もしも、私があなただったら (光文社文庫 し 30-4)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334744427

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  •  啓吾(主人公)は会社を辞めて出身地の博多に戻って来た九九年、四十三歳まで明治化成に勤めていた。退職をしたのを機に離婚し、幸か不幸か妻との間には子供もいなかった。

     今や一人口を養うだけの気儘暮らしであるが、それでも五十路を目前に控え、さすがに老い先のことなどを考えると、このまま一向に流行らぬバーのオヤジとして無為に日々を送っていいはずはないと啓吾にも充分わかっていた。

     明治化成時代は凄腕の営業マンとして社内では一目も二目も置かれていたのだから、大企業のサラリーマンというのが世間の風のほんとうの冷たさがいかに疎いものか、啓吾自身、「ブランケット」(店の屋号)を始めてみようとようやく思い知ったのだった。

     目下、産業再生機構の支援で経営再建中の明治化成は、この七月に長年にわたる粉飾決算の事実を公表し、旧経営陣に対して刑事告発と民事上の損害賠償請求を行う旨を明らかにしていた。
     そしてその経営陣の末端に連なり、02年からは経理担当の取締役として直接経理操作に加担したとされ、現在、特捜部の厳しい聴取を受けているのが同期であり、在社中は唯一無二の親友でもあった神代富士夫なのだ。
     ある日、神代美奈からみせに電話がかかってきた。美奈によると、富士夫はほとんど家に帰らず愛人の許で暮らしているという。当の美奈は、今福岡空港に着いたという。

     美奈は「藤川(啓吾)さんに折り入って相談させていただきたいことがあって、こんなに突然だと不躾とは思ったんですが来てしまいました」。美奈とは六年前に空港で見送りを受けて以来、声すら一度も聞いていなかった。

     以上は、この小説の序盤のあらすじです。タイトル通りの内容に触れてしまうと、この小説の真価が失われかねないので敢えて原稿には書いていない。

     大まかに言うなら、この二人の関係こそがこの小説の根幹をなしている。大きな事件は無いが、大人の恋愛小説は、信じがたくもあり、きっかけはまるでテレビの連読ドラマを見ているような感じさえあります。インパクトに欠けると言われればそれまでだが、著者の思いの丈を盛り込んだ作品だと思う。
     読書は楽しい。

  • 男と女は出逢うタイミングですれ違ったり、心が通じ合ったりするものだなと…
    もしも、私があなただったら、何を思い、何を感じるのだろうと考えたりしながら読んでみると奥深い。時代も懐かしく、とても楽しめました。

  • 会社を辞め、ひっそりバーを営む主人公のもとに友人の妻が身を寄せてくる。「あなたの子供が欲しいのでしばらく側においてください」と言って…。

    生々しいし、正直あまり好みではない話だった。40代、大人の恋愛小説として描かれているけど結局精神的には結ばれていないような…

    人生ってものは小さい頃思い描いた通りにはなかなか進まなかったり、予期せぬ出来事の連なりでもあることはさすがに今の年になり、少しずつ分かってきたけれど。この作者のなんでも運命のせいにする感じはちょっとな…

  • 今回は哲学的な深い話は控えめだった。
    ただの大人の男女の不倫話、と片づけることもできなくはない。
    白石一文独特の重みがあまり感じられなくて少し物足りない。


    白石一文の書く女の人は独特だな。
    強くて、弱くて、自分勝手で生生しい。

  • いつもながら濃密。
    この人の小説は,痒い所に手が届くというか,うまく言葉に出来ないような気持ちを,ほんと,上手に掬って,言語化してくれている。

    やっぱり,今回の小説も性描写は結構すごいけど,それはそれでこの人の持ち味なんだろうな。

    あと,今回の小説では,ちょっとした超自然的な力をほのめかすような登場人物が出てきたけど,そういえば,前の小説にもそんな感じの人がいたなぁ。

    それはそれで面白いんだけど,この人のリアルでかなり濃密な文体と,超自然的な力を持った登場人物とのギャップ(というかミスマッチ)が,ちょこっとしっくりこないようにも感じるのである。

  • 冷静で常識的なイメージな主人公が
    少しづつ美奈に影響を受けてくる様が素直に楽しめました。
    美奈も魅力的に描かれてて嫉妬しちゃうくらい素敵にえがかれてます。

  • あのお店がずっと繁盛します様に。




    もしも、私があなただったら、こんな私のことを置いていったり絶対にしない。

    要するに、人間となどというのは、自分一人ではなかなか変えられない長年の生活習慣も、誰か一人でも深く関わってくる他人と出会うと、あっけないほど簡単に変更してしまえるということだろう。

    そして、人が愛する人に何かをするということは、〈もしも、私があなただったら、こうしてほしい〉と願うことをすることでしかないのだ。

  • 白石さんの作品を読み始めた、きっかけになった、いい内容だと記憶しています。

  • できないことは最初から人に任せて、自分は自分が出来ると信じることを一生懸命やった方がずっといい

    自分が相手のためにしたいと思うことが、そのまま相手が自分に対してそうしたいと願うことと重なるとき、確かにその二人の心は通い合ってると言えるのではないか

  • いろんな評価がありますが、
    個人的には面白かった!

    スッキリした最後でした!

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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