魚舟・獣舟 (光文社文庫 う 18-2)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334745301

作品紹介・あらすじ

現代社会崩壊後、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在する魚舟、獣舟と呼ばれる異形の生物と人類との関わりを衝撃的に描き、各界で絶賛を浴びた表題作。寄生茸に体を食い尽くされる奇病が、日本全土を覆おうとしていた。しかも寄生された生物は、ただ死ぬだけではないのだ。戦慄の展開に息を呑む「くさびらの道」。書下ろし中編を含む全六編を収録する。

感想・レビュー・書評

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  • 上田早夕里も私の好きな作家だ。
    ホラー、SFはたまた現代への警鐘を鳴らすディストピア小説。奢った人類の行き着く先を暗示しているような小説たちに、背筋を凍らせながら引き込まれる魅力を堪能した。

  • 「魚舟・獣舟」「くさびらの道」「饗応」「真朱の街」「ブルーグラス」「小鳥と墓」の6篇収録。どれも面白かったが、特に「くさびらの道」「ブルーグラス」「小鳥と墓」がよかった。

    「魚舟・獣舟」
    「華竜の宮」のベースとなる世界を描いた第1作。知らずに虐めて追い払ってしまった朋が獣舟になってしまった悲しい話。

    「くさびらの道」
    オーリ症(寄生茸による感染症)に罹って死ぬと幽霊になる。オーリ症で死んだ家族の元を訪れた私が見たものは…。

    「饗応」
    出張先ビジネスホテルで起きた夢幻の出来事。ショートショート。

    「真朱の街」
    五歳の娘が妖怪に連れ去られた。

    「ブルーグラス」
    音に反応して樹木状に育つ青いガラス。失恋の痛手。

    「小鳥と墓」
    死にたがっている女性を見つけては自殺を幇助し、震えるような快感を味わう異常犯罪者の生い立ち。中篇。

  • ずっと気になっていた上田早夕里さんのオーシャンクロニクル・シリーズ。いきなり「華竜の宮」といきたいところだけど、まずは順番通り中短編集の本作から。とは言えリンクするのは表題作の1編だけ。ほんのさわりだけという感じながら、陸地の大半が水没した未来の地球を舞台にした独特な世界観は味わえた。他も妖怪探偵シリーズに繋がる「真朱の街」、デビュー長編「火星ダーク・バラード」の前日譚という読み応えある中編「小鳥の墓」、ゾッとするバイオ・ホラー「くさびらの道」など粒揃いで、様々な形態のSFを楽しめた。

  • 表題作が読みたくて購入。短編集だが、表題作以外も秀作揃い。

  • 上田早夕里さんの短編集。ジャンルで言えばSFホラーということになるのかな。
    やはり、表題の『魚舟・獣舟』と『くさびらの道』が良かった。
    読後に感じる一抹の喪失感とちょっと背中が寒くなるような感じ。嫌いじゃない。

    この短編集の全体の雰囲気として遺伝子操作された人間が普通に暮らし、アンドロイドが人間の代わりに危険な仕事をし、そのような中でも妖怪や異形の者が当たり前のように存在する。非常にダークな未来観でありながらも何となく古風な日本の雰囲気も醸し出している。映画『ブレード・ランナー』のような猥雑な感じでもなく、すべてがクリーンで管理された未来都市とまでは行かない。このどっちつかずなリアルな雰囲気、すごく好きですね。

    上田早夕里さんの著書はかなり前に『火星ダーク・バラード』を読んだ記憶があるのだけれど全然覚えていない。本書の約半分を占める中編の『小鳥の墓』が『火星ダーク・バラード』の前章譚らしいのでいつかもう一度読んでみよう。
    次は、『魚舟・獣舟』の世界観が引き継がれている『華竜の宮』をじっくり読んでみたい。

  • どれもはっきりスッキリ終わるという感じの話ではなく、なんとなく物悲しいのが印象的だった。

  • 「深紅の碑文」を読んだら、つい再読したくなって。

    表題作「魚舟・獣舟」は、やはり傑作です。
    陸地の大半が水没した近未来。
    初めて読んだ時も、特殊な設定にも関わらず、
    すんなりと受け入れられたのを覚えています。
    ここから「華竜の宮」「深紅の碑文」が作られたんだなぁ…

    寄生茸が増殖する「くさびらの道」も好き。ホラーですな。
    「真朱の街」も、恒川光太郎さんを思わせる奇妙な味で好き。
    中編「小鳥の墓」も傑作ですね。

    改めて暗い雰囲気の短編集だなぁと思いました…(笑)

  • 表題作が圧倒的!「華竜の宮」から入ってるので、すんなり世界観に馴染んで読めた。青澄の時代より少し前の時代が舞台。自分の半身を、知らずに虐めてしまった女性と、獣舟を狩る、もと海上民の男性のお話。ハッピーエンドじゃないけど、華竜で花開く設定がたっぷり詰まってて、短編なのに読みごたえずっしり。

    その他、くさびらの道がすごかった…。栗本薫の黴を思い出した。面白いくらいに読後感が一緒。

  • かなり上質のSF短編集。ホラー色が強いものもあれば人間心理を深く抉る作品もあり、どの話も読者を休ませず楽しませてくれる。表題作は別格。中編「小鳥の墓」も読み応え有。

  • 表題作は最初の33ページ。この作品だけでも良いと思い買った。
    華竜の宮を読んでいるので世界観や背景は分かっている。火薬で魚舟を傷つけるところは「ああ・・」となった。獣舟が進化する描写も良く、買った甲斐があったと思った。
    華竜の宮では見られなかった魚舟に対するドライな感情を持った人物が主人公であったので、共感する部分があった。遺伝的にイジられているとはいえ「皆が皆魚舟に執着するわけでは無いだろう」と思っていた違和感が払拭された。
    他の作品を読んでからでないと分からないが、この作者の作品はいつも悲しい。物語の背景に悲しさや寂しさが濃淡を変えながら漂っている様に感じる。

    解説には「傑作(短編)選」や「その年の最高の短編」の文字があるが、これが誇張ではないと感じる。
    どの作品もバイオサイエンスを強固な基盤としているのだが、第二軸として人間の心理やファンタジーを絡めることで驚くような広がり、多様さを感じる。
    それでも読んで感じる雰囲気は一貫しており、(作品の幅を持たせるために)無理に要素を追加している感じはせず、作者の度量、手腕に感嘆する。

    最後の書き下ろし中編では心理描写の巧みさに舌を巻いた。異常心理でありながら共感してしまうような描写に、思春期のエネルギーや心の揺らぎ、賢い主人公を完全に包括する社会実験の枠組み。SF作品であるが、そう分類したくないほどに強烈な人間の描写がある。この作品はSFを描画不足の隠れ蓑にしていない秀作であると感じた。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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