ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334076061

感想・レビュー・書評

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  • トータルデザイン、オブジェ撮影/泉沢光雄
    オブジェ製作/Little Smith
    イラスト/佐久間真人
    装幀/原研哉+竹尾香世子+及川仁+日野水聡子

  • 小説なのにまるで絵本を見ているような、独特の世界が広がる作品でした。
    ミステリーなのにどれも幻想的。しかし、短編なので読みやすくまとまっていたと思います。
    シュレディンガーDOORは個人的にものすごくお気に入りです。
    ストーリーや結末はもちろん、読書当時「確信的な記憶の他者との齟齬」をよく感じていたので、印象深いお話です。

  • どこか歪な世界の中で、それでもきちっと論理を貫いているところが良い。「シュレディンガーDOOR」は、後の作品とのリンクも含め秀逸。

  • 柄刀氏の「本格ミステリ」らしい短編、だと思う。ちょっと変則だけれど。
    「シュレディンガーDOOR」と「見えない人、宇佐見風」が好き。
    宇佐見先生のお茶好きっぷりが、親近感がわく…。

  • 神に見捨てられた牢獄で、こんなにも君は美しい―

    (以下は本文より引用。●コメント)
    p.69 視覚を持つ者にとって、この世界は見ることによって存在していると、宇佐美博士は思う。そしてこの宇宙は、見られることによって存在しているのだ。
    ●なんか前に、うまく言えないけど、目をつぶったら見えないのに、なんで、モノは私の世界に存在してることになるんだろう?みたいな、どーでもいいんだけど、当たり前のことを考えたことがあって、それを思い出した。同時に、「晴れの雨。(朝丘戻。)」で木生が『忘れられるのが怖い』と言ったことを。
    結局、自分一人では、自分の存在を完全に認めることなんてできない。私なんか、特に。でも、対相手があって、存在を確かめられるっていう点では、絵も人も同じだ。あぁ、だから、『あなたが見つけてくれた…』って言うのかな。

    p.70 「鑑賞者ですよ」と宇佐美博士は答えた。「その絵を見ている人です。鑑賞者は、絵画の視点を再生し、脳髄という内部での認識においてその絵画を存在させる。そして、その人間の意識と美の観点が、外部に表だして、絵画が持ちうる意味となる。鑑賞者は、実は自身の内面世界に視覚で触れているのです。絵画の世界というものをトータルに捉える時、絵画と鑑賞者という外側と内側は、還流していてすでに一体なのです。」
    ●自身の内面世界に〜ってのは、その通りなんだけど、言葉にするとちょっと怖いね。最近、少しだけ絵とか見るようになって、それには知識が絶対必要だと思ってたけど、絵そのものを感性だけで見るのも、「鑑賞」のよさかもしれないと思った。

    p.159 「例えば、私を知らない者にとっては、私はこの世に存在していない。あなたを知らない人にとっては、宇佐美博士は存在していない。そして、宇佐美博士、あなたも私の過去がノンフィクションであるかどうかは認知できない」(中略)
    「そう。誰も、相手の現実にまでは認知力は及ばない。それどころか、私自身によってさえ、感情や現時点でのものの見方によって過去の記憶は改ざんされているだろうから、かつての真実はすでに真実ではないかもしれない。」
    「自分のありったけの真実を話した相手に、それがフィクションとしか伝わっていないこともあるだろうね」
    「私と宇佐美博士の体験がなんらかの媒体に記録されていたとしても、二人が実在したという情報を得ていない人間にとっては、それがフィクションであるか、ノンフィクションであるかなんて区別できない。人はまさに、他人のフィクションの裏側で生きているノンフィクションそのものだろう。自分の存在がフィクションでないことを実感したくてもがいている人間が、現代社会ては増えてきているようだが…」
    クロードは、ティーカップを口に運ぶ。
    「知覚の届かない者同士の間では、私達の現実は、互いの空白のページの中にあるのさ」
    「知覚の届く者同士の間にある現実は?」
    と、宇佐美博士が設問を返すと、クロードは薄く笑った。
    「その現実も、記憶のインクで主観的に綴られているだけだ」
    ●誰かに読ませたら、『あんたが好きそうな文章だね』って言われそうだけど、その人はどんなイメージでそう思うのかな?
    私は、なんでも願いが叶うなら、自分の存在をなかったことにしてほしいって願う。誰に出逢うことも、誰かを傷つけることもなく、存在しなかったものとして消えたい。
    でも、だから私は、過去が本当にノンフィクションかどうか?と思いながらも、自分の存在はフィクションだと、認知してる。
    この文章は、あとの出来事の前フリだから、あんまり深く考えなくてもいいのかもしれないけど、何回読んでも、私はここが目に止まるだろうな。

    p.268 ゴーレムは檻の中に自らを閉じ込めることによって、外の世界に出て行ったのだな。ここよりさらに内側に入ることによって、内と外を反転させたのだ。(中略)
    彼は今、我々よりよほど自由に、世界中のどこにでもいる。伝説となった彼は、我々よりも永遠を生きるのだと思うよ。
    ●ゴーレムすごいねぇ。執念というか、これがゴーレムの生き様なんだろうなぁ。私は、勝手に「自由」っていう言葉に憧れたりしてしまうけど、ゴーレムが手に入れたモノは、そんな綺麗事の世界じゃなくて、底無し沼の中でやっと探し当てたような、救いだったんじゃないかな。

    この本すき。違うシリーズも読んでみよ。

  • 神に見捨てられた牢獄で、こんなにも君は美しい。

    この一文が素敵。何かの引用?
    ただこのイラストとゴシック体、このフォントサイズ…装丁としてはもったいないと感じました。

    SFミステリ連作短編集。お茶好きの宇佐美博士が異世界で事件に遭遇する話たち。
    どうも柄刀氏の文章は読みにくいです。慣れていくのかな。

  • げ、まさか物理トリック~!? と一瞬後悔。いやしかし、ぜんっぜんそんなことはありません。物理といえば確かに物理だけど……そんなもの超越して、とことん論理(自分でもよくわかんない評だとは思うけれど、そうとしか言いようないぞ)。どうも「アリア系銀河鉄道」シリーズのようなので、そちらも読まなきゃ。
    「シュレディンガーDOOR」は、解決も綺麗だけれどその謎だけで非常に魅力的。これにはわくわくしたなあ(そもそも「シュレディンガーの猫」命題にときめくぞ)。そして表題作「ゴーレムの檻」。これはすごい! トリックそのものもだけれど、その動機というか、バックグラウンドが美しい。これには唸らされたなあ。帯(表紙)の言葉がなんともいえません。

  • 連作短編集です。
    主人公はお茶が趣味の宇佐見博士です。
    絵画の世界の中に迷い込んでしまったり、お茶を飲んでいたら400年の時を遡って、とある男の精神と同化してしまったりとファンタジー要素が入っています。
    ですが、推理部分が無茶苦茶な訳ではありません。
    しっかりとした本格ミステリです。
    お茶を飲みながら話を聞くだけで真相を看破してしまう宇佐美博士は凄いと思います。
    私が気に入った作品は宇佐美博士がエッシャーの描き出した超現実的な建築物が存在する世界へ迷い込んだ「エッシャー世界(ワールド)」とシュレーディンガーの猫をモチーフにした作品「シュレーディンガーDOOR」とロシモアが持参した作中作の中で宇佐見博士が持ち込まれたミステリの謎解きに挑んでいるという三重構造の作品「見えない人、宇佐見風」です。
    この見えない人の作中作の謎はさほどでもありませんが、思わぬ仕掛けがとてもユニークです。
    私は作中作のトリックよりも思わぬ仕掛けの方が気に入りました。
    それにしても、ラストの宇佐美博士は大丈夫なのでしょうか。

  • <b> この世界の鑑賞者。全能なるものの視座に立てるのは、神だけではあるまい。<br>
     悪魔もまた、同じなのだ。</b><br>
    (P.58)
    <b>「君達の世界を、私の造りあげる子宮に戻そう。私は、すべての外側に立つ」</b><br>
    (P.216)

  • 2005年8月11日読了

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著者プロフィール

1959年、北海道生まれ。1994年に「密室の矢」が読者投稿アンソロジー『本格推理3』(光文社文庫、鮎川哲也・編)に採用され、以降も「逆密室の夕べ」と「ケンタウロスの殺人」の投稿作品が採用された。98年、長編「3000年の密室」で作家デビュー。代表作は「時を巡る肖像」「密室キングダム」。日本推理作家協会、本格ミステリ作家クラブの各会員。

「2022年 『【完全版】悪霊の館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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