオ州の生活)
    ケンタッキー州ジャクソンの丘陵地帯で暮らす人たちは、住民の1/3が貧困状態。薬を違法に手に入れ、薬物依存が後を絶たず、公立学校は荒れ果て、高校は生徒を大学に送り込めない。
    何より問題なのは、住民自身がそうした状況を改善しようとしない点だ。
    アパラチアのティーンエイジャーには、自分にとって嫌な事を回避し、都合のいいことだけを採用するという「明らかに予測可能な抵抗性」が見られることを、論文が発表している。

    筆者の祖父と祖母は、ケンタッキー州からオハイオ州に移住し、ミドルタウンに移り住んだ。片足はオハイオの中流階級、片足は貧しいケンタッキーにあり、移住先に同化できていたかは微妙である。
    また、筆者の一族は全員、一瞬にして頭に血を登らせる連中であった。

    じきに、祖父はアルコール依存症が酷くなる。祖母の血の気の多さも相まって、しょっちゅう夫婦喧嘩を始めるようになった。
    ただし、家庭は崩壊しながらも、家計状況は悪くなかった。祖父母の3人の子供のうちジミーとローリーは成功するも、ベブ(筆者の母)は上手く行かなかった。

    ベブは高校卒業と同時に妊娠しボーイフレンドと結婚するも、喧嘩ばかりが続き、19歳の時にシングルマザーとなる。親らしいふるまいをすることは不可能で、子育ては、何とかうまく持ち直した祖父母が行っていた。

    3 ミドルタウンという環境
    筆者の故郷であるミドルタウンは、ラストベルトにある限界都市である。ここには消費者がいない。消費者を雇用するだけの仕事が無いからだ。
    この街は元大手製鋼会社の「アームコ」に大部分を依存していた。アームコがミドルタウンを作ったようなものであり、アームコが衰退すると、ミドルタウンは目に見えて崩壊し始めた。

    4 ベブ(筆者の母)と筆者の家庭環境
    ベブは祖父母の干渉に耐えかねて、3人目の夫であるボブと一緒に、ミドルタウンから55キロ離れたプレブル郡に引っ越した。引っ越し当初から2人の仲は悪く、喧嘩が絶えない。筆者の健康に悪影響が起き始めるほど、ストレスの多い環境で暮らしていた。
    当時は母とボブだけが異常だったわけでは無い。近所に住んでいた人間達は、みんなしょっちゅう誰かと喧嘩していたのだ。

    その後、母は自殺未遂を起こし、ボブと別れて(母が不倫していたのが原因だが)ミッドタウンに戻り、再び祖父母と住み始める。そこから母の様子が変わり始め、パーティ狂いになり酒におぼれ始めた。そして筆者を殴り殺そうとし、家庭内暴力の罪で逮捕された。祖父母が高い弁護士を雇い、服役は免れた。

    筆者は当時を振り返り、「子どものときにはつらいことがたくさんあったが、その中でも極めつけは父親役が次々変わったことだ」と言っている。ひどい家庭環境にあっても虐待や育児放棄はされなかったものの、ごたごたが増えるのは相当なストレスだった。

    筆者と仲良くしていた祖父が死んでから、家庭は明らかにおかしくなり始めた。薬物依存を抱えながらもかろうじて社会生活を送っていた母は、社会のルールにのっとった行動すらできない人間になった。その分、祖母が筆者と筆者の姉のリンジーの子育てを担う。自分達が重荷を背負わせている考えた筆者とリンジーは、自らの生活を自らの手で負担し始めた。

    筆者は、祖母のところで暮らしたい気持ちと、自分がいるせいで祖母の老後の楽しみが失われているのではないかという不安との間で揺れていた。
    こうした中で、母と消防士のマット(3人目の彼氏)と新居での生活を送るが、すぐに別れ、母は4人目の彼氏(ケン)と結婚する。
    リンジーと離れ、祖母の家とは遠くなり、知らない男と暮らすこととなった筆者の孤立感は最悪だった。学校には行かなくなり、成績が落ち、ドラッグに手を出し始める。

    あるとき、祖母のところにいた筆者に母が怒鳴り込んできた、「クリーンな尿をよこせ」。筆者は激高しながらも尿を渡した。その瞬間、筆者の中で何かが音を立てて崩れ始めたという。
    その後、母は結局ケンと別れ、筆者は祖母の家に戻ることができた。誰にも邪魔されることもなく、3年近く祖母と暮らすようになり、この生活が筆者の生活を好転させた。


    4 自立による新しい価値観の芽生え
    筆者はアルバイトをするようになり、プチ社会学者へと変わった。自分が必死になって働いて得た給料から税金が引かれ、その税金が生活保護者に渡り、彼らがT-ボーンステーキを買ってゆく。自分の家の隣の敷地には、政府の住宅資金援助によって低所得者が家を購入する。

    ここに住む人たちは、絶望的な悲しみを抱えて生きている。作り笑いはしても、決して心から笑うことはない母親が大勢いる。
    コミュニティの問題は蟻地獄のように滞留しつづけるものだ。ジャクソンやミドルタウンの人達は、他の地域の人達と何が違うのか?うちの隣に住む女性は、どうして虐待癖のある男と別れないのか?彼女はなぜ、ドラッグに金を使うのか?自分の行動が子供の人生をめちゃくちゃにしていることが、どうしてわからないのか?
    筆者の暮らす世界は、完全に合理性を欠いた行動で成り立っていた。近所の人間は、金を使って貧困へと向かっている。巨大なテレビやiPadを買う。高利率のクレカと、給料を担保にした高利貸で子どもにいい服を着させる。必要もないのに家を買い、それを担保に金を借り、散財し、結局は破産する。蓄えの無くなった跡にはごみの山だけが残る。

    どの家庭も混沌を極めている。父親と母親が互いに叫び声をあげ、ののしりあい、両親のどちらかが――ときにはどちらとも――ドラッグをやっている。子どもの前で殴り合い、「悪かった」と詫びてもまた同じことをする。子どもは勉強せず、親は子どもを勉強させない。一生懸命働くことの大切さは口にするのに、実際には仕事に就かず、就いても辞め、それを何かのせいにする。「こんなのフェアじゃない」と。

    筆者は2つの世界にまたがって生きていた。どうしようもないスラムと、愛情をもって接する大人たちのコミュニティだ。そして筆者の人生は、明るく変わっていった。それはひとえに、祖母の家で「幸せ」だったからだ。

    筆者は高校を卒業すると、海兵隊の道に進む。海兵隊が教えてくれたのは、「強い意志を持って行動すること」だった。今までの人生で、「自分ではどうしようもない」という感覚を植え付けられていた筆者に、「自分自身には力があり、愛する人達の面倒を見る能力と責任がある」という意識を与えてくれた。また、イラクでの子どもたちとの交流によって、世の中に対してずっと抱いていた恨みを捨て、人を愛する気持ちを学ぶことができた。

    自分の選択には意味があり、全力を尽くせばなんだって出来る可能性を持っている。それが海兵隊で学んだことであった。

    海兵隊で残り2年間となったときに、祖母が亡くなった。


    5 大学生活
    オハイオ州立大学に進んだ筆者は、順風満帆な生活を送る。
    一方で、リーマン・ショックは、ミドルタウンの景気に大ダメージを与え、町にニヒリズムを蔓延させていた。ミドルタウンの住人にあるのは、社会制度そのものに対する根強い不信感だ。ニュースも政治家も信用できない。仕事もなく、社会に貢献できず、何も信じられない。オバマはイスラム教徒だったり、同時多発テロは政府の陰謀だということが、平気で信じられていた。

    生活を向上させるには、良い選択をするしかない。だが、良い選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるを得ない環境に身を置く必要がある。しかし、白人の労働者階層にはそれができない。結果、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかもそれは日増しに強まっている。

    ヒルビリーからアイビー・リーグの大学に入学する者はなぜ一人もいないのか?アメリカのエリート教育機関はなぜ、これほど多くの問題を抱えているのか。なぜ文化人たちは、ヒルビリーが好む食事や生活習慣をしないのか。
    そして何より、成功している人たちはどうしてこうも筆者と違うのか。

    成功した人たちは、成績や人間性以上のものを持っている。エリート達とのネットワークだ。オハイオ州立大学時代には、仕事は望んでも得られなかった。しかし、イェール大学で一年過ごしただけで、年収10万ドルの仕事が簡単に得られる。なにか不思議な力が働いており、その力に初めて触れた瞬間だった。


    6 自分の中のヒルビリー精神
    ロー・スクール2年目になると、筆者は恋人のウシャとケンカするとき、声を荒げ、罵り、酷い悪態をつくようになる。まるで彼の母が彼に行っていたことと同じことを、恋人にしているようだった。それは「逆境的児童期体験」と呼ばれる、子どもの頃のトラウマの影響が大人になってからも続く現象である。

    いったい、人生のよしあしは、どの程度、自分の選択に左右されるのか。文化や環境の影響はどれほど強いのか。一族や親は、子どもにどれほど悪影響を与えるのか。母の人生は果たして自業自得なのか。本人の責任はどこまでで、どこから同情すべきなのか。

    こうした問題は、政府によって作り出されものでもなければ、企業や誰かによって作り出されたものでもない。私たち自身が作り出したのだ。それを解決できるのは、自分たち以外にいない。

    • 澤田拓也さん
      すいびょうさん、
      すごく的を射たレビューありがとうございます。トランプが根強い人気があるのがわかるし、日本も人ごとではないですよね。
      すいびょうさん、
      すごく的を射たレビューありがとうございます。トランプが根強い人気があるのがわかるし、日本も人ごとではないですよね。
      2021/02/27
    • すいびょうさん
      澤田拓也さん
      コメントいただきありがとうございます。トランプ当選が「地滑り的勝利」ではなく「勝つべくして勝った」ことがよく分かる一冊だと思い...
      澤田拓也さん
      コメントいただきありがとうございます。トランプ当選が「地滑り的勝利」ではなく「勝つべくして勝った」ことがよく分かる一冊だと思います。
      本書の舞台であるアパラチア地方にはびこる閉塞感は、日本の地方社会が抱える先行きの不透明さといくつか重なるところがあるのでは、と考えてしまいます。
      2021/02/27
  • 試論、2冊同時感想。

    米国の繁栄から取り残された、工場撤退後の産業地域、通称ラストベルト(錆びたベルト地帯)。ここの白人労働者層の不満の鬱積が、トランプ旋風の推進力だったことは大統領選の報道で知られているとおり。

    その実情を余すことなく描いているという「ヒルビリーエレジー」を読んでいて、日本における参考文献は「下剋上受験」だと思った。こちらは、祖父の代から中卒の著者が、娘だけは違う人生を、と最難関中学受験にパパ塾で挑む記録文学(私としては躊躇いなく文学という言葉を使いたい)。

    この2冊のテーマは、ある意味において強くシンクロしている。
    テーマとはと言われると難しいが、自称「下層階級」に可能な「努力」とはなにか、といっていいかもしれない。
    そして、著者の才能もかぶるのだろうか、エリート社会を垣間見た自称「下層階級」が放つ乾いたユーモアのテイストまで一緒なのだ(テーブルマナーネタ、そして受験や就職の面接での痛恨の失敗などなど)。
    念のため、日本での出版年次は下剋上のほうが3年ほど早い。

    「いまの状態は、彼自身の行動の結果である。生活を向上させたいのなら、よい選択をするしかない。だが、よい選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるを得ない環境に身を置く必要がある」(ヒルビリー、p304)

    「私は今まで努力することを避けて生きてきた。その生き方を反省している。努力しようとしたことはあるがいつも挫折するのだ。結果に届くまでに諦めてしまうのだ。その生き方の中でなんとなく掴んだことがある。確かではないが、なんとなく思うことがあるのだ。『ブルドーザーのようにがんがん努力することは傍目には立派に見え誰もそれを馬鹿にすることはできないが、なぜか届くことなく終わり、その努力だけを褒められ、結果を褒められるには至らない』という理不尽な結末をなんとなく意識している」(下剋上、p152)

    もちろん、この2冊の人たちのように家族が支えてくれる幸運に皆が恵まれているわけではない。チャレンジしたくてもその機会さえない人もいる。
    しかし、社会が悪い、と善意の補助することでより事態が悪化する場合もありうることも、この、2冊はまた正確に言い当てている。

    難関中の受験を終えた父娘の会話には、何度読み返しても涙腺を決壊させられてしまう。土木工事の経験からだろう、このお父さんは「流路を変える」という言葉を何度も使う。娘の人生だけでも変える、そう、過酸化水素水を酸素と水素に変えるけれど自分自身は何も変わらないあの二酸化炭素マンガンのように、私は娘にとっての触媒になるんだ、と。

    ヒルビリーはより深刻で、幼少期の厳しい家庭環境がいかにトラウマとして残るか、という点に光があてられている。著者自身、薬物依存の母親に悩まされ続けてきた。
    著者が理想の伴侶を得て少しずつトラウマを乗り越え、今かつての自分のような境遇にある子どもたちに想いを馳せる最終章には胸が熱くなる。

    社会の分断を「貧しい善玉 対 悪いエリート」の対立構図で語ることを、一国の政党ですら恥じない今の世の中にあって、まだ突破口は残されていることを人々に伝え、必要な支援を惜しまない、そんな社会について考えさせられる2冊であった。

  • トランプ支持層に重なる、アメリカはアパラチア山脈一帯に住む「スコッツ=アイリッシュ」の低学歴・低所得の白人労働者達。その生業は、かつては日雇い労働者や物納小作人、炭鉱労働者、そして現在は機械工や工場労働者。彼らは、「ヒルビリー(田舎者)」「レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」などと蔑称で呼ばれているらしい。

    著者は、ヒルビリーに属しながら、(強烈ではあるが比較的真っ当な)祖父母の愛情に何とか支えられ、海兵隊への入隊経験後、オハイオ州立大学及びイェール大学ロースクールを出て貧困から抜け出し、エリート層の仲間入りができたという幸運の持ち主。本書では、自らの実体験を通じてその病巣を赤裸々に綴る。

    まず。著者の家庭環境が凄い。男を取っ替え引っ替えするドラッグ漬けの母親、その母親による家庭内暴力と偏愛、自分や家族を侮辱されたと感じると簡単に暴力に訴える親族達。こんな家庭から(犯罪に走ることなく)真っ当な人物が育ったことにまず驚いた。

    本書によると、ヒルビリーの特徴は厭世的・悲観的な人生観、自制心のなさ・暴力への依存、ドラッグ・アルコール中毒の蔓延、浪費癖、勤労意欲のなさ、メディアや政治への不信感と責任転嫁(自分達の問題を政府や社会のせいにする傾向)等々だという。

    救いようのないヒルビリー気質に暗澹たる気分になる。コミュニティ全体明らかに病んでる。著書も「社会の衰退を食い止めるのではなく、それをますます助長する文化」と書いている。これを政府が政策(貧困対策)だけで何とかしようとしても、負のスパイラルにしっかり嵌まってしまっているから到底無理なんじゃないだろうか。このような人たちが、アメリカ社会を(良くして欲しいと期待するのではなく)メチャメチャに壊して欲しくてトランプ大統領を支持しているのだとしたら…。アメリカの白人労働者問題,根深いなあ。「21世紀の啓蒙」によれば、これは一時的な現象にすぎず、白人の人口比が減少していくにしたがってやがて解決されていくということだったが…。

  • Netflixから

    酷い環境ながらも愛があって、学業で成功した家族ではなかったけども勉学が身を立てるのを理解してくれてた。それがこの人の人生を救ったと思う。


    おばあちゃんはJDの支えにはなれたけど、自分の娘の支えにはなれなかったってのが悲しい。

  • 無名の31歳の弁護士が綴った自叙伝がアメリカで大きな反響を
    呼んだのは2016年。イェール大学ロースクール出身の白人男性。

    成功者であるとも言えるだろう。しかし、彼の出身はトランプ
    大統領の強固な支持層とされる白人労働者階級だ。自身の家族
    史を詳らかにし、育った環境を包み隠さず綴っている。

    アメリカの生まれの白人でも、黒人や南米からの移民と同じように
    苦境の中に生活する人たちがいる。

    アメリカの製造業が繁栄を謳歌した時代、安定した雇用を求めて南部
    から北部へ移住した白人は多くいた。誰もがアメリカン・ドリームを
    求めて、その夢を果たせた時代もあった。

    だが、繁栄は永遠ではない。製造業はより人件費の安い海外に転出
    し、労働者は置き去りにされる。引っ越し費用にさえ事欠く人たちは、
    その場所で生きて行くしか選択肢がない。

    罵詈雑言と暴力が、普段の生活のすぐ隣にあるだけではなく、家族
    への愛を口にしながらも家族間では絶え間のない軋轢が起きる。

    著者が育って来た環境には驚くばかりだ。生まれた時、母は既に
    実父と別離しただけではなく、次々と父親候補を連れて来る。その
    母に殺されかけたことさえある。そして、母は看護師の資格を持ち
    ながらも薬物依存に陥る。

    映画のストーリーかと思うような現実が、世界唯一の強大国アメリカ
    の片隅に、確実に存在しているのだ。

    しかし、著者には逃げ道があった。母親代わりに著者を守ってくれた
    5歳年上の姉の存在と、母方の祖父母だ。祖父母も強烈な個性の持ち主
    であるのだが、この3人が身近にいたことと、高校卒業後の海兵隊への
    入隊が貧困の系譜を断ち切ることとなった。

    「おまえはなんだってできるんだ。ついてないって思い込んで諦めて
    るクソどもみたいになるんじゃないよ」

    祖母はくり返し著者に言ったと言う。生まれ育った環境を、自分では
    どうすることも出来ないと思い込み、多くの可能性を封じ込めていや
    しないかと思う。

    それは本書に描かれている白人労働者階級だけではないだろう。私自身
    もそうだし、日本での貧困層もそうかもしれない。一方で、自分の力だけ
    でどうにかするにはやはり限界はあるのだろうとも感じる。

    アメリカン・ドリームが本当に夢になってしまったアメリカ。それは
    近い将来、日本でも確実に起きるはずだ。いや、既に起きているのか
    もしれない。

  • 日本でもこんな環境、メンタリティが蔓延している土地はいくらでも思いつくので、全然人ごとではない。

  • 2016年、無名の31歳の弁護士が書いた回
    想録。

    マシな生活を求めて鉄鋼業などで栄える地域に移住したが、その地域も時代の流れで荒廃。
    ここで描かれている南部の白人労働者階層ヒルビリーは、貧困と独特な文化のために、豊かな生活を目指すことさえできない狭い世界に閉じ込められているという。
    そこで育つ子供たちは、貧困•無学•ドラッグ•離婚•暴言•暴力に取り巻かれ、負の連鎖が希望を抱くことさえ叶わない。

    弁護士となった著者はそんな世界から抜け出した数少ない成功者だが、豊かで幸せな人生を手に入れたのちも、子供時代の出来事のトラウマを完全には拭えないという。

    子供が安心な場所を与えられることの大切さ、社会制度の問題点など、考えさせられる一冊。

  • 映画を先に観たのだが
    観ていてよくわからなかったところは
    これを読んでそういうことかと納得。

  • トランプ現象の背景を学ぼうと思って選書。筆者がトランプについて触れる箇所はないが、それについては渡辺由佳里さんの解説が端的かつ明快で役に立った。「白人貧困層」に関しては、これまでとくに意識することがなかったが、この本で知見がどっさり与えられた。筆者の体験に基づく生々しいイメージとともに。下層階級から脱出して成功を勝ち取る逆転劇は感動的だが、悲惨な幼少年期に関する叙述があまりに鮮烈で、強く心に残る。「富める白人、貧しい黒人ヒスパニック」というステロタイプなアメリカ社会観が覆された。自分への影響が長く続く本。

  • 完璧に勘違いして本書を購入した。トランプがどうして当選したかを分析した本だと思っていたが、作者成功の半生記を描いた自叙伝だったんですね。

    しかしその個人性ゆえに、かえって今のアメリカの実態を実感を伴って理解しやすくなっている。

    アメリカのヒルビリーの問題も根は深そうだが、より核家族化している日本では、逃げ込めるセーフティネットが少なく、排他的な島国根性もあるので、これ以上階層化が固定化されるとより深刻になる可能性がある。

全99件中 1 - 10件を表示

関根光宏の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×