キネマ・キネマ ―異形コレクション (光文社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (680ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334733810

感想・レビュー・書評

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  • それぞれの作家が毎回のテーマを自分流に弄して作品を発表する異形コレクション。本作は「キネマ=映画」がテーマ。オマージュというか、映画愛みたいなものを表現した作家が多く、その所為か二次創作物っぽい作品が多かったのが残念。嗜好性の合う読み手だと面白いかも知れないが、通常の “異形クオリティ” を欲する自分には、それが弊害になった。
    とはいいつつも、傑作も含まれているので、気に入ったものを挙げていくことにする。

    まずは前半。乙一「ZOO」。これが初出だったとは…と異形の懐深さに改めて驚きつつ…。グリーナウェイの「ZOO」のように、日々朽ち果ててゆく死体(彼女)を撮影し続ける男のモノローグ。この異様なエクステリアよりも、現実から逃避すべく演じ続ける男の哀れさが真に迫る。乙一氏はデビュー作にピンと来なかったので避けていたが、成る程、この作品は良かった。
    中島らも「コルトナの亡霊」はシノプシス的には最高(作中で語られる「コルトナの亡霊」のシノプシス含め)。ただ、落としドコロがあっさりし過ぎ。速瀬れい「プリン・アラモードの夜」のドラえもん的ハートウォーム・ストーリーも心地好かった。…とまあ前半は駆け足レビュウでそんなところ。

    そして異形は後半に神が宿る…。先ずは朝松健「恐怖燈」。異形においても徹頭徹尾 “伝奇モノ” という得意ジャンルで勝負するブレのなさが安心して読める。今回は伝説の幻術師、果心居士を引っ張り出し、その幻術をテーマにすり替える豪腕っぷり。甲州乱破「金翅組」にも大いに興味をそそられた。

    飛鳥部勝則「あなたの下僕」も流石の飛鳥部クオリティ。夏祭りの屋外映画として上映されるフィルムの内容と主人公の記憶が重なり、淫靡な幻想譚へと誘われる。暑い夏の日、暗い森の中で放尿する美少女。それを覗き見したかどで少女の下僕と化す主人公。二人の関係性が屋外映画とじっとりとシンクロしていく酩酊感は乱歩のよう。

    そして町井登志夫「3D」。個人的にはこれが今回の最高傑作。これだけでも本書を読んだ甲斐があった。
    頸部に痛みを訴え病院でCT検査を受ける母親。母親の様態も異常だが、それにつきそう子どもの様子もおかしい。訊ねると「お母さんの手料理が不味すぎてずっと何も食べてない」という…。看護師の視点で語られていく不穏きわまりない物語。やがて浮かび上がる、ある妖怪の姿…そして真相。兎に角、恐怖の畳み掛けが絶品でラストも強烈!これは短編なのが惜しい!さらに真相を追求した長尺で読みたかった。

    続く浦浜圭一郎「ディレクターズ・カット」もいい。学生の自主製作映画の撮影現場、偶然に首吊り自殺の死体をフィルムにおさめたことで静かに狂い始める若き映画監督の話。映画のメイキングのような章立てとノンフィクションタッチの筆運びの組み合わせも斬新。

    マイジョー・ライクな文体で意表を突かれた久美沙織「RESTRICTED」に続いて、平山夢明「アナーキー・イン・ザ・UK」は冒頭からノリノリの文体でそそられる。このお話は導入部が最高すぎて、登場人物のゴスとビンにいきなり愛着を感じるのだが、後半に用意された残虐の館(映画館)が唐突過ぎて気狂い過ぎて、ちょっと興が殺がれたかな。

    【トータルで☆3つだが、「3D」だけは☆5つ】

  • へぇ。それも映画のうちに入るんだってのがあってまあそれなり。良作は少ないが、その分粒より。「ZOO」「3D」「ディレクターズカット」が面白い

  • 『撮る方』、『見る方』。立場は違えど、映画に掛ける情熱は様々です。<br>しかし、情熱も掛け過ぎると・・・。

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著者プロフィール

鳥取大学大学院 医学系研究科

「2019年 『公認心理師 実践ガイダンス 2.心理支援』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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