寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫 Aム 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751654

作品紹介・あらすじ

お金を盗んだ美少年バジーニが、同級生に罰としていじめられている。傍観していたテルレスは、ある日突然、性的衝動に襲われる…。寄宿学校を舞台に、言葉ではうまく表わしきれない思春期の少年たちの、心理と意識の揺れを描いた、『特性のない男』ムージルの処女作。

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んだ「愛の完成」とはまた違って、訳者あとがきにもあるが物語としての体裁をなしているので、かなり読みやすかった。が、やはり大抵目を留めずに、あるいは表現しきれないから通り過ぎてしまう意識や思考の流れを、テルレス君はいちいち立ち止まって考えるので、その部分になるとよくわからなかったり、「あの瞬間」と出てきても、「どこだっけ?」となってしまったので、またいつか再読したい。

  • 再読。映画『テルレスの青春』の原作にあたる、1906年の作品。主人公テルレスが理屈っぽいので難解な部分もありますが、基本的には興味深く読めました。

    寄宿学校に入学したテルレスは、宮廷顧問官の父を持つ裕福な家庭のお坊ちゃん。数学や哲学が好き。友達は男爵家のバイネベルグ、彼は育ちは良く頭も良いけれどテルレスに輪をかけて理屈っぽくて面倒くさい。もうひとり、ライティングというクラスメイト、彼はいわゆるクラスのボス的存在で、ちょい悪。もともとバイネベルグと対立していたが、手を組んだほうが得だと判断して和解。今はテルレスも含めた三人でつるんでいる。

    ある日、バイネベルグのお金が盗難する事件が起き、ライティングはバジーニという少年が犯人だと睨む。バジーニは仕送りが足りず大勢の友人に借金をしており、ライティングからもお金を借りていたが、返す目処が立たずバイネベルグのお金を盗んだのだった。バジーニを吊し上げたライティングは、彼をいじめることをバイネベルグとテルレスに提案。テルレスは主に傍観するが、ライティングとバイネベルグはそれぞれバジーニに暴力をふるうのみならず、侮辱し、屈辱を与え、さらに性的な関係を強要するように。

    このバジーニ、虚弱で運動が苦手だけれど、顔だけは女の子のように可愛く、少年たちの思春期特有の嗜虐欲をあおってしまうタイプ。テルレスはバジーニを軽蔑していたが、休暇でクラスメイトたちが寮からいなくなったときに、たまたま居残っていたバジーニと二人きりになり、自分の衝動をおさえきれなくなってしまう。結局テルレスもバジーニと性的な関係になり、バジーニは他の二人のように暴力をふるっていじめないテルレスに好意を示す。

    しかしライティングとバイネベルグのサディスティックさはどんどんエスカレート、手ひどい暴力をふるい、服を脱がせてベルトで鞭打ち、クラスメイト全員にあいつをいじめようと提案、バジーニはクラスじゅうから暴力をふるわれ、ついに校長に訴える。狡猾なライティングの根回しで、結局バジーニのほうが放校となり、テルレスも混乱の中、退学を決めるのだった…。

    具体的な描写はそれほどないけど、ふつうにバジーニがうけるイジメの内容は度を越している。世界観的にはトーマの心臓や風木の感覚で読めるけれど、現代に置き換えたら相当むなくそわるい悪質な暴力だ。とはいえ、思春期の混乱の中にある少年たちの心理描写は秀逸。テルレス自身も、自分がどうしたいのかわからないのだ。なんかモヤモヤ、ムラムラしちゃうけど、バジーニに対する感情は恋愛ではない。その混乱を暴力的な形でしか表現できなかったのが若さの不幸でしょう。

  • おおお混乱してんな。乱暴にいえば厨ニ病(そういえばタイトルもラノベっぽ略)。題名のとおり寄宿生テルレスが混乱する話。特に後半。ものすごい。
    大人から見たら「そんなの」って鼻で笑われるようなことが、僕らにとっては世界そのものだったのです――とでも言うべきか。
    ♪ちょっと違うかもしれないが「Aoi(サカナクション)」が合う。気がする。疾走する思考的な。

    P.S.:よくよく考えると、寄宿学校(クローズした空間)を舞台に繰り広げられるいじめいびりと同性愛……これなんてじゃぱにーーーず。

  • これすごく雑に言ったら厨二病の一種なんだろうが、その孤独も戸惑いも恥ずかしさも全てが常に身近で、この混乱は生きているという状態なんだなぁ、と。哲学って大混乱の汚泥の中からわずかに滲み出る一滴なんだろうな。今回印象深かった箇所。「テルレスを苦しめていたのは、言葉が機能しないことだった。」の一文とその前後。「謎なんて知らないよ。なんでも起きる。それが、知恵のすべてだ」それから解説の一文「なにかを物語に回収することによって、それ以外の大切なものが見過ごされたり、捨てられたりするのではないか。」辺り。良かった。

  • これって「テルレスの青春」の原作なのか!映画見てないけど。
    もうちょっと若い頃に読んでいたら、もっと真剣に向き合えたかもしれないけど、
    テルレスの思考に、はぁ、さいですか~と流すのが精一杯。
    テルレスが何をどう感じ考えているのか半分もわからなかったね。
    終盤の校長先生の感覚に近いものを感じました。
    新訳でこの読み難さ!
    テルレスの混乱ていうより、テルレスが読者を混乱させているような。
    でもドイツ文学ぽいね、すごく。
    雰囲気は好きです。

  • 2021年 16冊目

     もう、無邪気に小動物をいたぶり殺す子供ではない。物の分別と残酷さへの憧れの境界線にいる少年たち。性衝動の嫌悪、憧れ。少年の心理発達を真横で鑑賞しているような気持ちになりました。

  • バジーニへのいじめのシーンは途中で本を置けなかった。少年たちと先生たちの生きている世界は違う。お互いの会話は噛み合わないし理解できないからこそ、子供時代は残酷だったことを思い出させてくれた。「ことば」の限界は体験でわかっているのに、それでもなお「ことば」を使って説明し、わかってもらったと思う大人。この先未完の『特性のない男』に手を出そうか悩んでいる。

  • 人とは不安に陥りやすい生き物でして、きちんととその正体と向き合えればいいのだけれど、全然違う対象に攻撃をしかけてしまいがちです。その対象になりやすいのが、思春期の若者が今何を考え、将来をどう思っているのか、ということが一つあると思います。「白と黒どっちがいいの?嫌ならグレーにすればいいわ」などと解ったつもりで立ち向かうのですが、「わかってないなあ。今は何かを選ぶなんて気分じゃないのに、なぜ解ろうとしないのかなあ」というテルレス君のぶれない感じがとても現実的で、作者の目線が素晴らしい。

  • 挫折

  • ストーリーとしては、なんだかんだ言ってうまく逃げた奴。もっと何かあっても良かったのにって思った。

    寄宿学校でのイジメ、同性愛の中で、テルレスが自分の中にある第2の生が何なのか説明したいけど言葉で表せないという。
    哲学論調。

    イジメを見ました。自分は傍観のみ。
    でも、影ではちょっといじめてみました。
    でも、それも本心じゃない。
    いじめてるやつもいじめられてるやつも、なんだかイライラする。
    俺、かんけーねーし。巻き込むなよ。
    なんか馴染めないから退学するわー。

    テルレスはどっちにもならなかった。
    ただただ、自分のわからない部分を分析しようもしてた。

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