戻り川心中: 傑作推理小説 (光文社文庫 れ 3-4)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334740009

作品紹介・あらすじ

大正歌壇の寵児・苑田岳葉。二度の心中未遂事件で、二人の女を死に迫いやり、その情死行を歌に遺して自害した天才歌人。岳葉が真に愛したのは?女たちを死なせてまで彼が求めたものとは?歌に秘められた男の野望と道連れにされる女の哀れを描く表題作は、日本推理作家協会賞受賞の不朽の名作。耽美と詩情-ミステリ史上に輝く、花にまつわる傑作五編。

感想・レビュー・書評

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  • 各作品、花が共通項の、時代は大正から昭和初期の、連作短編集。
    最近、友人にいただいて、古いものだけど、“凄絶な滅びの美学”と、当時の帯が残っていた。凄まじく、恐ろしいという美学なのです。
    各作品、ミステリの構成ですが、犯人やトリックを追うものではありません。彼らが、何故その罪を背負う事になったのか、その動機を消し去る為に身を滅ぼしていく犯罪者への哀悼の物語。

    「戻り川心中」
    最近、坂口安吾の太宰治情死考を読んでいたので、あゝ、連城さんもそうなのか、太宰治の心中を情死とは思えていないのだろうと。
    主人公の歌人岳葉は、二度の心中事件を引き起こし、その事件を題材とした傑作歌集を完成させた後、自害する。彼が遍歴した三人の女性達。彼女達への愛情も自堕落な生活も、全てが作品を完成させるトリックではなかったのかと思いを馳せる。旅館の古びた部屋の花菖蒲。その咲いた花の数から真相が浮かんでくる。

    「藤の香」
    家族の為、色街で働く女性達。文盲の彼女達の代筆屋。代筆屋は、その実情を知り、彼女達の重荷を背負い、一人罪を負う。

    「桔梗の宿」
    幼い娼婦の淡い恋心が引き起こす、殺人事件。八百屋お七の筋書きをたどる。

    「桐の柩」
    犯した罪から、好きな女を抱けなくなった男。自分の手下を女の元へ通わせる。男は、女の香を確かめながら手下を懐く。逆縁橋の上で少しづつ解かれる秘密。

    「白蓮の寺」
    田舎寺の嫡子であった少年の交錯する幼児期の記憶。母親は、最大の秘密を守る為に、その記憶をも操作しようとしていた。母親は、最期まで秘密を守り通して逝く。

  • 大正の和洋入り乱れる甘美な風情が浮かぶ美しい文体に引き込まれ、、そんなうちにミステリーであったことを忘れてしまうよう。
    花が印象的な5つの物語。

    多くの方がお薦めされるのも納得、癖になりそうです。
    中でも表題作の戻り川心中が特に面白かった…

  • ものすごいトリックが!と言うわけではないです。どちらかといえば、動機の方に驚きを持っていったような感じです

    とても綺麗で品の良いミステリーでありながら純文学を読んだような気持ちでした

  • 知人に強く薦められて読みました。
    良くできてるな~とは思いましたが、そこまでです。
    短編集ですが、表題となっている最後の作品があまり受け入れられませんでした。

  • 非常に読み応えある作品でした!連作短編集です、時代背景は大正~昭和初期にかけてで、それぞれが花を謎解きの鍵に据えていてミステリの定石に則って納得の結末を迎えます。

    この著者は最初恋愛作家だと思ってたのですが(恋文という短編集を読んでました)昔からミステリも多く発表されていて『戻り川心中』も1980年の作品です。この一連の花をキーに据えた作品は花葬シリーズと銘打たれていて『夕荻心中』と対になって完結されているようです。

    それぞれの語り手は多種多様な人々になっていますが、口語文語を使い分けて綴られる日本語の美しさに感動しました。心象表現、写実表現に熟練の手腕が発揮されています。なんというか、普通のミステリーではないような言葉や文章にリズムが感じられるというか、今まで読んだことのない世界でした。

    表題作である『戻り川心中』は太宰治をモデルとした創作であるとのことです、これは解説を読んで知った事柄ですが、この事実はさらに大きな驚きでした。

    苑田岳葉という歌人の二度の心中行の謎に迫る内容ですが、作中に多数の歌が詠まれています。読みながらその歌意に心奪われ、この歌人についてもっと知りたい!と思ってたところ全て創作!つまり作中の歌も全て著者の創作だったという事実、こんなミステリ作家いたのか!?と、古典回帰というか、この作家さんの作品さらに読んでいこうと心に決めたのでした。

  • 短編にしてはストーリーがそれぞれ濃い、濃すぎて良い。時代小説っぽい雰囲気もあり、米澤さんの羊たちと同じ匂いを感じた(そっちが影響を受けていそう)。表題作は、多重オチは凄いが着地点はあまり好きではないかな...

  • 美しい文体で綴られるミステリー。大正から昭和初期の退廃的な独特の空気。廃れ行く遊廓。そんな日常を舞台に小さな事件が起こり、それはなぜかを解き明かす。
    代筆屋とお七の話が好み。

  •  花にまつわる短編を5編収録したミステリ短編集。

     最近でこそミステリが文学賞で評価を受けることは珍しくなくなりましたが、この作品以上に文学の美しさとミステリを両立させる作品はあるのだろうか、と読み終えて思いました。

     各短編独立した短編ですが、共通するテーマがあります。それは各短編が花にまつわる短編であるということだけではありません。そこにあるのは様々な男女関係を詩情で彩った少しレトロさの感じられる浪漫です。
    何となくですが、夏目漱石の恋愛小説をミステリで昇華したような印象を持ちました。

     印象的な短編は「桔梗の宿」「桐の柩」表題作の「戻り川心中」

    「桔梗の宿」は遊興町で起こった殺人事件を捜査する若手刑事の話。最後明らかになる真相と花に秘められた思いの美しさと切なさが忘れがたい余韻となって残ります。

     「桐の柩」はやくざの子分となった男が主人公。一筋縄でいかない男女関係の複雑さとそれぞれの姿が味があってかっこよくラストシーンも非常に美しいです。

     表題作の「戻り川心中」は天才歌人”苑田岳葉”の自殺に秘められた謎を描く話。
     苑田岳葉という歌人の人生の濃さとその非凡さを、短編一編で書き切ってしまうその凄さ、彼を愛した女性の悲哀もあますことなく描き切り、最後の謎が明らかになるとともに分かる、彼が抱えた孤独と虚無…
    もちろん文章や岳葉が書いたという歌もしっかりと書き込まれていて、小説の中で死んでいるはずの岳葉が、まるで本当の歴史上の人物かのように読み終えたあと思いました。どこを取っても一級品の短編でオールタイムベストに挙げられるのも納得の作品です。

     ミステリファンも、文学マニアもぜひぜひ読んでほしい、そして将来まで読み継がれてほしい作品でした。

    第34回日本推理作家協会賞短編部門「戻り川心中」

    • 沙都さん
      kwosaさん

      連投ありがとうございます。

      本当にあのクオリティの高さは何なのでしょうね。この間本屋をうろついていると宝島社文庫...
      kwosaさん

      連投ありがとうございます。

      本当にあのクオリティの高さは何なのでしょうね。この間本屋をうろついていると宝島社文庫で、『『このミス』が選ぶ! オールタイム・ベスト短編ミステリー 赤』
      というアンソロジーが売られていて、その中に2015年版の「このミステリーがすごい! オールタイムベスト国内短編ミステリー」の順位も収録されていたのですが、
      「戻り川心中」が1位、「桔梗の宿」が7位でした。やっぱりすごい作品なのですね。

      連城さん作品も少しずつ読んでいければな、と思います。
      2015/05/14
    • kwosaさん
      とし長さん

      連城クオリティ! 何なのでしょうね。
      代表作は超弩級、その他の作品も平均点を遥かに上回る、偏差値の高い優等生です。

      ...
      とし長さん

      連城クオリティ! 何なのでしょうね。
      代表作は超弩級、その他の作品も平均点を遥かに上回る、偏差値の高い優等生です。

      『オールタイムベスト 赤』
      乱歩の内容は忘れちゃいましたが、高木の『妖婦の宿』と鮎川の『達也が嗤う』も、ミステリの魅力がギュッと詰まった傑作短編なので、お読みになってみては?
      2015/05/18
    • 沙都さん
      kwosaさん

      『オールタイムベスト 赤』のもう一つは確か乱歩の「押絵と旅する男(?)」だった気がします。

      細かいところは覚えて...
      kwosaさん

      『オールタイムベスト 赤』のもう一つは確か乱歩の「押絵と旅する男(?)」だった気がします。

      細かいところは覚えてないのですが(汗)、とても幻想的で乱歩作品らしい作品だったのは記憶してます。この機会にまた読もうかな。

      鮎川哲也さんや高木彬光さんなど古典作品はまだまだ読んでない作品が多いので、こういうベスト形式で紹介されるのは、自分にとって非常にありがたいです。(特に短編はベスト10的なものってあまり見ない印象なので)

      積読本とも相談しつつ、徐々に読んでいきたいです。
      2015/05/18
  • 流麗な美文で綴られた匂い立つような男女の情愛のドラマと、本格ミステリのトリックが、何の不自然さもなく融合しているばかりか、事件の真相が新たなるドラマを呼び起こす感動。表題作も良かったですが、個人的には「桐の柩」が好きです。

  • 「痴情のもつれ」って感じの恋愛&ミステリーの短編集だった。
    いや、ミステリーというよりサスペンス?人間関係ドラマ?のような…
    全体的に静かで暗いけど、どの話も男女ともにめちゃくちゃ情熱的だと思った。愛と憎しみの二つは違うようで、案外ふとしたことで入れ替わってしまったりするのかも。

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著者プロフィール

連城三紀彦
一九四八年愛知県生まれ。早稲田大学卒業。七八年に『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞に入選しデビュー。八一年『戻り川心中』で日本推理作家協会賞、八四年『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞、同年『恋文』で直木賞を受賞。九六年には『隠れ菊』で柴田錬三郎賞を受賞。二〇一三年十月死去。一四年、日本ミステリー文学大賞特別賞を受賞。

「2022年 『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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